いつか見た君に         

                      〜picture of heart〜



 なんだかんだで昨日は夜遅くになってしまった。今日は高校の文化祭1日目。校内のみの発表の日である。言わば練習である。でも、だからといって油断はできない。今日の評判によって、明日の客足も左右されるからだ。とはいえ、そこまで考えている生徒なんてほとんどいないだろう。要は自分達が楽しめればいいんだし。

 第16話・ひとときのお休みに

「自分達が楽しめなきゃ、お客さんも楽しいわけないからな」
 とは女装した染草先生の言葉。ちなみにその姿は、もうフィルムに収められている。
 複雑な心境ながらも、やっぱり楽しみに待っていた文化祭。ついにあと10分で開始される。そんな気持ちを隠せない、2−Aと2−Cの女装、男装した面々。
「1班3班は何かと大変だろうから、他の班も出来る範囲で手伝ってやってくれ」
 そう、最初の店番は1班と3班。ある程度練習はしたものの、本番となるといろいろと困ることもあるだろう。そして午後からは僕らの4班。どんなものか、雰囲気だけでもつかんでおきたい。ということで始まって少しの間、早香と陽一郎、佐久間他何人かは1班の手伝いをすることになった。
 あんまり人数がいても動きにくいということで、僕は予定通り自由時間になった。
「ただいまより、志乃上高校文化祭を開催いたします」
 9時半ちょうどに放送がかかり、名実ともに文化祭が始まったのであった。
 さて、始まったはいいけど、これからどうしようか。
 周りを見れば、何人かはグループで繰り出し、何人かは自分の部活へと急ぎ、何人かは僕と同じようにどうしようか迷っている。
 迷っている人たちの中に親しいってほどの顔はなく、梓川さんもさっき何人かの女子とともにどこかへ行ってしまった。
 寂しいなあ……どうにも取り残された気分だ。仕方ない、そこら辺をふらふらしてみよう。
 というわけで、本拠地2−Aの教室から出てみる。すると、廊下はすでに楽しそうな喧騒に包まれていた。割と人も多い。昼休みのような雰囲気だ。
 ドアひとつはさんでこんなに違うとは。まあ、今日明日は2日間まるまる休み時間みたいなもんだからなあ。
 文化祭のパンフレットを眺めてみる。手近なところで気になるのは……よし、報道部の展示にいってみよう。上諏訪委員長が部長を勤める報道部の発行物は、毎回いろんなことが書かれていて、何かと面白い。なんでも、他校の新聞部ともネットワークがあるらしい。去年はそのネットワークを生かして「他校の生徒から見た志乃上高校文化祭」というテーマの冊子を発行していた。
「えっと、あっちか」
 とまあ、文化系で一番活発なんじゃないかと思われる報道部。それでも部員はちょっと少なめだそうだから不思議だ。
『おいでませ報道部』
 周りを正体不明の生物に彩られた、小さめの呼び込みの文字。いったいどういうセンスなのか。まあいいや。とりあえず中に入ってみよう。
 開かれたドアから教室の中を覗いてみると、壁一面に大きな紙。壁新聞というやつだ。
 なになに……
『教頭先生って何やってるの?』
『志乃上高校通学事情』
『学食、まさかの値上げ 〜生徒会抗議・秋闘へ〜』
 うーん、なかなかに興味深いことばかりだ。
 特に学食。大多数の生徒が利用してるから、たかが20円とはいえ大きな問題なんだろう。生徒会が動くぐらいだからなあ……とはいえ、弁当派の僕にとってはあまり関係ないけど。しかし、2学期に突然値上げっていうのも無茶な話だ。
 いつもの冊子も置いてある。文化祭特別号と銘打たれたそれは、どうやら天気と文化祭の相関関係についていろんな角度で調べられたものらしい。中をぱらぱらとめくってみると、なぜか台風が多かった年には文化祭の人出も多かったという統計が出ているそうだ。着眼点が面白いなあ。また家でゆっくり見よう。
 壁新聞もなかなかだ。通学事情。やっぱり電車を使う生徒が多いようだ。でも意外に自転車通学も多いみたいで、自転車置き場の拡張案なんかが出ている。
 と、なんとなく大きな字で書かれた記事を見ていると、5人くらいの女子が報道部の展示教室に入ってきた。
 何の気なしにそちらを向くと、見知った顔が。
「あれ? 水瀬さん」
 梓川さんだった。ちょっと驚いた顔をしている。
「あずっちゃん、どしたの? あ、水瀬君」
 横から顔を出したのは、去年同じクラスだった……えーっと、なんて名前だっけ。
「えっ佐倉さん、水瀬さんと知り合いだったの?」
 そう、佐倉だ佐倉。梓川さんのお陰で助かった。
「去年同じクラスだったんだよ、佐倉と」
「そうそう。って、なんであずっちゃんと水瀬君知り合いなの? 同じ班?」
 そうだよ、と説明しようとしたところで、他の女子が佐倉を引き止める。
「だめだよさくっち。ヤボなこと聞いちゃ!」
 ヤボなこと……?
