真っ白な病室を窓から差し込む西日が赤く染める。
僕は君の手を握ってくちづける。
その細い指に。
君の白い手も赤く染まっている。
細い身体。
機械に繋がれて、ただ死なない為に生きている君。
今の君はとても小さい。
幼馴染の君は同い年なのに僕より大きくて、いつも僕は追い着きたくて必死になっていた。
小さい頃から走り回る君の後を追ってばかりいた僕。
日に焼けて小麦色をしていた君の肌は、今はこんなにも白い。
どうして?
なぜ僕は君の手を離してしまったんだろう。
あの日、僕は帰りのバスに乗る君の手を掴んだ。
確かに掴んだんだ。
なのに・・・・・思い出せない。
こんなになってしまう前の君の手の感触。
どんなに必死になって思い出そうとしても、僕のなかにあるのは、今握り締めている君の手の感触だけ。
随分小さい。
そう感じる。
君の手は大きかったはずなのに・・・・・・。
今日みたいに綺麗な夕日だった。
僕はあの時、君に言おうと思ってたんだ。
―――――好き
僕は馬鹿だ。
言えば良かった。
『待ってくれ』って
『まだ帰らないで』って
なのに・・・・・・
「なに?」って言って、困ったように笑った君の顔を見た途端、僕は臆病になった。
男同士なのに気持ち悪いって思われたらどうしよう。
嫌われてしまったら・・・
もう、君は僕に、笑顔を向けてくれなくなってしまうかもしれない。
失うのが怖かった。
自分の気持ちを隠してさえいれば、幼馴染のままずっと傍に居ることが出来る。
だから僕は君の手を離した。
走り出すバスの窓から、君は身を乗り出して「バイバイ」って手を振って笑ってた。
夕日が染めた君の頬。
僕が見た、君の最後の笑顔。
あのバスにさえ乗らなかったら、君は・・・・
あの時に戻れるなら。
僕は君の手を離さない。
・・・・・そして・・・・・
こんなに傍に居るのに。
君の身体はここにあるのに。
とても、とても遠い。
君に触れる僕を、君は感じている?
君はここにいるの?
返って来ない問いかけをしながら、僕は君の手を握り締める。
毎日。同じことを思いながら。
もし・・・・・・時間が戻せたら・・・・・・
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