いつか見た君に〜picture of heart〜夢のような時間は、あっという間に過ぎた。三姉妹の初めての発表会。きれいというよりもかわいいといった方がしっくりくる声。心が洗われるような、頭がすっきりするような。そんな心地よい中に身を置いていたと思うと「自分は恵まれてるのかも」とか考えてみたりする。さあ、文化祭はまだ終わっていない。 第10話・明日への旋律 似すぎていて浮いてしまう。 これが三姉妹がそれぞれに髪形を変えていた理由だった。 「なんかね、同じ顔が三人並ぶと怖いんだって」 苦笑い桜ちゃん。 「あははっ、先生の気持ちもわからなくもないかな……もぐもぐ……」 「早香さん……ちょっと複雑な心境です」 同じく苦笑いの椿ちゃん。 手作りお弁当の早香。白根家のお弁当とメニューが似ているけど、早香が教えたんだろうか? ちなみに梓川さんは早香に作ってもらったらしい。 「でも、髪形変えてもかわいかったですよ。みんな」 「え? そうかな? えへへ……」 今は昼食後の時間。三姉妹と早香と梓川さん和気あいあい。若葉は風紀委員の仕事がどうだとかで後輩の子にどこかへ連れて行かれてしまった…… 早香はまだ食事中。いつもながら食べるのが遅い。まあ、この場にいる面々はみんなそれを知ってるから問題ないけど。で、僕は少し離れたところで陽一郎と雑談。 「結構懐かしいもんだな、中学校の文化祭。毎年基本的に変わらない出し物とかな」 「ははっ、そうだね。でも内容が微妙に違うところが面白いと思うよ」 場所は本館と新館とをつなぐ渡り廊下。あまりクラスが一緒にならなかった僕ら。毎週月曜と木曜はここで一緒にお弁当を食べるという約束をしていた。 今思えばゴミの日のようだ…… 「ん? どうかしたか?」 「あ、いや、昔っから早香って食べるの遅かったなあって思ってさ……」 どうも最近自分が嘘つきだ。 「ああ、そうだな。昔から食べる時によく噛むからな」 あー、はるか昔にそんなことを聞いたことがあるなあ。 「しかし、保育園に入るより前に教えられたことを未だに守ってるなんてな」 そこが早香のいいところなのかもしれないけどね。 「それって誰が教えたの? 早香の母さん?」 「いや、俺」 ……は? 「ほれ、こうガキの頃ってさ、いろいろ知ったかぶりしたがるじゃん。ちょうど誰からだったか『よく噛むことは体にいい』とか何とか聞いて、あいつに教えたんだったと思う……よく覚えてないが」 ぜんぜん知らなかった……まあ、その『噛むのは体にいい』っていう情報は嘘じゃないと思うけど。 「とんでもない話だなあ……」 「でも早香って健康だろ? 俺のお陰」 なんか微妙に違う気が……まあ、一端を担ってるかもしれないけど。 「さて、そろそろあの小娘たちが食べ終わる頃だが……これからどうする?」 小娘たち……というか早香だけなんだけど。 「うーん、どうしようか。そういえば、高階が来るとか言ってたけど、見てない?」 「ああ、そんなこと言ってたな。弟が吹奏楽部だったかなんかで。吹奏楽部も音楽室で発表だよな……ヒマなら行ってみるか、圭?」 高階のところも白根家と同じく4人兄弟らしい。高階姉は一つ上でうちの高校にいて、今3年。弟が中学生で、妹がまだ小学生だったっけ?よく覚えてないや。 今度は吹奏楽か……次から次に芸術鑑賞。いかにも文化祭な日だ。 「うん、いいと思うよ。せっかくだし行こうか」 別にこの中学校が芸術関係に力を入れているというわけじゃない。ただ、文化系の部活は運動系のそれとは違って、どうしても発表の場が少ない。試合なんてないし……そういうこともあって、一大イベントである文化祭が盛り上がるわけだ。 「……というわけなんだが、どうだ?」 おしゃべりしている梓川さんたちに割り込んで、手短に説明を済ませる陽一郎。 ところが、なぜか苦い顔の桜ちゃん。 「うーん、見に行きたいんだけど……」 行けないのかな? 「なんだ桜、だめなのか?」 「うん。私達午前中はずっとクラブだったでしょ? だから午後からは自分のクラスの手伝いしなきゃいけないの」 なるほど……一緒に見れないのは残念だけど、そういうことなら仕方ないか。 「兄さん、後は兄さん達で楽しんでいって。多分私達はずっと終わりまで自分のクラスの仕事だから……」 と、椿ちゃん。 