Holding You(予告編)
早春、早朝の工藤邸。
リビングには中学生の少女――宮野志保――と高校を卒業したばかりの家の主、
工藤新一の姿がある。
頭を起こすためもあってか、軽い話題をしていた新一は、
志保がカップをテーブルに置いたのを見て本題を切り出した。
「で、用件は?なんか出来たのか?」
「ええ」
志保は細い腕をポケットに入れ、カプセルケースをとりだして新一の前にかざす。
「後遺症治療ワクチン。完成品よ」
その一言に新一は目を見開いた。
「完成したのかよ!すげーじゃん!」
「おかげさまでなんとかね」
志保の口からふふっ、と自嘲ともとれる軽い笑みがこぼれる。
「で?お前試したのかよ」
「いえ・・・。有効成分が少なくてね。一人分が限界だったわ。
もう一本作れるかどうかはわからない」
「俺、実験体か?」
コーヒーに口をつけつつ苦笑しながら問うと、志保の真剣なまなざしが新一を見つめた。
「工藤くんが、選んで」
「え?」
「一応マウス実験での異常はないわ。順調に生きてる。
もちろん理論上では人間にも何も影響はないはずよ。」
「理論上では、な?」
志保がAPTX4869の解毒剤を最初に飲んだのは、今からもう一年以上前のことだ。
マウス実験でも理論上でも何も問題がなかったはずのそれは何故か不完全で、
志保はもとに戻りきることが出来ず、中学生の姿で現在も過ごしている。
そのあと改良を重ねてから服用した新一はちゃんと高校生に戻ることが出来、
春から大学に進学するというのに。
「そういうことよ・・・どうする?」
「うまくいく確率は?」
答えの代わりに帰ってきた質問に今度は志保が苦笑する。
「五分五分、ってとこね。・・・最悪の場合もありえるから・・・」
「最悪?」
「――――死ぬ、ってことよ」
★★★
「邪魔すんで〜」
スニーカーを脱いで用意されてあったスリッパを履き、平次はリビングへ向かった。
新一はというとキッチンで平次の分のコーヒーをお盆に載せているところだ。
特にすることもないので平次はソファに座りつつ、新一の後ろ姿を眺める。
「・・・・・・・・」
また細くなった、と思う。
組織殲滅の際に共に行動をしていた平次は、
今の新一の細さも、志保の成長の事情も理解している。
この先は自分に手が出せる領域ではない。
それはわかってるけど、でも・・・。
「なあ、工藤」
「ん?」
新一の後ろ姿に平次は声をかける。
「春からの俺の家、なんやけど・・・」
隣に座る新一に鼓動を少し高まらせながら、平次は言葉を続けた。
「なんだよ?」
言いよどむ相手に新一は不思議そうな視線を向ける。
コーヒーを一口飲み、息をついて、平次は新一の方を向く。
「この家で、一緒に住まへんか?」
「・・・・俺、一緒に住めねえかも、しれないぜ?」
「どういう意味や?」
「――これ、飲むから・・・」
呟いた新一が少し複雑そうな、弱弱しい微笑を浮かべる。
「くど・・・・・・?」
その表情に、平次は言葉を失った。
★★★
「危険な状態だわ・・・」
地下部屋のドアを開けた途端平次が目にしたのは、
白いベッドと白い壁、そして白い顔の新一だった。
横に映る心電図の波は微弱で、素人でも危険な状態だというのがわかる。
暖かさもあるし、息遣いも聞こえるのに。
後ろの方で、歩く音とドアが閉まる音がした。
志保が気を利かせて二人にしてくれたのだろう。
「工藤・・・・・」
そっと、名前を呼んでみる。
最後に会ったときよりもさらに白くなった頬。
「くどう・・・・・」
白い指に自分の指を絡めてみる。
新一が握り返してくれたのはつい昨日のことか。
やっと掴んだ腕が遠くに行きそうで、一晩中、離せなかったあの日。
でも、そんなつながりは一瞬でしかない。
今もう届かないところへ行こうとしている新一を感じ、
平次にできることはただ、手を強く握ることだけだった。
「くど・・・・・」
やりきれない思いが、口をつく。
「戻ってくる、言うたやろ・・・?一緒におる・・・・言うたやんか、自分・・・・」
もちろん、新一からの反応はない。
相変わらず心電図は弱い音を発している。
それでも、止まっているのではなく、波があることにホッとしている自分がそこにいた。
「工藤・・・戻って来ぃ・・・」
新一が居なくなったらどうなるか、なんて考えてた自分は本気じゃなかった。
新一が居なくなったら、じゃ、ない。
――工藤がおらん世界なんて、俺にはありえん――
何も出来なくなってから、気づくなんて・・・・。
あとは本編でv
えー。この予告編をかいたとき、ほんとにココまでしか書いてませんでした!(笑)
良く仕上がったものです・・・。しみじみ。
最初の2つは頭の方、最後のはほんとにラストの方のシーンです。
ちゃんと18禁ですよん。ご安心を(って・・・?)
興味持たれた方は紫苑までメールくださいね!(宣伝・・・)
ちなみに表紙はこんな色です。