詳しい登場人物と時系列 4

 

 

勇者サツキ

 

勇者ソーマの旅が終わった後、勇者に同行していた元銀竜の銀髪の魔族ジェラグは、その報酬として、永遠に封印を解かれることとなった。

自由の身となったジェラグは、ドラゴンの姿には戻らず、人の姿のまま、魔王となったソーマクルスの側近に納まった。

元々高位の魔物であるドラゴンであったうえに、勇者との冒険を経て、ジェラグの魔力は魔王に次ぐほどの強さとなっていて、魔王の側近としての地位もあり、絶大な権力を手にしていた。

だが、ジェラグは腑抜けていた。

ジェラグは、自分の恋心を持て余していたのだ。

勇者だった頃の魔王に抱いていた淡い恋心は、勇者が神になった瞬間綺麗さっぱりと消えうせた。

神である魔王に、ジェラグは何の想いも沸かなかった。

何しろジェラグは神が大嫌いだったから。

かつては神を憎悪していた。

いつか神を皆殺しにしてやる。そう思っていた。

だが、ソーマと旅を続けるうち、いつのまにか憎悪は風化して消えた。

神への憎悪は消えたが、神が嫌いなことに変わりはなかった。

むしろ、この世界が神の作った空想の産物、箱庭である事を知ってしまったせいで余計神が嫌いになった。

だからソーマへの恋心も、ソーマが神になった途端に跡形もなくなくなった。

ただ、ソーマ自身への畏敬の念からの忠誠心はある。

だからこそ、魔王の側近として忠実でいるのだが、あの旅していた頃がなんとも懐かしくてたまらない。

あの甘酸っぱい、傍にいるだけで心の中に満ちる甘苦しいものを、もう一度味わってみたかった。

人間に化け、世界中探してみても、そんな想いを抱ける人間にも魔族にも出会えない。

伴侶を得ていちゃいちゃしている人間や魔族が妬ましくてたまらない。

考えに考えた挙句、ジェラグは、神の血族である異世界人ならば再び恋心を抱けるに違いない。との結論に行き着く。

新しい神の血族がこの箱庭世界に召喚されたら、神になどさせずにいつまでも自分の手元に置いて愛でよう、と決意する。

だが待てど暮らせど神の血族は堕ちてこない。

どうしたら神の血族は堕ちてくるのかと魔王に聞くと、良くわからん、と答えが返ってくる。

自分にしろ、サクラやハルトにしろ、位置づけこそ神だと言っているが、この世界で本当に神なのはユージだけだ。と魔王は言う。

この世界は創造神ユージーノーがたった一人で作り上げた箱庭だ。

だから創造神ユージーノーはこの世界の唯一無二だ。

その他の神々は、たまたまこの箱庭世界に召喚されただけだ。

この世界に召喚され、けれどこの世界で生まれた命ではないから神となった。ただそれだけのことだ。

召喚された神々の共通点は、全員が創造神ユージーノー、つまり稲生祐士と血の繋がりがあり、現実世界で死んだ者だ。

だが、稲生祐士の血族全てが、死んだら箱庭世界に召喚されるわけではない。

來栖壮磨は死の瞬間に生への執着を叫んでこの世界に召喚された。

しかし、死にたくないと叫びながら死んでいった血族など、來栖壮磨の他にもたくさんいただろう。

何らかの原因があって來栖壮磨の叫びは箱庭世界へ届いた。

だから箱庭世界へ召喚された。

魔王は、その何らかの原因は、確定要素ではなく、運と偶然によるものだと考えていた。

來栖壮磨で既に稲生祐士から数えて4世代になる。

現実世界と箱庭世界の時間の進み方は違うから、恐らく今は6世代めか7世代めか、或いはそれ以上になっているだろう。

稲生祐士の血族とはいっても稲生祐士自身に子はいなかったから、來栖壮磨は稲生祐士の兄の子孫だし、倉内咲良と倉内春斗は稲生祐士の妹の子孫だ。

傍系であっても血族でさえあればいいのなら、7世代もたっていたら子孫の数はまず間違いなく100人を超えるはずだ。

稲生祐士の子孫が現実世界で何人存命しているのか知らないが、箱庭世界へ召喚された死者は創造神を除けば、倉内咲良と倉内春斗と来栖壮磨の三人だけだ。

次の神がいつ召喚されるのか、それは創造神にもわからないだろう。

明日にでも召喚されるかもしれないし、千年待っても召喚されないかもしれない。

それにな、ジェラグ。お前は神を嫌っているが、神はこの世界に来た時点で既に神だ。

お前は旅を終えて俺が神になったと思っているのかもしれないが、それは違う。

俺はこの世界に来た時点で既に神だった。

お前と旅をする前から既に神だったんだ。

例えサクラとハルトに教えられなくても、俺は自分で自分が神だと気が付いたろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

