5丁目 コンビニ

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kei6




心臓がうるさいくらいドキドキいってる。
逃げて、もう何もかも止めにしてしまいたい。
まだチャンスはもう一回あるんだから、今日じゃなくてもいいんじゃないか?って心の声がする。
でも、俺は決めたんだ。
今日、告白するって。
その為に青木にひどいことまでしてんじゃねーか!
頑張らないでどーすんだよ!



「み、宮地。」

「・・・こんばんは、恵くん。」

必死の思いでなんとか名前を呼んだ。
そしたら俺のほうを見て、宮地はそう答えたんだ。
名前・・・覚えてくれてた。
それだけのことが涙出そうになるくらい嬉しかった。

「今日は青木くんと一緒じゃないの?」

「え!?」

なんで青木?
なんでそこにヤツの名前が出て来るんだ?

「ごめんね。だっていつも一緒でしょう?君と青木くんが一緒にいないなんて何だか不思議だったから。」

「あ・・・ああ、そうなんだ・・。アイツちょっと用事があるとかでさ、今日はまだ来てねーんだ。」

「そう。じゃあこれから来るんだね。」

宮地が穏やかに微笑む。
ああ・・・この顔だ。
俺は宮地のこの笑顔を見ると、なぜだか凄く胸が苦しくなる。
宮地に抱きついて、抱きしめたくなる。

「宮地。俺、お前に話があるんだ。」

「僕に?」

「うん。ちょっとさ、外で話せねぇ?」

「いいよ。でもちょっと待っててくれるかな?買い物だけしてしまうから。」

言われて気付いた。

「あ・・そっかごめん。そーだよな。買い物に来てんだもんな。俺、外で待ってるから。」

顔が熱い。俺、真っ赤になってるんじゃないだろーか?
外の冷たい空気に触れて、少しでもこの熱を冷ましたかった。

「すぐ済むよ。外は寒いからお店の中で待ってれば?」

「いいんだ。俺、外にいるから。待ってる。」

宮地は気を使ってくれたけど、そう言って俺は慌てて外に出た。
冬の夜の冷たい風が気持ち良い。
ドキドキ鳴りっぱなしの心臓を落ち着かせたくて深呼吸した。
はぁーっと息を吐くたび、俺の心の中のもやもやが形になったみたいな白い塊が、目の前に現われては消えていく。

俺・・・宮地に話しかけた。
そんで、凄く普通に会話しちゃった。
ずっと、『できない』って思ってて、『無理』ってあきらめてたのに。
やってしまえば簡単なことだったんだ。
俺に勇気が足りなかっただけで、小学校の時も、卒業してからも、ただ見てるだけじゃなくって、いつでも話しすることぐらいできないことじゃなかったんだ。

俺はいつでも後悔ばっかりしている気がする。
なんで『話しかける』ってだけの簡単なことをするのに、あんなに悩んで、やりもしないで最初から『無理』とか『駄目』とか考えてしまったんだろう。

でも・・・宮地と話せた。
凄く嬉しい。

ふり返って店の中を見ると。
レジのところで宮地が立ってるのが見えた。
ガラス1枚隔てただけで凄く遠く感じる。
俺はいつもこんな風に、自分から宮地との間に壁を作ってたんじゃないだろーか?
向こう側には行けないんだって思い込んでて、俺の声も聞こえないし触ることもできないんだって・・・・ただ、見てるだけだった。
まるでテレビに映る映像を眺めるみたいに。

宮地はちゃんとそこにいて、話せば答えてくれる。
なのに、俺は自分から宮地を遠くの人にして逃げてたんだ。

買い物の終わった宮地がドアに近づいて来る。
外にいる俺に向かって宮地が微笑むのを見て、なぜか悲しくなった。
ずっと・・・みんなに囲まれて微笑んでるコイツを見ながら、俺にも笑いかけて欲しいって思ってた。
それが叶ったのに、なんで悲しいなんて感じるのか、俺は自分で自分の気持ちがよく分からない。

