5丁目 コンビニ

kei5




青木から新しいコンビニが出来るって聞いてから、俺は悶々とした日々を過ごしていた。
宮地に会えるのもあと2回。
宮地は決まって毎週水曜日にこのコンビニにやって来る。
そして今度の水曜日は、世間でいうところのバレンタインデーだ。
俺は・・・宮地に告白しようって決めた。
ベタな手段だけど、チョコを渡して好きだって言う。
親しくもない元同級生の男から告白なんてされたら、アイツはビックリするだろうな。
それとも俺のことなんて覚えてもいないかも。
チョコなんて渡したって、気持ち悪いって受け取って貰えないかもしれない。
でも・・・・嫌われても、どうせ会えなくなる。
何にも伝えられないまま会えなくなって、辛い気持ちをずるずる引きずるよりは、告白してすっぱり拒絶されてしまったほうがいい。
そうしなければ・・・・・
きっと俺は宮地のこと、忘れることなんて出来ない。



バレンタインデー当日。
俺はコンビニの前で緊張して宮地がやって来るのを待っていた。
ドキドキする。
早く宮地に来て欲しいような、ずっと来ないで欲しいような複雑な気分。
でも、あんまり遅くなると青木のヤツがやって来てしまう。
それはヤバイ。それはイヤだ。
それだけは非常に避けたい事態なんだ!
ああ宮地、早くやって来てくれ!



俺はさっき青木に電話して無茶な注文をした。

「青木〜 俺、今年のバレンタインはミムラのチョコトリュフが食べたい!それ以外は絶対やだし受けつけません!買って来てくんなきゃ俺、お前にチョコやんねーからな!」

すっげぇワガママでひどい言い様だけど、これしか手段を思い浮かばなかった。
毎年、目を血走らせて俺にチョコを貰いに来る青木・・・・
バレンタインに来るな、なんて言おうもんなら「なんで!?どーして!?」攻撃の嵐だ。
バレンタインデーの青木はちょっと怖い。かなり変。(元々変人だけど輪をかけて)
昔から俺達の間ではなぜかチョコの交換が恒例になってたりする。
なんでそんなことを始めたのかきっかけは忘れてしまったけど、小さい頃は『バレンタインは好きな人にチョコをあげる日』ってくらいの認識しかなかったから不思議には思わなかった。
一番仲の良い青木にチョコをやることに疑問なんて感じてなかった幼き日の俺。
バレンタインデーに男同士でのチョコレートの交換。
それが情けなくも悲し過ぎることだと気付いたのはいつ頃だったろーか?
バレンタインンデーの本当の意味を知った俺は、おかしいからもうヤメようって青木に言ったんだ。
(俺は元々甘いモンはあんま好きじゃなかったし)
だけど青木は

「ヤダ!ダメ!絶対イヤ!俺、ケイちゃんからチョコ貰うのすっげえ楽しみにしてんだもん!それにコレやめたら俺バレンタインにチョコ無しなんだぞ〜〜!!」

って、半泣きになりながら絶叫した。
(フッ悪いな青木。お前と違って俺サマには毎年チョコをくれるオンナがいるんだぜ!・・・って、全然ありがたくないけどな。姉ちゃんいい加減、手作りチョコの失敗作を俺に無理矢理食わすのは止めてくれ!)
どうやら青木はチョコが大好きらしい。
それならわざわざ交換なんてしないで自分で買って食えばいいと思うんだが。
青木曰く、バレンタインには『人から貰ったチョコ』がどーしても食いたいらしい。
クラスの女子にでもお願いしろと言いたいとこだが、青木は女にまったく人気がない。
いや、むしろ嫌われてると言っていいだろう。
悲しいことに今まで義理チョコの一つでさえも貰えたことがない哀れな男青木。
毎年そんな青木に拝み倒されて、俺は渋々この不毛なチョコレート交換をずっと続けているわけだ。
多分これは、ヤツが奇跡的に女の子からチョコを恵んで貰える日まで続くだろう。
例によって今年もチョコを一個も貰えなかった青木は

「うう、行くよ。買いに行くよ。『ミムラのチョコトリュフ』ですね女王様!!もう今日だけは俺のこと下僕と呼んでくれ! 遠いよ〜 寒いよ〜 店はきっと女のコだらけだよ〜 でも買ってくるから!だから俺に絶対チョコちょーだいね〜。」

やはり俺から貰う気満々らしい。
俺のワガママな要求に答えて、青木は『ミムラ』までチョコを買いに行くことになった。
『ミムラ』は俺の母親お気に入りの洋菓子店だ。
ここのチョコは甘さ控えめで俺でも結構好きだったりする。
青木んちから『ミムラ』までチャリで行っても約20分。
そっからココまで来るのに早くても30分はかかる。
青木はいつもより1時間は遅くやって来るはずだ。
俺の一代決心の告白の場から青木を遠ざけるために、あえて当日になって遠いとこまでチョコを買いに行かす。
可哀相な作戦だが、これでも俺は色々悩んだんだ。
だって青木のいる前で宮地に・・・・なんて冗談じゃないよ。
絶対出来ない!



