いつか見た君に〜picture of heart〜あのすいかは、多分若葉が全部食べてしまうんだろう。昨日の夜、さっそく食べていた。ちなみに僕は食べていない。残りは今日無くなるだろう。桜ちゃんたちが家に遊びに来るらしいし。また近いうちに帰りにすいか買ってこいって言われるんだろうなあ……そして、9月2日。復習授業がひと段落ついた昼休み。 第6話・その名は羽 昼休み、チャイムと同時に購買へと走る男子、ゆっくりと学食に向かう女子……少しだけあわただしい2−Aの教室へ、 「けぇーいぃー……」 情けない声と共に陽一郎が現われた。 「あれ? 陽一郎」 どこか様子がおかしい。別に、昨日早香と二人っきりにしたのを怒っているわけではないようだ。 少し虚ろな陽一郎の目が、僕の若葉特製弁当をとらえた。 「たのむぅー……そっ、その卵焼きを……」 卵焼き? 「昨日から……何も……食べてなくて……も、もう……」 「お、おいっ、陽一郎っ」 今にも崩れ落ちそうな陽一郎。とりあえず卵焼きとウインナー(お約束なタコ型)を1個ずつ与えてみる。 「一体どうしたんだ? 何も食べてないって」 しばらくして、少し落ち着いた陽一郎に聞いてみる。 「ああ、それが……」 陽一郎が飢えている原因は……報復だった。 結論から言うと、桜ちゃんたち(特に桜ちゃん)が怒ったのだ。昨日、陽一郎が目覚ましを解除していったことを。遅刻だけは免れたそうだが、朝食を抜かざるをえなかったらしく、 「んでよぉ……『お兄ちゃんも味わってみなさいっ』って桜が言うんだよ……『晩ごはんなしっ』って力強く」 桜ちゃんの制裁は、今日になってもなお続いていて、 「朝ごはんもなし……弁当までなしだぜ?」 桜ちゃん、根に持つタイプ? あれ? でも…… 「陽一郎……お弁当ぐらい、自分で買ったら?」 そこまで言うと、陽一郎の目がまた虚ろに……そして、ボソッと一言。 「……財布……没収された……」 恐るべし、白根三姉妹。いや、白根桜というべきか。うーん、桜ちゃんを敵にまわさないように気をつけよう。 「今日の朝……起きてきたら、書き置きがあって『お兄ちゃん。定期だけは置いていきます。もう少し反省しなさい』って……多分、桜が椿に作らせなかったんだ。いや、絶対そうだ」 陽一郎の家は、買い置きはしない。ほとんど椿ちゃんが料理を作るから、そんなことをする必要がない。うちも一緒。若葉が作るから必要なし。あの2人の仲が良いのは、料理好きってところで通じているからなのかも知れない。 「でも、丸一日はやり過ぎだなぁ。さすがに」 がばっと顔をあげる陽一郎。 「だろっ? だろっ? ああーっ、分かってくれんのはお前だけだよ……あいつときたら、兄をなんだと思ってるんだ」 『あいつ』って単数形になってる。やっぱり桜ちゃんだけか。まあ、あの椿ちゃんや梢ちゃんが、そんなに根に持つとも思えないし、むしろ桜ちゃんをいさめているほうだろう。あの2人の場合、怒ったら怒ったで、このくらいでは済まないような気がする。普段が普段だけに……こ、怖い。 「昨日のあいつは始業式で早かったから、そんなに大したことなかったろうけど、俺は午後に授業もあって、その上今日は夕刊配達と駅の清掃まであるんだぜ? うぐっ、そっ、そうだった……」 自爆。自分の言った台詞でかなりのダメージを受けてる。しかし、ちょっとかわいそうかな。ほっといたら行き倒れになりそうだ。 「500円ぐらい……貸そうか?」 「すまん、借りる。命には代えられん」 僕は財布の中から500円玉を取りだし、今にも泣きだしそうな陽一郎に手渡した。 「謝っちゃえば?」 多分無理だろうけど。 「だめだ。それはない。今回はともかく、今までが今までだからな。やられっぱなしの上、謝ってたんじゃ……まったく、俺が食わしてやってるってのに、恩義ってもんを感じないのか?あいつは。だいたい、いままでもだな……」 ぶつくさ言いながら、どこか楽しそうな陽一郎。ほんとに仲がいいんだから、この兄妹は。まあ明日のお昼になったら、椿ちゃんのお弁当を食べる陽一郎の姿が見れるに違いない。きっと桜ちゃんも、4人目のお弁当を黙認するだろう。そういう兄妹だ。 「……何笑ってんだよ」 無意識のうちに笑ってしまっていたらしい。 「いや、なんでもない。500円ちゃんと返してよ」 「分かってるさ。んじゃ、早速学食へ……」 キーンコーンカーンコーン…… ああ無情。