「そうか、わかった。後は俺たちで楽しむことにするわ……帰りはどうするんだ?」 一緒に楽しめないのはちょっと残念だ。でもまあ、自分のやらなきゃいけないことはしっかりやらないとね。 「えっと……多分帰りの時間はばらばらだと思うから、先に帰ってていいよ」 「わかった。あんまり遅くなるなよ」 「あ、そうだ」 突然早香が割り込んできた。何か大事なことでも思い出したのかな…… 「今日は椿ちゃんも疲れてるでしょ? 私がご飯作りに行ってあげるわ」 おや、親切な早香。前にも言ったが、早香の料理の腕はいい。毎日お弁当を自分で作ってくるほどだ。毎日お弁当を作る……これはとても大変なことだ。早香、椿ちゃん、若葉のお料理3人衆を素直に尊敬する。 「え? あ、いいんですか? でも早香さんも……」 さすがに椿ちゃんも恐縮。早香が文化祭前で忙しいことを知っているのだろう。ところが早香、そんなことは気にしない。 「いいのよいいのよ。最近手伝いに行けなかったし、こっちが申し訳ないと思ってたのよ。ついでに洗濯もさせてもらうわ」 あ、そうか。最近早香は手伝いに行けてなかったのか……最近はクラスのホームルームも忙しくなってきたし。 「そっ、そんな、そこまでは申し訳ないですよ」 椿ちゃん、さらに恐縮。早香の奴、なにやってんだか…… 「早香……余計に気を使わせてどうするんだよ」 まあ、さすがに洗濯までやらせるわけにいかないということで、早香は今日の晩ご飯を作ることだけをお願いされたのだった。 キンコーン、カンコーン…… 校内にチャイムの音が鳴り響く。 「あ、もう50分……そろそろ行かなきゃ」 吹奏楽部の発表って、確か1時からだったな。後10分か。 「んじゃ、俺たちも行くから。さっさと帰って来いよ」 「はい、兄さん。じゃ、私達もう行きます。ゆっくり楽しんでいってくださいね」 椿ちゃんはぺこりとお辞儀をすると、自分のクラスへ行ってしまった。梢ちゃんも一礼して後に続く。 最後は桜ちゃん。 「あ、そうだ早香さん。私、今日春巻きが食べたいっ」 夕食のリクエスト。しかし、春巻きって……しかし早香は、 「あははっ、任しときなさい!」 と笑いながら平然と答えるのだった。桜ちゃんって春巻き好きだっけ? 「ありがとー!」 桜ちゃんはそう言い残すと自分の教室へと駆けていった。 「さやちゃん、春巻きも作れるの? すごいね」 「えへへ、まあね」 尊敬のまなざしの梓川さん。早香は得意顔。春巻きで尊敬……って、もしかして梓川さん料理苦手……? 「んじゃ、俺たちも行くか」 そして、文化祭午後の部が始まった。 「そういえば、高階の弟ってなんて名前なんだ? 顔も知らねえし」 2階にある音楽室に行くために階段を上っている途中、陽一郎が聞いてきた。 でも、僕も知らない。 「さあ……そういえば知らないなあ。でも、似ていたらわかるんじゃない?」 「似てるのか? 高階と」 「知らないけど、多分高階もいるんじゃないの? 弟が出るんだし」 自分のことながらなんて無計画な。 見たところ、音楽室の中には合唱部のときと同じくらいの人が集まっているようだ。 「高階いるか? 圭、ちょっと覗いてみろよ」 「うん」 音楽室の中をざーっと見渡す。 いない。 「いないみたい……って、そういえば早香たちは?」 気付けば二人がいない。 「いないか……早香? 梓川もいねえな」 どこ行ったんだろ? 「ちょい階段まで見てくるわ」 階段まで歩いていく陽一郎。もうすぐ始まってしまう。 そのとき、突然後ろから声をかけられた。 「よお、水瀬」 「うわ!」 た、高階だ……ああ、びっくりした。 「ひどいな。そんなに驚くことないじゃないか」 「い、いや、中見たときいなかったから……」 うーん、僕の注意力不足のせいかな? 「あー、ちょっと下向いてかばんごそごそやってたからな。ちょうどそん時だったんじゃないの? それにここから結構遠いとこにいたし」 あー、なるほど、そういうわけだったのか。 「あれ? 高階いるじゃねえか」 「よお、白根。プラス長沼。あと、確かC組の子」 お、いつの間にか陽一郎が帰ってきてる。早香と梓川さんも一緒だ。 「皆さん、こんにちは。今日は僕達吹奏楽部の演奏会に、ようこそおいでくださいました……」 げげっ、もう始まってる! 「あ、もう始まっちまった。