いつか見た君に         

                      〜picture of heart〜



 若葉と見に行った演劇は、なかなか面白かった。例年文化祭では舞台をやるグループは多い。でもやっぱりクラブ活動でやっている人たちは違う。普段から練習しているから当たり前なんだろうけど……役者は二人だけだったけど、演劇部の存在をアピールするには十分だったように思う。

 第19話・オレンジ色に包まれて

「面白かったー」
「そうだな」
 大満足の若葉。
 体育館にはかなりの人が集まっていた。
 文化祭の間の体育館では、朝から夕方まで何かしらの催しがあるみたいで、人波が途切れることはない。今日も例外ではなかったみたいだ。
「でもちょっと暑かったね」
 若葉の言う通り、体育館の気温は高めだった。外に出たときに涼しいと思ったほどだ。空調は、多分ない。窓は全開だったみたいだけど、カーテンを閉めていたものも多かったので、風通しはよくなかった。
「何か飲むか?」
「うーん、平気」
 それにしても天気がいい。
 散歩がてらに覗きに来たであろう、学校の近所に住んでいると思われる人もちらほらいる。制服姿も何人か見かけたけど、うちの高校は私服だから、どこか別の学校からの招待客かなんかだろう。
 体育会系はさることながら、文化系でも他校と交流している部活は意外と多い。報道部はその典型で、近隣の高校同士で仲が良いらしい。たまにゲストで他校の生徒が記事を書いている場合もあるぐらいだ。
 さっき見た演劇部も同様で、役者二人こそうちの学校の生徒だったけど、公演案内のスタッフのところを見ると、照明や音響は他校の演劇部からのお手伝いだと書いてあった。
「お兄ちゃん、次どうしよっか……」
「パンフ見てみたら?」
 うーん……とうなりながらパンフレットをぺらぺらめくっていく若葉。
「桜ちゃんたちもどこ行ったかわからないしな……」
「そうだね。じゃあ、梓川さんがいる……美術部だっけ?」
 美術部かあ……午後からって言ってたけど、まあちょうどいい時間。
「行ってみるか」
「うん」
 目をつぶると危ないけれど、頭の中にすっかり地図がある僕。
 パンフレットの地図を見ながらでないと行けない若葉。
 僕が先に歩くのは自然なことなんだけど……
「お兄ちゃん、待ってよー」
 人ごみに埋もれる若葉。
 なんとなく、若葉が梓川さんたちとはぐれた理由がわかったような気がする。
「もう、待ってって言ったのに」
 校舎の出口で待っていてやったら、ふくれられた。
「通路で止まっても邪魔だろ」
 今日は廊下の許容量を越えた人数が行き来しているし。
「うー……」
 相変わらず若葉は不服そうだった。
 まあ、そんなこんなで芸術棟3階。美術室である。袋小路であるためか、それほど人の姿はない。
 窓から運動場を見てみると、サッカー部の招待試合が始まろうとしていた。確か相手はどこだかの私立の高校。高階が出てるはずなんだけど……3階からではわからない。
「どうしたの、お兄ちゃん」
「いや、別に。入ろうか」
 美術室の戸は開いていた。中に入ってみると、受付と書かれた紙が貼られた机には誰もいなかった。
 壁に展示されたもの、イーゼルに立てられているもの……美術部の生徒の作品たちだけが静かに展示されている。
「誰もいないのかな……?」
 首をかしげる若葉。
「……なんか奥から声が聞こえるぞ」
 話し声みたいだけど……梓川さんと桜ちゃんたちかな?