「おまたせ。寒いね。大丈夫?」

「うん。平気。それより何買ったんだ?宮地っていつも水曜になるとココ来るよな。何買いに来てんの?」

「別に大したものじゃないよ。マンガとお弁当。」

ほら、っと宮地は手に持っていたビニール袋を持ち上げて見せた。
なるほど。そこには水曜発売の週間マンガが入っている。

「毎週それ買いに来てたんだ〜 遠いのに大変だな。今日なんか歩いて来たんだろ?」

「うん。自転車無くなってしまったんだ。」

「え!?無くなったって盗まれたのか?」

「・・・・そう、みたいだね。僕も良く分からないんだけど。」

分からないって・・・自転車無いと困るんじゃないのか?

「あっ、でも、もうすぐ新しいコンビニで出来るもんな!そうしたらこんなほーまで歩いて来なくてもよくなる・・・・」

言ってしまってその現実を思い出す。
そうだ。もうすぐ宮地はココへは来なくなるんだ。

「あのさっ、宮地・・・新しいコンビニ出来たらさ、もう会うこともなくなっちゃうと思うから、俺・・・・お前に・・・・言っときたいことがあるんだ。」

ポケットに入ったチョコを出して

『俺はお前が好き』

そう言おうとした時だった。

「ケイ〜〜〜〜〜!」

チャリンコに乗った青木が俺の名前を叫びながら凄まじい速さでやって来たのだ。

「あ、青木・・・」

青木はチャリから飛び降りると俺に抱き着いてきた。

「もお〜ケイがワガママさんだから!ほら!欲しいって言ってたミムラのトリュフ!超特急で買ってきたよん。ケイちゃん今年も交換しようね〜さ、さ、俺の熱い愛の篭ったチョコを食べて!そんで俺にもケイちゃんの愛情たっぷりのチョコちょうだいね〜〜〜」

ああっ!!クソっ馬鹿青木〜〜〜〜!!!
なぜ!なぜ肝心なとこで現われるんだお前は〜〜〜!!!

「あっ!!」

青木が叫ぶと同時に、俺の手に持っていたチョコが消えた。

「チョコだ〜〜!!し、しかもコレっ!手作り〜〜〜!!!」

「うわーーーっ!!なぜ俺の作ったチョコがお前の手に!青木いつの間に〜〜!!」

「ええっ!?ケイちゃんの手作りなの!?」

青木が目を剥いて驚いている。
ヤバイ。非常にヤバイ。
こ、これはもう俺が宮地に告白しようとしてたのはバレバレだあ〜〜!

だが青木は俺に向かってニッコリ笑うとこう言ったのだった。

「ありがと〜〜ケイちゃんっ!!俺、すっごい嬉しいよ!ケイちゃんが俺の為に手作りチョコを作ってくれるなんてっ!!」

はぁ?
ちょっと理解不能・・・・・
えーと・・・・青木いまなんて言った?

「こんばんは。青木くん。」

宮地!
その声で我に返った。
そーだ!そのチョコは俺が宮地に渡すために作ったんだ!
青木!お前のじゃねぇんだよ!

チョコを取り返そうと青木に向き直った俺は・・・ちょっと固まってしまった。
宮地が暗いところにいたせいで、青木は今までその存在に気がついてなかったんだろう。
声をかけられた途端、青木は笑顔が嘘のように消え、みるみる不機嫌な顔に変わっていった。
宮地を見る目がすっと細められ、険しくなる。

「よお宮地〜。なんでお前ケイと一緒にいるんだよ?」

青木が痛いくらい力を込めて、ぎゅっと俺を抱きしめ、不自然に抱きついてくる。
声の調子はいつもの軽いノリだけど、不穏な気配がひしひしと伝わってきた。
殴りかかりそうな勢いだ。
いくら宮地が嫌いだからって、まさかいきなりそんなことしないよな?
いや、でも、青木は変人だから何するかわかんない。
俺の理解の範疇を超えた、突飛な行動をすることがよくあるし・・・・