細かい話は後だ。えと、向かって一番左にいるのが弟。担当はフルートだから。じゃあな」 あ、行っちゃった。 「一番左……ふーん、あの子。あんまり似てないわねえ」 「そうだね」 向かって一番左にいる高階の弟。ぱっと見た感じ、目鼻立ちのはっきりしてる高階とは違って、どこかぼんやりしてるような印象を受ける。 だけど…… 「席、空いてなさそう」 「えっ?」 来た時間が遅かったせいか、席が空いてない。すでに立ち見の人までいるような中、4人も座るところはない。 「あっちゃー、ほんとだわ。立ち見ね」 なんてことをぶつぶつ相談している間にも、司会の先生が話を進行させてゆく。 「たった3曲思われるかもしれませんが、少ない練習時間の中で精一杯やりましたので、どうか最後まで聞いていただきたいと思います」 三曲かぁ……確かに少ないかも。 「あ、どうぞー」 ぼーっと突っ立てる僕らに、パンフ係(?)の子が1枚のプリントをくれた。 曲名と作曲家が書いてある。えーっと…… 小組曲より"行列" ドビュッシー 四季より"卜ロイカ" チャイコフスキ− カノン パッヘルベル チャイコフスキーぐらいしか名前を聞いたことのない僕はダメなんだろうか……? 吹奏楽部の部員が持ってる楽器も、フルートとクラリネット位しかわからないぞ…… あ、部員紹介のところに「高階秋風」ってある。きっとこれが弟君だな。担当フルートだし。 他の楽器は……サクソフォーン、オーボエ、ファゴット。初めて聞くなあ。サクソフォーンってのはサックスのことかな? 配置表と見比べて楽器の確認。オーボエもファゴットも管楽器。ファゴットの方がオーボエより大きい。 楽器の種類、いかにも吹奏楽なわけだな。うう、初心者丸出し。 とまあ、四苦八苦しているうち、音楽室内に軽快な音楽が流れ出す。 なんだか耳に心地いい音楽だ。 曲紹介を読んでみたりする。 『「行列」については、同名の詩がヴェルレーヌの代表的な詩集「艶やかなる宴」の中に存在し、これらの詩と同質の表現を目指したドビュッシーの強い志向が現れています』 ふーん、なるほど。ヴェルレーヌって誰だ? 『「行列」明るく軽快なマーチ。王朝時代の奥方を中心とした行列、とのこと』 お、奥方様はこんな軽快に行列を作っていたのか! なんか凄いそ! ちょっと静かめになる……でもどこか楽しそう。今のパートを吹いてるのは、えーっと、なんて楽器だったっけ? まあいいや。ほっとこう。何の楽器であれ今はこの曲を聴いてるほうがいい。ああ、なんがわくわくしてきた! 高階弟はといえば、楽譜は広げてあるものの、ほとんど目をつぶってフルートを吹いている。すごい……暗記してるんだろうか。 おっ、また盛り上がってきた! と思ったら静かに……と思ったら一気に盛り上がって……終わりっ! 爽快な終わり方だ。 しばしの余韻。沸きあがる拍手。 「すごいですね……」 梓川さんも思わずうなる。なんだろ? 久し振りに胸がどきどきしてる。作曲家……誰だっけ? ドビュッシー。うーん、すごい! そしてそれを見事に演奏する中学生達。素直に尊敬してしまう。 「ひえー……中学校の吹奏楽部って、ここまでやれるもんなんだな」 陽一郎も感嘆。確かに凄い…… 拍手が一段落したところで、次の曲に入る。えーっと、「四季より"卜ロイカ"」か。この曲は聞いたことがあるな。ロシアの音楽。 テトリスとかで使われてたっけ。もちろん、生演奏で聞くのはこれが初めて。 でも、生で聞くと音の広がりというか厚みというか、そういうものが全然違う。 『「四季」は『12の性格的小品』という副題のついたピアノ曲集で、ロシアの1年12ヶ月それぞれの性格を音楽で描きあげたものです』 へぇ……トロイカって独立してあった曲じゃなかったんだ。 流れとしてロシアの1年が描かれてるってわけだ。 『1876年1月から1年間、毎月一曲のピアノ小品を作曲してくれと依頼され……』 チャイコフスキーも大変だったんだな……締め切りに追われたりしなかったんだろうか? 『曲の内容は、毎月のロシアの季節、風物を詠んだプーシキン、マイコフ、フェート、プレシチェーエフ、コリツェフ、クラーソフ、ジュコフスキーなどの作による詩をもとにそれぞれの性格、雰囲気を音楽で表現したものとなっています。