いつか見た君に~picture of heart~初めて会った時から、初めて会ったような気がしなかった女の子……梓川恭子さん。周りから言われて、考えて、もう一度考えて、考えて……それで、たどり着いた結論。梓川さんと一緒にいるときは楽しいし、梓川さんが他の男と一緒になるのは嫌だ。だから……そこから考えられるのは……僕は梓川さんのことが好きなのかな。 第24話・ポン酢とオムライス 予備校から帰ってくると、もう夜ご飯も近い時間になる。 両親が帰ってきてるから、ご飯を作るのは母さんなんだけど…… とても心配だ。 若葉のあの料理は、決してうちの母さんから教わったものではない。白根母、早香、そしてなにより両親がいなかったということが、若葉の料理の腕をここまで上げさせたのだ。 対して母さんは…… 「はあ……」 いや、決してまずくはない。まずくはないんだけど、おいしいかどうかが分からないような料理を作る。まだ通常のオムライスとか、ラーメンとかなら評価もできる。でも……今まで赴任してた国の郷土料理と、そういった普通の料理をミックスさせて新しい料理を作られてもなあ…… 料理が上手いならまだしも、決して料理が得意というわけじゃないからなあ。 と、なんだか疲れながら玄関の戸をあけると、なにやら靴の数が多い。 「ただいま」 誰も出てこない。どうやら気付いてもらえなかったようだ…… 奥から聞こえるにぎやかな声が、この靴の多さと誰も出てこないことの理由らしい。 白根三姉妹。 ……となると、もしかしたら夕食は白根三姉妹に若葉を加えた若手4人組に任されることになってるんじゃないか……? 小さな期待を胸に、とりあえず自分の部屋へ向かう。そして荷物をベッドの上に置くと、少し急いでリビングへと向かった。 「ああっ、危ない!」 いきなり飛び交うにぎやかな声。 今の声は桜ちゃんかな。 「梢ちゃんナイス!」 次に聞こえる若葉の大きな声。 ……なんだ? 「どうしたの?」 「あっ、お兄ちゃん。お帰りなさい」 エプロン姿の若葉が顔を出す。 「あのね、梢ちゃんが落ちる卵を空中でキャッチしたの」 落ちる卵……? 空中でキャッチ……? 「あ……私が落としちゃったんですけどね」 照れ笑いの椿ちゃんが出てきて補足。ああ、そういうことか…… 「ははっ、楽しそうだね」 それを聞いて、えへへと笑う二人…… 「今日はなに作ってるの?」 「うん、巨大オムライス」 巨大……オムライス? 普通のオムライスじゃないのか? 「巨大って……どのくらい?」 「秘密」 即答する若葉。 秘密って……秘密にする意味はあるのか? 「楽しみにしててくださいね、お兄さん」 「できたら呼ぶから、待っててね」 ぱたぱたとキッチンへと戻る若葉と椿ちゃん。 なんだか気になるなあ…… 「あ、圭ちゃんお帰り」 後ろを向くと母さんがいた。 「若葉ちゃんとさつこちゃんが、ご飯作ってくれるって張り切っちゃって……親孝行してくれてるのね、うれしいわ」 親孝行というか……若葉にしてみれば、自分で作った方が確実だっていう思いがあるんじゃないだろうか。そんなこととは露とも思っていないであろう母さん。知らぬが仏と言うし、そっとしといてあげよう。 とりあえず部屋に戻って、さっき適当に扱った荷物を整理する。 明日は確か……4時間目に体育だっけ。うー……体操服の用意っと。4時間目に体育って、一番辛いじゃないか。昼食前の空腹な時間帯に運動か…… まあ、昼食直後の5時間目も、走ってるうちに横腹が痛くなってきたりするんだけど。 後は英語と日本史と…… 「お兄ちゃん、できたよ」 明日の教科書とノートを揃えたところで、ノックと同時に若葉が部屋に入ってきた。 「巨大にできた?」 「うん、かなり」 自信ありげに笑う若葉。これは期待してよさそうだ。 1階への階段を、若葉の後についてゆっくり降りていく。 