いつか見た君に〜picture of heart〜今僕は、満員電車の中にいる。草神で乗り換えた、急行隆山行き。ドアの窓越しには、見慣れた志乃上駅のホーム。しかし見えたのはほんの数秒の間だけ。僕の乗る急行は無常にも通過する。そう、僕の第一目的地は志乃上駅ではなく、瀬良駅。ごめんなさい……今の区間、僕は不正乗車しています。第23話・二人のカンケイ 「へぇー、圭ちゃん女の子迎えに行くんだ」 「やっぱりその子とは、イイ仲なのか?」 若葉が30分早く出る理由を話したとたん、はしゃぎだす両親。 こうなることがわかってたから、なにも言わずに行こうと思ったのに。 「ただの友達だよ……」 「嘘ばっかりー」 ……付き合ってられない。 「行ってきます」 わざと無愛想にそう言うと、靴を履いてかばんを持つ。あと、目の前のご両親が買ってきてくださったお土産の、紅茶(っぽいもの)の入った小さめの紙袋。 「いってらっしゃーい」 「今度家に連れてきなさい」 「梓川さんによろしく、お兄ちゃん」 「ほう、梓川さんというのか」 「ねえ若葉ちゃん、その子かわいいの?」 バタンッ やかましい家族はできる限り無視して、振り返りもせず玄関を閉めた。 ……ちょっと無駄に時間を消費してしまった。 急ぎ足で駅へと向かう。 朝の景色はほとんど何も変わらなくて、会社に急ぐサラリーマンの姿は30分早かろうがやっぱり見られる。だけど、中学校への登校時間には少し早いのか、懐かしい学ランやセーラー服の姿はあまり見られない。 昨日の夜に電話したとき、梓川さんは駅で待ってるって言ってたけど…… 「瀬良なんてごくたまにしか行ったことないぞ……」 とても心配だった。 で、今現在。 瀬良駅に着いたわけだが……人が多い。 さすがは急行停車駅……って、感心してる場合じゃない。どこかで待ってる梓川さんを探さないと。とりあえず改札の方へ行ってみるか…… ……改札どこだ? とりあえず案内板はないかとぐるっと見回す。 あった。えっと、出口出口……げっ、西口と東口の2つ!? あ、でも駅の真ん中にあるから階段で降りると同じ場所だ。良かった……依戸みたいに端と端だったらどうしようかと思った。 とはいえ…… 「どうしよう……」 ……迷っていても仕方ない。とりあえず下におりてみようか。 ホームから改札への広い階段は、予想通りの人の多さ。下り専用と思われる矢印の描かれた側を使っておりる。 瀬良駅は住宅地と商業地がほどほどにあるから、駅からの乗降が激しい。住宅街である依戸は乗る人が多いだけなので、それに比べると人の動きが乱雑でものすごい。 ……こんな中で梓川さん見つけられるのかな…… 西の改札と東の改札両方が見えそうな位置に来たけれど……人が多すぎてよく分からない。様子を見に行こうにも、この人の多さじゃ押し流されてしまいそうだ。 しかしこうしてみると、雑踏の音って結構うるさいんだなあ…… 加えて、電車の行き先アナウンス。外の車の音も結構聞こえてくるし、気にしたことなかったけど、朝の駅ってかなり雑音にあふれている。 右を向けば東口。左を向けば西口。今いるここは南側……ってことか。いや、別にそれがどうというわけじゃないけど。 右向き、左向き、また右を向き……時間大丈夫かな? 時計を確認してから、またきょろきょろろあたりを見回してみると…… 「水瀬さんっ!」 「うわあっ!」 耳のすぐ横から声がした。驚いて振り向いて見ると…… 「おはようございますっ」 見知った顔……梓川さんの姿があった。 「お、おはよう……びっくりした……」 「ふふっ、ごめんなさい。ほんとに来てくれるとは思いませんでしたから」 なんだか嬉しそうな梓川さん。 「あっ、電車来たみたいですよ。早く行きましょう」 「あ、うん」 ホームとアウェイの差だろうか……いつもの梓川さんと雰囲気違って見えるなあ。 一緒に階段を上りきると、ちょうどホームに電車が滑り込んでくる。梓川さんの話によると、前のほうの車両は混んでいるから、真ん中後ろよりに乗るのが良いそうだ。