各曲には表題がつけられ、中でも第6番「舟歌」と、今回の演奏曲である第11番「トロイカ」は特に有名です』 詩人のことはよくわからないけど、さっきのドビュッシーも詩をもとにしてたなあ。 11番ってことは、「トロイカ」はロシアの11月ってことか。うう、寒そう。 またも楽譜を見ずに吹く高階弟。うーん、やっぱり練習の成果ってやつなんだろうなあ。 あ、終わっちゃった……多少アレンジされてたみたいだけど、スパッと終わるんだなあ。 さっきと同じように起こる拍手。もちろん僕も。 忘れてたけど、中学生なんだよなあ。みんな。 ……中学生の部活でこれぐらいできるんだったら、プロの生演奏ってどんなのだろうか。音楽の道は奥が深いなぁ。小学校の時のリコーダーしか吹けない自分が恥ずかしい。 えっと、最後は……「カノン パッヘルベル」か。うーん、題名出されても、曲を聞いてみないと知ってる曲かどうかわかんないや。 「『カノン』って、輪唱みたいな演奏形式のことなんですよ。確か」 と、梓川さんがひそひそ声で教えてくれる。 「輪唱?」 っていうと、いくつかのパートに分かれてずらして歌うあれだよね…… 「はい。ちょっと気をつけて聞いてみてください」 前の2曲とも違う、優しげな音楽が部屋を包む。 この曲、どこかで聞いたことある。 「カノン……ふーん……」 この曲って、そんな名前だったんだ…… ああ、なるほど、輪唱みたいになってる。3つのパートに分かれてるな。 高階弟……フルートは多分一番後ろのパート。 曲の説明に目を落としてみる。 『カノン パッヘルベル パッヘルベルは作曲者の名前、カノンは曲の形式を表す言葉です。パッヘルベルはバロック時代の有名なオルガン奏者です。バロックは、ビバルディやバッハ、ヘンデルが活躍した時代で、モーツァルトやベートーベンはもっとあとの時代の人になります』 バロック時代……音楽の授業で聞いたことがあるような気がする。けど、ちゃんと覚えてないや。 音楽史っていうんだろうか。こういうの。 『バロック時代の音楽の特徴は「ポリフォニー」という、同時に複数のメロディが演奏されて、瞬間瞬間に新しいハーモニーが生まれる音楽となっているということです。カノンは、そのポリフォニー音楽の一形式で、あるパートが演奏したメロディを、別のパートが遅れて演奏するものです。 パッヘルベルのカノンは、この形式を完全に忠実に守りながら、驚く程の曲想の広がりを見せています』 なるほど。これが例の「輪唱」ってわけか。 ……音楽もなかなか奥が深いんだなあ。改めて感心したよ。 音楽の教科書って、歌と楽譜以外何も面白いことがないって思ってたけど、こういうのも書いてるんだろうか。 作曲家の写真と曲の解説のところなんて、今までは全く読んでいなかったからなあ。こんな興味深いことなんかが書いてあったんだな。きっと。 なんだろ? 今まではこんなこと思ったこともなかったのに。この曲の雰囲気だろうか? ゆっくりと押し寄せる喜びが、少しずつ感動に変わっていくような…… そして、気持ちいい余韻を残し、演奏は終わった。 自然と沸きあがってくる拍手が音楽室を駆け巡る。 「なんだか、すごいですね……」 隣でつぶやく梓川さんに、僕はうなずくことしかできなかった。 曲の旋律もさることながら、生演奏の音の奥行きと演奏する部員たちの一生懸命さは、さっきの合唱部の歌にも負けないぐらいの感動を与えてくれた。 演奏の余韻をやや残し、拍手はやがて収まった。 立ち上がって一礼する部員たち。もう一度起こる拍手が収まったころ、顧問の先生の挨拶があった。 挨拶の内容はよく覚えていないけど、部員たちは今日のこの3曲のために、4ヶ月以上も練習したんだそうだ。この3曲が、部員の少ない中での最大限なんだそうだ。 僕らのいた出入り口付近はものすごく混みそうだったので、早々に退出してきた。 「こっちも凄かったですね……」 心から感心している梓川さん。 「ほんと。正直、ここまでとは思わなかったわ……」 時間的にそろそろ文化祭が終わる。 「うん。来て良かった」 僕らのときの文化祭は、どうだっただろうか。 自分のクラスのことで手一杯だったなぁ……部活の発表で手伝えないクラスメイトとかいたけど、正直、あまり快くは思っていなかった。彼らの発表も見ずにそんなことを思っていた自分が恥ずかしい。