AFTER BATHING


ぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺた

ぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺた

「………………………………………………………………………クローディア。」

何度目かのぺたぺたが目の前を通り過ぎた時、グレイはさすがに音の主を呼び止めた。

クローディアが、なに?という風に振り返り、小首をかしげる。

「………なんか着ろ。」

苦虫を噛み潰しきって飲み込んだような顔で言うグレイ。

きょとんとしているクローディア。

全裸だった。

クローディアは、風呂から上がった後、全裸のまま部屋を歩き回っていたのだ。

やがて、その顔は柔らかく破顔すると、

「別に寒くないよ?」

と言い、また、ぺたぺたと裸足の音をさせて歩いていく。

バスルームへ行き、先刻、入浴のついでに洗っておいた服を持ってくると、再びぺたぺたとグレイの前を通り過ぎ、部屋の一角にそれを干す、という事を繰り返している。

寒いとか寒くないとかそういう事じゃねぇ!と、怒鳴りたくなる気持ちを、グレイはかろうじて抑えた。

頭を抱えて、窓辺の椅子にどっかりと座り込む。

窓のカーテンは当然閉めてある。

が、どんな不埒な輩がいないとも限らない。

ほんの少し部屋を覗かれでもしたらと思うと、気が気ではない。

窓の傍は死守しなければ。

一方でドアからの来客も気になる。

何度も何度も部屋のドアに目がいく。

大丈夫だ。鍵はかかってる。

分かってるのについ何度も見てしまう。

 

クローディアはグレイのそんな挙動には気づかず、せっせと洗濯物を干している。

…………裸のまま。

 

クローディアと体を交わすようになってもうだいぶ経つが、さすがにこうあけっぴろげだと、目のやり場に困る。

 

いったいどーゆー育てられ方をしたんだ。

分かりきっているくせに、そんな問いが頭を掠める。

…………………………こういう育てられ方だ。

 

グレイはため息をついた。

 

決まり事として、表へ出る時は服を身に付けなければならない、と、認識してはいるようであったが、クローディアが衣服を煩わしいと内心思っていることは明白で、こうして宿の部屋に入ると、クローディアは嬉々として服を脱ぎ捨ててしまう。

迷いの森でどんな風に暮らしてきたか、目に浮かぶようだ。

森の動物達は誰一人として衣服など身につけていないのに、何故自分一人だけが衣服を纏わねばならないのか、納得できないらしかった。

オウルは一体どんなつもりで、この娘をこんな風に、無垢なまま育ててしまったのだろう。

グレイは、オウルが実際には人々に噂されるような魔女などではなく、森の神シリルを崇拝する集団の大司教である事を知っていた。

だから、クローディアがオウルに育てられた、と知った時も、てっきりシリルの神官として育てているのだと思った。

だが、すぐにその考えは払拭された。

シリルの神官は肉類を一切口にしないが、クローディアは肉でも魚でも好き嫌いなく良く食べる。

オウルがクローディアに跡を継がせようと思っていなかった事は明らかだった。

その後、クローディアがバファル皇帝の皇女だと知ったが、では、オウルがゆくゆくはクローディアをバファルへ返そうと思っていたかというと、それもまた疑問が残る。

権謀術数が渦巻く宮中に返すつもりでいたのなら、こんな風に無防備には育てないだろう。

ましてや、クローディアのこの、他人とのコミュニケーションの下手さは、人の上に立とうとする者にとって致命的なはずだ。

そのくせ、クローディアのテーブルマナーは完璧だった。

言葉も、完璧な標準語でバファルの訛りはない。

以前、オウルの臨終に立ち会った時は、オウルの話す言葉にはバファルの訛りがあったから、オウルは、意識してクローディアの言葉から訛りを消したのだろう。

確かに、訛りはない方が、旅には何かと都合がいい事が多い。

テーブルマナーも、旅には必要なものだ。

クローディアの無垢な魂も、無防備ではあるが、それゆえ、先入観もなく、偏見もない。

食べ物の好き嫌いがない、と言う事に関しては、何をか言わんや、である。

…とすると、オウルは、最初からクローディアを「旅」に出すために育てたのだろうか。

────何のために?

