いつか見た君に         

                      〜picture of heart〜



 中学校のすばらしい文化祭。次は僕らの番だと意気込んでみても、やっぱり女装はつらいものがある。しかもその夜に早香からかかってきた電話。「あ、兄貴達の服だめだったから、恭ちゃんのぶんお願いねー」……どこか作為的なものを感じざるをえないんだけど。とにかく、僕は梓川さんと服の交換をすることになったわけで……ああっ、なんだこの展開は!

 第11話・女装狂想曲

 どうやらうちのクラス、先生たちの間で、かなり話題になっているらしい。3時間目の体育の先生も、さっきの国語の先生も、口をそろえて「期待してる」と言ってくれた。
 こっちの気も知らないで……とほほ。
「選理と英語がないのはラッキーなんだけどなぁ」
「だよなぁ……」
 視聴覚室への移動中、周りの男子は互いに愚痴りあう。手に持った紙袋がなんともいえない哀愁を漂わせる。
 対照的に女子のほうは、なにやら楽しそうだ。
「宝塚みたいでかっこいいよねー」
「私も一度男物の服、着てみたかったんだ」
 ……この差は何なんだろう。
 確かに、ごつい体の男が、
『女物の服、一度着てみたかったんだよ』
『実は俺もなんだよ。かわいいよなぁ、女物の服って』
 なんて言っても気持ち悪いだけだしなぁ。
「圭、元気ないわね」
「そりゃまあね……」
 そう言う早香も、他の女子とは違ってずいぶんと大人しい。
「あれ?」
 早香の持ってる手さげから、一瞬見えた服は女物。
「ああ、これ? 言ったでしょ、兄貴たちの服がだめだったって。だから、私はあいつと服を交換。もっとも、これは母さんのだけど」
 なるほど。早香の母さんは、すらっと長身。キャリアウーマンで、仕事着から普段着まで服のセンスもばっちり。ちなみに美人の部類に入ると思う。
「あいつ大きいから、私のじゃとても入らないのよね」
「あはは、そうだね」
 言いながら早香の頭をぽんぽん叩く。
「むかっ、どうせあたしはチビですよ」
 ちなみに早香の身長は160センチ弱。小さくはないけど……梓川さんが165センチらしいから、相対的に小さく見えてしまう。
「誰もそんなこと言ってないよ……」
「目が言ってるわ。目が」
「そんな無茶な」
 言いつつ頭をぽんぽん。
 また騒がしくなる早香を適当に受け流す。
 そんないつものやり取りをしていると、いつの間にやら視聴覚室へ到着した。
「前に決めたグループは気にしなくていいから、とりあえず座っててくれ」
 と、クラスの皆に呼びかける高階。どうやらC組はまだ来ていないみたいだ。
 早香とともに、後ろの入り口近くの席に適当に座る。
「それはそうと早香、他の女子みたいにはしゃがないんだな」
「え? ああ、まあ、男物の服なんていまさら珍しくないし。ほら、あたしって小さい頃からよく兄貴たちのお下がり着てたじゃない」
 ああ、なるほどね。
「そう言う圭……だけじゃないわね。男子連中みんな大人しいわね」
「そりゃまあね。でも、はしゃいでても気持ち悪いと思わない?」
 それを聞いて苦笑する早香。
「あ、そりゃ言えてるわ」
 そんなことを話していると、なにやら後ろのほうから聞き覚えのある声が。
「長沼せんぱぁーい、水瀬せんぱぁーい」
「ん?」
 独特の語尾と高い声。上諏訪つぐみちゃんだ。
「つぐみちゃん、久し振りだね」
「はい、水瀬先輩、お久し振りですぅ」
 挨拶を返してくれるつぐみちゃんの後ろに見えるのは……台車に乗った謎のダンボール箱4個。
「どしたの? こんなところまで……その荷物は?」
「あ、長沼先輩、これはですねぇ、お兄ちゃんに頼まれたものを、持ってきたんですぅ」
 上諏訪委員長に頼まれた? なんだろ?
