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「秋吉。出動だ。」


碁盤をはさみ、千葉浩太郎と談笑する秋吉栄介はそう呼ばれる。
栄介は即座に立ち上がり、”はい”と返事をするも、
浩太郎に向けた顔は不満そのものだった。
浩太郎はその顔を見て、”まぁ、しょうがないわな”
といった言葉をそのまま表現した表情を見せた。


「また、後でな。」


栄介はそう言い、その場から離れた。
すばやく装備を整え、インカムを装着する。
上官から簡単な説明が行われた。


「現在、E−0地点付近へ急接近する生徒が二人。
 音声からの情報を整理すると、どうやら女子生徒が男子生徒に追われている模様。
 金網を越える可能性が高いため、我々が出動する。
 金網を越えた場合、首輪爆破が行われる。
 爆破後、生存確認し、首輪を回収。爆破されない場合、射殺。以上だ。」


栄介は頷き、小さな溜息を漏らした。
人が死ぬ瞬間を見なくてはならない事に対しての溜息だ。


”死臭ってのを嗅ぐと、とてもじゃないけど二日はメシ食えないね。”
”人が死ぬ瞬間ってのはさ、あれ、何度見ても慣れねェヨ。キツイ。”


そんなような話はよく聞いていた。
栄介はあまり血が好きではない。
小学生の頃、飼っていた犬が車に轢かれたのが大きく影響していた。
当時幼かった栄介はその凄惨な光景を目の当たりにして、
発狂寸前まで気を高ぶらせた。
それ以来、TVでの”レイプシーン”や”暴力シーン”だけでも
吐き気を催すようになった。
軍に入って、少しは落ち着いたものの未だに血の匂いだけはダメだった。
きっと、直視できないだろうなと思うと気が重くなっていた。


全員の準備が整うと、すばやく待機所を出る。
さっき戻ってきたばかりなのに、と不満を漏らす声が聞こえたが、
シフト制では仕方がない。
同じ時間帯に金網周辺での戦闘が続くのは運が悪いとしか言いようがなかった。


重い気持ちが、重い装備をより苦痛に感じさせた。


上官を先頭に山中を走る。
ガチャガチャと装備の金具が音を立てる。


晴天。


この空の下、殺し合いを強要された生徒達は何を考えているのだろう。
と、栄介は思う。


走りながら、”この国の軍は間違っている”と言い、
飛び出していった仲間の顔がいくつか浮かび上がる。
大体がプログラム警備や、強制労働キャンプ警備の後の出来事だ。


”罪のない人を殺すため、威圧するために軍に入ったわけじゃない。
大切な人を守る為に、俺は軍に入ったんだ。
俺がこの軍でしてきたことは、俺の志をことごとく裏切った。”


そんな仲間の言葉はその時の栄介には理解できなかったが、
この後に見るであろう、15歳の殺し合いを見れば気持ちも変わるかもしれない。
と、栄介は思う。


気が重い、というのが一言でいう栄介の心境であった。



















[残り11人]

 


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