side B
「……………!」
「────」
アルベルトは、人の話し声の気配に、布団の中で目を覚ました。
こんな夜中に何だろう…、と訝しく思いながら。
次の瞬間、
「ああぁあぁぁっ…!」
嬌声が、アルベルトの耳を打った。
────ク──…クローディア!?
「あ… あっん… ああ…」
声の主とその声の響きの意味に気づき、アルベルトは愕然とした。
瞬く間にかあっと頬が熱くなる。
「いや… あ… んんっ… はぅ…っん…」
バ…バカ、グレイ、こんなところで…………!
グレイとクローディアが恋人同士なのは知っていた。
だから、その時、アルベルトの頭に咄嗟に浮かんだのは、皆が寝静まったのを見計らって、恋人達が密かに睦んでいるのでは、という事だった。
「あっ… あ あ …ぅ… あふ…」
そんなところを見てはいけない…。
だ、だから…! こんな雑魚寝の宿じゃなく、ちゃんと個別に部屋の取れるところへ行こうと言ったのに…。
他のみんなが起きたらどうするんだ…!
「ひぁ…っ! ああっ… あっ… んー…っ!」
アルベルトは布団を目深にかぶり、無理にでも眠ってしまおうとした。
その時だった。
「口を開けな、お姫様。」
男の声がした。
グレイの声ではなかった。
グレイの親友の…ガラハドの、声。
「ん… んくっ…」
アルベルトの全身が凍る。
冷たい汗が、どっと噴き出してきた。
────ど、どういう事だ…?
クローディアが…ガラハドと…?
「んふ… あ、あん… は…」
あのクローディアが、恋人ではない男に抱かれている?
アルベルトは、そっと布団から顔を上げ、声の方を見た。
そして、眼前の光景に、驚愕した。
闇の中に浮かんだ、クローディアの白い裸身。
服は破かれ、後ろ手に縛られている。
露になった乳房を弄ぶ、男達の手。
仰臥した男の禍々しく屹立したモノが、その裸身を串刺しにしていた。
無理矢理の凶行かと、気色ばんだアルベルトは、次の瞬間、陵辱者たちの正体に気づき、愕然とした。
クローディアに己の剛直を咥えさせながらその乳房を弄んでいるのはガラハド。
仰臥し、クローディアを上に跨らせて犯しているのはホーク。
そして、その傍らには、他でもない、グレイの姿があった。
────な…! ど…どうして…!?
恋人なのに、どうして。
驚愕のあまり、アルベルトの体は硬直し、動けなくなっていた。
クローディアを助けなければ、という思いと、何故グレイが、という混乱とがアルベルトの中で激しく交錯し、アルベルトは、ただただ眼前の光景を呆然と見つめる。
その時だった。
「ああっ…! もっとぉ…もっと犯してぇっ…!」
嬌声と共に発せられたクローディアの言葉に、アルベルトは、今度こそ己の心臓が止まってしまうのではないかと思えるほどの衝撃を受けた。
男達はその声で興に乗り、ホークは激しく腰を動かす。
ホークの剛直がクローディアの秘裂に何度も出入りし、そのたびに濡れた肉が淫猥な音をたて、秘裂から蜜があふれ出すのが、アルベルトからはっきり見えた。
「イクぜ、お姫様。一滴残らず受取りな!」
ホークが叫んだ瞬間、クローディアがひときわ高い声をあげてのけぞった。
アルベルトから見えるクローディアの秘裂が、まるで喉が水を嚥下するように、ひくんひくんと蠢いている。
「ああん… は…あ…。」
ガラハドがクローディアの縛られていた後ろ手を解いてやる。
戒めを解かれても、クローディアは別段抗う様子も見せず、尚も名残惜しそうに、自分の腰をホークに擦り付けている。
その腰をホークが持ち上げて、陰茎を抜いた。
ぶじゅっという生々しい音が聞こえた。
ホークは、クローディアの尻肉を左右に広げ、その淫裂からどろりと白濁液があふれ出すのを、周りに見せ付ける。
クローディアの淫裂はまだひくひくと痙攣を繰り返している。
「まだ足りなそうだねぇ。淫乱なお姫様だ。」
ガラハドが大袈裟な声をあげた。
そしてクローディアの耳に何事か囁く。
するとクローディアは、四つん這いになり、尻を高く持ち上げてガラハドに向けると、
「お…お願いします…。もっとあたしを…犯してください…」
と、せつなげに懇願した。
「いっぱい犯してあげるよ、お姫様。」
ガラハドはニヤニヤとした笑いを口元に浮かべながらそう言うと、固くなった剛直で、その淫裂を貫いた。
「ひあああああんっ」