今となっては、特に部活もせずまっすぐ帰っていた中学生時代のことがなんだか悔しい。 校門から出て行く人の姿が、ちらほら見えるようになってきた。 「さて、俺たちも帰るかな」 早香も梓川さんも、陽一郎に賛成のようだ。 校門を少し出て、今日の感想なんかを話しながら歩いているときだった。 「よう、4人さん。どうだった? うちの弟は」 後ろから声がかかった。高階だ。 「あ、高階。うん、凄かった」 「そうね。驚いたわよ」 僕らの答えに満足したのか、明るく笑う高階。 「だろ? まぁ、俺も驚いてるけどな。はははっ」 「わかるわかる。肉親が一番驚くよな!」 「お。さすがだね、お兄さん!」 妙なところで意気投合する高階と陽一郎。 「あはは、あんたたち、それで良いわけ?」 楽しそうな3人。対照的に、梓川さんは大人しめ。 人見知り。かな? 「あの、高階さんって、確かA組の代表の人ですよね?」 「うん、生徒会もやってる」 「あ、そうか……部長と一緒にいるところを見たことあります。最近特に生徒会も忙しいみたいで」 部長というのは上諏訪委員長のことだ。なるほど、委員長は生徒会役員でもあるから、高階と一緒にいるところを見ても不思議はない。 「……今度は私たちが頑張らなきゃいけませんね、文化祭」 「うん、そうだね」 胸張って三姉妹や若葉を呼べるようにしないとね。 「なぁーつきぃー、帰るわよーっ!」 しばらく話していると、後ろのほうで大きな声が聞こえてた。「夏樹」って、高階のことだよなあ。 「あ、すまん。姉貴が呼んでる。そろそろ帰るわ」 あれが噂の高階姉か。よくは知らないけど。 「あれが高階の姉さんなのね。初めて見たわ……遠くてよくわからないけど」 「うーん、長髪で割と美人と思うが」 ……長髪だって事はわかるけど、美人かどうかまでははっきり見えない。 「陽一郎、よく見えるね……」 「あっと、長沼に言い忘れてたことがあった……多分今日連絡網で回ってくると思うんだけど、明日学校に持ってきてもらいたい物があるんだ」 持ってきてもらいたい物? 連絡網で回ってくるんなら、何で今言うんだろう? 「で、長沼。出席番号のちょうど真ん中だろ? 後ろ半分へ、先に連絡回しといてもらいたいんだ」 「いいけど……その『持ってきてもらいたい物』って、一体何よ?」 しかもクラス全員。なにかあったっけ? 「ああ、明日衣装合わせみたいなのやるから、各自文化祭当日に着る服をもってこいとのことだ」 あ、そういえば明日、合同ホームルームだったような。 それにしても、衣装合わせ……? 「あ、男装のやつね。わかったわ。連絡網で伝えればいいのね」 「ああ、頼んだ。じゃあな」 「おうっ、またな」 「それじゃ、月曜日に学校でね」 別れの挨拶をする早香と陽一郎。 高階は手を振ってそれに答え、高階姉のもとへと走っていった。 衣装……うーむ。 「……んなもん、どっから仕入れりゃいいんだよ」 「あたしは多分、兄貴達のがあるから。恭ちゃんどうする? 貸してあげよっか?」 ちなみに、早香の兄さんたちは大学が遠いため下宿していて今はいない。 「あ、じゃあお願いするね……水瀬さんたちはどうするんですか?」 「全然あてがないなぁ……若葉のじゃサイズが違いすぎるし」 「同じく」 梓川さんは少し考えたあと、こう言った。 「じゃあ、私の貸しましょうか?」 「恭ちゃん!?」 ……確かに、梓川さんの着る服はゆったりしていて僕でも着れそうだけど、さすがにそれはまずいような気が…… 「そうですね、そうしましょう。白根さんはちょっと無理そうですけど……」 さすがに身長180センチと少しの陽一郎じゃ無理か……ちなみに僕は170センチぴったりぐらい。っておいおい、そういう問題じゃなくて。 「ちょ、ちょっと、梓川さん……ほんとにいいの?」 「いいですよ。かわいいの持って行きますから」 かわいいの……って、もしや、着せ替え人形のようなノリなのか? なんだかよくわからないまま、結局梓川さんに服を借りることになってしまった。 これでよかったんだろうか……? ともかく、明日は合同ホームルーム。僕らの文化祭、お客さんだけじゃなくて僕らも楽しもう。 今日の中学生に負けないぐらい、楽しくしよう。 秋のにおいのする9月の風は、今日の余韻を味わうのに最高だった。 第11話へ 戻る |