いつか見た君に〜picture of heart〜なりゆき(?)で梓川さんが来ることになった、わが母校・東依戸中学校の文化祭。若葉から聞いたところによると、部外者もOKらしい。そして、今日は9月10日。中学校の文化祭はいよいよ明後日。いつものごとく、三姉妹が遊びに来る。若葉によると、今日の部活は、いつもより短いそうだ。 第8話・眠り姫 「今日は『今年最後のすいかを送る会』だから、食べちゃだめだよ」 「わかってる……すいかの恨みは怖いからね」 「ふふっ、よろしい」 ……とまあ、朝、家を出たところでこんなことを言われたもんだから、残暑のちょっと厳しい中の帰宅後も、すいかという絶好のおやつにありつくことは許されない僕。 当の若葉はというと、部活が終わるまで三姉妹を待つそうだ。 「はぁ……麦茶でも飲むか……」 時計を見たら3時ちょっと過ぎ。 この時期は、中学校も高校も短縮授業中。なぜそんなことをするのかは、ちょっと謎だけど、まぁ、文化祭の準備に便利だし、くそ暑い中で真面目に授業を受ける気にもならない。なかったらなかったで困るだろう。 1階に下りて、台所の冷蔵庫を開ける。 「麦茶は……」 ない。 「…………」 ふと流し台のほうを見ると、空になった麦茶入れが洗った食器を置くところで、これ見よがしに逆立ちしている。 「…………」 僕は黙って、冷凍庫の方を開ける。 「…………」 なにもない。 アイスの一つもあるかもしれないと期待した僕が馬鹿だった…… 「氷食べても空しいだけだしなぁ……」 無いとわかると、よけいに食べたくなるのが人間というものだ。 ……あ、そういえば、いまさらだけど、麦茶のパックがないとか何とか若葉が言ってたような気がする。こうなったら…… 「……買いに行くしかないか」 ……はぁ、この残暑厳しい中お買い物か……お茶のパックも買わないと。 目標はアイスとお茶パック。財布は持った。お金OK。準備万端だ! 「いざ、出陣!」 ガチャリ ……と、はりきったところで、施錠はやはり地味だった。 「はぁ……」 ちょっと自分が空しく思えたりもする。 「暑っ……」 3時前の日差しは、まだまだ十分にきつい。風があるから少しはましだけど。 うーん、ここは迅速に行動するため、自転車を使うのがいいだろう。 依戸駅に自転車置き場が無いので、通学に使うことはない僕の自転車。青緑色の車体は、よく「変わっている」と言われる。自分ではそうは思わないけど。 玄関横においてある自転車は、夏の日差しによって十分に温められ…… 「熱っ!」 もとい、熱せられていた。 カシャン 鍵を開けるのも、久しぶりのような気がする。 「さて、行こうかな……」 ペダルを踏みだす。ハンドルを握る手が汗ばむのは、何も緊張しているからではない。とりあえず熱い。純粋に。 とはいえ、風を切って走るのはやはり気持ちよく、いつしかハンドルの熱さなんか忘れていた。流れる景色が心地いい…… 「あー……気持ちいい」 サイクリングが趣味という、高階の気持ちがよくわかる。 たまにはこういうのもいいかも知れない。 なんとなく走りつづけていたら、あっという間に商店街。アイスアイスっと…… 昔から行きつけ(といっても、この辺では1つだけ)のお菓子屋さんに行く。小学校時代とか、陽一郎、早香、僕の三人組でよく来たものだ。 自転車の鍵をかけて……っと。よし。 お菓子屋さんの店内……クーラーはなく、おじさんが1人で扇風機の風にあたっているだけなのだが、なぜか涼しい気がする。どこか懐かしい感じのする店だ。 外観、内装ともにぼろいこととは関係ないと思うけど。 「あー、涼しい……」 ふぅ……冷凍庫から出る冷気の心地よさ…… ……じゃなくて。アイスアイス。 純正バニラもいいけど、チョコバーも捨てがたい……しかし! 「やっぱり、日本人なら『特選・あずきあいす』だな」 草書体で書かれたひらがなに、味わい深い日本の心を感じる…… 勿論、かっこよく箱買いだ。50円アイスを1つ買うだけのお子様とは違う。 ……と、こんなことを思う自分がちょっと悲しい。 