第1話 大変な人
どうやら彼は大変らしい。 僕の隣で仕事をしている彼(あえて「S田くん」と呼ぼう)はいつも忙しそうだ。 S田は僕が昔勤めていた会社の後輩らしい。 今の会社では奴の方が先輩である。 歳もどうやら一つ上だ。 要領が悪いので、社内の評価は僕のほうがどうやら高い。 多少、哀れに思う。 悲劇のヒロインぶって、自分の話をしたがって、人の話を聞かなくて、かなり頑固なところがあって、被害妄想屋で、多少物事をオーバーに言うぐらいで、基本的にはいい奴だ。 色々おごってくれるし。
S田は、人生を損する方向で生活している。 あれはまだ、僕らの部署が3Fにある時の事だ。 2Fにいる総務の女の子から内線がかかってきた。 どうやら、うちの部署の上司宛てに外線らしい。 総務の女の子は、同じ部署だからということで、S田に応対をお願いしたかったらしいのだが、S田はそれを一蹴した。 「僕も暇人じゃないんで、そっちで応対してください。」 ・・・・・・そんな言い方は無いんじゃないかなぁ・・・・・。 やはり総務の女の子はかなりムッときたらしく、僕宛てにメールが来た。 「ふざけんなぁぁぁぁっっっ!!S田ぁぁぁぁぁっっっっ!!!!こっちだってなぁっ!!遊んでるわけじゃないんだよぉぉぉっっっっ!!(怒)」 怒るのも当然である。 普通、良識ある人間であればそんな言い方はしない。 「すみません、僕ちょっと手が離せないので、そっちで応対してもらっていいですか?」ぐらいソフトに言えばいいものを・・・。 とりあえず、総務の女の子には僕のほうからフォローを入れておいた。 「ま、いつものことと言う事で(苦笑」 フォローになっているかどうかはさておいて。 S田君はいつでも大変だということをアピールしたいらしい。
社内ではS田は「クラッシャー」というニックネームも持っている。 奴が壊したハードは数知れない。 ・・・6台だけど。 内訳としてはWindowsを4台、Macintoshを2台だ。 近日中に3台目のMacを破壊する予定らしい。(S田談) 入社して7〜8年経ってるならそれぐらい壊しても許されるとは思うが、彼はまだ3年目である。 なかなかにハイペースだ。 どうすればあそこまでコンスタントにハードを壊して行けるのかが、僕には皆目見当もつかない。 想像するのも抵抗あるが、天皇一家の夜の生活と同じぐらいわからないものだと思う。
最近になってようやく色気づいたらしく、コンタクトにし髪の色を茶色くしてきた。 異性の目を気にするということに関し、僕は否定しない。 多かれ少なかれ、誰もが意識する部分ではあると思う。 無論、偉そうに語っている僕もそうであるし。 しかし、しかしである。 同じ部署に在籍している僕と、キャラがかぶるとは思わなかったのだろうか。 例えば、クライアントのところに営業さんが話をしに行ったときに、 「ほら、御宅の会社の、○○部の髪の茶色い人が・・・」 と、言われたら、営業さんはどっちの名前を言えば良いか途方にくれてしまい、あまりに困ってしまって、ケープタウンから身投げをしてしまうかもしれない。 僕とS田のせいで、人の命が失われてしまうのは罪悪感がわく為に、最近僕はメガネをかけて、髭も伸ばしてみている。 苦労が絶えない。
S田にまつわる話は、他にもたくさんある。 その全てを今書くとしたら、僕の退社時間が遅くなり、土日もつぶれてしまう事は確実であるし、奴のために時間を割くのは全く以って無益な事であるので、今日のところはこのぐらいにしておこう。 あぁ・・・、S田と別部署だったころが懐かしい。 あの頃に戻りたい・・・・・・。
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