いつか見た君に         

                      〜picture of heart〜



 朝、学校で陽一郎に会ったとき、もうすっかりいつもの陽一郎に戻っていた。そして「ありがとな」の一言。確かにいろんなことがあったけど、もう気持ちの整理はついていることなんだろう。陽一郎の両親は、今の陽一郎を見てどう思うだろうか……

 第15話・月見れば

 スカッと晴れた秋の空……にしても、気温が高い。
 明日もいい天気が続くなら、この文化祭は成功するだろうな。
「よくこんなの持ってこれたな」
「まあな、バイト先でのコネってやつよ」
 佐久間が何に驚いているのかというと、陽一郎が持ってきた「たこ焼き鉄板」。あの半球状のへこみがたくさん並んでいるやつだ。
 2−Aと2−Cの合同食べ物屋は、その人数上、A組とB組の教室の2つを使って催される。ちなみにB組は入れ替わりにC組の教室を使う。
 何か協定が結ばれたのか知らないが、B組は飲み物を振舞うらしい。その代わり、うちの販売物には飲み物はない。
「で、これはガスでやるんだよな」
「ああ、ちゃんと高階に言ってある。もうすぐ先生が持ってきてくれるはずだ」
 ガス……といえば、やっぱりあのプロパンガスだよなあ。
 家庭科室からガス引っ張ってくるのは難しいだろうし、あのいつもトラックの荷台に立っているようなイメージのあるでかいボンベを使うんだろうか。
 持ってくるとか言ってるし。あの100キロぐらいありそうなボンベを先生が持ってくるんだろうか。染草先生なら間違いなく潰される。
「おーい、白根陽一郎君。頼まれたもの、もって来たてやったぞ」
 そう言って先生が台車で持ってきたのは、僕の想像より5分の1ほどの大きさのボンベ。それが2つ並んでいる。
 バスケットボールをもう一回り大きくしたぐらいの大きさだ。ほっとしたのと同時に、ちょっと残念な気もする。
「サンキュ、先生。2つありゃあ充分持つ」
 ボンベを二つ台車から下ろし、ため息をつきつつ腰を曲げる先生。
「まったく、ガスがこんなに重いものだとはな」
 あんな大きさでも、やっぱり重かったみたいだ。先生の顔も、ちょっと汗ばんでいる。
「そんなの誰でも知ってると思うけどな」
 陽一郎が笑いながら先生に言う。
「む。聞き捨てならんな。僕がアホだとでも言いたいのかな」
「そこまで言っとらんでしょっ」
 すかさず佐久間の突っ込み。その間の鮮やかさに、教室内のあちこちから笑い声が上がる。
 校舎の端っこにあるA組の教室は、調理場兼関係者休憩所。B組教室はいつもの机と椅子で作った喫茶店と、完全に分けることになった。
 今僕らはB組教室の設営中。たこ焼き屋だけは『焼くところを見せた方がいいだろう』という染草先生の意見により、喫茶店内に作られることになった。
「屋台みたいなのは今廊下で作ってるあれだろ? じゃあもう俺たちのすることってないじゃん」
 言われてみればそうだ。教室内の内装は全部終った。ひとえにうちの班が真面目だったおかげだ。
「3時前か……順調に進んだからな」
 時計を見る佐久間。
「とりあえず、終ったってことを高階に報告して、この後も暇な奴は他の班の手伝いでもするか」
 と言って高階を探しに行ってしまった陽一郎。うちの4班はおもにこの二人が引っ張っていってくれている。お陰でスムーズに作業が進んだ。
「お疲れ様でした、水瀬さん」
 梓川さんだ。その隣にはくたびれた顔の早香。
「お疲れ様。明日が本番だけどね」
「はい。がんばりましょうね」
 なんだか元気が出てくるなあ、梓川さんと話していると。
「あー、疲れた。暑いし……あれ、あいつは?」
「高階に終了の報告。早香、早く帰って寝たほうがよさそうだね」
「うー、全くだわ。でもこの後部活の展示もあるから帰れないのよね……はぁ。あの西日が思いっきり照りつける美術室で……はぁ」
 そうか。梓川さんと早香、部活のほうもあるんだ。
「まあ、がんばれ。それしか言えない」
「はい。がんばりますっ」
 ぐったりする早香に変わって、梓川さんが答える。
 確かにこの気温は早香にはきつそうだな……
「『一応解散だが、予定のない奴は他の班手伝ってくれると嬉しい』って高階が言ってた」
