2003.05.03 update
 FanFiction Novel 「背中をみつめて」: FINAL FANTASY XI


かつての同胞の、今はなき故郷。
封印されていたツェールン鉱山からの通路が一部の冒険者に解放されたと聞いて、俺は逸る心をもてあましていた。
行ってこの目で見てみたいのだ。ガルカ族にとっての伝説の地を。
しかし、未知の場所は危険が多すぎる。地図も情報もなしで乗り出すのは自殺行為に等しい。
曉の薄明の中、俺の胸の上で眠る愛しい相棒の、そのプラチナの髪を撫でる。うつ伏せに、俺の身体に抱きつくようにして眠っている、その顔に指を這わせる。
行くと言えば必ず同行を申し出るだろう彼女を、そんな危険にさらしたくはなかった。
長い睫と、すぴすぴと寝息をたてているのが可愛らしい。
彼女の体をそっと降ろし、書き置きのみを残し。
「うにゃ…」
どんな夢を見ているのか、眠ったまま、にまーと微笑む彼女に、軽く笑った。
俺は音を立てないよう、そっとモグハウスを出た。


アルテバ砂漠。そこは地平の果てまで続く、熱砂の大地だった。
なんとなくバルクルム砂丘を想像していたのだが、遥かに広くそして暑い。
からからに乾ききった風も砂も、塩を含む湿った風が吹き抜けるバルクルムとは、あきらかに違っていた。
コロロカの洞門を抜ける際にすれ違った冒険者一行の「砂漠唯一の街が西アルテバ砂漠の北にあるらしい」その言葉を頼りにひとり砂漠を彷徨って、すでに二日が過ぎた。
東アルテバ砂漠は、長年修行を積んだ冒険者にとって、命取りになる程のモンスターは少ないようだ。反面、西アルテバ砂漠の敵はどれも強い。襲って来る敵を辛うじて倒し、到底勝ち目なさそうな敵は慎重に避けて進む。それがなによりも神経をすり減らす。
そしてそれ以上に堪えるのが、砂だ。口や鼻や目に入る、装備の間に入り込んで擦れる。汗をかけばこびりつく。
鞄から水筒を取り出し、お湯のようになってしまった水を一口含んだ。じゃりじゃりと砂にまみれた口の中をすすぎ、吐き出す。砂に染みた水は瞬く間に乾いてしまう。

砂の上に奇妙な生き物を見つけた。遮蔽物のない砂漠では距離感がつかみにくい。気づいた時には近づきすぎていた。
歩くサボテンとしか表現しようのない、愛嬌さえあるその小さな生き物はしかし、恐ろしい攻撃をしかけてくる凶悪なモンスターだった。
耳障りな叫び声と共に、それは緑色の身体から無数の針を放った。激痛と共に、鋭く太い針が全身に突き刺さる。獣の咆哮をあげ、痛みを無視して拳をふるい、辛うじて叩きのめす。
そのサボテンが倒れるのを確認する余裕もなく、俺は地に膝をついた。身体を動かすたび、灼熱が身体中を刺し貫く。
「ぐぅ…」
ぜいぜいと息をつき、前に倒れ込みそうになるのを辛うじて踏み止まる。そこへ。
最初は、空耳かと思った。
聞き慣れたかん高い叫び声が風に乗って届いた。
「ガウェン! どこにいるの? 返事して!!!」
かなりの距離まで届く、冒険者独特の発声で叫ぶその声に、俺は苦笑とも嘆息ともつかない息を吐いた。

「ここだ! ここにいる!」
痛みを堪えて叫び返した声をたよりに、彼女が砂の向うから姿を現わした。いつもより大きな鞄を背負い、鍔広の帽子をかぶり、丈の長いマントを着込んだ重装備で。
全身から針を生やし、血まみれで膝をつく俺の姿に、彼女は目を見開いた。じっと見つめ、無言のまま呪文を唱え始める。両手の間に収束した光は砂漠の強烈な陽射しの中にあっても、神々しく暖かい。
女神の印を受けた回復魔法が全身の傷を瞬く間に癒していく。筋肉が賦活され、刺さった針がボロボロと落ちる。活力が漲り、俺は目を閉じてその気の流れを体に受け止めた。
静かに息を吐く。
「すまん」
白い顔を汗と砂で汚し、睫にこびり着いた砂も落とさず。疲れの色を濃くその顔に落とし、大きな青い瞳に涙を浮べ、細い眉をつりあげて。
俺にくらべれば遥かに小さな拳で俺の胸を打って、彼女は叫んだ。
「ガウェンの馬鹿っ!」

砂漠の中に忽然と姿を現わす、緑と青。
滾々と沸き出す水をたたえた泉を中心に、幾許かの木々とが草花が繁る。オアシス。
それを見るなり、パーシヴァルは歓声をあげ、荷物とマントを放り出した。走りながら器用にブーツを脱ぎ捨て、服を着たまま水に飛び込む。
「こら、まて……」
止める間もないその無防備な行動に呆れつつも、俺は慎重に様子を探った。底まで見通せる透明な水の中には、どうやらモンスター等の危険はなさそうだ。
「見ないでよねー!」
水の中で服を脱いでは絞って、岸へ向かって放り投げながら彼女が言う。触れと言ったり見るなといったり、女心は複雑だ。
言われたとおり彼女に背を向け、俺も水の中に踏み込んだ。これだけの気温と陽射しでありながら、その水は冷たく心地いい。

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