「200円ね」 おじさんの手に100円玉2枚をのせる。 「はい、確かに。毎度あり」 さ、早く帰って食べようっと。 一刻も早く帰らなければ、アイスが溶けてしまう…… カシャン 開錠。さて、いきますか…… ぐぐっとペダルを踏み込む。ちょっとはりきって加速しないと、残暑厳しいこの気温。『特選・あずきあいす』の命がない。 風を切る感触が、大きくなってゆく。とはいえ、商店街の中の人口密度では、不用意に飛ばせない。速さと慎重さのバランスがなかなか難しい。 道行くおばちゃんに当ててしまったら、どうなるかわからない(僕もアイスも)ので、慎重さに重点をおく。商店街を出ればこっちのものだ。何がかはわからないけど。 商店街の出口を出るや否や、一気に加速。さすがに人は少ない。 「ふ……勝った……」 何にというわけではないが、なぜかこのとき勝利を確信した。 帰り道を気持ちよく走ること5分強。もうゴールは近い。 「あれは……」 とそこに、どこか見覚えのある後ろ姿。風になびく長い髪。梓川さんじゃないかな? スピードを落とし、少しずつ近付いてみる。しかしなぜ梓川さんがここに……? 「梓川さん?」 「ふえ?……あ、水瀬さん……?」 確かに梓川さんだ。けど……なにか様子がおかしい。 「どうかしたの? こんなところで……」 「あ……えと……さやちゃんのところに遊びに行ってたんですが……さやちゃんが……これからちょっと用事らしくて……私もとても眠いので……帰って寝ようかと……」 帰ってって、こっちは駅と反対方向…… 「あ、梓川さん、よかったら……」 駅まで送っていこうか?と聞きかけて、とある重大なことに気付いた。 『特選・あずきあいす』 これの命が残り少ない。おそらく、端のほうはやわらかくなりつつあるだろう…… 「……ちょっと待ってて、家にこれおいたらすぐ来るから」 「くー……」 のあっ! すでに寝てる! しかも立ったまま! 一種の特技かも…… それにしてもかわいい寝顔……じゃなくて、ど、どうしよう…… 「梓川さん、梓川さん!」 とりあえずゆすってみる。うう、こんなところで寝ないで…… 「あ……はい……なんですか……?」 あー、起こしたものの、どうすれば…… 「とりあえず、荷物置いたら駅まで送っていってあげるから……」 待っててと言いかけたが、この状態では3分離れるのも心配だ…… 「とりあえずついてきて」 「あ、はい……」 足取りもふらふらとしていて危なっかしい。家まであと20メートル弱…… 「……梓川さん、起きてる?」 「……はいー……」 ……半分寝てるな。 しかし、梓川さん、いつもこんな調子なんだろうか。少なくとも僕ははじめて見た。早香の奴はどうなんだろうか。もし知ってたのなら、後できつく言っておかなければ。あの時僕が見つけなかったら、今ごろ道端で寝てたに違いない…… 「梓川さん、もうちょっとだよ」 「……はい……なにがですか……?」 …………深くは考えないでおこう。 と、やっと門まで着いた。とりあえず自転車をとめる。 早くアイスを冷蔵庫に入れなければ。 ガチャリ 鍵を開ける。 「さ、どうぞ」 「…………」 反応がない。まさか…… 「……梓川さん?」 「……くー……」 や、やっぱり寝てる…… しかし上がってもらったところで、どこで寝てもらえばいいんだ? 家にはソファーなんていう気の利いたものないし……ふとんがあるのは僕の部屋と若葉の部屋だけ。来客用のはどこにあるのか若葉しか知らない…… ……若葉の部屋で寝てもらうか。 「梓川さん、とりあえずこっち」 「……ぅん……はい……」 おお凄い、寝ぼけながらもちゃんと靴を脱いでそろえてる…… 「こっちだよ」 若葉の部屋は2階。梓川さんの手を取って、ゆっくり上がっていく。 すべすべの梓川さんの手。そういえば、手を触れたのは初めてだ……なんだかどきどきしてきた…… って、何やってんだ。冷静に考えて、別にやましいことをするとかいうわけでもないのにどきどきして……ともかく落ち着け落ち着け…… とまぁ、四苦八苦しつつも若葉の部屋に辿り着いた。