 戻ってきた陽一郎が、4班の皆に声をかける。
 それを聞いて、早香と梓川さんは美術部へ、佐久間も漫研を手伝うと言って教室を後にし、他は大体手が空いているので、おのおのいろんな班へと散っていった。
 さて、残ったのは僕と陽一郎。
「圭、どうする? 今日は梢と約束あるんだろ」
 そう、今日は梢ちゃんとの約束がある。
 せっかく早く終ったんだし、先に待っているのも悪くはないかな。
「うん、万一遅れても悪いし、今日はお先に帰るよ」
「そうか。すまんな、毎度毎度お邪魔して」
「気にしない気にしない」
 その後、他の班を手伝うと言う陽一郎と別れた僕は、梢ちゃんとの約束に間に合うよう、少し早足で駅へと向かうことにした。
 階段を降り、下駄箱でくつを履き替え門へと歩く。
 その間に通り過ぎる教室はどこもにぎやかで、準備の段階でもう文化祭ムードだ。
 ふふっ、なんだか分からないけど、笑みがこぼれてしまう。ひとりでにやついてても変な人なので、さっさと帰ることにする。
 門をから出て、少し学校から離れてしまうと、もう文化祭ムードはない。何も変わらないいつも通りの帰り道だ。いつものように坂を下り、いつものように駅について、いつものように改札を通る。
 とまあ、いつも通りを繰り返しているうちに、いつも通り依戸駅に到着。そこではじめていつも通りではないことがあった。
 改札の横でぽつんとたたずむ長い髪。先のはねているくせ毛が、遠目に良くわかる。セーラー服の梢ちゃんだ。
「やあ、梢ちゃん。こんなに早くなくても良かったのに」
 約束の時間まで、まだ30分ほどある。
「お兄さん、こんにちは……」
 ぺこりと頭を下げ、落ち着いた声で挨拶してくれる。
「他に、することもないですから……」
 少しでも早く帰ってきてよかった。遅くなったらずっと待たせているところだった。
「そっか、ごめんね」
「いえ……」
 と、そこまで話して気付いた。今日は梢ちゃん一人だ。3人一緒じゃないところを見たのは久し振り……いや、初めてのような気さえもする。
「今日は3人一緒じゃないんだ」
「はい……桜姉さんはお昼寝していて、椿姉さんは洗濯しています」
 ってことは、後から来るんだな、きっと。
「そっか。じゃあ、材料買いに行こうか」
「はい」
 並んで歩き出す僕と梢ちゃん。
「材料は、この商店街で全部手に入るの?」
「はい。買うのは粉だけですし、そこまで特別なものはいりませんから……」
 その言葉に、ちょっと安心した。
 そして僕らは、いつぞやお茶を買ったあのスーパーへ来た。
 梢ちゃんは、迷うことなく粉類の置いてある棚までたどり着く。ここらへん、主導権は完全に梢ちゃんにある。
「えっと、これ?」
 そう言って僕が指したのは、「上等白玉粉」と書かれた、いかにも団子を作ってくれというような粉だ。手にとって後ろを見ると、やはり団子の作り方が書かれてある。
「いえ……今日はこっちを使います」
 梢ちゃんが手に取っって見せてくれたのは、「上新粉」と書かれた同じ会社の粉だった。
「えっと……ジョウシンコ?」
「はい。上新粉です」
 そんな粉、初めて聞いたぞ……
 なんでも、お米から作っている粉らしい。なんとなく分かったような、分からないような……まあ、梢ちゃんが選ぶんだから、間違いはないだろう。
 梢ちゃんはそれに加えて、粉末の抹茶を買った。なんでも、抹茶団子も作るそうだ。
「他に買うものは?」
「いえ、特に……お茶はありますよね」
「うん、大丈夫」
 この前に買った緑茶、まだまだ残っている。自分でもなぜあんなに買ったのかが謎だ。もう一回り小さいのも売っているというのに。
「……じゃあ、大丈夫です」
 何ともあっけないまま、梢ちゃんとの買い物は終ったのであった。
 しかし上新粉……今まで存在すら知らなかった、この粉を使うということがわかったから、今回の買い物は有益といえるだろう。
 家への帰り道を、梢ちゃんを横に連れて歩いてゆく。
 ……どうにも落着かない。
 普段3人セットなのに、今日に限って一人だけというのは、妙な違和感がある。梢ちゃんはどうなんだろうか。
「梢ちゃんが桜ちゃん、椿ちゃんと一緒じゃないなんて、珍しいね」
「そう……ですか?」
