ピコーン ヴィーン
上部に赤いはっぴを着たキャラクターが止まった。
うーん 結構カワイイ。
トン トン トン
取り敢えずSTOPボタンを押してリールを止めてみる。
何も起こらず。
メダルを3枚掴んで投入口に入れ、バーを押す。
ピコーン
まただ。でも上部のリールは回らない。
トン ヴィーン
うお!?
最初のSTOPボタンを押したところで上のが回りだした。
トン トン 残りのSTOPボタンを押す。
やはりなにも起こらず。
むー。わからない。さぱっぱり分からない。
パチスロなんてやるのは初めてだった。
学生時代、友達に連れられて来てから俺はパチンコ屋にたまに行くようになった。
でも友達もスロットなんてやらなかったから俺はパチンコしかやったことがない。
社会人になってからは仕事が忙しかったし、休日はいつも彼女とデートの予定が入ってた。
一緒にパチってた友達とも大学を卒業してからは疎遠になり、俺はパチンコ屋へ行くことも無くなった。
その俺がなんで今、やったことも無いスロットなんかやっているのか。
それはこのパチスロ台にでっかく「大花火」と書いてあったからだ。
それに釣られてフラフラとこの台に座ってしまった。
本当なら今日の今頃は、俺は彼女と花火大会に行っている予定だったんだ。
そう、本当なら・・・
つまり俺はフラレたのだ。それも数時間前に。
俺は恋人の美紗子に電話した。
だって今日はおデートだった。
しかも2週間ぶりくらい。
お盆休み前で仕事が忙しくて美紗子と会うことが出来なかった。
でも前から約束してたんだ。
美紗子が「休みになったら絶対花火大会一緒にいこうね」って言ってさ。
結構楽しみにしてたんだよ。
だから嬉々として電話をかけた。
「美紗子今日何時ごろ待ち合わせしようか〜、早めに出て軽くなんか食べてから花火見に行く?」
「ごっめ〜ん、祐介。忘れてたぁ〜 アタシ行けないよお」
「え!?なになに、なんで?前から約束してたじゃん」
「あのね祐介。アタシ結婚するの。だからもう祐介とは会わないからぁ」
な、な、な、な、なにーーーーーー!?
「ちょっと!それどーゆうことだよ!?結婚って誰と!?」
「ごめんね。本命の彼にプロポーズされたの。だから祐介とはもう会わないから」
「なんだよそれ!俺とは遊びだったってこと!?」
「そーゆー訳じゃないけど、そう思ってくれても構わないよ。もう別れよ」
「ちょっと、待てよ。こんな電話なんかで一方的に・・」
「だって、アタシ祐介のこと結構好きだから会ったらHしちゃうし。ずるずる付き合ってたってみっともないよう。とにかく結婚するからもう電話もかけてこないでね。バイバイ」
ガーン なんてこった。
俺は憐れなキープくんだったのだ。
ひどい。
そりゃあ美紗子とは大恋愛ってわけじゃなかったけど、コンパで知り合ってなんとなくイイカンジになって、もう1年以上付き合ってきたのに。
二股かけられてて、本命くんと結婚決まったからってポイ捨てされるなんて思ってもみなかった。
やり場のない怒りと悲しみで俺の心の中がぐるぐるになる。
うあああ。いやだあああ。
ぐるぐるになると俺は地の底まで落ちていって、考えたくもない色々なことを考えてしまう。
そう、普段は普通よりもちょっと明るい俺だが、本質は結構根暗なヤツだったりする。
落ち込んだら最後、復活するのに相当な時間がかかる。
いかーん!
このままここに居ちゃダメだ。
ひとりぼっちのアパートで膝を抱えて丸くなってたりしたら、俺はどんどん落ち込んでしまう。
失恋した時はなんだ?そうだ自棄酒だ!
誰かを呼び出して愚痴を聞いてもらいながら、くだを巻くのだ。
間違っても一人で酒を飲んではいけない。
ぐるぐるがひどくなって一気に廃人だ。
貴重なお盆休み中を死体よりもひどい状態で過ごさなければならなくなる。
最悪休みが明けても社会復帰出来るかどーか分からないってもんだ。
俺は携帯のメモリーに片っ端から電話をかけた。
で、なんで俺がパチンコ屋にいるのか。
誰一人として俺に付き合ってくれる友達がいなかったから。
うう。なんか凄く寂しい人間なのか俺。
みんな予定があると言って断られてしまった。
お盆休みの初日だ、そりゃ予定があるのも当然かもしれない。
メモリーの半分以上は帰省中だとか旅行中だとかだったし。
辛いことにこっちに残ってるヤツはほとんどが「今日花火大会見に行くから」って言葉を返してきた。
しかも「一緒に見に行く?」とか言ってくれるな。
行くもんか!そんな傷口をほじくり返して塩を塗るようなことをするもんか!
と、思いつつ、部屋に居るのが嫌で久しぶりに入ったパチンコ屋で「大花火」なんて台に座ってる俺。
塗っているじゃないか塩を・・・・しかも自分で・・・・。
いや、いいんだ!俺はこの台で当たりを引いて、デッカい花火を打ち上げてやる!
うしっ!気を取りなおしてBIGボーナス目指してトライだ!
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