「部長に? 一体何かしら……」
「さあぁー……つぐみ、中身は知りませーん。とにかく、染草先生に渡してくれって、お兄ちゃんが言ってましたぁ」
ふーん、先生宛てかぁ。なにやら嫌な予感ばりばりなんだけど……
「そういうわけなのでぇ、先生に渡しておいてもらえますかぁ?」
「いいわよ。ちゃんと先生に渡しておくわ。それよりもつぐみちゃん、そろそろ授業が始まっちゃうわよ」
 と、早香が言ったそのとき……
  キーンコーンカーンコーン……
 ああ、どうしてこうもタイミングばっちりなんだか。
 しかしつぐみちゃんは、全く動じない。
「きゃはは、次の家庭科は、先生がお休みで授業がないんですぅ。だからぁ、つぐみはこのまま下校なんですぅ。えっへん」
 なんと休講。
 意味無く胸を張るつぐみちゃんが、妙にうらやましい。とはいえ、僕らも授業は無いんだけどね。授業は……
「……あっ、なんだか人がいっぱい来ましたぁ。それでは、つぐみ帰りますぅ」
「うん、じゃあまたね」
「ありがとう、つぐみちゃん」
 つぐみちゃんはにっこり笑うと、手さげ袋を振り回しながら、廊下を走って帰っていった。いつもながらに元気があり余ってるな。
「あ、もうA組来てんじゃん」
「はは、C組全員遅刻だな」
 入れ替わるように、C組の人たちが視聴覚室に入ってきた。
「こんにちは、水瀬さん、さやちゃん」
「よっす、早香、圭」
 梓川さんと陽一郎だ。
 これでいつもの4人組みがそろったわけだ。
「じゃ、これ母さんの服。入るかどうかはわからないけどね」
「ん。じゃあ、これは俺の。あんまり汚してくれるなよ」
「なに言ってんの。それはこっちのセリフよ」
 お。早香と陽一郎、早速服の交換をやってる。
 いつものやりとりもお約束。平和すぎる二人は置いといて、こっちもやったほうがいいのかな。服の交換。
「えっと……梓川さん」
「あ、はい」
 ぼんやりと二人のほうを見ていた梓川さん。はっとしたようにこっちを向く。
「どうかした?」
「いえ……さやちゃんと白根さん、ほんとに仲がいいなって」
 なるほど。確かにこれ以上ないってくらいに楽しそうだ。
「あはは、そうだね。じゃあ、僕らも交換しちゃおうか」
「あ、はい。そうですね」
 僕は手に持った紙袋から、梓川さんは机に置いた手さげ袋から、それぞれ服を取り出す。
「じゃあ、これ。汚しちゃっても構わないから」
 若葉はそうとは言わないだろうけど。一応、裏方と接客の両方のために、Gパンとめったに着ないスーツを持ってきた。かさばる。
「あ、はい……あっ、いえ、大丈夫です。ちゃんと洗濯して返しますから」
 あはは……梓川さんらしいというか、なんというか。もっとも、僕もそのつもりだったけど。
「これが私のです。あまり綺麗な服じゃないですけど……」
 と言って梓川さんが取り出した服は、いつも梓川さんが着ている割と地味な服。
 うん。派手な服よりもよっぽどいいや。
「うん、どうもありがとう」
 でも……やっぱり凄く恥ずかしいんだけど。
 周りの連中と言えば、ほとんどが兄弟姉妹からの借り物か、そうでなければ親からの借り物。僕らのように交換してる人は一人もいない。
「……ちょっと、恥ずかしいですね」
「う、うん」
 まあ、誰か注目してこっちを見てるってわけでもないので、考えすぎといえば考えすぎなんだろうけど。
  ガラガラガラ……
 前の扉から入ってくるのは染草先生と氷川先生だ。
「悪い悪い。遅くなってしまったな」
 あ、このつぐみちゃんの荷物渡さなきゃ。
「お。そこにあるのは頼んでいた荷物かな? 水瀬圭君、ちょっと持ってきてくれないか?」
 げげっ、先生の目が妙な光を発したように見えた……嫌な予感、最高潮。
「あ、はい」
  ゴロゴロゴロ……
 視聴覚室の廊下側で、一生懸命に台車を押す僕。嫌な予感は皆同じなのか、妙に静まり返った視聴覚室の中で、台車を押す音だけが響く。途中で「それなに?」と小声で聞かれるものの、中身は僕も知らないんだから答えようが無い。ほんとに一体なんだろうか?