 声のするほうに近付いて行く若葉と僕。どうやら準備室から聞こえてくるみたいだ。
 美術室と美術準備室は隣り合っているけれど、廊下を経由せずに行き来できるように、直接つながった構造をしている。下の音楽室や書道教室も同じ構造だ。
 そっと準備室の扉を開けて、覗いてみる。
 思った通り、3つの似た後ろ姿と1つの見慣れた後ろ姿を見つけた。
「なにやってるの?」
 店番(?)もせずにこんなところで。
「あ、水瀬さん」
 振り向く梓川さんにつられて、三姉妹もいっせいに振り返る。
 完全に同じタイミングだったから、ちょっと怖かった。
「これ見せてもらってたの」
 そう言って桜ちゃんが指差す先には、見覚えのある一枚の水彩画。
「これって……染草先生の?」
「そうですよ」
 僕らの使っている机4枚分ぐらいの大きさのそれは、いつぞや染草先生が描いたものだった。染草先生も一応美術部顧問だもんなあ。
「きれいですね……」
 椿ちゃんが感嘆している。
 春頃だろうか……青い海の絵。聞いたところによると、染草先生の家の近くだそうだ。こんなにきれいな景色が見えるところに住んでいるなんて、羨ましい。
「この雲なんてすごく上手いですよね……」
 梓川さんが指す雲は、太陽の光に照らされて白い色のはっきりとした、でも水彩画独特の柔らかさに包まれていて、風景に溶け込んでいる。
「でも……店番さぼってていいの?」
「あっ!」
 思い出したといわんばかりの梓川さん。
「すっかり忘れてました……あまり人も来ないみたいだし、桜ちゃんたちにもこれ見せてあげたかったんです」
 なるほどね……
 しかし染草先生も、いつまでこの絵を置いてるつもりなんだろう。確か僕が見たのって、去年の夏だったような覚えがあるんだけど……
 多分持って帰るのが面倒なんだろう。大きい絵だから労力もいるだろうし。先生は電車通勤らしいから大変そうだ。
「梓川さんが描いたのって、どれなんですか?」
 早く見たいといった様子の若葉。
「若葉ちゃん、連れて行ってあげる!」
 おそらく先に見たんだろう。桜ちゃんが若葉の手を引いて美術室に入っていく。
「あ、姉さん待って!」
 続いて椿ちゃんと梢ちゃんも準備室を出ていく。
 残されたのは僕と梓川さん。
「……にぎやかだね」
「本当ですね」
 ふふっと微笑む梓川さん。
 浸りっきりになれたのが、なんだか久しぶりのような気がする。
「午前中はずっと三姉妹と?」
「ええ、学校中を案内してたんですよ」
 仲良しだなあ……まあ、たまにしか会わないわけだし、お互いいろいろと話もしたかっただろうし。一方こちらは毎日顔を合わせている妹と見て回ってたわけだけど。
 若葉がはぐれたことについて、少しだけ心配していた様子だったけど、割とすぐにうちの教室にたどり着いたみたいだと知って安心していた。まあ、もともと人ごみを歩くのは上手ではなかったし、この学校は慣れてなかったこともあるだろうな。
「そういえば水瀬さん、お焚き上げ参加するんですか?」
 ふと思い出したように、梓川さんがたずねてきた。
 お焚き上げというのは、後夜祭のメインイベントのことで、この文化祭で出た燃えるごみや、もう使わない飾りつけなんかと一緒に、これまでに悪かったテストも燃やして供養してしまおうと言う企画のことだ。
「うん、期末テストでちょっと悪いのがあったから……」
「私もありますよ。しっかり供養します」
 去年見たけれど、お焚き上げにはかなりの数の生徒が参加していた。
 前夜祭が生徒会と先生の一部でこっそりと行われるのに対して、この後夜祭は全校挙げてのイベント。さらに不幸な思い出(または不利な証拠)を灰にできるということで、かなり盛大に行われる。
「お兄ちゃん、どうしたの? 見ないの?」
 扉からひょっこり顔を出す若葉。
「いや、今行くよ」
 妹たちに急かされて、梓川さんの絵のところまで歩いていく。
 後ろには、恥ずかしそうな、嬉しそうな梓川さん。
 そして改めてみたその絵は、ちょっと前の姿そのままに、美術室のちょっと奥に展示されていた。
「うーん、さすが」
 水彩画独特の淡い色は、梓川さん自身の優しさを表しているみたいだ。