あまり考えたことなかったなあ、そういうのって。 乗ってみると確かに、この時間帯にしては人が少ない……ように見える。やっぱり多いんだけど、1割ぐらい空間が多い気がする。 「でも、どうして急に? 若葉ちゃんから電話あってびっくりしました」 電車が動き出してから、梓川さんが話し掛けてくる。僕らが立っているのはドアのすぐ近くで、梓川さんがドア側、僕が内側にいる。 「それが……」 事のてん末を説明する。 痴漢なんてすぐに見つかって捕まりそうなんだけどなあ…… 「あー、そうだったんですか」 「梓川さんは、どう?」 痴漢にあってたらかなりショックなんだけど…… 「私はないですよ。でも学校でたまに聞きますね」 それを聞いてほっと安心。同時に、やっぱり危険はあるんだと再認識。 「僕がいると、そんなに変わるもの?」 ゆるいカーブに差し掛かると、人の壁がこっちに少し傾いてきた。 「それはもう! 安心できます」 「そ、それは良かった」 扉に右手をついて、梓川さんを守る。うう、背中が圧迫される…… 「……志乃上まで何駅だっけ?」 「えっと……3つですね」 3つ……かなり辛いかも。 と、思っているうちに、 「笹見、笹見でございます、お降りのお客様は足元にお気をつけください」 向こう側のドアが開いて、少し車内が窮屈になる。 「……いつ聞いても鳥のササミを思い出すなあ」 「ふふっ、そうですね」 また加速し始める電車。うう、横向きの力がかかって腕が辛い…… さっきよりも密度の増した車内。この姿勢……疲れる。 うあ……梓川さんにくっついちゃうよ…… 「あ、梓川さん、どっちの改札から入ったの?」 「えっ? あ、西口ですよ。白根さんがたこ焼きを売っているのとは反対側です」 あ、そうか。そういえば陽一郎、瀬良駅前でたこ焼き売ってたんだっけ…… 「ってことは、東口の方がにぎやか?」 「そうですね……でも西口は南生が使うから朝夕だと混みますよ」 「ミナミセイ?」 聞きなれない言葉だ。 「あ、瀬良南高校の生徒ですよ。近所では南生って呼んでます」 ああ、なるほど。そういうことか。 「そういえば、若葉が瀬良南志望なんだって」 「へえ、そうなんですか。可愛い制服ですよ、瀬良南」 そうなんだ……と言ってるうちに次の駅に到着。 「もしかして、志乃上で開くのあっちなんじゃあ……」 「そうですよ」 この人の壁を突破しないといけないのか……と思ってたら少し密度が下がる。 そういえば、ここ御崎原駅も近所に高校があったんだっけ…… それにしても乗ったときとあまり変わらないわけだけど。 「降りるの苦労しそう……」 「そこまで大変じゃないですよ。ほら、私服の人結構いますよね。ほとんど同じ高校の人ですから」 いますよね……といわれても、あまり周りを見回すことができない。 再度加速する電車。う、腕が辛い…… そう思っていると、少し後ろに押される。ああ、電車が右にカーブしてるのか。少し圧迫感が和らぐのもつかの間。今度は反対方向にかなり力が。 油断していたことと、後ろの人の壁から押されて…… 「うわっ」 突っ張っていた腕がついにその負荷に耐えれなくなった。 体がガクンと動き、思わず目をつむる。 カーブそのものは短かったのか、すぐに後ろからの圧迫はゆるくなった。 ゆっくりと目をあける。 すると目の前に、梓川さんの瞳があった。 「み、水瀬さん……」 よく見るとうっすらと涙を浮かべている。 そして、次の瞬間気付いたのは、さっきまでは感じていなかった顔面にある感覚。 それに気付いたとき、梓川さんの涙の理由を理解した。すべて僕が目を閉じていた瞬間に起こっていたんだ…… つ、つまり……梓川さんと僕は同じところを接触させてしまったわけだ…… それを証明するのは…… この、おでこの痛み。 「痛かったです……」 左手で自分のおでこをおさえる梓川さん。 「ご、ごめん……」 「いえ……」 うう、じんじんしてきた。 あんなところに急カーブがあるとは、不覚。 程なくして、志乃上駅へとたどり着いた。反対側の扉が開いたため、人の壁を割って出なければならない。 