良太と姫乃(1)


山口良太(男子17番)は、ただ走り続けた。
教室を飛び出してから実質5分程しかたっていないのに、長い間足を止めていないような気がする。
片足に鈍く残る痛み――――綾小路に撃たれた傷だ、を振りきるようにただ無心に森の中を駆けた。
けれど痛みは消えることなく、湧き上がってきたのは後悔の念だけだった。
何故自分は逃げたのか、と。
辺り構わず出口を飛び出し、耳を掠めた音にも、視界を横切った人影にも、目をそむけて。
ここまで、ずっと走りつづけた。

入り口の近くを探せば、待っていてくれたかもしれないのに。

自分を、探していたかもしれないのに。

――――――みはる、が。




自分と並んでいやそれ以上に明るく、いつも笑顔のお祭り少女、前熊みはる(女子15番)。
この状況下、それでも良太が信じられる数少ない中の一人。
正しくは、最も信じられる人物。

銃を向けられても、みはるなら信じられるかもしれない。

彼女相手なら、そんな感傷に浸ることさえできた。
そう――――良太はみはるが好きだった。
ただしそれは、本当に一方的なものであるということも付け加えておく。



小さいころから、ずっとそばにいた。
そしてこれからも、ずっと一緒だと。
その傲慢に近い勝手な想像が、音を立てて崩れ去った瞬間に、気付いた。

みはるの無意識の呟きが、耳を掠めた瞬間に。


「……氷上君って、どうして笑わないのかな…」

「へ………?」

「っ……あ……な、なんでもないっ。
聞こえてないなら、いい……つーか、無視しろ!」

「いや、聞こえてるし…」

「う……ば、バカー!聞こえないフリしてよ!」

「いや、んなこといわれても困るんですケド。
別に、いいんじゃねーの。みはるが、氷上をねぇ……」

「ち、違うってば……っ」

「…ぷっ……はは、照れなくていいっスよ、旦那!」

バカみたいに、言葉は口からこぼれた。
哀しいくらいに、自然なやりとり。
口元をつりあげながらへらへらと笑って、みはるをからかう自分が虚しかった。


誰にも口にした事の無い、隠蔽された想い。
彼女の気持ちを知っているからこそ、絶対に伝えることは無かった恋慕。
実際、それに気付いたのは、良太が知る限り一人だけだった。
意外な人物、だったと思う。
微塵も考えていなかった。

――――姫乃に気付かれるなんて。




【残り33人】





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