一方梓川さんはというと…… 「……くー……」 半分……もとい、9割近く夢の世界に行ってしまっている。足元のゴミや段差に気を配りつつ、ゆっくり若葉の部屋の中へと導いてゆく。 「こっちこっち」 くいっくいっ 「……んー……」 ……あー、よくよく考えてみると、何やってんだろ僕。一体。妹の部屋に女友達を連れて行く……客観的に見ると、かなりおかしい状況だな。 しかし、散らかってるなぁ、若葉の部屋。漫画に雑誌に食べかけお菓子……若葉って、意外とだらしないのだ。あーあ、ベッドの前のごみ箱が横倒し…… ガツッ と、それにつまずく梓川さん……って、冷静に分析してる場合か! 「危ないっ!」 ぼすっ 「……くー……」 ……幸運にもベッドに倒れこんだ梓川さん……危なかった…… しかしなんというか…… 「……すー……」 ……ま、いいか。梓川さんはこうして無事なわけだし…… ん?……そういえば、大事なことを忘れてるような…… 「あ、アイス!」 玄関に置きっぱなしじゃないか! な、なんてことだ……! バタン トタトタトタ…… 若葉の部屋を後にして、急いで玄関へと走る。 ああ、間に合ってくれ…… 廊下の先に見えるビニール袋。一気に距離をつめる! がさっ! 『特選・あずきあいす』 ……妙に箱がふにゃふにゃなのは、きっと冬場の結露と同じ原理で、箱の周りにあった水蒸気が冷やされて水滴になっただけに違いない。なぜ水滴になるかというと、温度の違いで飽和水蒸気量が違うからで、ほら、ビニール袋がぬれているのもそのためで…… 必死に自分に言い訳をしながら湿ったビニール袋を放り投げる。 べしょ ビニール袋の着地音が、妙に水っぽいのは気のせいだ。 「……あずきジュースになっていませんように……」 ベリベリベリ…… 恐る恐る封を解き、アイスが入っているはずの包みを出してみる。 で、中身は…… 「…………まだ間に合う」 その後は、体が勝手に動いていた。 ダダダッ ガチャッ バッ バタンッ 「……ふぅ」 ……結論から言うと、あずきシャーベットとあずきシェーキのまんなかといったところだろうか。かなり危ないことは確かだ。 ちなみに、謎の擬音について説明をすると、初めの「ダダダッ」は、言わずとも玄関から台所へと走る音。次の「ガチャッ」は、台所のドアを開ける音で、この直後、音もなく冷蔵庫に歩み寄り「バッ」と冷凍庫の戸を開けアイスを放り込むと「バタンッ」と閉めて一件落着。というわけだ。予断を許さない状況には変わりないが。 冷凍庫に『面会謝絶』の札でもかけておきたい気分だ。 「暑……」 結構なカロリー量を消費してしまった。アイスを食べるのはまだ危険だし、ここは麦茶でも飲んで落ち着くとしよう。 冷蔵庫を開ける。 「麦茶は……」 ない。 「…………」 ふと流し台のほうを見ると、空になった麦茶入れが洗浄済み食器を置くところで、これ見よがしに逆立ちしている。 ……さっきもこんな状況だったような…… いま冷凍庫を開けても、危篤状態のあずきアイスがあるだけだしなぁ…… 「あ、そういえば……」 麦茶パック……買うの忘れてた……このままだと、食事の時にお茶がないという、とんでもない事態に陥ってしまう。 「……買いに行くか」 あー、面倒くさいなぁ……でも、僕も若葉も茶飲みだからないと困るし。緑茶でもいいんだけど、やっぱり夏の食卓は麦茶で飾るべきだろう。 麦茶パックを買うのは、商店街の中にあるこぢんまりとしたスーパー。ここから自転車で約6分。あーあ、面倒くさいなぁ。何で忘れてたんだろ…… ガチャリ 玄関に施錠。さて、早く行こう。 と、そういえば……梓川さんのこと忘れてた。くるりと振り返って、梓川さんの寝ている我が家の2階を見る。 「うーん……」 まぁ、ちょっとやそっとじゃ起きなさそうだったし、15分ぐらいで帰ってこれるから心配ないかな。とにかく、少し急いで行くことにしよう。 というわけで、いつもより少しスピードを上げる僕。さっきと同じ風景が、さっきよりも少し速く流れてゆく。 通り道にある公園の時計が、4時過ぎを指していた。