 

グレイは、心の中にゆっくりと浮上してきた、一つの考えに、そっと目を閉じ、唇をかみ締めた。

 

ふぅ…、と、小さくため息をついて、ふと、クローディアに視線を戻す。

クローディアは、こちらに丸い尻を向けて、ベッドのシーツを直していた。

相変わらず一糸纏わぬ姿だ。

折れそうなほどに華奢なくせに、柔らかな筋肉がちゃんとついていて、まるで、それこそ野山を駆ける白鹿のように美しい。

グレイが抱くようになってから、その肌はしっとりと潤いを増し、丸みを帯びてきて、このところ、とみに色っぽくなってきたように思う。

旅を始めた当初のような、どこか人に怯えているようなおどおどとした目つきも、最近ではすっかりなくなって、人前でも屈託なく笑うようになった。

少女のようにあどけなく笑うかと思えば、見ているこちらが、どきりとさせられるような、艶かしい表情をする時もある。

パブで食事をしているときなど、グレイが横にいるにもかかわらず、声を掛けてこようとするつわものすらいる。

もっとも、クローディア自身がそれと気づかない事と、その後のグレイの一睨みで、大概は逃げていくのだが…。

 

グレイの目の前で、クローディアの丸い尻が揺れている。

まるで男を誘っているかのようだ。

クローディア本人は、自分のそんな姿が、どう映るかなど、まるで頓着していないに違いない。

全く…。

犯すぞ、この野郎、と思った瞬間、椅子から立ち上がっていた。

シャツのボタンを外しながら、クローディアに近づく。

「服、着ろって。クローディア。」

声を掛けると、クローディアは振り向きもせず、

「んー? お部屋あったかいよー?」

と、答えた。

「そうじゃなくてさ。」

言いながら、クローディアの背中を抱きしめる。

途端に、クローディアの体が、びくん、と震えた。

「こうなるから着ろって言ってるの。」

クローディアの剥き出しの尻に、グレイは、硬く屹立した股間を押し当てた。

「………………ぁっ………!」

クローディアが微かに声を上げた。

抱きしめたクローディアの体が、瞬く間にかぁっと熱くなる。

グレイの手が後ろから回りこみ、クローディアの乳房を鷲掴みにする。

「きゃ…っ…」

クローディアが思わず、たった今 自分で整えたばかりのシーツを、強く握り締めた。

「き…着る…からっ…! お洋…服、着る…からぁ…、や…め…」

「遅いな。もう止まらん。」

乳房を鷲掴みにしたまま、指で、乳首の先をくりくりと撫ぜる。

「あ、あ… やっ…!」

「やじゃないだろ? こんなに硬く尖らせて。」

言いながら、乳首を摘み上げて、少し強く捻り上げる。

「ひゃああっ…!」

クローディアの太股を撫ぜていたグレイのもう片方の手が、するりと内股に滑り込む。

「く…、ふ、…っ…。」

「ほら…こんなに濡れてる…。」

「言…わないで…ぇっ…!」

グレイの指が、クローディアの秘裂を弄ぶ。

「や…やめ… あ…ふ…っ…」

グレイの指が触れるだけで、そこは、ひくひくと淫靡に蠢く。

「俺の指に吸い付いてきてる。もう挿れてほしいのか?」

グレイがわざと音を立てるように蜜壺をかき混ぜると、くちゅっ…くちゅっ…という濡れた音がした。

「…や…ぁっ……」

甘い声で淫らに囁かれ、卑猥な音を聞かされ、まるで耳からも犯されているようだ。

クローディアは耐え切れずに膝から崩れ落ちる。

それを、グレイがすばやく抱え止めた。

二人の腰が密着する。

尻に当たる硬い感触が、服越しのそれではなく、いつの間にかグレイ自身の肌の感触になっている事に気がついて、クローディアの動悸が早くなる。

グレイは、もうすっかり力が抜けてしまっているクローディアの片足をベッドの上に膝立たせ、大きく開かせる。

熱い塊が体を割り広げて侵入してくる感覚に、クローディアはのけぞった。

「ッあ ぁああ… ッ…!」

背中を、甘い痺れが突き抜ける。

グレイは、クローディアの腰を掴んで、激しく抽迭を開始する。

ちゅぷ… ちゅぱん ちゅぱんっ ちゅぱんっ

熱い塊が濡れた秘肉をかき混ぜる音と、激しく腰を打ちつける音が室内に響く。

「ひ… あ あんっ あっ はぁっ んんっ…」

奥深くまで貫かれるたびに、目の奥に銀の光がフラッシュのように瞬く。

徐々にベッドに倒れこむクローディア。

その体を、一旦抱えなおして、グレイは、そっと囁いた。

「クローディア…。前を見な…」

体の向きを少しずらされる。

クローディアが訝しげに目を向けたそこに、身支度用の大きな鏡があった。

「────ッッッ!」

鏡に、見た事もない自分が映っていた。

「い、いや…っ…!」

「いやじゃないだろ? 見るんだ。どんなお前が映ってる?」

