プロローグ
2001年6月13日午前10:34。専守防衛陸軍富士演習場プログラム本部。
坂本龍一プログラム担当官は、受話器を耳に当て宙を見つめている。
ぷつっという音とともに、女性の声が受話器からもれた。
「こんにちわ。いや、おはようございますかな?」
幾分楽しそうに教授は話した。冗談を交えながら。
「・・・。ええ、そうです。坂本です。・・・。お久しぶりですね。」
すこし親密な話し方をしている。
「いよいよ今日からですな。例の実験。・・・。ええ、かげながら応援してますよ・・・。」
目の前にあったペンをとり、手の上で弄びはじめた。
「・・・ええ、そうですね。もともとそちらの作戦を担当することになってましたが・・・。」
くるくると、ペンは教授の手の上で回った。
「こちらのプログラムもおもしろそうなのでね・・・。粋のいいのがいるんですよ。二人ほど・・・。」
ペンはまだくるくると回っている。
「ええ・・・今年最初の69番プログラムですから・・・。そうですね・・・。
でも先生なら大丈夫じゃないですか?そんな・・・わたしなど何のお役にも立てませんよ。」
笑いをこらえ低い息を漏らした。
「ええ、こちらは順調そのものです。サンプルも終了次第搬送しますよ。え?そんなまさか。」
足を組替え、コーヒーを口に運ぶ。
「それはないですよ。はは・・・。心配性ですね。今回から導入した30号は外せませんよ?
・・・。先生も試したでしょう?まぁ、そちらのプログラムはあの時の・・・
いや、あまり込み入ったことを話すのはルール違反かな?ふふ・・・。」
周りにいた兵士達は少しだけ困惑していた。あの、高圧的な教授が楽しそうにおしゃべりをしている。
不思議な光景だった。
「ええ・・・そうですね。お忙しい時間帯にすいません。こんな電話をしてしまって。
あ、そうだ・・・プログラムが終わったらお食事でも・・・
ええ・・・そうですね・・・ええ・・・じゃ、また日を改めて」
教授はすっと受話器から耳を離すと、乱暴にスイッチを切った。
「くそ、あの女お高く止まりやがって・・・。」
少し声を抑えて呟いたが、近くにいた一人の兵士には聞こえていた。
「坂本教授・・・デートのお誘いですか?」
少しにやけた顔で教授をからかった。
「おい・・・こいつを銃殺しろ。プログラムの進行を妨げた。」
教授は他の兵士に無表情で伝えた。
「は!」
威勢のいい返事とともに二人の兵士によって、2丁のウージー9ミリサブマシンガンから、43発の9ミリパラベラム弾が打ち出された。
信じられない、という表情のまま哀れな兵士は心臓と頭を打ち抜かれた。
いや、削りとられたという表現のほうが近いだろう。目は見開かれたまま、天井を見上げていた。
他の兵士や技術士たちはその死体を直視しないように勤めた。そして肝に銘じた。
「この男に逆らってはいけない。機嫌を損ねてはいけない」、と。
彼を撃ち殺した二人の兵士は、彼の腕をつかみずるずると引きづった。
このままでは時間がたてば悪臭が漂う。当然の処置だった。
その光景を見つめながら、教授は誰に向けるわけでもなく呟いた。
「あのバカ女にまとめられる訳ないだろう?何を考えてるんだか・・・政府のバカオヤジどもは・・・。」
教授は向き直りモニターを見つめた。そしてまた独り言を呟く。
「今年の69番は・・・城岩中からか・・・」
【残り38人】
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