 それを聞いた佐倉、何やら合点がいった様子で声をかけた女子に向かって大きくうなずく。
「ああ、そういうことなんだ……」
 その女子も「そうそう」とか言いながらうなずきあっている。なんなんだ?
 佐倉は梓川さんの肩をぐいぐい押してくる。
「えっ、ちょ、ちょっと佐倉さん?」
「ごめんね、あずっちゃん、水瀬君!」
 なんだかわからないところで話が進んでいる。梓川さんも何が何なのかよくわかっていない様子。対照的に女子のグループはなにやら楽しそうである。
「じゃあ、私たちは他行くから、あずっちゃんと水瀬君は二人でごゆるりとお周りくださいな。じゃあねっ」
 そういうと佐倉と他の女子は、そそくさと教室から出て行ってしまった。
「なんだったんだ……?」
「なんだったんでしょう……」
 起こっていることに頭が追いつかず、呆然と顔を見合わせる僕と梓川さん。
「どうしよう?」
「どうしましょう?」
 だめだ、埒があかない。
「梓川さん、どこか見に行きたいところとかある?」
「あ、えっと……」
 パンフレットをぺらぺらとめくりだす梓川さん。ふとまた、横にある壁新聞に目を向ける。
『注目度No.1! 2年の2クラス、女装男装で文化祭』
 ……見るんじゃなかった。
「あ、ここ行きませんか」
 そういって差し出されたパンフレットのページ。
『喫茶・軽食「羽」』
 うちのクラスだった。
「梓川さん……」
「一度くらい行ってみたいと思いませんか?」
 楽しそうに言う梓川さん。
 ……確かに、見てみたい。
「じゃあ、忙しそうじゃなかったら」
 混んでるなら、さすがに遠慮しなきゃな。
「そうですね。行ってみましょう」
 というわけで、報道部の展示を後にする僕たち。
「そういえばなんで報道部に?」
 見たところC組女子のグループだったけど。
「え、佐倉さんが報道部だから……」
 自分で連れてきてどこかに行ってしまったわけか。
「展示、また明日見に行きます」
 苦笑いの梓川さん。あ、展示といえば……
「そういえば、美術部の展示ってどこだっけ。美術室?」
「え、はい、そうですけど……見に行きますか?」
 梓川さんの描いたあの絵、1ヶ月ぶりの再会ってわけか……
 でも、もううちのクラスの近くまで来ちゃってるしなあ。
「明日にするよ。楽しみには取っておかないと」
「そうですか。なんだか恥ずかしい……」
 描いてるところまで見られているけど、やっぱり恥ずかしいものなんだな。
「あ、私、明日の午後から美術部の留守番なんで、よかったらそのとき見に来て下さい」
 明日の午後か……いい感じに時間が空きそうだ。
「うん、そうするよ」
 梓川さんの描いた絵、いい雰囲気で好きなんだよね。
 ああいうの、僕も描きたいな。
「絵か……最近ちょっと描いてみたいなって思うんだけど」
 って言っても、あまり機会に恵まれないんだけど。
「そうなんですか? じゃあ描きましょうよ」
 積極的に勧めてくる梓川さん。
「どうにも機会がなくて。ほら、最近忙しかったでしょ」
「あ……確かにそうですね」
 すると梓川さん、少し考えて……
「じゃあ、暇が出来たら二人でどこかスケッチに行きませんか?」
「えっ?」
 どしたんだろ。今日の梓川さんは一味違うな。
「瀬良にちょっと大きい公園があるんですけど、そこなんかどうでしょう」
 瀬良ってことは、確か梓川さんの最寄り駅。志乃上から3つ目の駅だったような覚えがある。
「公園かあ。いいかもね」
 そう言うとぱっと表情が明るくなる梓川さん。
「じゃあ、約束ですよ」
「うん、わかった」
 梓川さんから誘ってくるなんて意外だな。でも、たまにはいいかもしれない。
 そんな話をしてるうちに、うちのクラスの本拠地に到着。一応断っておくけど、これは決して冷やかしとかそんなのではなく、自分のクラスを客観的に見つめて……