巨大モノ……この白根三姉妹と若葉の4人、たまにこの「巨大シリーズ」に挑戦するんだよなあ。前回は確か……巨大サンドイッチ。8枚切りサンドイッチを何袋買ったんだっけ……で、1平方メートルぐらいの巨大サンドイッチが出来上がったわけだ。まあ、普通のサンドイッチを並べただけと言われればそれまでなんだけど。 その前の巨大ハンバーグは世にも恐ろしい大きさだった。三姉妹、僕、若葉、陽一郎の6人がかりで食べたんだっけ……なんでも、肉屋さんの改装閉店セールだとかで、かつ、営業終了間際に行ったもんだから……見たこともないくらいのミンチ。あの時は「しばらくハンバーグ見たくない」とか思ったけど、今回もそうなるんだろうか…… 「ほら、あれだよ」 そう言って若葉が開いた扉の先に、何か大きい黄色いものが見えた。 「……あれ?」 「あれ」 尋常じゃない。なにあれ? 枕? すでにテーブルには、三姉妹と両親がついていた。僕と若葉も遅れて席につく。巨大オムレツを僕、若葉、梢ちゃん、椿ちゃん、桜ちゃん、父さん、母さんの順でぐるっと囲んでいる。 しかし、なんとも巨大な……目の前にしてみると、また一段と大きく見える。そう、ちょうど僕が使っている枕ぐらいの大きさだ。高さはちょっと低めで全体にのっぺりとした印象を受けるけど……でかい。 このオムライスを乗せることのできる皿がなかったのか、大き目のトレイの上にアルミホイルを敷いて、その上に盛り付けてある。 「いただきます」 父さんの声に続いて、僕も「いただきます」と手をあわす。 お好み焼きのときに使うへらで取り分ける方式らしい。 「お米どのくらい炊いたの?」 「えっ、一升」 単位が違う…… 「卵は?」 よく見たらコーティングの卵は1枚じゃなくて、何枚も貼り付けてるようだ。 「冷蔵庫に残ってたのと、買ってきた1パック。いくつ残ってたか忘れちゃった」 まあ、ずっとあきれてても仕方ないので食べよう とりあえず、自分の食べる量を皿に取る。断面から察するに、バターライスだな。えっと、ケチャップは……あ、椿ちゃんの前だ。 「椿ちゃん、ケチャップとってくれる?」 「はい。どうぞ」 ぐぐっと手を伸ばして、ケチャップを受け取る。 「ありがとう」 えっと、桜ちゃんと母さん、若葉はソース派かあ……で、椿ちゃんと父さんがケチャップ。梢ちゃんは……大根おろしにポン酢。 「梢ちゃん、それっておいしいの?」 「……おいしいです」 そういえば梢ちゃんってポン酢好きだったっけ…… それにしても、バターライスのオムライスにポン酢って初めて聞いたぞ。 「梢ってば、ほんとポン酢が好きよね」 一皿目をぺろりと平らげた桜ちゃん、次に食べる分をお皿に取りながら笑う。 「……これはポン酢じゃなくて、ポン酢醤油です」 「一緒でしょ、そんなの」 「違います」 梢ちゃん、目が本気だ。 「本物のポン酢は……醤油が入ってません」 今テーブルの上にあるのは、どこでも見る醤油色のポン酢。 「ということは、ポン酢って色が黒くないの?」 「はい……」 「梢ったら、自分用って言ってその色のついてないポン酢を買ってくるんですよ」 僕に向かって苦笑する椿ちゃん。自分用の調味料か……なかなかのこだわり様だ。 「でもあれってなんか、ただのかんきつ果汁みたいで、特においしくないんだけど……梢、なんにでもかけるわよね……」 「分かってません」 ストレートな桜ちゃんを、梢ちゃんが一言で切り捨てる。 「あのさわやかな風味……それに、食材そのものの味も生かしてます。一度知ってしまうと……もうやめられません」 えらく力強いお言葉。 「もちろん、ポン酢醤油も好きです……」 そして、ずっと黙っていた父さんが久しぶりに口を開いた。 「あれだろ? 高知県の……どこだかのポン酢醤油が最高に美味いって聞いたが」 それを聞いた梢ちゃん、珍しく目を輝かせる。 