校舎に響く、お約束。うまい、座ぶとん1枚だ。 しかし、いいタイミングで予鈴がなるなあ。5時間目の開始まであと5分……これは何か食べれる時間じゃないな。 「な、なにいっ、そんな馬鹿な!」 驚愕の陽一郎。30分の長い休みなのに、そのうち15分は桜ちゃんへのグチを並べてたからなあ。 「……次は古典」 ボソッとつぶやく陽一郎。ま、まさか!? 「よしっ、間にあうっ!」 言うや否や駆けだす陽一郎。おいおい本気か? 「じゃなっ、圭っ。卵焼きサンキュー」 陽一郎は廊下からそう言うと、学食へと走って行ってしまった。さてさて……間にあうのかなあ…… 若葉のお弁当を食べ終わると、5時間目開始のチャイムが鳴り響いた。 少し強めの残暑の日差し。その中での授業は、少しきつい……暑いなあ。 「んじゃ、高階夏樹君、ここ訳して」 少し苦手な英語の授業。まあ予備校は進学校と同等、あるいはそれ以上の授業なわけだから、学校の勉強は大したことないといえば大したことない。 「次の3番を、そうだな……水瀬圭君、一度読んで和訳して」 「はい」 英語担当であり、2−Aの担任でもある染草先生は、生徒をあてるときの基準がなく『気まぐれであてる要注意教師』らしい……加えて、何故か生徒をフルネームで呼ぶ。教師生活3年目の若い男の先生である。 ちなみに去年も僕は、同じ染草先生のクラスであった。 「えと、I think he is not so much a scholar as a novelist……彼は、学者というより、むしろ小説家であると思う」 予備校の授業に比べれば、まあまあ簡単。このくらいは読める。 「うん、よくできました。よし、もっかい訳すぞ。えっーと『俺さあ、あいつ、学者じゃなくてさあ、小説家って言った方がいいように思えるぜ』かな」 染草先生の特徴その1。英語の訳文が独特……というか変わってる。 「んで『むしろ〜』も間違いじゃないけど、結局前の『学者』を否定してるわけだからさ、『むしろ』なんていうあやふやなのを使うより、きっちり否定したほうが訳した時自然。この、not so much asの用法、テストに出すから……」 染草先生の特徴その2。1回の授業のうちで、同じ生徒に2回答えさせることはない。答えたあとは安心して授業を受けられる。ということを先生自身が言っていた。 うーん、軽んじてはいけないのは分かってるけど、やっぱり身が入らないなあ。あんまりレベルも高くないし。1学期の復習だからそりゃそうなんだけど。 あ、さっきあてられた高階が寝てる。先生の言う、安心の履き違え…… 「……この構文ということに……っと、おやおや、高階夏樹君がお休み中のようだな。うーん、どうしようか」 あーあ。good−by高階。今のうちに幸せな夢でも見ておきたまえ。 「よーし、ノートに落書きしてやろう。もちろんペンでだ。おっ、そういえばこのクラスでは初めてか。ああ、自分が担任を持つクラスでこのようなことになるとは、神様はなんていたずら好きなんだっ…………さて、早速」 なんか楽しそうだな。あーあ、ほんとにやってる。 何を書いたのか、後で高階に見せてもらおう。染草先生は、美術部の顧問だしな。 染草先生の特徴その3。よくわからない行動をとる。これが一番の特徴だと思う。いつも思うが、よく先生になれたな。って言ったら失礼か。 「ははは、OKOK……みんなも気をつけろよ。安心していいってことは、寝てもいいってことじゃないからな。寝たい人は、授業の最初に言うようにな」 授業の最初に「疲れているので寝かせてください」と言うと、ほんとに見逃してくれる。但し、年5回まで。そして申請なしで眠ると、何らかのいたずらをする。と、先生が言っていた。 1学期、ほかのクラスでも何人かの生徒が餌食となった。シャーペンの芯を抜いたり、教科書をすり替えて(寝ぼけているときに)数学の問題をやらせてみたり、辞書をフランス語のと取り替えたり、枝毛を切る、まぶたに目を書く、つめに色を塗る、弁当のつまみ食い……ほんとにしょーもないことばっかり。 みんな、申請したら寝かせてくれるぶん、あまり文句も言えないようだ。 「で、次のページの問題1から8までは、1学期の復習だから、ちょいやってみようか。んー……15分ね。出来た人は寝ててもいいけど、15分過ぎたら容赦しないよ」 いったい何について容赦するしないを言ってるのか。 結局、この授業中で寝る者は(高階を除いて)いなかった。 