 梢ちゃん自身はそうは思っていないみたいだな。そういえば若葉も言ってたっけ、学校では離れ離れになるって。
「……でも、そうかもしれませんね。ほとんど姉さんたちと一緒ですから」
 特に気にした様子もなく言う梢ちゃん。
 彼女たちが大人になったとき、一体どうなるんだろうか。ずっと3人でいるような気もするけど、そう思っていた僕らが今この通りだからな……
「……どうしたんですか?」
 ふと言葉のなくなった僕に、梢ちゃんがこちらを向いて聞いてくる。
「うん? ああ、梢ちゃんはどんな大人になるんだろうって」
「私が……」
 そうつぶやきながら、前方の空を見つめる梢ちゃんは、自分の将来の姿をはかりかねているようにも見えた。
「梢ちゃんは、何かなりたい職業ってあるの?」
 ちょっとだけ気になっていたことを聞いてみた。桜ちゃんは何かあるって陽一郎が言ってたけど。
「私……ですか? 私は、その……」
 ちょっと口ごもる梢ちゃん。珍しいな。
「話したくないならいいけど」
「あ、いえ、そういうわけでは……」
 慌てて否定する梢ちゃん。ほんとに珍しいなぁ……
「……私、この町のことを知りたいんです」
 うつむきながらも、静かに、そしてはっきりと梢ちゃんは言った。
 この町のことを知りたい……それは一体、どういう意味なんだろう。
「この町は、かなり古くから歴史があります。私は、自分が生まれて育ってきたこの町のことを、全部知りたいんです」
 全部……とは大きく出たな。
 そういわれてみると、この草神の歴史は意外と深い。そんな話を小学生のときに聞いた記憶がある。
「ってことは、歴史学者か何か?」
「いえ……そこまでいかなくても、この町のことが色々と調べることができるなら」
 そっか。別に学者にならなくても勉強はできるもんな。
「へぇ……がんばってね」
「……はい」
 そう答えた梢ちゃんは、いつか見たどことなく嬉しそうな顔だった。
 梢ちゃん、ちゃんと夢があるんだ……それに比べて僕は何も考えていない。なんとも情けなくなってくる。
 とりあえず、がんばろう……
 その思いは何に対してなのか自分でも分からないけど、なんとなくそう思った。
 それから梢ちゃんと話しながら(いつも通り口数は少なかったけど)少しゆっくりめに歩いていく。夕方の弱くなった日差しに、少しだけほっとする。
 そして歩くことしばらく、西日の照らす我が家にたどり着いた。
「ただいま」
「……お邪魔します」
 鍵が開いていたっていうことは、若葉がいるんだろう。
「お帰りお兄ちゃん……と、いらっしゃい梢ちゃん」
 梢ちゃんの突然の来訪に、少し驚いた様子の若葉だったが、
「そういえば昨日、二人で何か話してたもんね。そっか、今日の約束だったんだ。あ、上新粉……お団子かぁ」
 と、一人で納得していた。
「どうする? もう作り始める?」
 ふと時計を見ると、まだ4時半にもなっていない。
 なんだか中途半端な時間だ。
「それもいいけど、晩ご飯どうする、梢ちゃん?」
 と、若葉。梢ちゃんの分ぐらい増えても、全く問題ない。
「……そうですね、姉さんたちを呼んでもいいですか?」
「うん、いいよ。じゃあ、みんなでご飯食べよっか。足りないものは……あるかな? でも多分、椿ちゃんが何か買ってくると思うし……」
 若葉は冷蔵庫を覗きながらぶつぶつ言っている若葉。梢ちゃんに話し掛けているとも独り言ともつかない。変な妹だ。
「電話、どうぞ。陽一郎も呼んだらいいよ」
「あ……はい」
 電話に向かう梢ちゃんは、こちらを振り向いてゆっくりとうなずいた。
 梢ちゃんが電話する間、若葉と一緒にぼんやりと夕方のテレビを見る。そういえば、今日のぶんの食材はあるんだろうか。まあ、若葉がこれだけ余裕なんだから心配ないんだろう。
 結局陽一郎はまだ帰っていないということで、書き置きを残して先に桜ちゃん、椿ちゃんが来ることになったそうだ。
「ご飯炊かなきゃ。少し多目の方がいいよね」
 ということで、若葉はキッチンへ。代わりに梢ちゃんとぼーっとテレビ観賞。
 ご飯を研ぐ音を聞きながら、何かすることがなかったかぼんやり考える。けど、どうも思い当たることがない。梢ちゃんが動かないってことは、団子作りもまだなんだろう。
 そうして、ぼんやりテレビをみていると、インターホンが鳴り響いた。
