詳しい登場人物と時系列 4
魔王ソーマクルス
- 本名/來栖壮磨(くるすそうま)
- 勇者ソーマ
- 現在のところ、神とは呼ばれていない神。
- 稲生祐士の兄のひ孫に当たる。
- 稲生祐士の兄には四人の息子がいる。
- このうち長男は二男五女に恵まれている。
- 六番目に生まれた次男の子が壮磨。
- 倉内咲良の父の従兄弟の孫に当たる。
- 倉内春斗の祖父の従姉妹の孫に当たる。
- 稲生祐士の兄の男系なので、本来ならば稲生姓だが、幼い頃に父母が離婚し、母が再婚したために來栖姓となっている。
- 壮磨は、病弱な稲生祐士とも、虐待された倉内咲良とも、生まれなかったハルトアル・カレイザートとも違っていた。
- 時はバブル景気真っ只中、彼は裕福な家庭に生れ、健康に育ち、友達もいて、恋人もいた。
- 恵まれた体躯と優れた頭脳、整った容貌を持ち、それゆえにプライドも高く、少々傲慢さが見え隠れしていたものの、それもまた彼を魅力的に見せていた。
- 順風満帆といえる人生を歩んでいた壮磨を、死の臭いが包んだのは突然だった。
- 仕事からの帰り道、壮磨の乗ったバイクが乗用車と接触したのだ。
- 壮磨はバイクから投げ出され、地面に叩きつけられた。
- 一命は取り留めたが、その事故は壮磨から全てを奪った。
- 地面に叩きつけられた際、脊髄を損傷し、壮磨は自分の意思では指一本動かすことができなくなったのだ。
- 意識ははっきりしていた。耳もよく聞こえていた。だが、自分の力では瞼一つ動かせず、呼吸すらままならなかった。
- 最初はひっきりなしに見舞いに来ていた恋人も友人も、やがて来なくなった。
- 壮磨の回復を祈っていた家族の声も、いつしか諦めの声に変わった。
- さっさと死ねばいいのに。そんな囁きが聞こえたこともあった。
- 壮磨は誰にも聞こえぬ声で慟哭した。
- その慟哭の声なき声が、箱庭の神々に届いたのだ。
- そして壮磨の生命維持装置が外される瞬間、その魂は箱庭世界に召喚された。
- 享年23(歳)。
- 三人の神々は、自分達の誰とも違う、壮磨の、生命力に満ち溢れた雄々しく瑞々しい魂に魅せられた。
- しかも、壮磨の持つ記憶は、箱庭世界の神々を驚愕と感嘆に包んだ。
- ユージーノーとサクラクラーチは現代日本の変わりように、ハルトクラーチは知ることのなかった異世界に、目を丸くした。
- 壮磨の記憶の中に、TVゲーム、というものがあった。
- それは壮磨の世界で流行っていた大衆娯楽で、RPGと呼ばれるジャンルのとあるシリーズが絶大な人気を誇っていた。
- 当然、壮磨もそれを夢中になってプレイし、裏技小ネタに至るまでやりこんでいた。
- ハルトクラーチはそれがなんだか自分の巡礼の旅に似ている、と思った。
- そして、召喚されて間もない魂に、いきなり神だと告げる前に、壮磨にこれと同じ体験をさせてみてはどうだろう、と二人の神々に提案した。
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- そして、この若者を神としてではなく、人間として見てみたい、と、神々は思った。
- 箱庭世界の神々は、壮磨を、神としてではなく勇者として召喚した。
- 生前の壮磨の肉体は既に現実世界に置いてきてあるから、サクラクラーチとハルトクラーチは、精巧な人型の器を、壮磨の生前の、事故に合う前の健全な肉体そっくりに作り、そこに召喚した魂を入れた。
- そして、サクラクラーチとハルトクラーチは架空の国をこしらえてその国の王と王妃となり、異世界からの勇者として召喚された壮磨に、“魔王”の討伐を依頼した。
- ちょうどドラクエ世代ど真ん中の壮磨は、その依頼を快諾し、勇者として冒険の旅に出た。
- 王と王妃という役になりきった二人の神は、子供のようにはしゃいでいた。
- いつもなら大気に溶けているユージーノーも、二人に感化されてか、壮磨の旅の手助けに、一人の魔族をつけることにした。
- 長い銀髪が美しいその魔族は、元々、勇者ハルトに討たせるためにサクラクラーチが生み出した銀のドラゴンだった。
- 神の身勝手で強大な力を与えられて生み出され、神の身勝手によって勇者に討たれた銀竜を、ユージーノーは消滅させずに封じるだけにとどめていたのだ。
- ユージーノはその銀竜に人の姿を与え、封印からの解除と引き換えに、勇者の仲間となる事を命じた。