キーンコーンカーンコーン…… ってなわけで休み時間。早速高階のところへ。 「おい、高階」 チャイムの音で目がさめたのか、高階はまだ少し寝ぼけているようだ。 「……? 水瀬、授業終わったのか……」 ごそごそと英語セット一式をしまおうとする高階。 「? なんだこりゃ……?」 気づいた。さて、何が書いてあったのか…… 「どうした? 高階」 「……やられた。ほれ」 ノートを差し出す高階。なになに…… 「えーっと『今夜はキムチチャーハン』……はあ?」 まだ続きがある。 「で?『……だから13日間、君の名前はキムチチャーハン』……なんだこりゃ?」 「俺に言うな……って、ペンで書いてるっ!」 そういえばそんなことも言ってたような。 「なんてことするんだ、あの先生はっ!」 しかも内容は意味不明。怒り狂う高階……いや、キムチチャーハン。 「くそっ、あの羽え……」 『羽』というのは染草先生のこと。あの先生のフルネームは『染草 羽』という変な名前なのである。ご本人は割と気に入っているようだが、やっぱり変だ。 先生の変な行動は、名前のせいかもしれない。と、たまに思ったりもするんだけど。特に根拠なし。 「しかし、なぜに13日間?」 「知るかよ。どうせ『ただなんとなく』だろ。いつものことだ」 染草先生が変な行動を取る動機は、ほとんどが「なんとなく」である。本人が言っていたので間違いない。以前に「心の向くまま、自由に生きたい」とか言っていた。どうも、イタズラをすることへの伏線だったような気がする。 「くそー、一体何のためにこんなことを……」 「楽しいからに決まっているだろう。キムチチャーハン君」 「ぐわあっ」 染草先生登場。高階、昨日もこんなことになったような気がするな……あれ? 次、英語じゃないよな。 「先生、次は古典のはずですけど?」 英語はさっき終わったところだ。だから染草先生は今ごろ職員室でコーヒーをすすっているはず……ここにいるのは明らかにおかしい。 「んー、今日の6限はホームルームになったんだ。ほれ、2学期は忙しいだろう。いろいろと行事があってさ。そんで今日は『2学期忙しい行事シリーズ第1弾』としてだな、『志乃上高校文化祭・2−Aも負けじとがんばろうプロジェクト』ってなわけだ。ってことで、みんな着席」 あー、そういえば去年もいろいろと忙しかったなあ。3学期が短く感じるのも、2学期がそれなりに長く、さらに充実しているからなのかもしれないな。今年は何するんだろう。 文化祭とかの雰囲気って、なんだか好きだな。他のクラスの人とも気軽に話せたりして。ちなみに去年の僕のクラス1−Aは、スーパーボールすくいをやった。染草先生の知り合いに、業者の人がいるらしく、割と安上がりに済むためだった。 もちろんあの先生だ。普通のスーパーボールすくいで満足が行くはずがない。信じられないことに、スーパーボールの入っているビニールプールの中に、ザリガニを放り込むという暴挙に出たのだ。 さらに信じられないことに「エキサイティングだ」とか「このスリルがたまらない」とか評判で大人気。 幸い、ビニールプールがハサミによって切り裂かれるという大惨事も起こることはなく、大成功をおさめたわけだったが。 「んじゃ、キムチチャーハン君、進行を頼む」 「……先生」 高階……ちょっと同情。でも、ちょっと面白いぞ。 「今夜はキムチチャーハンだからな」 「………………」 「キムチチャーハンは嫌いかな?」 そういうことじゃないでしょうが。 「………………はい」 何、そうだったのか。高階の言葉に、えらくあっさりと納得する先生。 「そうか。なら仕方ない。予定を繰り上げてキムチチャーハンはここまでにしよう。そんじゃ改めて高階夏樹君、進行を頼む」 「……はい」 生徒会役員である高階は、この2−Aの学級代表もやらされている。理由は簡単。「生徒会役員がいるんだからそいつにやらせよう」というめんどくさがり一同の単純な思考の結果である。 「それでは、今年の文化祭で何をするのか、決めようと思うんだけど……」 文化祭か。何をするにしても楽しいんだけど、何をするか決めるまでが時間かかるんだよなあ。 「……って、すぐには出ないよなあ」 ちょっと困る高階。でもさすがに少し余裕が見える。慣れっこってな感じだ。 「おっと、そうだそうだ」 突然、沈黙を破って先生が横から発言。 