魔王の言葉を聞いたジェラグは考え込んだ。

神の血族が召喚されるのは偶然の産物だ。

いつ堕ちてくるとも知れぬ神を待つだけなのは性に合わない。

ならばこちらから迎えに行けばいいのではないか?

待てぬのならば迎えに行けばいい。ジェラグはそう思った。

死に瀕しているが生に執着のある神の血族がいれば召喚の条件は整う。残るはあと一つの何がしかの偶発的要因。

神の血族の魂は、通常は現実世界の輪廻の輪の中に正しく組み込まれている。

それが、恐らくは偶然に、神の血族の魂と箱庭世界とのチューニングがかみ合ったときに、箱庭世界に魂の声が聞こえてくる。

箱庭世界の神々は、その声を頼りに魂に手を差し伸べる。

そうするとその魂は現実世界の輪廻の輪からはずれ、箱庭世界に堕ちてくる。

思うに、神の血族の魂とは、元々その性質が輪廻の輪から外れやすいのではないか?

だからそこから外れたい願望と、外的要因でたやすくその軛から逃れる。

そして同族が作ったからこそ親和性のあるこの世界に吸い寄せられる。

ならば逆も可能なのではないか。

死に逝く神の血族の魂に、こちらの声が届けば、彼らの魂は自然にこちら側に滑り落ちてくるはずだ。

語りかけるのは勿論ジェラグだ。

ジェラグの声に答えて堕ちてくる魂。

それはまさに運命の相手に相違ない。

問題は、神でもないジェラグが、どうやってこの箱庭世界から現実世界に声を届けるかだった。

幸いにしてジェラグはこの箱庭世界唯一のシルバードラゴンだった。

ドラゴンは他にいても、ジェラグの特性を持ったドラゴンは他に一つもいなかった。

何故なら、命を持った箱庭世界が自然発生的に生み出した生き物たちと違って、ジェラグだけは神が自ら作り上げたドラゴンだったから。

ジェラグはサクラクラーチがハルトクラーチにその命を討たせるために、この世界のどの生き物よりも強く、人間には決して傷つけられず、けれど異世界の魂を持つ者からだけは殺される、という特性を持っていた。

ジェラグは、この世界の生き物の中で、唯一、神でないと殺せない。

ならば、ジェラグはこの世界の生き物の中で一番神に近いともいえる。

実際、ジェラグの魔力はこの世界の誰よりも桁違いだ。

神がこの世界に対して干渉する事象のほとんどは、ジェラグにも真似することができる。

この世界の生き物に殺すことはできない、という制約をされたために、ジェラグの寿命は制限がない。

恐らく神と等しい時間を生きることができる。

しかも、神ならば殺せる、としたその命も、実際にはハルトクラーチに斬られた直後にユージーノーが救い上げてしまったために、神に殺されてはいない。

この時点で“神ですらその命を殺せない”という事実が出来上がってしまっている。

この膨大な魔力で箱庭世界の外側に干渉できないだろうか。

いや、干渉などしなくていい。声だけ届けばいいのだ。

それだけで必ず神の血族は箱庭世界に召喚される。

こちら側に反応した魂を、箱庭世界の神々は放っては置けないからだ。

確証はなかったがやってみる価値はあった。

とはいえ、神に似て非なるジェラグには、まだまだ魔力が足りない。

“外側”に声を届けるにはもっともっと魔力が必要だった。

だが、もしも私欲のために箱庭世界の生き物達を大量虐殺してその魔力を奪えば、いかなジェラグといえども神は再び、今度は永遠に、その命を封じてしまうだろう。

ジェラグは生き物から生き物の同意を得てその魔力を吸い上げなければならない。

早速ジェラグは、神官に化けてある国に潜り込んだ。

その国の名はヴィレイデス帝国。

ハルトクラーチがハルトアル・カレイザートだった頃は、広大な国土を誇っていた国だった。

それが、勇者ハルトに世界が救われた後、その勇者を擁したイルトシェル王国に攻め込まれ、今やかつての王都の部分のみが国土として残された、帝国とは名ばかりの国だった。

ヴィレイデス帝国は、勇者ハルトの時代から千年以上もたつというのに、未だにかつての栄華にしがみつき、攻め込んできたイルトシェル王国を恨み、大国のプライドを捨てきれずにいた。