「それです……注文したいんですけど、やっぱりなかなか……」 ちょっと高いのかな? 梢ちゃん、中学1年だもんなあ……あまり自由になるお金はないだろう。 「でもよく知ってるね、梢ちゃん」 スプーンを動かしながら、若葉が感心する。 「……本で調べてますから」 ポン酢について本で調べる中学1年生も珍しい…… とりあえず一皿目を食べ終えたので、適量を自分の皿に取る。気がつけば残り4分の1ぐらいしか残ってない。桜ちゃんはともかく、梢ちゃんが意外に食べるなあ…… 隣に座る若葉は、もう満腹のご様子。 「よく作ったな、この量のバターライス」 「うん。2つのコンロで2回……だから、4回炒めたのかな。私と桜ちゃんで、2回ずつ」 それはまあ……ご苦労なことで。 「大変だったよ……でも楽しかった」 えへへと笑う若葉。そりゃあ大変だろう……僕と若葉と三姉妹。あと父さんと母さんがいるから7人分だもんなあ…… 「この卵は……」 「あ、うん。一番大きなフライパンでも全部かぶせるの無理そうだったから、3回に分けてつぎはぎしちゃった」 なるほど。そりゃそうか……さすがにこの大きさの卵は焼けないよなあ。 「大成功だな、今回のこれ」 「うんっ」 嬉しそうに笑う若葉。 さて巨大オムライスはというと、父さんが取り終えた後、茶碗一杯分ぐらい残っている。 「圭ちゃん、食べてしまったら?」 母さんもそこそこ満腹のご様子。って、僕も結構いっぱいなんだけど……最後に残ってる量が入るかはいらないか、ぎりぎりぐらい…… 「……お兄さん、おろしが少し余ったので……良かったら試してみてください」 そう言って、梢ちゃんが大根おろしの入った器を渡してくれた。 おろしポン酢……もとい、おろしポン酢醤油か。じゃあ、試してみようかな。 残りを全部自分の皿にとって、おろしも全部乗せる……ちょっとおろしが多いかもしれない。そして最後にポン酢醤油をかける。おっ、さわやかな香り。 食べ終わった梢ちゃんと若葉、椿ちゃんが注目している。なんか緊張するなあ。 スプーンでおろしを多めに一口すくって、そのまま口へ運ぶ。 おっ…… 「おいしい……」 まず大根の強烈な味……のあとに来る、ポン酢醤油の風味が意外にもオムライスに合う。おおっ、これはいける。さすが梢ちゃん。 侮りがたし……ポン酢醤油。 うん、これは確かにいい。とてもさっぱりしてるから、満腹だと思ってたのにまだ入る。これは大根をおろす手間を考えても十分にいける。 「お兄ちゃん、よく食べるね……」 若葉が呆れたように言う。 「いや、これはいける」 そう言って梢ちゃんの方を見ると、珍しく梢ちゃんがちょっと照れていた。 「……ありがとうございます」 梢ちゃんの勧める物ってあまりはずれがないんだよなあ。きっと本家ポン酢(?)もかなりおいしいに違いない。 気がつくと、皿にあったはずのオムライスは全部なくなっていた。 おいしかった…… 「ごちそうさまでした」 こんなに食べたのって、結構久しぶりかもしれない。 「お兄ちゃん、よく食べたね」 と、若葉は笑いながら言うけれど……性別、体格からして、桜ちゃんと梢ちゃんの食べっぷりのほうがすごいような気がする。件の二人は呑気にお茶をすすっているわけだけど…… 「……どうかしましたか?」 僕の視線に気付いたらしい梢ちゃん。 「いや、桜ちゃんと梢ちゃんも、かなり食べたんじゃないかなって思ってさ」 それを聞いて、「えへへ」と照れ笑いする桜ちゃん。一方梢ちゃんは、 「…………」 少し考えたあと、 「…………」 赤くなった。 やっぱり恥ずかしかったんだろうか……梢ちゃんも、もう思春期ってやつなのかもしれない。女の子相手に今の発言は、ちょっとまずかっただろうか。 「お兄ちゃん、デリカシーがないっ」 若葉に指差されながら言われてしまった。 