「あっちのほうかな……?」
 若葉が指差す方角は、梓川さんの描いた、図書室から見える風景のものと同じだった。
「あたり。といっても、校舎も違うし、もう一つ上の階なんだけどね」
「図書室だね」
 絵の端に見える本棚。そこに立てられた本一冊一冊も丁寧に描かれている。
「お姉ちゃん、絵上手いね……」
「いつ描いたんですか?」
「……時間、かかりましたか?」
 一斉にしゃべりだす妹たちに、梓川さんもちょっと困惑気味。
 早香の絵はどこなのかと僕が聞いてみると、見たい見たいとまたにぎやかになる。その早香の絵はというと、この美術室から見た風景……目の前の窓からの情景が、そのままキャンバスに写っていた。さすが副部長。大きく描かれた空、かと思えば細やかに描き込まれた地上の対比が、なんとも早香らしい印象を与える。
 そんな感じでにぎやかにしていたけれど、しばらくしてお客さんが入ってきた。
 さすがの妹たちも静かになる。
「じゃあお兄ちゃん、ちょっと遊んでくるね」
 騒げないことに我慢できなくなったのか、騒がしい妹たちは美術室から出て行った。
「にぎやかでいいですね」
「いいかなあ……」
 場所によると思うけど。
「それに、にぎやかなのは主に若葉と桜ちゃんなんだけどね」
 一応受験生コンビなんだけどなあ。
「ふふっ、そうですね」
 珍しく椿ちゃんもはしゃいでいたようにも見えたけど、それ以上に桜ちゃんと若葉の3年生コンビが大はしゃぎだった。
 ふと気付くと、梓川さんと二人きり。
「そういえば、二人だけって久しぶりだね」
「そうですね……」
 校内の喧騒も、この美術室ではどこか遠くに聞こえる。
 店番用の机は一つしかなかったので、もう一つを準備室から出してきて、それに座る。
「今年の文化祭は忙しかったなあ。あんまり見て回った覚えがないや」
 つぐみちゃんのところと、ここぐらいだ。
「そうなんですか? 私は桜ちゃんたちといろいろ回ってましたけど」
「そうそう、朝あの後さ、人が足りないからって手伝わされてたんだ」
 それを聞いて、驚いた様子の梓川さん。
「えっ、そうだったんですか?」
 梓川さんの話によると、待っていようという椿ちゃんと梓川さんを、強硬派の桜ちゃんと若葉が無理やり連れて行ったんだそうだ。
「まあ、そんなことだろうとは思ったけど……」
「すみません。でも楽しかったですよ」
 こっちもまあ、楽しくなかったわけじゃないけど。
 雑談する余裕もあったし。
『お前ら付き合ってんの?』
 唐突に高階の言葉が思い出される。
『そう思ってる奴はこっちにもあっちにも沢山いるぜ』
 ……客観的に今の状況をみると、やっぱりそう映るんだろうか。
「どうかしたんですか?」
「ううん。のんびりしてるなあって思って」
 まあ、そんなことはどうでもいいや。
 ポカポカと暖かい午後の陽気。このまま昼寝したら、どれだけ気持ちいいだろう。
 とりあえず、そんな陽気の中で梓川さんと二人のんびりしている。それでいいや。
 美術部の人には悪いけど、人があまり来ない場所で良かった……なんて思ってみる。ここだけ文化祭と切り離されたような、そんな錯覚すら覚える。
 外のざわめきも、なんだかさっきよりも小さくなったように思えて……
 そして……
「……水瀬さん」
 梓川さんの声が聞こえた。
「水瀬さんっ」
「……うん?」
「起きてください」
「えっ……」
 ふっと頭が現実に戻る。
 ……いつの間にか寝ていたみたいだ。
「おはようございます、水瀬さん」
 顔をあげると、微笑む梓川さんがいた。
「おはよう……って、どのくらい寝てた?」
「えっと……1時間ぐらいでしょうか」
 げげっ、そんなに。気がつけば、空の色は夕暮れ。窓から差し込む光で、梓川さんの姿も鮮やかなオレンジ色に染まっている。
「文化祭、もうすぐ終わっちゃいますよ」
「そうなんだ……」
 いろんな意味で例年にない文化祭だったな……
 もっといろんなところを見て回りたかった気もするけど、それは来年でいいや。自分のところの出し物を精一杯やれるのって、2年までだと思うし。
「梓川さん、ずっと番だったの?」
「いえ、途中で交代の子が来たんですけど……水瀬さんがよく眠っていたから」