「サンキュー、水瀬圭君。じゃ、前回やり残したことをやってから待ちに待った衣装合わせだ。じゃ、後は頼んだよ、高階夏樹君」
 結局あの箱の中身は何なんだろうか。
 多分、ここにいるほとんどの生徒がそう思っているだろう。妙な緊張感の中、前回やり残したことである文化祭のローテーション決めが行われていく。
 A組C組あわせて70人ちょっとの大所帯。1班〜6班の6つのグループで色々と仕事を割り振ってゆく。
 僕のグループは4班で、梓川さんと陽一郎、早香を含む12人。最初座っていた場所で大雑把にグループを分けた結果だ。染草先生、なんとも適当である。
 4班は前日までの内装。1日目後半の店番。2日目の店番助っ人と片付け。
 さすがに多人数だと、仕事量があまり多くない。
「助っ人って言ったって、陽一郎がたこ焼き焼きに行くだけだしね」
「そうよね、楽ちんよね」
「なんだそりゃ。どうしてそうなるわけ?」
 どうしてってそりゃ、陽一郎のたこ焼きスキルが群を抜いているからに他ならない。
「まぁまぁ、あんたはそういうキャラなのよ」
「あはは、ますます分かんねぇっての」
 そんな和気あいあいとした空気の中、なんとなく形になってきた感がある。
「さて、本日のメインイベントだ」
 来た……この妙に弾んだ染草先生の声。この何か企んでそうな笑顔……
「男女一緒に着替えるわけにもいかんからな。男子諸君は上の図書室で着替えようか。今日は偶然にも臨時休館だ」
 偶然でないことは、この場にいる誰もが承知のこと。しかし、誰も何も言わないし、言ったところでどうにもならないこともまた、皆分かっていることだった。
「じゃあ、またあとでね」
 梓川さんに声をかける。次にあうのはお互い仮装(?)した後だ。
「はい。でも、なんだか元気ないですね?」
「あー、いや、大丈夫大丈夫」
 まあ、深く考えても仕方ない。いっそ楽しんでしまうことにしよう。
 その後、染草先生の思惑通りに休館になっていた図書室で、意外にもわいわい騒ぎながら着替えをするA組C組の男子。大多数スカートであることが結構笑える。
「スカスカだなぁ。これ」
「見よ! この脚線美」
「だーっ、やめんか! 見苦しい!」
「はは、どんぐりの背比べってやつじゃねえの?」
 はじめは自暴自棄になっただけかと思ったけど、結構楽しんでるみたいだ。
「圭……どうだ?」
「陽一郎……まぁ、大丈夫なんじゃないの?」
 やはり陽一郎は大きすぎたか……長沼母も気を配ってのやや大きめサイズの普段着も、なんだか窮屈そうに見える。
「スカートはかなり長いからいいんだけどな。肩のあたりがどうも……」
「そうだね。一度行ってみたら? 早香の家。で、長沼母にいろいろ見せてもらったら?」
 うーむ……と考え込む陽一郎。
「長沼家なぁ……多分行ったら着せ替え人形だぜ」
「た、確かに」
 長沼母のいいおもちゃになってしまうに違いない。
「しかし圭……お前、違和感さほどないのな」
 とんでもないことを言い出す陽一郎。
「ど、どういう意味だよ」
「いや、そのまんま。スカートは別として、お前昔そんなの着てなかったっけ?」
「これ?」
 梓川さんが貸してくれたトレーナー。
 真ん中に大きな猫の顔が書かれていて、上には「NYAN NYAN」と書かれている。
「むっ、そういえば着てたような……って、保育園の頃じゃなかったっけ?」
 あいまいな記憶を掘り起こすと、よく似ていたトレーナーを着ていたのを思い出した。
「あ、そうそう。いつぞや泥はねて、お前泣いたんだよなぁ」
 どうでもいいことを思い出すなぁ……
「ははっ、やっぱ猫が似合うな、圭は」
 うれしいような、そうでないような。複雑。