「やっぱりそうか。自分でもそうじゃないかなとは思ったんだけど……」 言った後じゃあ遅かったか。 「『やっぱりそうか』じゃないよ。お兄ちゃん、そういうの鈍感なんだから」 なんかすごい怒られようだ。そこまで言われるようなことだったのか……? む。もしかしたら若葉も思春期というやつなのか。で、いい子でなにも言わない姉妹に代わって怒ってるのかな。 「大丈夫だよ、若葉ちゃん」 さすがに見かねたのか、桜ちゃんが助け舟を出してくれた。 「私、梓川さんみたいに大きくなりたいから、よく食べるの。梢はもともと食欲旺盛だけどね」 意外なとこで梓川さんの名前が出てきたな。梓川さんは身長170cm近く……なんかまだ成長してるかもしれないとか言ってたな。もしかしたら追いつかれて追い抜かれるかもしれない……そ、それはちょっと困るぞ。 「姉さん……」 ちょっと困った顔の梢ちゃん。梢ちゃん、最近表情がよく出るようになった気がする。 「でも二人とも、太らないよね」 と、若葉。確かに、見た目はあまり食べなさそうだもんな。 「私はよく運動してるもん」 得意げな桜ちゃん。確かに、桜ちゃんは活発でよく動き回ってるようなイメージがある。 「なのに梢……あんた一体、どこで消費してるのよ……」 「うん、私も気になってた……」 長女と次女の問いに対して、三女は…… 「……熱」 僕の理解を超えた答えを示した。 「あはは、梢ちゃんって面白いわねえ」 「ああ、うちの娘にしたいぐらいだ」 外野は放っておいて…… 熱ってどういうことだ? 「ああ……梢って普段の体温高いもんね」 納得する桜ちゃん。それだけ……? 「そうなの?」 「はい。梢っていつも37℃ぐらいあるんですよ、体温」 それってかなり高いんじゃあ…… 「びょ、病気じゃないよねえ……」 心配する若葉。それが当然の反応だろう。 「……普通です。小さい頃診てもらいましたけど、なにも……」 へえ……じゃあその体温維持のために沢山エネルギーがいるってことなのか。 「さわってみてもいい?」 そう言うと若葉は席を立って、梢ちゃんの隣に行く。 「おでこくっつけたら? よく分かるよ」 それを聞いた若葉。髪を手で上げ、桜ちゃんの言うようにおでことおでこをくっつけた。 「わっ、ほんとだ……熱い」 驚きの声。そんなに分かるもんなのか…… 「病気でもないのに体温が高いなんて……妊婦さんみたいね」 と、面白がる母さん。 「えっ、妊婦さんって体温高いの?」 「そうよ。私もそうだったもの」 「そうなんだ……」 感心する若葉。うちの妹はこれでまた一つ賢くなったのだった。 「お兄ちゃんもさわってみたら? 梢ちゃん、ほんとにあったかいよ」 と、言われるものの…… さすがにおでことおでこは……まずいよなあ。 よし、ここは手をほっぺたにあてることにしよう。これで十分に分かるはず…… 「どれどれ……」 ぴとっ くすぐったそうな顔をする梢ちゃん。そして指先から伝わってくるそれは、確かにちょっと温かい。なるほど、確かにエネルギー使ってそうだ。 それにしても…… やわらかそうなほっぺただ…… ふにゅっ 「……お兄さん?」 不思議そうな顔をする梢ちゃん。 つねらないように気をつけながら、少しだけつまんでみた。やわらかい。 「梢ちゃんのほっぺたって、やわらかいね」 それを聞いた梢ちゃん、頬の赤みが少し増す……今の発言もまずかったかもしれない。 「お兄ちゃん、セクハラだー」 若葉が抗議の声をあげたと思いきや、 「……でも私も触ってみたい。どれどれ……」 実はお仲間だった。 ふにゅっ 「うわっ、やわらかい……」 楽しそうな若葉。 対して姉二人はというと…… 「梢がおもちゃにされてる……」 「いいじゃないの、梢もまんざらじゃなさそうだし」 二人ともちょっと笑っていた。 