「いらっしゃいませぇ……げっ、圭! 梓川!」
 にこやかな笑顔があっという間に引きつる。そんな長身長髪の女性は陽一郎。長沼母のスカートをはき、エプロンを着けたその姿は、意外なことにさほど恐怖を感じさせない。
「何しに来たんだよ……」
 相変わらず顔は引きつったまま。
「いや、お客さんで来たんだけど……混んでるの?」
「ほれ、この通り」
 といって陽一郎が中を指す。
 ……満席。
「ずいぶんと盛況だね……」
「どうも部活関係が多いみたいだ。名指しで呼ばれて写真撮られてた」
 写真……なんて恐ろしいんだ……
 とか思っている矢先、カメラのフラッシュらしき光が。
「うわ……」
「……なっ?」
 苦笑する陽一郎。きっともう何枚か撮られたんだろう。
「あと、先生な。俺らの学年に対しては異様な客寄せになってる」
 もう一度中を見てみると、とんでもないものが目の前を横切っていった。
 チャイナ服を着た染草先生だった。
「あれは……」
 予想だにしない光景に、言葉が出てこない。
「ミイラ取りがミイラになるって、ああいうことを言うんだな……」
 本当に予想以上のお客さんだ。これはのんきに梓川さんと食事なんてできないな。
「別のところに行きましょうか、水瀬さん」
「そうだね……」
 こんな状況だ。仕方ない。
「ああ、4班少し早めに集合にしてくれってさ。昼頃はどうなるかまったくわからないしな。あと、化粧するらしいし」
 化粧!? 初耳なんだけど……
 言われてみれば陽一郎もほんのりと薄化粧……
「化粧って……」
「まあ、軽くだ。氷川先生がちょっと豹変するかもしれないが……」
 ……妙に気になる陽一郎の表情。まあその時になればわかるだろう。
 またお客さんが来たので、とりあえずその場を離れることにした僕と梓川さん。廊下を歩きながら、次の目的地を探す。
「どうしようか……梓川さん、どこか行きたい所ってある?」
「えっと……そうですね、つぐみちゃんのところに行ってみましょうか」
 つぐみちゃんのところかぁ……
「つぐみちゃんのクラスって何やってるの?」
「えっと……」
 パンフレットでつぐみちゃんのクラスを探す梓川さん。
 ちょっと手間取っているみたいなので、なんとなく周りを見渡してみる。
「ねえ、次どこ行く?」
「どこでもいい。疲れた」
「なーに言ってんのよ! ほらほら、行こ!」
 仲のよさそうなカップルだ……
「暑いね」
「そうだね。じゃあ何か飲みに行こうか」
「もちろんあなたの奢りで」
「ひどい……」
 さらに二組目。
 よく見れば三組目、四組目までいる……
 見渡してみて初めて気付いた。結構カップルが多い。
 あっちにも、こっちにも。
 ……なんとなく肩身が狭い。
「……ありました! えっと、新館1階みたいですね」
「じゃあ、早く行こうっ」
「え、ちょ、ちょっと、水瀬さん!?」
 いづらさ最高潮。我慢できずに梓川さんの手を引いて……と、視界の端に『廊下は走ってはいけません』との張り紙が。素直に従って、早足で歩き出す。
 あの空間を脱出し、渡り廊下に差し掛かる。カップルどころか、人通りがほとんどなくなった。校舎の中と外ではすごい差だ。
「あの、水瀬さん」
「梓川さん、1階のどこだっけ?」
「いえ、そうじゃなくて、その……」
 視線を落とす梓川さん。その先には……固く握られた手。その手の主は、梓川さんと僕……えっと。
「あ、ご、ごめん!」
「いえ、その、いいんです!」
 目を伏せたまま赤面する梓川さん。ま、まずい。なにかフォローを……
「勢いとはいえ、その、ごめん。えっと、ほら、前にも握ったことあったし、2度あることは3度あるというか……」
 フォローになってない!