「お姫様、俺のを綺麗にするのを忘れないでくれよ。」
ホークが半身を起こしながらそう言い、クローディアの首根を掴み、己の精とクローディアの蜜で汚れた剛直に突きつける。
それをクローディアはためらいもせずに口に含んだ。
舌を突き出し、ホークの剛直を、丹念に舐めとる。
「んく… ん… ふぁっ… んんっ…」
もう、アルベルトはそれ以上その光景を目にしている事に耐えられなかった。
布団を頭まですっぽりかぶり、ぎゅっと目を瞑る。
全身ががたがたと震えていた。
「あんっ はぁんっ んあっ ああーっ…」
布団ごしに、クローディアの嬌声が耳を打つ。
両手で耳を塞ぐ。
夢だ、これは悪い夢なんだ、と必死に己に言い聞かせながら。
あれはクローディアなんかじゃない。
クローディアであるはずがない。
アルベルトにとって、クローディアに抱いていたイメージは、常に“聖女”だった。
人界から隔絶された静かで清浄な森の中で、動物達を守りながら暮らしてきた無垢なる乙女。
それがアルベルトの目から見たクローディアだった。
女神のように神々しく穢れなく、清冽で、母の慈愛に満ちた女性。
グレイの存在はアルベルトを密かに傷つけたが、けれど、端で見ていても痛いほどに強く感じる二人の絆は、感動的でこそあれ、クローディアの尊厳を損なうものではなかった。
グレイなら、とアルベルトは己を納得させてさえいたのだ。
それが今、無残に打ち砕かれていた。
幻滅、という一言では片付けられないほどの喪失感が、アルベルトを襲っていた。
目の前のクローディアは、複数の男に貫かれ、淫らに腰を振り、喘いでいる。
あまつさえ、自分から男のものを咥え、喜んでいる。
あれが、クローディアか?
あんな、誰彼構わず男を受け入れて喜んでいるような女が。
あれでは場末で身を鬻ぐ卑しい女達と変わりないではないか。
清純そうな顔をしながら、一途にグレイを愛しているような顔をしながら、その実、男なら誰でも構わない淫売だったのか?
卑しくもバファル皇帝の血を引く身でありながら、あんな浅ましい…!
何が皇帝の皇女だ、何がエロールの戦士だ。
あのように穢れた身で、サルーインの復活を阻止できるつもりでいたのか?
全身の震えが止まらなかった。
結局、アルベルトは、朝まで一睡も出来なかった。
クローディアの喘ぎは、明け方近くまで間断なく続いた。
声が聞こえるたび、アルベルトは布団の中で何度も何度も吐き気に襲われていた。
● ● ●
「これでよかったのかよ…」
翌朝、パーティーから一人抜け、パブを出ていくアルベルトの後姿を、カウンターでグラスを片手に見送りながら、ガラハドが呟いた。
「ああ。…上出来だ。」
その隣で、同じように酒をあおりながらアルベルトを見ていたグレイは、口元に薄笑いを浮かべながら答える。
「ったく…。俺には気が知れねぇよ。自分の女を仲間にレイプさせようなんて。」
グレイとは対照的に、ガラハドは苦々しい面持ちで言う。
「甘ちゃんの坊やにはいい刺激になったろ。」
「…まんまとパーティーを追い出す事にも成功したし…か?」
グレイはそれには答えず、グラスを傾ける。
グラスの中の氷が、軽い音を立てた。
グレイだけが…薄々気づきつつある、因果律。
それに気がついた時、グレイは慄然とした。
エロールは、人の子に神の力を宿し、サルーインを封じようとしている…。
その戦士として選ばれた人間の一人が、クローディアである事を。
全ての事象が、クローディアをサルーインへと向かわせている。
クローディア自身、それと気づかずに。
クローディアはそれを成すだろう。
それが神の意思なのだから。
それは別にどうでもよかった。
クローディアが神の子であろうと、己がそれを成すための捨石であろうと。
だが、同じく神の意思を宿した者がクローディアに近づくのだけは許せなかった。
アルベルト………。
エロールの祝福を受けた光の御子……。
ローザリアの貴族の息子。
姉はローザリア皇太子の婚約者ときた。
政治的にも、クローディアに近づけるのは危険だと思えた。
おまけにこの金髪の小僧は、クローディアに思慕以上の想いを抱いていた。
クローディアもまた、年下のアルベルトには心を開いているように見えた。
“嫉妬”などという言葉では生易しいほどの、憤怒と言えるまでの激情が、グレイを襲っていた。
これ以上…クローディアに何をさせる気だ、エロール!