 しかし、この「NYAN NYAN」の部分とか、ほんとに良く似てるなぁ。
「そろそろ女子もいいみたいだから下に降りるぞ。荷物忘れるなよ」
 おそらくは姉の服であろうワンピースを着込んだ高階。まったくもってしまらないが、それなりにいつものリーダーシップを発揮している。
 「おう」とか「ああ」とかいう、格好に似つかない返事をする図書室の皆。
 たかが1階降りるだけとはいえ、こんな異様な集団の中に自分がいると思うと、なにやら恐ろしい気さえしてくる。
  ガラガラガラ……
「あ、あはははははっ!」
「きゃーっ、かわいー!」
 視聴覚室に戻ってみると、男装した女子が満面の笑顔……もとい、大爆笑で迎えてくれた。女子連中の男装はさほど変ではないので、笑い返すことができない。
「やあやあ圭君、陽一郎君、ずいぶんとお似合いじゃないか」
 席についたところ、すかさず早香にからかわれる。しかも妙な口調だし。
「なんだそりゃ……しかし、お前はいつもとかわらねえなあ。早香」
「むっ、どういう意味よ?」
 あ、口調が戻った。
「どうですか、その服?」
「うん、ばっちりだよ、梓川さん」
「なぜか水瀬さんに似合うような気がして持ってきたんですけど……ぴったりみたいですね。よかった」
 梓川さんの方も、僕の持ってきたGパンがばっちり決まっている。長い髪の毛のせいか、活発ななお嬢様って感じだ。ちなみに早香も同じ格好だが、まったくもって違和感がない。
「昔これにそっくりな服、着てたことがあってさ。さっき陽一郎に言われて思い出したんだけどね」
「えっ!? そうなんですか?」
 予想外に驚く梓川さん。
「それって、何歳ぐらいですか?」
 何歳って……5歳か6歳ぐらいだったかな。
「えっと……保育園ぐらいだったと思うけど」
「保育園……」
 なにやら考え込む梓川さん。
「どうかしたの?」
「えっ、あ、いえ……」
 梓川さんが何か言おうとしたちょうどそのとき、
「よーしみんな、注目ーっ」
 染草先生の号令がかかってしまった。
「よーし、じゃあ男子は前に来るように。女子は後ろで氷川先生の話がある」
 ちらりと梓川さんのほうを見る。
「あ……いえ、なんでもないです」
 と言われてもなぁ……
「行くぞ、圭」
 多少心に引っかかるけど、とりあえずは気にしないでおこう。
 前に行くと、染草先生が妙にうれしそうに「よしよし」とうなずいた。
 A組、C組とも、男子は嫌な予感全開である。
「よく似合ってるじゃないか、諸君」
 心にもないことを言う。そりゃ、見てるぶんには楽しいんだろうけど。
「そんな美しい君たちに、その美貌をもっと引き出すための、とっておきのアイテムをプレゼントしようと思う」
 ……それであの箱か。
 染草先生が何も言わずとも、大多数の男子の視線は謎のダンボールに向けられていた。
 一体何なんだろう……
「こらこら、そう焦るんじゃない。心配しなくとも、時間はたっぷりあるんだから」
 焦ってません。怯えてるんです。
「まあ、じらしても仕方ない。さっさと配ってしまおうか」
 つかつかとダンボールに歩み寄る染草先生。
「よっと」
  どすっ
 ダンボール4箱を一度に床へ下ろす先生。
 そういえば、4箱押していったにしては、軽かったような気がする。
「ふっふっふ、見て驚きたまえ」
  べりべりべり……
 染草先生がダンボールを開ける。そこに見えたものはなんと……
 大量の、毛。
「うおっ」
「なんだこりゃ……」
「なにこれ? カツラ?」
 カツラだ……黒髪、栗色、おまけに金髪。
「ご名答。君たちの色香を存分に引き出してくれるスーパーアイテムだ」
「…………」
「…………」
 どっから仕入れてきたんだ……?