寒くてしょうがなかったけど、コンビニの中には入らずに外で宮地を待った。
なぜかそうしたかったんだ。
寒さで鼻の頭がツンとする。
マフラーに顔を埋めるようにして、青木も寒いだろうなってちょっと思った。
クリスマスにおそろいで買って交換したオフホワイトのマフラー。
その存在が俺の中にある罪悪感を思い出させる。

俺は・・・青木に嘘ついて邪魔者扱いしてるんだよな。

宮地が好きって気持ちを必死で隠してる自分。
親友の青木にひどいことしてまで誤魔化すのは、相手が男だから?
それとも、宮地だから?
青木は俺がホモだからって嫌ったりしないだろう。
だから多分、青木が宮地を嫌ってることに俺は拘ってるんだと思う。
今まで青木の好きなものを俺も好きって思った。
人でも遊びでも、何であれ青木が嫌いなものを俺が良いって思うことなんてなかったんだ。
いつもずっと一緒で、馬鹿みたいにウマが合って、意見の食い違いなんて俺達にはなかった。

宮地のことが嫌いな青木。

宮地のことが好きな俺。

青木は元々好き嫌いの激しいヤツだけど、「なんで?」って不思議に思うくらい宮地のことを嫌ってる。
その宮地を好きになったことが、俺に青木を裏切ってるみたいな気にさせる。
これはとんでもない間違いなんじゃないかって気がするんだ。
男同士以前に、宮地がたとえば女でも、俺はきっと青木にこの気持ちを言うことが出来なかっただろう。
だからって隠れてコソコソと俺は・・・・

なんだか嫌だ。
凄く悪いことしてる気分。

青木とは楽しく笑いながら、このままずっと二人でつるんで行くんだと思ってた。
今もそうしたいと思ってる。
変わらないんだと疑いもしなかったのに。
俺が宮地に告白したら・・・・
そのことを知ったら青木はどう思うんだろう。

怒るだろうなぁ・・・
そんで嫌われるかもしんない。

宮地に当たって砕けて玉砕したうえ、青木まで離れていってしまうのは嫌だ。
でも、このままじゃ俺は宮地のこと忘れるなんて無理。
だから、告白を最後に宮地への気持ちを俺は封印する。
欠片も思い出さないように全部忘れる。
・・・・卑怯だけど、この気持ちは青木には永遠に秘密だ。
宮地とは違う気持ちで、青木は俺にとって特別だから。
俺は青木を失いたくない。



それにしても遅いと思った。
いつもならとっくに来ている時間なのに宮地がこない。
コンビニの時計を見ると、もう20時15分を回るところだった。
いくらなんでもおかしい。
こんな遅くに宮地がやって来たことは今までないんだ。
もしかすると今日はこないのか?

そう思い始めた頃。
暗い道の向こうから、こちらへ歩いて来る人影が見えた。
スラっとしたシルエットが街灯に照らし出されて、それが俺の待っていた奴だってことが分かった。
白い息を吐きながら少し早足で近づいて来る宮地。
その姿に違和感を覚える。

歩いて来た?

わざわざあんな遠くから歩いて来たんだろうか?
いつもの自転車はどうしたんだろう。
歩きだから何時もより遅かったのかな?

色々考えてるうちに宮地はコンビニの中に入っていった。
とにかく告白しなきゃ。
俺はポケットの中に入ってるチョコをそっと握り締めた。
姉ちゃんの手作りに便乗して作ったヤツ。
ラッピングなんて恥ずかしいからいいって言ったのに、人にあげるモンなんだからって姉ちゃんが綺麗に包んでくれた。
(まさか青木以外の奴にあげる本命チョコだなんて思ってもいないだろうけど)
勇気を出さなきゃ。
男らしく当たって砕けろだ!

宮地が店から出てきたら呼び止めて告白しようと思った。
でも肝心の宮地がなかなかコンビニから出てこない。
本当に今日はどうしたんだろう。
いつもなら、こっちが話しかける間もないくらい速攻で買うもん買って出てくるのに・・・。

俺は意を決してコンビニに入ることにした。
とにかく話しかけて、この気持ちを伝えたい。

俺がコンビニに入って行くと、チラッと宮地が俺のほうを見たような気がした。













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