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「ら、拉致って?どういうことだよ?!」

広志は混乱した。
なぜ政府がただの生徒を拉致するのか、理由がわからなかった。
慶が特別な生徒ではないことをよく知っているし、それに特に反政府的思想を持ちあわせている訳でもない。
いわゆる普通の生徒。

「いや、答えは単純だよ。」
慶はさらっと言った。
まるで、昨日の夢の話でもするように。

「4日前。広志が学校休んだろ?
で、いちおー俺、副キャプテンってことで体育倉庫の鍵やらなんやらをとりにいったんだよ。
その日は監督たまたま休みでな・・・なんか子供が熱出したとかで・・・
それで、鍵を竹内に預けたって部室の黒板に書いてあった。」

「竹内ってうちの担任の?」

「ほかに誰がいるんだよ?
で、竹内を探したんだけど職員室にも教室にも数学資料室にもいなかったんだ。
で、困ったなーと思ってたらなんかスーツを着た連中が、まぁそん時は政府の連中だとは思わなかったけど、それが政府の連中でな、校長室に入ってくんだ。
で、その脇に竹内がいた。
青い顔してたな。
明らかにおかしいだろ?
だから俺、全員が校長室に入ったの確認して立ち聞きにいったんだよ。」

「ちょ、ちょっと待てよ。何で政府が?――あ。」

「そう、そんとき校長室ではプログラムの当選告知がされてたんだよ。
俺はびびった。
それをみんなに知らせようとした。
急いで立ち上がろうとした時、上履きがキュっと音立てたんだ。
それで俺はすぐさま中にいた政府の連中に取り押さえられた。
殺されると思ったけどな、竹内が土下座してくれた。
変な話だよな。
殺し合いゲームに参加する生徒の命乞いをするんだから。
でも、まぁ嬉しかったよ。
なんとか殺されないまでも、一応俺は国家機密を握ってしまった。
逃げることだってできる。
そう判断して、政府は俺を拉致してどこかの刑務所みたいなところにつれてかれた。
そこで4日間監禁。
飯がまずかった。
俗に言うクサイ飯って奴なのかな?
で俺は修学旅行の当日、そこから登校したんだ。
千成が遅刻しなけりゃ俺が最後にバスに乗り込むように細工されてた。
もちろん俺がバスの中で変なこと言えば即座にバスごと爆破されるって脅しをかけられてな。
ごめんな。
俺は何も出来なかった。
これで説明できたろ?
俺が、こんなに冷静なわけが。」

「・・・あぁ。」

広志は複雑な気分だった。
慶が大変な時に自分はのほほんと家で寝てたのかと思うと、なんともいえない嫌悪感が押し寄せてきた。
裕也が口を開く。
「なんで竹内は言ってくれなかったんだ?そんなの・・・」

慶がそれを遮るように言う。
「クラス全員を人質にとられたんだ。
もし、プログラムのことを外に漏らせば3−3を一人残らず殺すってな。
ゲームに参加すれば最悪、一人だけは生き残る。
どちらをとるかは、竹内ならどちらをとるかわかるだろ?」

裕也は口をつぐんだ。
そしてうつむき抑えきれないもどかしさを露にする。
「くそ」と呟き自分の膝を拳で叩いた。

3人はしばらく口を開かなかった。
もう、このプログラムから逃れる術はないことを悟り、裕也は絶望し、広志は困惑した。
やがて慶が再び口を開いた。

「俺さ、殺し合いしたくないんだ。」

広志はうつむいた顔をあげ、慶に向けた。

「殺し合いはしたくない。
みんなおかしくなって、みんな殺し合いしてたとしても、俺だけは殺したくない。」

「慶・・・。」

「でも恐らく脱出は無理だ。
この首輪がなくて、俺たちがここを逃げ出せたとしてもいつかは捕まる。
この国に隠れるところはない。
そうだろ?」

認めたくはないがそのとおりだった。
この国は法を犯せば躊躇なく人を殺す。
そういう国であることは生まれたときから叩き込まれていた。
広志は「ああ。」と相槌をうつ。

そしてこう続けた。
「だからって、殺されるのを待つのか?」

「ああ・・・。」

重い空気が格納庫を覆った。
ひんやりとした、死の香りが満ちていた。

「首輪を外そうと思う。」
慶はふと言った。
ほんとになんでもないことを言うように。

「・・・外せるのか?」
広志は少しそのことを考えてから答える。

「わからないよ。
ただ、3人寄れば文殊の知恵だ。
何とかなるかもしれない。
もし、もし、首輪を外せれば俺たちはゲームに参加した事にはならない。
どっちみち殺される事になるけどな。」

「脱出はしないのか?・・・ただ、首輪を外すだけか?」

「いや、首輪が外れれば逃げ出したい奴は好きにすればいいよ。
俺はここに残るつもりだけどな。」

広志と、裕也の心に一筋の希望が射した。
裕也が口を開く。
「どうやるんだ?やり方わかるのか?」

慶が答える。
「やったことないからな。わからないよ。
ただ、ここには忘れてったのか、置いていったのか少しの工具がある。
結構、使えるのもいくつかあった。
それを使ってみるよ。
なんとか、しよう。」

「お、俺はその考えにのったよ!」
裕也はさっきまでの沈んだ顔が嘘のように晴れ晴れとしていた。
脱出できるかもしれないという思いと、この密閉された空間が裕也の心をいくらか回復させていた。
恐怖よりも希望に目がいってる。
そんな感じだった。

広志はそれでも一抹の不安を拭いきれなかった。
慶が一度も、ただの一度も笑顔をみせていないからだ。






[残り34人]




 

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