日差しは幾分ましになり、気が付けば自転車のハンドルも熱くない。商店街も、少し人通りが多くなっている。この分だと、自転車で人ごみの中を通るより、歩いたほうがはやそうだ。 商店街の端にある本屋の前に自転車を止め、やや急いでスーパーへと向かう。面倒なので他は回らず、目的のものだけ買うことにしよう。このスーパー、生鮮商品などはあまり置いておらず、代わりに身の回りのちょっとしたもの系とでも言おうか、お茶やジャム等といった商品の品揃えがかなりいい。 スーパーの入り口から一直線に麦茶パックの売っているところに着く。結構種類が並んでいる中、うちの定番『徳用・麦茶パック』を2つ棚からとる。 にしても、一口にお茶と言ってもいろいろあるなぁ……紅茶にこれは中国茶……と、日本茶がある。さすがに種類も豊富だ。どれどれ……うーん、やっぱり静岡産のお茶がいいのかな……そういえば、しばらく日本茶を飲んでなごんだ記憶がないな……たまにはこういうゆとりも必要だ。よし、買おう。 結局、『徳用・麦茶パック』2つと『静岡一級茶葉』を買った僕。 「さて……早く帰ろう」 少し日が傾いてきた。快調に自転車を飛ばす。前かごに入れたビニール袋が、風に吹かれてやかましい。商店街からうちまで住宅街を突っ切る。信号がないので速い速い。 「あ、あれは……」 と、はるか前方に、見慣れた後ろ姿が並んでいる。若葉たちだ。みんな制服だから、部活が終わって直接みたいだな。 あっという間に近付いてゆく。自転車はやっぱり早い。 「今からすいかを送る会?」 「えっ? あ、お兄ちゃん。びっくりした……どこか行ってたの?」 「うん、お茶が切れてたろ? それを買いに」 前かごにあるスーパーのビニール袋を指す僕。 「こんにちはー」 「こんにちは、お兄さん」 「……こんにちは」 と、白根三姉妹。あいさつも上から順。 「やあ、桜ちゃん、椿ちゃん、梢ちゃん。部活お疲れ様」 僕のねぎらいの言葉に、桜ちゃんと椿ちゃんがお礼を返してくれてたりしている間、なぜか梢ちゃんはビニール袋をじっと見つめている。 「どうしたの……?」 なんだろうか。梢ちゃんに問いかけてみる…… 「お茶……」 「お茶? ああ、麦茶と久しぶりに緑茶もね」 「緑茶……ちょっと見せてくれませんか……?」 おお、珍しい。梢ちゃんが積極的な行動を見せてる…… ビニール袋から『静岡一級茶葉』を取り出し、梢ちゃんに渡す。受け取った梢ちゃんは、後ろの説明書きをまじまじと見ている…… 「前……見てないと危ないよ」 「あ、はい……」 ふと気が付けば、若葉、桜ちゃん、椿ちゃんの3人はずいぶんと前……いつの間にか、置いていかれてる……ずいぶんと冷たい妹達だ。 「ちょっと急ごうか……」 「……あの……お兄さん」 「ん?」 「私がいれます……このお茶」 あ、そういえば、梢ちゃん最近日本茶に凝ってるとか陽一郎が言ってたな……実に渋い中学1年生だ。けど、ここはやっぱり梢ちゃんに任せるべきだろうな。 「うん、じゃ、お願いするね」 梢ちゃんは、心なしか嬉しそうな顔をして、 「はい……」 と答えてくれた。 「よし、それじゃあ急ごうか」 「はい」 珍しく梢ちゃんと話しながら家に着いた。もちろんちょっと早足。2人乗りは好きじゃない。万が一けがでもさせたらそれこそ大変だしね。 というわけで今、台所でお湯を沸かしている僕。なんでも、水道水のカルキ臭をとるためだそうだ。なんだか本格的。 「秋から冬にかけては、お茶のコクが深まってきます」 梢ちゃんはものすごいやる気だ。丁寧にお茶について教えてくれる。 「……基本は茶葉を多く、お湯は少なめ……湯冷ましでいれると渋味がおさえられてお茶の味がよく引き出されます……ぬるいお湯でだす時はゆっくり待ちます……少し冷まして、ゆっくり待ちましょう……おいしいですよ……」 湯が冷めるのを待つこと少々。梢ちゃんの指導のもと、茶葉を入れる。お湯を注いで、ゆっくり待つ……ああ、すでになごみはじめてきた……こういう時間、いいかも。 ちなみに若葉たちは、リビングの掃除をしている。