- 銀髪の魔族ジェラグは、内心では神への復讐を誓いながら、表面では神の依頼を引き受けた。
- そして、勇者ソーマの旅は始まった。
- 勇者ソーマの旅は、勇者ハルトの旅とはまるで違っていた。
- ソーマは冒険に使命感も悲壮感もなく、急いでも焦ってもいなかった。
- 現実世界でのソーマは、大学を優秀な成績で卒業し、既に成人も過ぎていた。
- 豊かな時代に豊かな生活を経験し、その一方で絶望のどん底も味わっていた。
- つまり、ソーマはこの箱庭世界に来た時点で、既に一個人をしっかりと確立するだけのアイデンティティを持っていた人間だったのである。
- だからソーマは、王と王妃の依頼を鵜呑みにはしなかった。
- この箱庭世界のありようと、自分の力量を、実に冷静に見極めようとしていた。
- それは、まさに、RPGのやりこみプレイにも等しかった。
- ソーマは、最初のうち、はじまりの架空の国からなかなか離れなかった。
- そこを拠点として西へ行っては戻り、東へ行っては戻りを繰り返した。
- もどかしくなったジェラグが先を急ごうと促しても、ソーマは拠点を動かなかった。
- ソーマはすぐに、この“国”がおかしいことに気が付いた。
- ソーマが旅立つのに間に合わせればいい、と、サクラクラーチとハルトクラーチが急ごしらえをした“国”は、山の中の神殿の遺跡を城に装っただけのものだったからだ。
- 城だけがあり、都も人もいない“国”の不自然さを、ソーマは不審に思ったが、それを口にすることはなく、納得がいくまで“国”に滞在を続けた。
- やっと次の国へと歩き出しても、ソーマは急ぐ様子を見せなかった。
- 現実世界の記憶を持ち、箱庭世界の常識に囚われていなかったソーマは、本当に“魔王”が“悪”なのか、自分の目で確かめようとしていた。
- 勇者だと喧伝することもなく、路銀がなくなれば立ち寄った町で働いて金を稼いだ。
- 現実世界での生前、人に対して傲慢だったソーマは、その傲慢さは変わらず持ちつつも、行く先々の町や村で魔物退治から害虫駆除まで、どんな無茶な依頼にも気さくに答えた。
- 大学時代にありとあらゆるバイトを経験していたソーマは、様々な職業を器用にこなし、特に酒場や食堂での仕事は手馴れたものだった。
- 何一つ職を得られなかったときは、ソーマがギターを弾いて、ジェラグに踊らせた事すらあった。
- 最初は戸惑っていたジェラグだったが、やがて、ソーマと共に旅を楽しむ事を覚え始めた。
- ソーマは生まれ変わって取り戻した健康な体が楽しくて仕方ないようで、魔王討伐という目的を持ちながらも、それだけを目指すのではなく、世界中を旅して回った。
- 何年も何年もかけ、ソーマ達は旅を続けた。
- わざと魔王がいるという国へ行くルートを通らず、遠回りすることもしばしばだった。
- 勇者というより吟遊詩人の旅のようだった。
- 相変わらず勇者と名乗りもしなかったので、誰もソーマを勇者だとは気が付かなかった。
- やがて、恋という感情を知らなかったジェラグはソーマに恋心を抱くようになる。
- 一方、ソーマは、自分の体が歳をとらないことに気が付いた。
- 箱庭世界でのソーマの肉体は、生前の姿にそっくりだったが、神の作った人型であるために歳も取らず、髪も髭も爪も伸びなかった。
- しかも、サクラクラーチとハルトクラーチが丁寧に精巧に作り上げた器は、普通の人間の肉体よりも傷つきにくく、疲れにくく、怪我の治りも早く、丈夫だった。
- 歳をとらないと知ったソーマの旅は、ますますゆっくりになった。
- 歳をとらない体のまま、数十年も冒険に冒険を重ねたソーマは、いつしか、ゲーム世界で言うところのLv.99、つまりカンストしていた。
- もはや箱庭世界にソーマが行った事のない国などなく、この世にソーマよりも強い者などなくなって、ソーマはようやく魔王の城に向かった。
- 魔王の城でソーマ達を出迎えたのは、ハルトクラーチとサクラクラーチの二人の神だった。
- ユージーノーもその場にいたのだが、人の姿を取らない創造神は、ソーマの目には映らなかった。
- ソーマは二人の神々が遥か昔に自分に魔王討伐を依頼した王と王妃だとすぐに気づいた。
- 王と王妃は、あれから百年近い時を経ていたというのに少しも歳をとった様子がなかった。