「梓川さん」 「あ、はい」 僕の差し出した手を、しっかりとつかむ梓川さん。 2人か3人よけて出口へと進むと、意外にもあっさり外に出ることができた。梓川さんの言うとおり、志乃上生が多かったんだろう。 久しぶりに吸った外の空気は、車内の数倍澄んでいるような気がした。 ぎゅっと握った手を離して、梓川さんの無事を確認する。 「梓川さん、大丈夫?」 「あ、はい……」 混雑はどっちの電車も一緒か……疲れた。 「さっきは本当ごめん。痛かったでしょ」 急なカーブだったとはいえ、僕が耐えれなかったのが原因だ。 「あ、いえ、今はあまり痛くないですから……」 僕はまだちょっと痛いんだけど……気を使ってるのかな? ほっと一息ついていると、後ろから聞き覚えのある声がした。 「よお水瀬、朝っぱらからお熱いねえ」 冷やかし口調。嫌な予感がする。 「おはよう、佐久間……お熱いって何が?」 「またまた……遠目にしっかり見させてもらったぜ。前から怪しいとは思ってたがやっぱりそうだっとはなぁ……うんうん」 一人納得する佐久間。 「で、学校までは手を繋いでいかないのか?」 見たのはそれか……またうるさそうな奴に見つかってしまったな。 「うるさいなあ……そんなんじゃないってば」 「それ以外に何があるんだよ……アツアツカップルじゃねえか……っと、部活の用でちょっと先生に会わなきゃいけないんだ。じゃあな」 そう言うと佐久間は、改札の方へと早足で行ってしまった。 「……行こうか、梓川さん」 ぼーっと立っていても仕方がないので、梓川さんのほうを向く。 「あ、はい……」 今気付いたけど、梓川さん顔が赤い……? 「どうかした?」 「え……あ、その……い、行きましょうか」 誤魔化すようにして、先に行こうとする梓川さん。 佐久間が変なこと言うから…… 不正乗車の後ろめたさを感じながら、改札を出て、混雑する駅を足早に出た僕らは、例の学校への坂道をゆっくり登っていく。 さすがにこの辺りまで来ると、周りは同じ志乃上生ばかりだ。 「あ、そうだ梓川さん。いつか言ってたうちの両親のお土産持ってきたんだ」 坂の半分まで来たところで、家から持ってきた紙袋を梓川さんに差し出した。 「えっ……あ、すみませんわざわざ」 恐縮しながらそれを受け取る梓川さん。 「えっと、ちょっと見ていいですか?」 「うん、どうぞ……まだ家にあるんだけどね」 べつにわざわざ断るようなことでも…… 袋を覗き込みながら歩く梓川さん。前見てないとちょっと危ない気がする…… 「へえ……見たことありませんね」 感心したようにつぶやく梓川さん。 「ちゃんと紅茶だと良いんだけど……」 はたから聞いていると、意味不明な会話だろうな…… 「あとそれ、結構前のなんだ。一番古いのは1年ぐらい経つかなあ……」 「あ、それくらいなら大丈夫だと思いますよ。紅茶って大体2年持つらしいですから」 それを聞いて安心した。 でも普通の紅茶とは違うようにも見えるし……まだちょっと不安ではある。 「ありがとうございます、水瀬さん。母もきっと喜びます」 ……だといいんだけど。 少し雲が多めの空。最近天気がすっきりしない。 低気圧が近付いているらしいけど……明日にでも一雨降るかもしれない。 「えっと……明日も僕は瀬良駅に行った方がいいのかな?」 若葉が先走って取り付けた約束……ずっとだとは思ってないんだけど、念のために聞いてみた。すると、 「えっ?」 驚いたような顔の梓川さん。 「あ……そうですよね。大丈夫ですよ……」 そんな残念そうに言われても…… 一緒にいると安心できるって言ってたのは、本当のことだったのかな…… でもなあ、30分早く出なきゃいけないし、不正乗車だし…… 梓川さんのほうはといえば、しゅんとなってうつむき加減になってしまっている。 「……梓川さん」 ごめんなさい、駅員さん。 「よかったら、明日も一緒に行こうか……」 これからも沢山利用するので、許してください。 「……え、いいんですか?」 再度、驚いたような表情の梓川さん。 