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丸木一裕は正午の放送で目を覚ます。
体に残る疲労はわずかで、心地よいと言ってもいい目覚めだった。
彼は岩崎美穂を射殺した後、しばらく辺りを彷徨った。
”獲物”を求めて。
いや、”仲間”といったほうが適当かもしれない。
手に握るコルトの重量が次第に重くなっていくのを感じながら慎重に山の中を歩き回った。
見つけたのはいくつかの死体と、散乱したディバック。
地図やコンパスは巻き散らかされ、武器だけがなくなっていた。
死体は良く知った顔や、言葉も交わした事のない顔。
どれもマネキンのように表情を失い、ただ宙を見つめていた。
一裕はそんな死体には目もくれず、ただ”仲間”が一人減ったことに苛立った。
コルトの衝撃と、直子の息絶える瞬間の顔が忘れられなかった。
ぐちゃぐちゃの思考とどうにも出来ない自分の過去を重ね、
同じように苦しむ誰かを探していた。
もしかしたらこの感情を共有できるかもしれない、と考えていた。
痛みというよりは、絡みついた糸をほどけないもどかしさ。
何故、直子を撃ち、母親を刺したのか。
その答えを欲していた。
”僕は何? ”
体に残る疲労を回復するため、重い瞼を閉じたのは午前6時過ぎだ。
約6時間の睡眠。
目覚めた一裕の脳裏にはまだ、哲学的ともいえる疑問がびっしりとこびりついていた。
彼は再び立ち上がる。
答えを求めて。
北へ向かおうと思う。
理由はない。
強いて言うならば今しがた吹きぬけた風が、北へ向かっていたというのがその理由。
一裕は地図を広げ、その先を確かめる。
禁止エリアなど問題ではなかった。
行きたい方向へ行きたい時に向かう。
どこにもいけない感情と同様に、体の自由すらも束縛されてしまうのは本意ではなかった。
もし、それで死んでしまうなら、それはそれで構わない。
自暴自棄とはまた違う、彼なりの反抗。
ゆっくりと歩き始める。
北の、A−6。
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