髪を振り乱して、上気した頬で、うっとりと混濁した目で、腰を振っている淫らな自分の姿。

グレイが突き上げるたび、柔らかな乳房は体の動きに合わせて揺れる。

「や…だあっ…!」

視線をそらし、逃れようとするクローディアの顔を、グレイは顎を掴んで向き直させ、クローディアの足を鏡の前で大きく広げた。

クローディアが目を見開く。

クローディアの秘裂に、グレイの剛直が深々と突き刺さっているのがはっきりと見えた。

初めて見るそこは、鮮やかな桃色をしていて、ひくひくと蠢きながら、グレイのモノを呑みこんでいた。

グレイが剛直をゆっくりと引き抜くと、ぬらぬらと蜜が輝きながら滴り落ちる。

一瞬の間があって、グレイの剛直は、すぐにまた、ずぶずぶと秘裂の中に埋まっていく。

同時に、クローディアの背筋をぞくぞくと快感の震えが駆けた。

「あ… あ… やぁっ…!」

クローディアが、恥ずかしさのあまり身をよじる。

「み…見ちゃ…だ…だめ…」

「どうして? すごく綺麗だよ。」

「う…そ…っ …あっ…!」

「嘘じゃないよ。すごくいやらしくて綺麗。」

「いや… い… あっ… っあ… く… あぅ… ん…。」

グレイが言葉で嬲るたび、羞恥にクローディアの腰がくねる。

「グ…レ…イ… もぉ… ああぁあぁっ…!」

不意に、クローディアの体が、限界まで反り返ったかと思うと、一瞬、内壁がびくびくと痙攣し、グレイを強く締め付けた。

そのまま、クローディアの体は急激に力を失って、前へと倒れこむ。

はぁはぁと肩で息をしながら、うつ伏せたままのクローディアの腰を、グレイが、掴んでぐいっと引き寄せる。

「ひっ…あああぁああああぁあああぁぁぁっ」

達してしまって、全身が、まるで神経が剥き出しになったかと思うほど過敏になってしまっているところへ、容赦なく剛直を捻じ込まれ、クローディアはあられもなく悲鳴をあげた。

間断なくひくつくクローディアのなかは、すぐにグレイを絶頂に導いた。

どくっ どくっ どくっ

グレイが熱い精が、クローディアの一番深いところに迸るのを感じながら、クローディアは再び絶頂を迎えていた…。

 

◇ ◆ ◇

 

疲れて眠り込んでしまったクローディアを見下ろしながら、グレイはぼんやりと考え事をしていた。

先刻も考えていた事。

そう、それは…このところ、とみに感じるようになった事だった。

 

オウルは、最初からクローディアを「旅」に出すために育てていた…。

シリルの神官にするでなく。

バファルの王位を継がせるでなく。

 

────何のために?

 

…邪神サルーインを、阻止するために。

 

当初、特に目的もなく始まったはずの旅が、この頃、はっきりと、復活を遂げようとするサルーインを再び封印する為の旅へと変わりつつあった。

確かに己で考え、己の判断で行動してきたはずなのに、まるで何かに導かれるかのように、自分達はサルーインへと目指している。

グレイはそこに、何者かの意志を感じずにはいられなかった。

正直に言えば、グレイは、この世界がどうなろうと、さほど気にはならなかった。

むしろ、心の奥底では、サルーインが作るという暗黒の世界に密かに惹かれる気持ちがないでもなかった。

滅びる世界が見てみたいという禁断の誘惑にかられそうな自分も、どこかにいる。

だが、クローディアが。

クローディアが、この世界を愛していた。

クローディアは、誰の為でもなく、ただ愛しているこの世界を守りたいが為だけに、危険を冒して旅を続けている。

いじらしいと思う。

支えてやりたいと思う。

しかし、それには、命をかけることになるだろう事も、グレイは十分承知していた。

────いいさ。

と、グレイは思う。

こいつの笑顔を見るためなら、なんだってやってやる。

サルーインを倒せというなら、倒してやるさ。

そのために死んだとしても、構わないような気がした。

むしろ、死んだ己の体をかき抱いて落涙するクローディアの姿を想像すれば、死は甘美だとさえ思えた。

クローディアの寝顔を見下ろす。

 

女一人のためだけに命をかける…。

そんな生き方も悪くない…。

グレイの口元に、微笑みが浮かんでいた。

END.


◆◆ あとがき ◆◆

くりはぜりさんから頂いたイラストにつけたSSに、ちょっと加筆したものです。
このページで作中に使っているイラストは、
頂いたイラストを色調反転させたものです。
イラストをクリックすると、GALLERYページに飛びます。
くりはぜりさんから頂いたオリジナルのイラストの美しさをご堪能ください。




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