 あっ、そうか。上諏訪委員長、演劇部の部長もやってた……
 ということは『お兄ちゃんに頼まれたものを、持ってきたんですぅ』っていうつぐみちゃんの言葉から察するに……
 いや、もう結論は出てるんだけど。
「どうした? もっと喜んでくれるものだと思ったんだが」
 多分、喜んでるのは先生だけだ。
「ああ、さすがに一人一個はないから、何人か共同で使ってくれ。全員が一斉に仕事するわけじゃないだろう」
「はぁ……」
 そのため息は誰のものだったのか。
 ともかく、3人に1個でカツラが支給された。
「どんなもんなんだか……」
 というわけで、カツラ試着という意味不明な時間が用意された。
 とりあえず陽一郎が手に持っているのは真っ黒ストレートの髪。
「ま、着けてみれば?」
「ん。よっ……」
  くいくいっ
 装着完了。
「どうだ?」
 どうだって……うーん、デカイ椿ちゃんって感じがする。
「白根。妹には見せないほうがいいかもな」
「何っ、どういう意味だ、佐久間……次お前つけてみろ」
 同じグループのC組佐久間。去年同じクラスだった漫研の現副部長である。
「おーし、望むところだ。驚くなよ」
 ごそごそ……
「どうだ!」
「……警察に見つからないようにしろよ」
「な、何ーっ!?」
 2人が遊んでいるのを見て、爆笑するうちのグループ。
「どっちもどっちだっつーの」
「陽一郎、不毛な争いはやめとこう」
 大騒ぎのまま試着していく僕たち。周りのグループも、こんなノリみたいだ。時折、爆笑する声とふざけて怒鳴る声があちこちから聞こえる。
 ちなみに、僕に対する感想は、
「あまり違和感ない」
「普通。ネタにできない」
「それが逆にネタになる」
 ……だそうだ。なんとも……
 そして、そろそろHRもおわりに近づいてきた。
「よーし、みんな注目」
 まだざわついていた視聴覚室が、少し静かになる。
「じゃ、高階夏樹君、後は頼んだ」
 司会進行ワンピース高階。うーむ。
「はい……えっと、今回の予定は無事こなせたわけで……とはいえ、予想外なこともかなりあったけど。特に男子」
 笑いに包まれる視聴覚室。
「まぁ、それはおいといて、明日からの予定は……」
「今日は楽しかったですね」
 後なりの梓川さんが、ぼそっと話し掛けてきた。
「そうだね。服、合ったみたいで良かった」
「ふふ、水瀬さんも……あ、そうそう、氷川先生の男装、格好いいですよね」
 もうすっかりA組とも仲良くなった、C組担任の氷川先生。確かにスーツ姿が様になっている。C組女子の間から『ホストみたーい』とか言われてすっかりその気になっていた。意外にノリのいい先生だ。
「誰も自分の着る服を忘れてこなかったわね。一応予備を用意していたんだけれど。だから私が着ちゃったわ」
 ふーん、なるほど。みんな優秀だったからこの「ホスト氷川」が見れたってわけだ。
 ん? 待てよ。男子も誰も忘れてないよなぁ。ってことは……
「さ、さて、今日のHRはこれで終わりでいいかな」
 珍しく狼狽したご様子の染草先生。さては、男子用の衣装も残ってるな。
「そーめーぐーさーせーんせいっ!」
「ん? な、なんだ?」
 互いに目配せするA組男子とC組男子一同。
「もしかして、男子で忘れた奴のために用意した服とああリますか?」
 そこに、未開封の「男子用」と書かれたダンボールがあるのはみんな知っている。しかしこうやって質問するのは、やはり日ごろの鬱憤晴らしというか、少しでも仕返ししてやろうという男子たちの総意に基づくものだろうか。
「う、うーん、で、あったとしてどうするつもりなんだ?」
 再びアイコンタクトをする男子一同。物言わずともすべてが通じている。
 女子はおろか氷川先生までその空気を読んでいるのか、笑いをこらえるのに必死のご様子。
「いやいや、で、あるんですか?」
 微妙に強硬な態度だ。男子代表。C組の人だ。
「う……ま、まあ、あるにはあるが……」
 きらーんと光るみんなの目。この瞬間ほどクラスメイトとの一体感を感じたことはない。
「そうですか。じゃあ、僕らが何をいいたいのか、わかりますよね?」
「ん? あー、それはだな……」
 往生際が悪い染草先生。執拗に攻める男子代表。
 多分染草先生を含め、教室にいる全員がわかってるはずだ。
 この場が『染草先生対その他』であることを。
「してください。女装」
 言った! ついに言った!
 こんなにあっさり言い切るとは思ってなかったけど。
 言われた方の染草先生。ちらっと氷川先生のほうを見るも、助け舟がないことを悟ってか、引きつった笑いを浮かべながら男子代表を見ている。
「もう一度言います。先生も女装してください」
 強硬なセリフの中に、どこか余裕を感じさせる男子代表。
「ふぅ……」
 もう一度今日室内を見渡す染草先生。
『もう逃げられない』
 そう感じたのか、ついにその一言が口から出た。
「……わかった。女装する」
 直後、志乃上高校本館2階、大視聴覚室は勝利の歓声に包まれた。

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