- ソーマは直感的に、“自分”と目の前の“神”は同質のものだと見て取った。
- だから、神々がネタバラシをしても、ソーマはさほど驚かなかった。
- 長い長い旅の間に、ソーマは薄々、真実に気が付いてもいたのだ。
- 笑みと共に真実を受け入れたソーマに、神々は、ソーマもまた神となる者である事を告げる。
- ソーマは何一つ拒むことなく、全てを受け入れた。
- それらを全て許容するだけの経験値を備えていたからだった。
- それほどに長い間、ソーマは旅を続けたのだった。
- 神であることを受け入れたソーマは、だが、その後も他の神々のように意識体になったり新しい人型に宿って新たな人生を楽しんでみたりすることはなかった。
- 最初にサクラクラーチとハルトクラーチが作ってくれた來栖壮磨の姿のまま、再び世界を放浪した。
- ソーマは、滅多にその神としての力を使わなかった。
- 貧しい国や独裁者の国も見て回ったが、人間としてその改善に尽力はしても、神としての超越した力を振るうことはなかった。
- ソーマは、人間は人間によって救済されるべきだと考えていた。
- 神の力になど、人は頼るべきではないと。
- だが、神に作られた完璧な肉体を持ち、レベルカンストしているソーマは、神の姿にならずとも、もはや人とはかけ離れた存在となっていた。
- 人の姿をとっていても、誰が見ても人間とは異質の存在にしか見えないのだ。
- どうにも市井に紛れて生活するのは無理だ、と悟ったソーマは、暮らせる国がないのなら自分の国を作ればいい、と考えた。
- ソーマは、サクラクラーチとハルトクラーチが「魔王の城」と定めた土地に、本当に魔王の城と国を作った。
- すると、ソーマを慕って付いてきた人間や魔物たちもその地で暮らすようになった。
- それらは、自然と、ソーマと同じく、市井に紛れて暮らすことのできないはぐれ者達が多かった。
- 突出した才能のせいでうまく人と関われない者、魔物と結ばれた人間、肉親同志で結ばれた恋人達、人間を襲いたくない魔物、そんな者達を、ソーマは全て受け入れた。
- 行き場のない者達を守るために、国の周りには結界を張って余人が立ち入れぬようにした。
- ただ、ひたすらにこの国に救済を求める者にのみ、結界はその門戸を開いた。
- その国では、魔族も魔物も人間も、全て等しく同じ命だった。
- はぐれ者達の楽園は、秩序ある人間から見たら魔窟だった。
- そんな魔物達の国を統べるのは魔王に違いない、と、人々は囁きあった。
- いつしか、誰からともなく、ソーマは魔王ソーマクルスと呼ばれるようになった。
- ソーマクルス自身ものりのりで魔王様をやっている。
- 箱庭世界の神々の中で唯一、神と呼ばれていない神であり、唯一、神としての形態もとったことのない神。
- 基本的に常に來栖壮磨の姿のまま過ごしていて、意識体だけになることは滅多にない。
- 旅を始めた当初は生前の來栖壮磨と寸分違わない肉体だったが、レベルが上がっていくにつれ、強くなっていく魂の霊力に合わせて、器も少しずつ魂を収めやすいように変容しているため、歳は取らないが成長と言っていい変化をしていて、現在では生前よりも大柄になっている。ちんこもでかくなっている。
- 写し身といえどカンストしているので写し身のままで神の力を使うことができ、写し身でも無敵。
- その弊害で人間と性行為ができないのが悩み。
- 精液にも多量の魔力(神力)が含まれているため、人間どころか魔物ですら射精の瞬間に浄化・消滅してしまう。
- 同じ神々であるユージーノー、サクラクラーチ、ハルトクラーチが相手なら性行為が可能と思われるが、ユージーノーは人型をとらず、サクラクラーチは性的なことに拒否があり、ハルトクラーチはサクラクラーチを愛しているため、誰も相手にしてくれない。
- 同じ異世界人である颯輝も性交可能と思われるが、颯輝はジェラグがモノにしたため相手にはできない。
- もしかしたら元ドラゴンのジェラグも性交可能かもしれないが、勇者だった頃ならともかく、神となったソーマとの性交をジェラグが承知するはずもなく、また、どちらもタチであるという障害もある。
- かくして魔王様は、現在、常に欲求不満である。
2015/11/05
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