 起こしてくれても良かったのに……まあ、起こされずにそのまま交代されるよりはいいか。起きてみたら目の前に知らない子なんて、心臓に悪すぎる。
「悪いことしたなあ……」
「そんなことないですよ。水瀬さんの寝顔も見れましたし」
 ふふっと笑う梓川さん。夕焼けの色に染まったその姿は、いつもに増して優しく見えた。
「恥ずかしい……でもまあ、前に梓川さんの寝顔見たことあるから、おあいこか」
「ええっ、そんなことありましたっけ?」
 口に手をあてて驚く。まさか忘れているとは思わなかった……
「初めて家に来たときに。しっかりと」
「あっ、そういえば……」
 恥ずかしがってか、下を向いてしまった梓川さん。
「あの時立ったままで寝てたけど、たまにあるの?」
「えっと……はい」
 相変わらす恥ずかしそうに、梓川さんは答えた。
「ものすごく眠いときは……」
 それはすごい。でも危ないなあ……
「もちろん安心できるところだけですよ」
 ちょうど付け加えられた。
「あの時は、多分水瀬さんが……」
「本日は、ご来場ありがとうございました。只今をもちまして……」
 梓川さんの言葉の途中で、文化祭終了の放送がかかった。
「「あ……」」
 二人して、同時に声をあげる。
 そして、お互い顔を見合わせると、
「ふふっ……」
「あははっ……」
 今度は一緒に笑いだした。
 そんな時、入り口が開いて、誰かがやってきた。
「あれ、圭?」
 早香だ。
「なにやってるの、2人で?」
「いや、のんびりと」
 寝てました。
 早香は梓川さんに、教室へ集合することを伝えに来たんだそうだ。もちろん、僕も教室に戻らなくちゃいけない。
 妹たちはといえば、なんと先に帰ってしまった。早香に言付けたそうだ。まあ、後夜祭は原則生徒だけだし、終わるまで待ってもらうわけにもいけないし……
 教室までの廊下は祭りの後の満足感と、言い表しにくい寂しさみたいなものがごっちゃになっているような、そんな感じだった。
 みんなごみを片付けたり、後夜祭で燃やす飾りつけを外したりしている。
 教室に帰ると、先生から簡単な慰労の言葉と後夜祭について二言三言あっただけで、すぐに片付けへと移った。
「うちってあんまり燃やすものないのね」
 早香が感心したように言う。
「そうだね」
 そう、意外というかなんというか、そこまで装飾に力を入れていなかったので、後夜祭で燃やされるものは主にごみ。
 今回、うちのクラスから出たごみの大半である生ごみは燃やせない(堆肥にするらしい)ので、残ったのは他のクラスに比べてかなり少ない。なんともエコロジカルなクラスだ。
 そんなこんなで今日の分の片付けもあっさり終わり、グラウンドへと歩いていく途中に、後夜祭の準備ができたという放送がかかった。
 風が強いと中止になるというこの後夜祭。幸いなことに、ここ5年ほどそれはないらしい。今日も無風だ。
 おのおの、適当な場所に座っていく。
 僕らはいつも通りの4人。僕と梓川さん、早香、陽一郎。
 見上げた空は、もう日が落ちていて薄暗くなり始めている。
「只今より、後夜祭を始めます」
 放送がかかる。聞き覚えがあると思ったら、高階の声だった。
 その放送を合図に、三つの組み木に火がつけられた。
 僕ら2年の火は、真ん中で燃えているやつだ。
「それでは、各自お焚き上げを開始してください」
 初めに燃やすのは、文化祭で使った飾りつけ。
 1年生は、記念にと文化祭で使った飾りを持って帰る人も少なくない。
 2年になると、あまり頓着しなくなるので、燃やす量が増える。
 3年になってしまうと、文化祭に本気で取り組むわけではないので、燃やす量はまた減る。
 必然的に、2年の火が一番立派になるわけだ。
 クラスで適当に選ばれた燃やし係りが、どんどん火に放り込む。
「今年は少ないですよね」
 淡いオレンジに照らされる、梓川さんの顔。
「そうだね。2クラス合同の割に」
 多分僕もそうなんだろう。
 これから後は、特に指示はない。適当なときに適当にテストを燃やしに行くだけだ。
 この段階になると、3年生の炎が一番激しくなる。定期テストの他にも、模擬試験の結果なんかがどんどん火にくべられるからだ。