そして当の梢ちゃんはというと…… 「…………」 左右から頬をつままれてもいつも通りだった。 とまあ、梢ちゃんの謎も解明されたところで、片付け時間ということになった。 とはいえ、オムライスの乗っていたトレイは、敷かれていたアルミホイルのお陰で洗わなくていいので、実質あまり変わらない、5人分が7人分になっただけのいつも通りの皿洗いだった。 普段なら皿洗いの方は妹達に任せて、僕はテーブルを台拭きでせっせと拭くんだけど……母さんがやたらはりきって、 「皿洗いは任せてちょうだい」 なんて言い出した。 昨日1枚割ったの、もう忘れたのか……? 白根三姉妹もさすが長い付き合いだけあって、うちの母さんが最高に不器用なのを承知している。 「えっと……ほら、親孝行みたいなものですから、私達にやらせてください」 「そうそう。ゆっくりテレビでも見ながら……ねっ」 「そう……? 悪いわね、さつこちゃん」 とまあこの通り、何とか手伝わせまいと頑張っている。 白根三姉妹の努力が報われたのか、母さんが諦めてこっちへ来た。 「圭ちゃん、代わりにやったげよっか?」 諦めてなかった。けど……まあ、台拭きぐらいならいいかな? ちらりと冷蔵庫前の若葉を見ると、ぶんぶん首を振っている。これすらダメなのか…… 「あー、いいよ。やっとくから母さん仕事で疲れてるでしょ?」 「そう……? じゃあ、お言葉に甘えさせてもらおうかしら」 そう言うと母さんは、とことこと自分の部屋に戻っていった。 その姿を確認した後、若葉が近付いてきてこう言った。 「お母さん……前に台拭き破いちゃったんだよ……」 台拭きを破く……その情景が、全く想像できなかった。 「テーブル拭いてて?」 黙ってうなずく若葉。 「不器用にもほどがある……」 「ほどがあるっていうより、なんだか怖いよ……」 どういう力がかかったら台拭きが破れるんだ。 それにしても…… 「よくもまあ、子供二人がここまで無事に育ったもんだ」 「ほんとだよ……」 そして、兄妹仲良くため息をついた。 「それにしても……」 若葉がつぶやく。 「梢ちゃん、私より体小さいのに、良く食べるよね」 「そうだな……」 まあ、信じられないってほどでもないんだけど。 「きっと冬もそれほど寒くないんだろうな……」 いいなあ、少々寒がりの僕としては羨ましい。 「そうかな? 気温と差がありすぎて逆に寒いんじゃない?」 と、若葉は言うけれど…… 「……どっちなんだ?」 「さあ……?」 今度は兄妹仲良く考え込む。 そんなことをしていると、皿洗いを終えた三姉妹が戻ってきた。 「終わったよ、若葉ちゃん」 「じゃあ、そろそろ私達帰りますね」 時計を見るともう9時過ぎ。送って行った方がいいかなあ。 「なんだ、もう帰るのか」 タイミングよく父さん達が戻ってきた。 「もうって……9時なんだから遅いわよ」 「よし、それじゃあ家まで送っていこう」 「そうね、それがいいわね」 誰の意見も聞かず、自分達で話を終わらせてしまった両親は、さっさと玄関へ行ってしまった。 「えーっと……」 若葉が口を開く。 「さつこー、早く行きましょーっ」 玄関からの母さんの声が、それを遮った。 「じゃ、じゃあ私達行くねっ、ばいばい若葉ちゃん」 良く分からないまま、慌てて玄関へ向かう桜ちゃん。 「あ、さ、さようなら」 続いて椿ちゃん、梢ちゃんもとたとたと走ってゆく。 「行っちゃった……」 「そうだな……」 「ああっ!!」 突然大声を上げる若葉。 「なんだよ……?」 「梢ちゃんに聞くの忘れちゃった」 「なにを」 「冬、寒くないのか」 またも仲良くため息をついた僕ら。ただ今回はそれぞれのため息の意味は違っていた。 第25話へ 戻る |
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