777HIT記念小説

大花火



「ねえ〜〜、ヒッドイと思いません? 電話で、電話でですよおー? アタシ〜ケッコンするからあ〜 とか言っちゃってえ〜 俺はモテ遊ばれてたワケでっすよお〜〜」

大分酒が進んで、いつのまにか俺は美紗子との悲しい出来事の愚痴を健さんに話してしまっていた。
まさに「愚痴を聞いてもらいながらくだを巻く」状態。
フラレて最初に予定した通りの状況に、計らずもなってしまっていた。

「そんなオンナたぁ切れて良かったじゃね〜かよ。おめぇにはもっとイイ女が現われるって。なっ!」

がははと笑って、元気出せ!とばかりに肩を叩かれる。

「だめだめっすよ〜〜。 俺なんかあ、いっつも誰かのイチバンになれない運命なんすよお。 もお〜一生ひとりぼっちで生きてくんだあ、きっとお〜〜」

もう女との付き合いなんてこりごりだ。
いいように振りまわされてさ、最後には捨てられちゃうなんて。
俺は何だ?ゴミなのか?生ゴミか?粗大ゴミか?

「何言ってんだ、まだ若ぇのによ! 祐介みてぇに可愛いツラしてて、いい会社に勤めてる真面目なヤツぁこれからいっくらでも女のほーから寄って来るぜぇ。俺みてぇにくたびれたオヤジじゃねぇんだからよ。」

わーい、健さんに可愛いって言ってもらっちゃったよ。
嬉しいなぁ、可愛いなんて言われたの初めてだよ〜。
でも健さん自分の事くたびれたオヤジだなんて、全然違うのに!
背は高いし、ガタイはいいし、ハンサムだし、たまにオヤジギャグ入るけど話は面白いし、なにより優しくて良い人なのにい〜。

「もお〜 健さんはゼンゼンくたびれたオヤジなんかじゃないっすよお〜。 俺なんかと違ってめちゃくちゃカッコ良くって男前っすう〜。 もう、俺がオンナだったらあ〜 ぜっ〜〜たい惚れちゃう!」

そーだよ、俺がもし女だったら健さんみたいな人放って置かないね。
絶対恋人にしちゃう!

「・・・おめぇ大丈夫か?もう大分酔っ払ってんなあ。俺みてぇなののどこが男前なんだよ。おだてたってなんも出ねぇぞう、こら」

もお〜、本気で言ってるのに信じてないなこの人。
俺のどこが酔ってるってーんだよ、健さんのほうが顔は真っ赤だし自分のことは分かってないし、よっぽど酔っ払いじゃん。

「俺はぜ〜んぜん酔っ払ってませ〜ん! 祐介くんはシ・ラ・フ・でぇ〜す!はいっ!!」

俺は手を上げて勢い良くイスから立ち上がった。
その途端。

ぐらあぁ〜〜〜

あれれれれっあれえ〜〜?

世界が回る。
地震みたいにぐらぐらになって、上を向いてるわけじゃないのになぜか店の天井が見えた。
自分の身体が誰かに抱き止められるのを感じたのを最後に、俺の意識は真っ暗になった。

―――――ブラックアウト



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・う〜ん
・・・・・・・・・・う〜ん
・・・んんん?
なんかすごく気持ちがイイ。
ゆらゆら揺れて。
ああ、俺・・・・おんぶしてもらってるんだあ。
気持ちいいな。
なんかすげぇシアワセ。

とにかく凄く気持ち良かった。
俺の酔ったアタマでは自分が大の大人で、男であって、背負ったりしたらかなり重いであろうとか、そんなことは一切抜け落ちていて。
自分がおぶさってる背中の暖かさに、ただ、ただ、安心してシアワセを噛み絞めていた。
だから、ドサリっと倒れ込むようにして下に降ろされた時、俺はその気持ちの良い背中を手放したくなくって力一杯ぎゅーっとしがみついたのだった。

「こらっ、いてぇよ祐介。おら離せ。靴脱げって!」

「ん〜〜〜 やだ」

「やだじゃねぇよ、この酔っ払いが。寝かせてやるから靴脱げって、ほら」

無理矢理、背中から引き剥がされる。
ああ〜〜 俺のシアワセが遠ざかっていく〜〜

「ほら!もうしょうがねぇなあ」

言いながら健さんは俺の足からぽいぽいっと靴を脱がすと、後ろから抱きかかえるようにして俺をずるずる部屋の中へ引き摺っていった。
ん?ここは一体何処なんだ?

「健さぁんココどこお〜?」

「俺んちだよ!まったく、潰れちまって。送ってやろうにも、おめぇの家知らねぇから連れて来たんだよ。おら、寝ろ!」

ひきっぱなしの布団の上に寝かされて足を引っ張られる。

「靴下は脱げ!靴下は!」

どうやら健さんが俺の靴下を引っ張っているみたいだ。

「はぁ〜い わかりましたあ〜〜」

俺は起き上がって自分の靴下を引っ張る。
んーーー脱げない。
靴下はスリムジーンズにぴっちりと挟まれて、いくら引っ張っても先っぽが伸びるだけで脱げなかった。
うーーー。
そーだ!ズボン脱いじゃえばいいんじゃん。
俺は窮屈なジーンズを脱いでから靴下を脱いだ。
Tシャツにパンツ一丁。
やっぱ寝るときはこの格好が一番でしょう。
では、おやすみなさ〜〜い。

「おめぇ何やってんだ?」

ん?
俺がお布団で安らかな眠りにつこうと横になったところで、上から声が降ってきた。
何って〜〜 俺、寝ようとしてるんだけど?

「なんでズボン脱いでんだよ」

ん?

「靴下脱げってぇえ、健さんが言ったんじゃん・・・」

俺もう眠い・・・

「いや、ズボンまで脱げたぁ言ってねぇだろ」

うーー

「だってぇ、靴下取れなかったんだもん。それに・・穿いてると苦しいじゃん・・・。俺もうだめ・・・眠い。おやすみ・・・・」

「おやすみって、おまえなあ・・・」

ああ、ホントもうだめだ・・・寝る。
俺は夢の世界に旅立ちます。おやすみなさい。



「うっ・・・寝ちまったよ。可愛いツラして・・・。俺が妙な気起こしても・・・・・・・・知らねぇぞ?」







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