「お兄ちゃん、ちょっと出て」
 しゃこしゃこと米を研いでいる若葉。確かに手が放せそうにない。
「うん。多分桜ちゃんたちだろ。行ってくる」
 そういい残し、梢ちゃんを連れて玄関へ向かう。
 鍵はかかっていないんだけど、勝手に入ってこないのがこの姉妹のいいところだ。
「はいはーい」
 扉を開けると、予想通り同じ顔が2人並んでいた。
「こんにちはっ、お兄ちゃん」
「どうもお兄さん、お邪魔します」
「いらっしゃい桜ちゃん、椿ちゃん……あれ?」
 よく見れば、椿ちゃんの手に買い物袋の姿が。
「あ、これですか? 夕食もご一緒しようかなって思って……大丈夫ですか?」
 うーむ、さすがに付き合いが長いとお互いの行動が読めるみたいだな。
「うん、大丈夫。助かるよ……さ、あがってあがって」
 陽一郎が来るのはいつ頃になるんだろう。
 ……まあ、いいか。再びリビングへ戻り、梢ちゃんと一緒にぼーっとしておこうか。
「お兄さん……先にお団子作りますので、手伝ってください」
 と思った矢先の、梢ちゃんの声。
「わかった。今行くよ」
 洗面所で手を洗ったあと、炊飯器をセットしたであろう若葉と交代でキッチンへ。
「今日は野菜炒めだから、陽一郎さんが来てから作ることにしたんだよ」
「なるほどね。桜ちゃんと椿ちゃんは?」
 少しだけ歌声が聞こえてくる。
「2人とも、もうキッチンにいるよ」
 その若葉の言葉どおり、キッチンには三姉妹が勢ぞろいしていた。調理前であるためか、3人とも髪を後ろでまとめている。3人とも、もはや見た目では判断できない。
 文化祭でのあの歌を口ずさむ桜ちゃん。
 上新粉の袋を手にとって見る椿ちゃん。
 火にかけたやかんを見つめる梢ちゃん。
「楽しそうだね」
 見たまま楽しそうなのは桜ちゃんだけなんだけど、見ようによっては3人とも楽しそうに見える。
 また、その反応も三者三様。えへへと笑う桜ちゃん、ちょっと恥ずかしそうな椿ちゃん、やっぱりこっちを見るだけの梢ちゃん。
 さて、ある程度お湯も沸いたところで、団子作り開始である。
「上新粉とお湯を、しゃもじでよく混ぜ合わせます」
 はいと言って渡されたボールには、先ほど買った上新粉がたっぷり。
 隣を見れば、抹茶入りのを持った桜ちゃんがスタンバイ。そこに椿ちゃんがお湯を注いでゆく。
「梢、分量は?」
「粉100gにお湯100ccぐらいで」
「うん、わかった」
 と言いつつ目分量なのは気のせいだろうか。まあ、椿ちゃんを信じることにしよう。
 もあもあと上がる湯気が、いかにも熱いぞと強調する。桜ちゃんと2人並んで、フキンで押さえながらぐいぐいとしゃもじで混ぜ合わせてゆく。
 お、なんか形になってきたぞ……
 続けて、ぐいぐい混ぜ合わせる。桜ちゃんの方のボールを見ると、見事な抹茶色。
「なんかおいしそうだね」
「うん、楽しみっ」
「そろそろ手で混ぜてください。粘りが出るまでです」
 言われるとおりに手で混ぜる。
 二人並んで同じことをしている様子は、はたから見るとちょっと面白いんだろうな。
  ピンポーン
 そろそろ粘り気が出てきたかなというところで、インターホンが鳴った。多分、陽一郎が来たんだろう。
 大きめの鍋2つに湯を沸かしていた梢ちゃんが、ちょっと顔を上げる。
「兄さん……?」
「多分そうだと思うけど……どうしよう、まだご飯炊けてない」
 野菜を切っている椿ちゃんがチラッと炊飯器を見る。
 椿ちゃんの言ったとおり、元気よく蒸気が上がっているわけではないものの、じっくり蒸らしにはいっているのか炊飯中のランプが点灯中。
「まあ、いいんじゃない? お腹すいて暴れだすわけでもないだろうし」
「誰が暴れだすって?」
 噂をすれば影が差す。タイミングよく陽一郎が現れた。
「お、なんか美味そうだな、桜の抹茶」
「えへへ……私もそう思う」
 なんとも仲睦まじい兄妹である。
「では、それを小さくちぎって薄くして、この鍋の中に入れてください。」
 なるほど、鍋2つに湯を沸かしていたのは、白いやつ用と抹茶用だったのか。
 指示どおりにちぎっては入れ、ちぎっては入れ……梢ちゃんが怒りそうだから投げ込むようなことはしないでおこう。熱湯だから危ないし。
「じゃあ、俺はのんびり待ってるわ」