「うん、梓川さんさえよければ……」 「ありがとうございます!」 さっきまでの沈み顔はどこへやら。梓川さんは、無事にまた元気になってくれた。 梓川さんがずっとご機嫌なまま学校へと着いた。 下駄箱が少し離れているため、梓川さんとはそのままそこで別れることになった。 「じゃあ水瀬さん、また明日!」 嬉しそうにそう言う梓川さんだけど…… 朝からその挨拶は何か間違ってると思う。 でもまあ、あの笑顔を見れたからどうでもいいや。 ……あ、どこか絵を描きに誘うの忘れてた。明日も会えるからいいか…… さて、一日が終わったような気分に浸っている場合じゃない。これから長い授業があるんだ。気を引き締めないと……中間テストも近いしなあ。 下駄箱から教室前までの間、珍しく見知った顔に出会うことはなかった。けれど、教室前にもう見飽き始めた見知った顔がいた。 「あら、圭。おはよう」 「おはよう、早香」 よし、真面目な気分を維持したまま教室へ……と思いきや。 「恭ちゃんと一緒に来たらしいじゃない? ……それもらぶらぶで」 いきなり砕かれた。 「な、何を……誰がそんなこと」 「誰が言ったかなんてどうでもいいのよ……その様子だと本当なのね」 あっさりばれた。付き合いが無駄に長いだけある。 よし、ここは反撃を…… 「早香こそ、陽一郎と一緒に来たんじゃないのか?」 「ええそうよ。それがどうしたの?」 あっさり認めた!? しかも本当に一緒だったのか。 「あたし達、付き合うことにしたのよ」 え……? 「ほ、ほんとに……?」 僕のその言葉は、付き合う付き合わないに対することじゃなくて、本当に早香の口から出た言葉だとは信じられないというもので、 「ええ。だから一緒に登下校し放題ってわけ」 ……これは現実なんだろうか。なんだか夢のような気がしてきた。 こんなことがあるはずはない……早香が陽一郎と付き合ってるって公言するなんて……それにしても、以前と変わりすぎだろ……前はあんなにムキになって否定して、冷やかしがいがあったのに、自分からこんなこと言ってもらわれちゃあ…… やばい……早香と陽一郎が自他共に認める夫婦(?)となった今、僕の一方的な防戦になってしまうじゃないか…… 夢かどうか確かめようとほっぺたをつねるまでもなく、まだ残るおでこの痛みが現実であることを証明している。 「良かった……」 自分でつぶやいたものの、一体何が良かったんだ? だめだ。まともに思考できていない。良かったといえば……そうだ。白根三姉妹がこれでもう安心だね。ってそんなことは分かっていたし、うーん…… 「何が良かったのよ」 やばい、突っ込まれた。何か言わないと…… 「その……僕だって心配してたから。二人のこと」 自然に言葉が出てきた。 そうだ……そうだよな。自分で言って自分で納得。 「あ……そうね。圭が一番近くにいたもんね……」 かみ締めるようにつぶやく早香。 お……なんだか矛先を逸らすことに成功しつつあるんじゃないか? よし、そのままこの流れで会話を終わらせてしまおう。 「うん。だから安心したって意味。早香……これからしっかり陽一郎のこと見てやれよ」 「うん……ありがと、圭」 なんだか幸せそうな早香。割と我の強い二人だからいろいろあるかもしれないけど、きっとうまくいくだろうな…… キーンコーンカーンコーン…… 廊下を響き渡るチャイムの音が、僕らの会話の終わりと今日の学校の始まりを告げる。 教室に入ろうとドアを開けた瞬間、早香に背中を叩かれた。 「まっ、あんたも恭ちゃん幸せにしてあげなさいよっ」 そう言いながら、自分の席へと走っていく。 「なっ……さ、早香!」 僕の声も届いているのかいないのか。 ぼんやり立っていても仕方がないので、自分の席へとゆっくり戻る。 『そう思ってる奴は沢山いるぜ』 いつか聞いた高階の言葉…… きっとあれは本当で、梓川さんもそう思われてることぐらい、少しは知っているんだろうけど…… 「何も……言わないしなあ」 嫌われてはいない……と思う。現に一緒に登校するって言ったら喜んでくれたわけだし。 