「今年も終わったって感じよねえ……」
「ああ、全く疲れたぜ……」
 ほうっと同時に息を吐く幼なじみ二人。
 二人ともハードだったもんなあ……陽一郎はたこ焼きを焼き続けていたし、早香は美術部の副部長だし。
 何より、いつもと全然違う服装だったわけだし。おまけに化粧なんかやったりして。
 ……思い出しただけで疲れてきた。
 しばらく炎を見ていると、陽一郎が立ち上がった。
「そろそろ行くか」
「そうね」
 早香も立ち上がる。
「圭、梓川、どうする?」
 オレンジ色に照らされた陽一郎が聞いてくる。
 梓川さんと顔を合わせ、互いにうなずく。
「僕らも行くよ」
 二人して立ち上がる。
 軽くズボンをはたくと、荷物からそれぞれの燃やすもの……まあ、悪かったテストなんだけど、それを取り出して4人ぞろぞろと炎へと向かっていく。
 近付いてみると、今年の火はちょっと大きい。僕の身長よりも少し大きいぐらいだ。
「んじゃ、俺から」
 そう言うと陽一郎は、3センチはあろう紙の束を、炎の中へと投げ込んだ。
「次は私」
 早香のそれは陽一郎のよりも少ない。投げ入れられた紙は、見る見るうちに燃え上がる。
「じゃあ……私からいいですか?」
 僕に問う梓川さん。うなずいて促す。
 意外なことに梓川さんの供養する量は多めだった。
「それじゃ、最後に……」
 炎に近付いてみて分かったけど、かなり熱い。
 よろしくなかった模擬テストの結果と期末テストを、ばらばらにならないよう、軽く握りつぶしてまとめる。
 そして、
「よっ……・」
 投入成功。
 あっという間に火に包まれる僕の学力。
 それを確認すると、一息ついて元の場所に戻る。
 その途中で、陽一郎がつぶやいた。
「圭も大変だよなあ」
「なんで?」
「いや、この4人の中で本格的に受験するの、お前だけだろ」
 ここからだと、陽一郎の表情は見えない。
「そう……かな?」
 元の場所に戻ってきた。4人揃って腰をおろす。
「水瀬さん、どこ受けるんですか?」
 またも隣に座った梓川さんが聞いてくる。
「まだ決まってないけど……」
 とりあえず、今現在の第一志望である国立大学の名前を出してみると、
「すごいですね……」
 しきりに感心する梓川さん。
「いや、まだ決めたわけじゃないってば」
 正直な話、今の成績のままじゃ、辛い。2年のあいだの第一志望なんて、『あわよくば』とか、『もしかしたら』とかそういう位置付けなんじゃないだろうか。
 燃え盛る3年の炎。
 先輩たちはもう本気で取り組んでるんだろうな……だからこそ燃える量も多い。
「さやちゃんはどうするの?」
「あたし? あたしは適当に短大でも行くわ」
「働くの?」
「うん、そんなとこ。早く自立したいし」
 前々から早香が言っていたことだった。長沼母が立派に働いているから、それにあこがれたんだろうか。
「そうなんだ……すごいね」
 感心しきりの梓川さん。
「あたしから見れば、勉強しようっていうあんたたちの方がよっぽどすごいわよ」
 その言葉から察するに、梓川さんも進学するんだろう。
 ひとしきり話し終えた後、少しだけ静かになる僕ら。広いグラウンドから見れば、決して大きくない炎。
 それを囲む、この学校のほとんどの生徒。
 みんながほんのりとオレンジ色に照らされて、じっと炎を見ていたり、ふざけあったりしている。
「さて……帰るか」
 そう言って陽一郎が立ち上がる。ちなみに後夜祭はいつ帰ってもいい。
「ん、そうだね」
 先に帰った妹達が待っている……はず。
「どうせまた、明日片付けなのよね……」
「でもその後って暇かもしれないよ?」
 早香と梓川さんも立って砂を払う。
「じゃあ、4人で遊びに行きましょっか」
 人差し指を立てて、早香が提案する。
「お、いいな、それ」
「どうせすることもないしね」
 あっさり承諾の男二人。
「お疲れ会ってことで……ね、梓川さん」
 そう聞いてみると……
「はいっ」
 思ったとおりの返事が、いつもに増していい笑顔で返ってきた。

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