神官となったジェラグは、ヴィレイデス帝国の皇帝にこう囁いたのだ。今こそ魔王を討つために我が国で勇者を召喚しましょう。と。

千年前のイルトシェル王国のように、我がヴィレイデス帝国から勇者が出れば、帝国もかつての威光を取り戻すはず。と。

皇帝はまんまとその甘言に乗った。

ジェラグの言に従って国の内外を問わず高い魔力を有する者が神官として集められた。

ジェラグがこの国に狙いをつけたのは、皇帝の心の闇を巧みに操りやすかったのと、もう一つ、ヴィレイデス帝国の背後に聳え立つ霊峰にあった。

その山は、かつて勇者ハルトが消息を絶ち、それを偲んで神殿が建てられた山だった。

この山こそ、この箱庭世界随一の聖域だった。

勇者ハルトが消息を絶った、つまり、まさしく軍神ハルトクラーチが生まれたこの地は、実は勇者ソーマが召喚された土地でもあった。

更には、女神サクラクラーチが召喚された土地でもあり、創造神ユージーノーが作り上げた空想の箱庭世界の中で、最初に本当の命を芽吹いた場所でもあったのだ。

この山は、イルトシェル王国に攻め込まれるまではヴィレイデス帝国の領土だった。

それが、戦争によってイルトシェル王国の領土となり、そして、勇者が昇天した事でどこの国の領土でもない、という事になった。

この山には、千年前、勇者ハルトの神殿が建てられた。

そして、勇者ハルトが軍神ハルトクラーチとなったことで、女神サクラクラーチと合祀された。

しかしその後、神殿は人の手が入らないまま朽ちた。

何故なら、神殿に使う建築資材を、この山に面しているヴィレイデス帝国から調達できなかったからだ。

世界の中でヴィレイデス帝国だけは、勇者ハルトを、国に攻め込んできた悪魔として忌み嫌っていた。

ヴィレイデス帝国内にハルトクラーチを祀る神殿は一つもなく、神殿に協力する職人もいなかった。

他国から資材を運ぶのは、あまりに莫大な資金がかかったのだ。

そして山の神殿には人の手が入らなくなり、千年もの間、神殿は放置された。

だがこれは、ジェラグには僥倖だった。

人に汚されていなかったため、聖地はその地脈になみなみと霊力を蓄えていたのだ。

ジェラグは山の麓に拝殿を作って、そこに神官達を集めた。

それから魔王の国に戻り、魔王の血を一滴もらってきた。

魔王は、ジェラグのやっていることには気がついていたが、何しろ何事も面白がるタチなので、静観の構えを崩さず、ジェラグが血をねだったときも快くそれをくれてやった。

そして、その魔王の血を媒介として、神官達の魔力と聖地の霊力、それにジェラグ自身の魔力を総動員して、ジェラグはついに箱庭世界に小さな穴を開けた。

それはごくごく小さな穴で、しかも一秒にも満たないほどの刹那の時間だったが、ジェラグには充分だった。

その瞬間、果たして神の血族は箱庭世界へと滑り落ちてきたのだから。

稲生颯輝はごく一般的な家庭に育ったごく普通の高校生だった。

 

 

 

 

 

 

 

だから、その命を掬い上げた瞬間、大神官は神に怒鳴った。体をくれ、と。

もちろん四代は全てを見ていた。

銀髪の側近が自分を討とうと画策してるならそれもいいかなとか思っていた。何事も、あるがまま。

だから、銀髪の側近が自分の血族を掬い上げ、体をくれと懇願したときも、迷わずその魂に生前と変わらぬ体を作ってやった。

はたして大神官が拾い上げたのは、四代目に良く似た少年だった。

喜びのあまり、ちょっとおかしくなる大神官。

かくして、変なところにスイッチの入った大神官を連れて、少年は勇者として魔王討伐の旅に出ることになったのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

普通の家庭に育った普通の少年だが、同性愛者であることが家族バレし、自殺する。

その瞬間、箱庭世界に召喚され、銀髪の変態に付きまとわれることとなる。

 

2015/10/15


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