アタリ
この世で一番恐ろしいものは何なのか。
「男子20番、天威理久君」
綾小路は鷹揚な声音でその名を呼んだ。
すると少年は立ちあがり、しばらくはその緩急な足音だけが静かな部屋を支配する。
「頑張ってくださいね。」
毎度変わらぬ微笑みと声援の言葉。
理久は何も答えずに、バックを受けとる。
扉を開けて歩を進め、そして足音が廊下に響く。
やがてそれもだんだんと小さくなり、闇の中へと消えていった。
39人の生徒が集まり騒然としていた教室を、今や静寂だけが支配している。
ふう、と綾小路は小さく息を吐いた。
「これで全てが、揃いました。本当の意味での試合開始、でしょうか。」
クスリ、と小さく笑みを零す。
誰に話すでもなく、自分自身に確かめるように言葉を紡ぐ。
「天威君は、ジョーカーになりえるのでしょうか。」
『彼の本体』のように?
それとも、『怜』のように?
「いいえ・・・それを彼に期待するのは間違っているのでしょうね。
彼は・・・アタリ、ですから。使う方が、その全てを決めるのですから。」
この世で一番恐ろしいものは何なのか。
人という名の、最悪の凶器。
「姫乃、お前の武器、何だったんだ?もう確認したか?」
「うん、さっき、見たんだけどね。何も、入ってなかったの。」
「・・・・確認したのか?」
「うん。封筒、みたいなのしか。んと・・・レターセット?」
「・・・・・・・・・・・・・・・ハズレ、か。」
それを手にする者は誰なのか。
【残り33人】