結構散らかるものなんだよなぁ…… 「そろそろいれて……持っていきましょうか」 あっちはどうなっているだろうか。のぞきに行ってみよう。とその時、 どたどたどた…… やかましく廊下を走る音……若葉か? 「おっ、お兄ちゃん!」 えらく慌てている若葉……一体どうしたんだろう。 「へっ……部屋に知らない人が寝てる……!」 え……? ……あ、梓川さんか! しまった、すっかり忘れてた…… 「あー、その人は友達で……何というか、道端で寝そうだったから連れてきた」 「な、何それ!?」 何それ……って言われてもなあ…… 「あの……よかったらその方にもお茶を……目が覚めると思います」 えらく冷静な梢ちゃん……一つ湯飲みを出してこぽこぽと注ぎ始める。セーラー服姿でお茶を入れてるのも、なんだかシュールだなあ…… 「こ、梢ちゃん……あ、お茶のいい香り……」 若葉も落ち着いてきた。確かにお茶の香りがすごい…… 「あ……じゃあ、呼んでこようか……」 「あ、私も行く。勝手に女の子の部屋に入らないでよ……」 そんなことを言えるぐらい、もっと女の子の部屋らしくしてもらいたいものだ。ぶちぶちと文句を言う若葉を軽く流しながら、2階へ上る。 ちょうどその時、若葉の部屋の扉が開いて…… 「…………」 そーっと左右の様子をうかがうのは梓川さん。はっと目が合う。 「! あっ、水瀬さん!?」 「おはよう、梓川さん。お茶の用意ができてるから、一緒に下りよう」 今の梓川さんの驚いた表情、かなりおかしかった。 「え? あ、はい……あ、あ、妹さん、初めまして……えと、若葉……さん?」 あ、若葉の名前を覚えてたんだ。 「えっ!? あ、はい水瀬若葉です……こ、こちらこそ、その……汚い部屋で……えと」 「あ、梓川恭子ですはじめまして……」 いきなりごあいさつをする梓川さん、つられてごあいさつをする若葉。早く連れて行かないと。梢ちゃんがお茶いれて待ってる。 「……2人とも、お茶が冷めるよ。あいさつは、下でゆっくりと……ね?」 というわけで1階。 「わぁ……そっくり……」 白根三姉妹に対し、予想通りの反応をする梓川さん。それを見て心の中でほくそえむ僕。 「ね? 早香と言ってたとおりでしょ……左から桜ちゃん、椿ちゃん、梢ちゃん。それぞれ中学校3年2年1年」 「へえ……感動しました」 一方、感動された子供達はというと…… 「わ、長い髪きれい……だれだれ?」 「あ、は、初めまして……」 「お茶どうぞ……」 一斉反応。それもまた三者三様。これぞ三姉妹の味わいだ。混乱しているのは椿ちゃんだけ……と思いきや。 「あ、あの、えと……」 いや、当の梓川さんもだった。 そしてひと通りお互いのあいさつが済むと、場は梢ちゃんが仕切るお茶会へと進む…… 「……お菓子は一煎めを味わってから食べる。これがお茶への心遣いです」 「いいじゃない……これが私なりの心遣いなのっ」 「だめです」 いきなりお菓子を食べようとした桜ちゃんが、梢ちゃんに怒られる。 「うわー、髪の毛しっとり……うらやましい……」 「お姉さんの髪もすべすベで……きれいですね」 なぜかお互いの髪の毛を気に入っている梓川さんと椿ちゃん。しかし、女の子2人が長い髪の毛をさわりあっているのは、遠目から見ると黒いかたまりに見えて怖い。 一方…… ずずず…… 「……なんだか仲いいねー……」 ずずず…… 「そうだなー……」 お茶の力ですっかりなごみきってしまった僕と若葉。それにしても美味しいお茶だ……梢ちゃん、ほんとにいい腕してるなあ…… 対峙する桜ちゃんと梢ちゃん。 髪の毛をさわりあう椿ちゃんと梓川さん。 どこか遠くをぼーっと見つめる僕と若葉。 はたから見ると、変な光景であることは明白だ。でも、そんなことはどうでもいいぐらいになごんでしまっている…… ずずず…… 「はぁー……」 あ、そうだ。この後、皆ですいか食べなきゃいけなかったんだ…… ずずず…… 「はぁぁー……」 ま、いいか。 9月10日。なんだかよくわからないけど、こんな日もありかなと思った。 第9話へ 戻る |