クローディアがデスティニーストーンの戦士かどうかなど、どうでもいい。
そのために己の命がどうなろうと、興味もない。
だが、アルベルト、お前がクローディアに近づく事だけは許さない。
何から何まで思うとおりになると思うな…エロール。
クローディアは、俺のものだ─────
膣穴から愛液と精液をどぶどぶとあふれさせながら喘ぐクローディアを、アルベルトはどんな目で見たろう?
クローディアを女神のように神聖視し、足元にひれ伏さんばかりに崇めているあの坊やは?
それを考えただけで、グレイは小気味よさに笑い出しそうになった。
「お姫様、どうしてる?」
ガラハドがそっと聞いた。
「眠ってる。疲れきっているみたいだからしばらく目を覚まさんだろう。」
疲れもするわな、とガラハドが一人ごちる。
「大丈夫なのか? グレイ。…その…、昨夜の事でお姫様がおかしくなったりしないか?」
するとグレイは、くっくっと笑いを漏らした。
「心配ない。あいつはそういうところは超越しちまってるからな。」
全てを受け入れ、全てを許容し、全てを癒し、全てを浄化する。
クローディアのそれは、まさに神の無限の愛にも等しい。
クローディアは、人の命も、動物の命も等しく愛している。モンスターの命すら、奪う事にためらいがある。
恐らくはサルーインすらも理解し愛そうとしているに違いない。
クローディアというのは、そういう女だ。
ガラハドは、よくわからん、というふうに首を振った。
「ま、それで俺達はいい思いさせてもらったからいいけどな。」
ガラハドの言葉に、グレイは不意に真顔になった。
「二度はない。…今後この事でクローディアに何かしたら殺す。」
あっさりと言い放つ。
「…俺をか?」
「お前でも、だ。」
「それほど本気で惚れてる女を仲間にレイプさせたわけか? あそこまでする必要があったか? 坊やを追い出せばいいだけの話じゃないのか? お姫様を傷つける必要があったか?」
「坊やのクローディアに対する想いをぶち壊さんと、ただ追い出しても意味がないからな。それに……」
「それに?」
「俺が見たかったのかもしれんな。」
「………自分の女がレイプされてるのをか?」
グレイは、薄く笑っただけで答えなかった。
そう…ただ見たかっただなのかもしれない…。
まるで透き通ったガラスが、粉々に砕けながらも微細な破片に至るまで美しい煌きを失わないように、男達に組み敷かれ、陵辱されても尚、清冽なほどに美しく、無垢な花を…。
今思い出しても眩暈がする。
薄暗い室内に浮かび上がる、白い裸身。
全身に男達の精液を浴びながら、尚も損なわれない透明感。
穴という穴を犯され、内臓をえぐられ、最後には与えられる快感に耐え切れず自ら腰を振りながらも、屈辱と絶望に彩られた
高貴な 瞳……。あのクローディアの、なんと美しく、淫らだった事か……。
「…狂ってるな、お前。」
「……だろうな。」
どう考えてみても、今の己が正気だとは思えない。
「お姫様にバレたらどうするんだ?」
「別に構わん。あいつは俺から離れたりせんからな。」
「…もし、離れていったら?」
瞬間、グレイの瞳がぎらりと凶暴な光を放った。
「殺すさ。」
それでたぶん、死体を喰らうだろうな。グレイは事もなげにそう答えた。
「いつか…壊れちまうぜ? お姫様…」
ガラハドがポツリとつぶやく。
グレイは黙ったまま答えなかった。
答えない代わりに、口元に、さもおかしそうな笑みを浮かべて見せた。
まるで…それこそが真の己の望みだとでも言うように。
END.
◆◆ あとがき ◆◆
DPCさんから頂いたイラストにつけたSSのに別視点です。
このページで作中に使っているイラストは、頂いたイラストを色調反転させたものです。
イラストをクリックすると、GALLERYページに飛びます。
そちらのSSが「side A」というわけで、この小説のタイトルは「side
B」になっています。
ガラハドとか、他の小説とキャラクター違っちゃったりもしてるし、
こんなクローディア嫌〜という方もいましょうから、ま、パラレル?という事で一つ。