「あ、青木!俺が・・・!俺が宮地に話しあったから引き止めてたんだんだよ!宮地は付き合ってくれてただけなんだ!」

「「え・・・・」」

青木と宮地は二人同時に声を揃えていた。
そして二人共が俺を見る。
俺はおろおろして自分で何を口走ってるのか全然分からない状態ながらも、宮地を青木から守んなきゃって、必死で思っていた。

「もうすぐ新しいコンビニ出来るから・・・! だから、俺は宮地に・・・!」

「そっかあ〜! そーだったんだケイ〜。」

『告白するつもりだったんだ!』そう続けようとした俺の言葉は突然青木によって遮られた。

「ケイはもうすぐ新しいコンビニ出来るから、宮地に
『こんな遠くまで来なくてよくなって良かったね!』
って言おうと思ったんだね! 優しいな〜。」

「えっ?あっ・・青木・・・?」

全っ然!親しくない!けど、元クラスメートだもんね〜。こんな遠く!まで買い物来るの大変だなって思ってたんだよね?」

「そ・・そりゃ大変だと・・・」は思ってたけど・・

「そうだよねーー!!大変だと思うよねー!!宮地んちはココからすっごく!遠い!!もんね〜  宮地!新しいコンビニ出来て良かったな!ケイも元クラスメートとしてっ!喜んでるってさ〜」

青木はニコニコと笑いながら、でかい声で俺の言葉をまた遮ると、俺の思ってもいないことを宮地に向かって言い放った。
そりゃ遠いのは大変だとは思う。
でも、俺が宮地に言いたかったのはそんなことじゃないんだ!

だけど、宮地は

「そう・・なんだ?ありがとうね恵くん。心配してくれて。」

そう言って、俺のこと見てニッコリ笑った。
その笑顔が綺麗で・・・見たことがないくらい、とっても嬉しそうだったから・・・俺は何も言えなくなってしまった。

「遅くなったし、僕もう帰るね。」

宮地はそう言って手を振る。

宮地が帰っちゃう。
・・・ちゃんと好きだって・・・言おうと思ってたのに。
どうしよう・・・・俺・・・・
俺は・・・

「宮地〜!チョコ食いたいか?」

帰ろうとする宮地を引き留めたのは青木だった。
青木は姉ちゃんが包んでくれた綺麗な袋を開けて、俺の作ったハート型の小さなチョコを一つ宮地の前に差し出した。

「欲しいなら。お前にも一個くらいやってもいいぜ〜?」

ニヤニヤ笑いながらそんなことを言う。
てーか青木!それはお前んじゃなくて全部宮地のなんだよ!
でも、今更この状況で宮地に渡せやしないし、一個でも宮地に食べてもらえるなら嬉しいから、まあいいかと俺は思った。
だけど宮地はチョコを目の前に出されて困ってしまったみたいで、俺と青木の顔を交互に見る。
そしてしばらく三人で見詰め合ってしまった。

「なーんてなっ!嘘だよ〜ん!本気にした?宮地くんは今日抱え切れないくらいたっくさ〜んチョコ貰ったもんね!もうチョコレートなんて欲しくないよね! まあ、仮に欲しがったとしても、こんな大事なモンぜってーお前にはやんねーよ。だってケイちゃんが俺のために心を込めて作ってくれたチョコだもん!」

青木の能天気な明るい声が響いて、俺達の間にあった沈黙を破った。

「そう・・・ うん、そうだよね。じゃあ、僕帰るよ。さようなら、青木くん恵くん。」

宮地はいつもの穏やかな笑みを浮かべながら、手を振って帰っていった。
俺は何も言えなくて、ただ、宮地に手を振り返した。

宮地の後姿が夜道に消えて行くのを見ながら俺は・・・・

「結局宮地に告白できなかったな・・・」って、ぼんやりと思っていた。

俺・・・やっぱり馬鹿だ。



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