 心の中で自分に思いっきり突っ込む。
 こんなとき早香がいれば冷静に突っ込んでくれてうやむやのままに終わるのに……
 幸い渡り廊下、人通りはあまりないのが救い。
「えっと、その……ごめんね、梓川さん……」
 相変わらずの梓川さん。
「いえ、いいんです……その、あの、水瀬さん……」
 そう言うと、顔を上げ僕の顔をじっと見つめてくる梓川さん。
「な、なに、梓川さん?」
 いつもと少し違う、何か強い意志を感じさせる。
「あ、あの……」
 少しの間。言うべきか、言わざるべきか迷っているようにも見えるけど……
「……あ、つぐみちゃん」
 と、いきなり後ろを指差す梓川さん。
 腰の力がへにょっと抜ける。
「だめですよぉ、せーっかく水瀬先輩を驚かそうと思ったのにぃ……あれぇ? どーしたんですかぁ、水瀬先輩、座り込んじゃってぇ」
「い、いや、ちょっとね……」
 苦笑して梓川さんを見上げる。
 笑っているかと思いきや、なんだかよくわからない寂しそうな顔をしている。
「梓川さん?」
「あ、え? あ、だめですよ、そんなところに座っちゃ」
 はっとしたように、いつもの梓川さんに戻る。
 えっと……
「そーですよぉ。そんなところに座ってないで、つぐみのクラスに来て下さあい。ほら、梓川先輩も!」
 言いながら、梓川さんを引っ張っていこうとするつぐみちゃん。
「きゃ、ちょ、ちょっとつぐみちゃん、待って」
「きゃはは!」
 ……あー、行ってしまった。
 って、見送っている場合じゃない。早く追いかけよう。
「水瀬せんぱぁい、こっちですよー!」
 と、つぐみちゃんが手を振っているのは、新館1階の一番手前の教室。近い。
 渡り廊下のすぐ横だ。
『ようこそ! よりりん工房へ』
 大きめの木の板に、達筆な字で書かれた字。さらに周りには細かい細工が施してある。またまた味のある看板だ。
 それにしても、よりりんって何だ……?
 とりあえず、教室内に入ってみる。
「へー……」
 僕を出迎えたのは、机に飾られたいくつもの木彫り細工。形もいろいろ。大きさも大きいのから小さいものまで様々だ。でも、どれもかなり凝った細工がしてあることに変わりはない。
 どうやらつぐみちゃんのクラスはこれの展示みたいだ。
「水瀬さん」
 梓川さんだ。手に木彫り細工を持っている。
「梓川さん、それなに?」
「えっと、これはつぐみちゃんの作った……」
「たいやきですぅ!」
 た、たいやき……なるほど、ただの魚かと思ったけど、確かにたいやきだ。
「へぇ、なかなかやるね、つぐみちゃん」
「えっへん。自信作ですぅ」
 両面ともに細かいところまで手を抜いていない。さらにきれいに紙やすりで磨いたんだろう、表面はすごくなめらかだ。
「他の人のも見せてもらっていいかな?」
「どーぞどーぞですぅ。よりりん直伝の木彫り細工ですぅ」
 よりりん……誰だろう?