 疲れているのか、腕を軽くまわしながら陽一郎はリビングへ行ってしまった。
 ふと目を戻すと、梢ちゃんと椿ちゃんが湯がいた団子をボールに入れている。ここからまたすりつぶして、それから手で練り合わすんだそうだ。
 その作業を二人がやっている間、僕と桜ちゃんは冷水の準備をするように言われて、氷少々と水を用意する。2種類作っているから、そのぶん準備も二倍で結構大変だ。キッチンもそんなに広くないから、4人もいるとちょっと狭い。
  ピー、ピー、ピー……
 あ、ご飯炊けた……それを聞いた梢ちゃんが、
「少し急ぎましょうか」
 と、生地を練る手に力を込める。
 練りあがった生地をそのまま冷水につけて冷やして、ちょっと一休み。
「では、残りはあっちのテーブルでやりましょう……」
「そうね、若葉さんと夕食作らなきゃいけないし」
 冷えた生地を取り出して、水分を切ったあと、再度ボールへ。そのボールを持って、いつも夕食を食べるテーブルへと移動する。また入れ替わるように若葉がキッチンへ。ちなみに、椿ちゃんはキッチンに残って、若葉と一緒に夕食を作る。
 さて、月見団子係になった僕と陽一郎、桜ちゃん梢ちゃんの4人。
「すぐにできちゃうよー」
 という若葉の言葉に、急いで団子を生産してゆく。その効率たるや、団子屋に就職できるのではないかというぐらい速さ。しかし、その形の不揃いさといったら、団子屋はまず無理であろうと思われる。
「お兄ちゃん大きすぎるよ、もう一回り小さくっ」
「桜だって全然丸くないだろ。もっと丸めろ」
「なによ、お兄ちゃんよりましよっ」
「へこんでるより丸いほうがいいに決まってるだろ」
「……どっちもどっちです」
「「……はい」」
 まあ、楽しいからいいけど。
 そんなこんなで団子終了。
「仕上げは一人でやります……」
 そういうと梢ちゃんは不揃いな団子の山を抱えてキッチンへと向かう。入れ違いに若葉と椿ちゃんがキッチンから出てくる。
 なんだか忙しいなあ。
「はい、できたよ。梢ちゃんも先に食べよー!」
 それから6人で、わいわい言いながら大盛りの野菜炒めをつつきまわす。これだけ大量に作りながら、全体にちゃんと味が行き渡っている。若葉と椿ちゃんもなかなかやるなあ。
「今日は一品しか作れなかったよ……」
「いいんじゃないか? 栄養あるし、美味いし。なあ、桜」
 食べるのに忙しい桜ちゃん、こくこくとうなずいて返事。
「姉さん、少し落ち着いて……」
 椿ちゃんの差し出すお茶を一気に飲み干して、何とか人心地つく桜ちゃん。
「ぷはあ……!」
 うーん、いい飲みっぷりだ。
「お前はどこぞのおやじか」
 それを見てすかさず突っ込む陽一郎。
 そんなこんなで夕食は終了。
 ばたばたしてしまったけど、これからが本番のお月見だ。
「お茶、いれてきます……」
「あ、梢ちゃん、私も手伝うよ」
 お盆に盛られた、形の不揃いな団子。漂ってくるお茶の香り。そして……
「お、晴れてんじゃん」
「ほんと、すごくきれいに見える……」
「…………」
 言葉をなくす椿ちゃんの髪を、涼しげな風がそよそよと揺らしてゆく。
「涼しい……もうすっかり秋なんだね」
 お茶を持ってきた若葉がぽつりとつぶやく。
 そのお茶を受け取り、3人と同じように夜空を見上げる。
 まぶしく輝く月。
 じっと見ていると、なんだか吸い込まれていきそうな……
 僕、陽一郎、若葉、桜ちゃん、椿ちゃん、梢ちゃん。6人で月を見上げる。
 静かな、ゆっくりとした空気。
 そんな落ち着いた雰囲気だったのも……
「あ、こら桜、いきなり団子を食うなっ」
「いいじゃない、私も作ったんだから」
 ほんのひと時だった。
「陽一郎さん、桜ちゃん、落ち着いて……」
「兄さんも姉さんも、せっかくいい雰囲気だったのに……」
「……一人何個でしょうか」
 そんな光景を見て、くすりと笑う。
 いつもの僕らになった。けど、やっぱりこのほうが自然でいいのかもしれない。
 夜空の月をもう一度見上げて、美味しいお茶を一口。
 そのいい香りといつものざわめきを楽しみながら、僕らなりのお月見は続いていくのだった。

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