-30-
車は時速90Kmで高速道路を駆け抜けていく。
平日の朝方ということで道路は完全にがらがらだった。
秋也達は小さな寝息を立てている。
後部座席でお互いがもたれあうように眠るその顔は、まだまだ幼さが残っていた。
車の中はタイヤが路面の傷を拾う音と、ヴォリュームを絞った警察無線のみが流れていた。
隆志達は細心の注意を払い2度、車を乗り換えている。
今までにないほどの厳戒態勢で事は進められていた。
今、車を運転しているのはRiot特殊工作班の青木武。
ふと、青木が口を開く。
「千成さん・・・ほんとにダイジョウブなんすか?」
青木はまだ若い。
24歳、独身で普段は報道写真を撮っているカメラマンだ。
少々言葉遣いなどに幼さが残るが、なかなかきびきびとした行動と、深い洞察力でRiotの中でも一目置かれている。
それは24歳の若さで立派にRiotの特殊工作班で活躍していることが証明していた。
特殊工作班は、Riotの中で最も危険を伴い能力の問われるセクションだ。
隆志も絶大な・・・とは言わないまでも、かなり信頼していた。
「なにが・・・?」
隆志は少し抑えた声で聞いた。
「・・・言いにくいんすけど・・・今回の作戦・・・かなりやばいでしょ?」
「ん・・・かなり・・・な。」
「その作戦をたかだか19歳のガキ二人に重要なポジションで行動させるって事ですよ」
隆志は後部座席の秋也達が目を覚ましていないのを確かめてから口を開いた。
「おまえだって大してかわんねぇよ。」
青木は少しぶーたれた顔で前方を睨んだ。
隆志はそんな青木の不満そうな顔を見ずに続けた。
「おまえはアメリカのコンピューターの技術がどこまで進歩してるか知ってるか?」
「知ってますよ。この国の10年は先いってんでしょ?」
「それがどういうことか知ってるのか?と、聞いてんだよ。」
「・・・。」
隆志は胸のポケットに手を突っ込んだ。
―― くそ・・・禁煙中だった・・・。
「おい、タバコ持ってるか?」
「俺、吸ってないっすよ?タバコ。」
「使えねーなー」
「そういう言い方俺、嫌いです。」
青木は本当に物事に率直に意見を言う男だった。
嫌いなものは嫌い。
イヤなものはイヤ。
「二人無くしてこの作戦は成り立たないよ・・・。」
「それはわかってますけど・・・。」
青木はドリンクホルダーからスポーツドリンクのペットボトルを取り、ぐいっと一口飲んだ。
健康第一主義。
それが、青木の一貫した生活スタイルだった。
「大体、千成さんどこで彼等と知り合ったんですか?」
「ん・・・?話してなかったか?」
「これだよ・・・。」
半ばあきれてため息をひとつついた。
「ほら神戸で医者やってる奴知ってるだろう?」
「えっと・・・半沢さんっすか?」
「そう、彼から4年前・・・章吾君の事と、秋也くん達のことを聞いたんだ。
それで連絡をとった。プログラムに関する情報が得られると思ってナ。」
「ええ。」
「なんせ、プログラムを生きて脱走した唯一の人間だからな。」
「それで?何で今回の作戦なんですか?」
「秋也くんの提案したシステムがこの作戦のきっかけさ・・・。
とてもじゃないが共和国内では考えつかないほどの大胆なシステムだ。」
「それってコンピューターハックですか?サイバーテロなら別にRiot自体が動かなくたってできるでしょう?」
「そこだよ・・・。いくらコンピュータぶっ壊したって・・・すぐに代えが利くようになってんだよ。
4年前の城岩中のプログラムが政府にいい勉強させちまった・・・。」
「じゃ、どうすんですか?」
「それはついてからのお楽しみだよ」
ふっと隆志は笑った。
「そうやっていつも大事な話はぐらかす・・・。」
青木は再びペットボトルに手を伸ばした。
「軍の車・・・目立ってきたな。」
「ええ・・・後、2時間ぐらいっすよ・・・現場まで。」
「スピード気をつけろよ・・・こんなとこで捕まったらシャレんなんねーぞ?」
「わかってますよ!」
「それよか、俺、千成さんに聞きたいこと山ほどあるんすよ。」
「え?」
「え?じゃないでしょ?ゆっくり話す機会なんてこれまでなかったんだから・・・」
「2年前の強制労働キャンプ襲撃の時こうやって一緒に移動したじゃねーか?」
「あん時は俺、初めての作戦っすよ?そんな余裕なかったっすよ・・・」
「そうだっけか?まーいいよ・・・。なんだよ、聞きたいことって。」
「三村さんのことっすよ。」
←BACK | INDEX | NEXT→ |