「ちょっと提案があるんだが、高階夏樹君」 なんだろう? あのイタズラする時の顔に似てるぞ。 「なんですか?」 「今年は2−Cとの合同でいってみないか?」 合同? 2−Cと? どういうことかな? 「……というのは?」 「うん、むこうの担任の氷川先生、今年が初めてなんだ。んで、同じ大学の先輩で、歳も近い僕のところに相談に来たってわけ。そんで僕が『合同ってのはどう?』って言ったら『それいいですね』って。人数が多けりゃ、いろんなことができるし、そのほうが楽しいと思うんだが」 ふーん、確かに楽しそうだけど。2−Cっていったら、陽一郎と梓川さんがいる。 「……ということで、反対意見は?」 ぐるっと教室を見回す高階。 「なんか面白そうだな……」 「ああ、多人数に敵はないぜ!」 「にぎやかになりそうね……楽しみいっ」 みんなには結構ウケがいいみたいだ。 「先生、特に反対意見はないみたいですけど……」 「ん、じゃあちょっくら2−Cへ行ってくる。あとは適当に頼む、高階夏樹君」 と言い残し、先生は教室を後にした。 なんだか面白いことになってきたなあ。 「……ってことだけど、なにをするか意見だけ出しとこうか」 やがてみんな、意見を出すようになってきた。少しだけさっきと空気が違う気がする。 「せっかく2年になったんだから、飲食関係したいよな……」 「C組と合同かあ……そうなったらかなり大規模よね」 「準備とか大変そうだな」 「人数多いから、そうでもないんじゃねえの?」 「サボりやすいとか?」 「るせー。お前が言うな」 うーん、これぞ文化祭だなあ。盛り上がってるなあ。 「おーい、高階っ、飲食関係の模擬店でいいんじゃねえの?反対意見もなさそうだし」 「……ってことだけど?2−Aからの案はそれでいい?」 うん、そうなるとは思ったけどね。なんだか話がスムーズに進んでる。 「OK! 他に出そうにないしな」 「異議なし」 「んじゃ決まりだな、それでいこう」 ガラガラガラ…… おっ、ちょうど先生のお帰りだ。まるで狙っていたかのよう……って、気のせいだって。 「よーし、みんな視聴覚室に集合。2−Cとの合同ホームルームだ」 さすがに2クラス合同となると、普通の教室では手狭なんだろう。ということで、教室移動。梓川さんと同じか。昨日、同じクラスになったらよろしくとか言ってたけど、そんなに気の早い話でもなかったわけだ。 ってなわけで本館2階、視聴覚室に到着。2−Cの人は先に来ているようだ。 「はい、2−Aてきとーに着席」 んー、梓川さんは……っと、いたいた。窓際にいる。せっかくだし、お隣り一緒させてもらおう。 「こんにちは、梓川さん」 こっちを向いて、優しく微笑む梓川さん。 「あ、水瀬さん、こんにちは。なんだか楽しくなりそうですね……あ、横、どうぞ」 「うん、ありがとう。早香は多分、陽一郎のところかな」 ありがたく席につかせてもらう。 「そうでしょうね……」 あんまり残念そうには見えないのは気のせいだろうか。 「あ、始まりますよ」 高階が前に出てる。もう1人の方は、2−Cの学級代表だろう。 かくして、2−A、2−C合同ホームルームが始まった。 「それでは、AとCの合同ホームルームをはじめます。まず2−Aからは、飲食関係の模擬店という意見が上がっています……」 高階が仕切っている。さすが生徒会役員、慣れてるなあ。 「水瀬さん、今日白根さんの様子がおかしかったんですけど……」 ちょっと遠慮がちに、梓川さんが話しかけてきた。 「え? ああ、あれか……」 はた目に見えるほど衰弱していたのか。こりゃ相当だな。今ごろ早香に愚痴ってることだろう。さぞあの500円がありがたかったに違いない。 「午前中はずっと元気が無かったみたいだし、それに午後の古典に遅刻したんです」 「間に合わなかったのか…………実はね」 ことの次第を説明する。一応ホームルーム中なので小声。周りは結構うるさいけどね。 今年の文化祭は、みんなかなり燃えている。肌で感じるくらいにその盛り上がりが伝わってくる。かといって高階の話を聞いていないわけでなく、テンションの高いまま高階についていってるような感じだ。 「……というわけなんだ」 「へえ……なんだかすごいですね」 驚きというか、感心というか……そんな表情の梓川さん。 「そうでもないよ。特にこの兄妹の場合はよくある話だし」 今回みたいなこともしばしばある。