僕は梓川さんのことを『仲の良い友達』だと思ってたけど、周りはそうでもないみたいだ……いや、周りは関係ないか。梓川さんがどう思っているか……だよなあ。 二人とも『仲の良い友達』だと思っていて、かつそれでいいなら変わる必要もないんじゃないのかな……早香と陽一郎の場合、付き合っているってことにした方が良いからそうなっただけであって。 ……よく分からなくなってきた。 とりあえず、学校が終わるまでそれはおいておくことにしよう。 別のことを考えていると、授業に集中できないからな……テスト前にそんなんじゃあ、本番で泣きを見るに決まってる。 とは思うものの、そう思い通りにうまくいくことなんて少ないわけで。結局今日の授業中は、いつもの7割ぐらいの集中力になってしまった。 そして昼休み。 若葉の弁当を食べ終えて時計を見ると、いつもより早い時間。することもないのでぼんやりとしていると、 「おい水瀬、お客さんだぞ」 と後ろからクラスメイトの声。 振り向いてみれば、後ろのドアに陽一郎の姿。 「どうしたの? わざわざ来るなんて珍しい」 陽一郎がこっちのクラスに来るなんて……何回か教科書を借りに来たぐらいだ。 「面白い話を聞いたもんでな……お前、梓川と一緒に登校したんだって?」 陽一郎にまで……多分佐久間からだろうけど。 「……それがどうかしたの?」 「ああ……お前ら、くっついてるのか?」 くっついてるっていうのは多分、今現在の早香と陽一郎のような関係にあるかってことなんだろう。 「そういうわけじゃないけど……」 「俺と早香のことは、もう知ってるんだろ?」 まるで天気のことを話すように陽一郎が言う。 「え、うん」 やっぱり違和感があるなあ……早香とくっついたってのを、本人から当然のことのように話されるのは。 「それがどうしたの?」 「お前も早くはっきりさせた方がいいぞ」 「な、なんで……?」 すると陽一郎、近くに顔を寄せ、 「早香の奴……告白されてたらしい」 そう、小声でボソッと言った。 「ええっ!?」 ワンテンポ遅れて驚く僕。一瞬理解できなかった…… 早香が? 告白? されてた? わけがわからない。いや、わかるんだけど、わからない。 「声が大きい」 「ご、ごめん……」 思わず謝る僕。いや、しかし……そんなこともあったのか。 「で、でも誰が……?」 ちょっと気になる…… 「そこまでは聞いてない。まあ、聞いても仕方ないことだしな……でだ、圭。お前もはっきりさせとかないと、まずいかもしれないぞ。梓川ってかなり人気みたいだからな」 「そ、そうなの?」 「ああ……話下手ではあるが、可愛い部類に入るらしいからな……狙ってる奴は少なからずいるって話だ」 なぜ伝聞調なのかは置いとくとして……そうだったのか。 「まあ、今のとこお前が一番仲がいいってみんな認識してるみたいだからいいが……くっつくに越したことはないな」 そう言って陽一郎は、自分の教室へと戻って行った。 自分がそうだからって…… でも…… もし梓川さんが他の男と付き合ってるって状態になったら…… 「…………」 ちょっと嫌かもしれない。 いや、すごく嫌かもしれない。 これってもしかして、女の子として梓川さんが好きってことなのか……? 女の子の友達……今までは早香ぐらいしかいなかったからなあ。クラスメイトから友達にレベルアップしたことなんてなかった。 桜ちゃん達はまあ別として、あとは早香……も別。よくよく考えてみれば、女の子で普通のお友達って梓川さんしかいなかったんじゃないか……? ……好きなのか? 友達として? 女の子として? 「どうなんだろう……」 キーンコーンカーンコーン…… チャイムが鳴ってもその思考は中断されることはなく……午後の授業は、集中力2割。帰ってからも、何も手につかず。 布団に入っても、同じ思いを巡らせる。 まあ、いいや。どっちにしたって梓川さんのことは大切なんだし…… それが、この日最後の思考だった。 そして翌日…… 僕はまた、隆山行きの急行に乗っていたのだった。 第24話へ 戻る |