 梓川さんも同じ疑問を抱いたようで、つぐみちゃんに質問する。
「『よりりん』って誰なの、つぐみちゃん」
 注目の答えは……
「えっとですね、担任の雲浦依子先生のことですぅ」
 雲浦先生か……学年が違うからあんまり知らないや。
 しかし、木彫り細工の得意な先生がいるとは初耳だな。
「教え方もとっても上手なんですよぉ」
 と言うつぐみちゃんの言葉の通り、展示されているものの出来はかなりいいものばかりだ。売り物にしてもいいかもしれない。
 この『根性』と書かれたタワーのようなものはまずいかもしれないけど。
「つぐみちゃん、これ作るのにどのくらい時間かかったの?」
 少し気になったことを聞いてみる。
「えっとですねえ、1学期のホームルームと美術の時間を使ったんですぅ」
 それはまた大変な……
「でもでも、私たちがこれ1つ作ってる間にぃ、よりりんは6つも作っちゃうんですよお!」
 速い!
「へえ、で、その先生が作ったのはどれなの?」
「えっと、あそこに飾ってあるのとお、外の看板ですう」
 あの看板も先生作だったのか……
 そして飾られているものはというと、
「……イノシシ?」
 見事なイノシシ。
「でも、なんでイノシシなの?」
「よりりんの出身大学にいっぱい出没するんだそうですよお」
 イノシシの出る大学って……
 なかなか謎な先生だ。会ってみたいなと思って聞いてみたけど、どうやら外出中みたいだった。
 少し残念に思いながらも、他の生徒の作った木彫り細工を見ていると、いつの間にやら交代の時間に近づきつつあった。元気なつぐみちゃんに別れを告げて、僕らは自分たちのクラスの本拠地、2−Aの教室へと向かう。
「頑張りましょうね、水瀬さん」
「うん、そうだね」
 女装しなきゃならないんだけどね……
 戻る道中、他の生徒たちのにぎやかな声が終始聞こえてきた。
 いかにも文化祭、お祭りといったこの騒がしさ。
 その声は、僕らのクラスについても途切れることはなかった。
「圭、恭ちゃん、最初は接客ね」
 帰ってきた僕らに開口一番、早香が仕事の分担表を見せる。
 いきなり接客かあ……
 1時間程度で裏方に回るらしいけど、恥ずかしいなあ。
「まあ、ぼちぼち頑張ろうぜ、水瀬。少年老いやすく、学成り難しだ」
 諦めを通り越して悟りに入っている佐久間。しかし言ってることは意味不明だ。一緒に接客なんだが、大丈夫なんだろうか。
 とそこへ、氷川先生が手にいくつかの布のようなものを持って現れた。
「はい、エプロン。あと、男子二人、ちょっと来てくれるかな」
 一通りエプロンを渡し終わった後、教室の一角、カーテンで仕切られた隔離されたようなスペースの前で、氷川先生が手招きしている。
「……水瀬、なんだと思う?」
「……大体予想はつく」
 そう、午前中のグループの雄姿(?)を見てしまったのだから。
「うふふ……早く始めましょ」
 違う……いつもの氷川先生じゃない!
 佐久間も言い得ぬ違和感を悟ったか、一歩後ずさりする。
 しかし、氷川先生の間合いを詰める速度は、それをはるかに凌駕していた。
 がしっと佐久間の肩をつかむ。
「まずは、このカチューシャで髪上げて……そう。じゃ、始めるわよ!」
 その後は、何が起こったのか良くわからない。ただただ嬉しそうな氷川先生と、顔に感じる妙な感触だけが強く印象に残っている。
 鏡がないのが余計に心細くさせる。
 そして……
「じゃ、お仕事頑張ってねー」
 すっかり満足した様子の氷川先生。
「……いくか……」
 すっかり憔悴しきった様子の佐久間。もちろんメイクアップ済みだ。
 店番する前から疲れててどうするんだか。
 そうしてとうとう、今年の文化祭注目度ナンバー1(報道部調べ)である模擬店の、最大のウリである接客をすることになってしまった。
 あー、何事もなく終わればいいけど。

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