昔、陽一郎が「俺をくたばらせるには食糧攻めが一番効果的だ」とか何とか言ってたのを、桜ちゃんに聞かれたこともあったなあ。でも、桜ちゃんの食料攻めの方法は「椿ちゃんに指図」だからなあ。その時点で椿ちゃんが仲裁してるみたいだし……ってことは、今回椿ちゃんもちょっとは怒ってるってわけだ。 「そうなんですか? ますますすごいですね……」 しきりに感心する梓川さん。 「梓川さんは、一人っ子なの?」 そういえば、こういうこと聞くの初めてだな。 「はい。妹か弟が欲しかったんですけど……白根さんがうらやましい」 ちょっと寂しそうな梓川さん。 「水瀬さん、兄弟は?」 「うん、妹が。若葉っていうんだ」 「若葉ちゃんですか……似てるんですか? 水瀬さんに」 まあ、よく似てるって言われるけど。 「うん、よく言われる……」 最近すいかになりつつあるけど、あいつ。 「そうですか。じゃあ、きっとかわいいんでしょうね」 「へ?」 かわいい? 僕に似てると? ってことは……僕はかわいい? なんだかなあ。 「どんな子なんですか?」 すいか……では説明になってないしなあ。うーん、これは困った。 「……説明しにくい」 「そうなんですか? あ、文化祭には来ますよね、若葉ちゃん」 うーん、なんか「自分の学校のより楽しみにしてるよ」とか言ってたなあ。 去年もスーパーボールすくいをやりに来たし。ザリガニによって見事に妨害されてたけど。お陰で染草先生が喜ぶ喜ぶ…… 「多分来ると思うよ」 「そうですか。楽しみです」 若葉に会うことがなぜそんなに楽しみなんだろう。 「あんまり期待しないほうがいいよ」 「そんなことないですよ、きっと」 どうも若葉が梓川さんの中で、どんどん美化されているような気がする。 「いや、その……」 「楽しみにしていますね」 うっ、梓川さんにおしきられた。 「……うん」 仕方なく返事。 どうも僕、最近梓川さんに弱い気がする。 「? どうしたんですか?」 「え? ううん、なんでもない……」 わざとおしきれるような器用な子じゃない。これが天然というやつだろうか? ……さて、そろそろ真面目にホームルームを受けよう。 視聴覚室の大きめのホワイトボードに、これからの大まかな日程と、模擬店に出す料理の種類、担当する仕事、それに取り掛かる人数、当日の模擬店を出す場所の候補などが書かれていた。いつの間にこんなに話が進んだんだろう。 「いろいろと決まってますね……」 「うん、いつの間にかね」 2人でくすくす笑う。 周りの連中も、結構雑談にいそしんでるのに、よくこんなに話が進んだなあ…… 「……次回からも、この視聴覚室で合同ホームルームをします。染草先生と氷川先生が許可を取っているみたいなので」 たまに、この合同企画が「染草先生によって仕組まれていたこと」のような気がするときがあるんだよなあ。用意周到すぎるというか、話が上手くいきすぎというか。まあなんにせよ、自分が楽しめればいいけど。 「……ということで、今回は……いいですか? 先生」 高階が締めに入っている。どうやら今回は、A組とC組のおおまかな確認だけだったようだ。次からは各担当とか決めるんだろう。 陽一郎は多分、たこ焼き担当だな。高階も知ってるし。あ、よく見たらたこ焼きのところに「経験者C組白根」って書いてある。すでに決まってたのか。 当の本人は……あ、いた……って、寝てる。早香の横で幸せそうに。 そういえば2−Cの学級代表、ホワイトボード係だったせいか、あんまり目立ってなかった気がする。まあ、現役生徒会役員の司会進行と比べるのも酷な話か。 「うん、ご苦労さん…………あ、そうだ」 染草先生だ。なんだか嫌な予感がする。 「先生からひとつ提案。いや、ぜひともやってもらいたいことがあるんだが」 き、来たっ! この展開はまずい……周りのA組の連中も、さっきの高階のことがあるせいか、顔が引きつっている。そして、去年染草先生のクラスだった人も「これはまずい」と言った風な顔になっている。 「ひとつ断っておくが、これは職員会議を通しやすくするためで、なにも僕の趣味とか君らが嫌いだからというわけじゃない。文化祭で話題性を得るために……」 一体何を……? 「男子は女装、女子には男装をしてもらう」 シーン…… 静まり返る視聴覚室…… 固まるみんなの表情…… いやに満足げな染草先生…… おそらく、みんな同じことを考えていただろう『こいつはなんて教師なんだ』と…… 第7話へ 戻る |