act. 2

 

 

「というわけです。」

にっこにっこ笑うサンジ君ズの前で、ゾロはあんぐりと口をあけた。

「はあ……」

ゾロはまだ状況が飲み込めてないようで、呆然と10人のコックさんを順繰りに見渡している。

 

「…で、どいつが俺のコックなんだ?」

 

「「「「「「「「「「だから全部ホンモノの俺だっつうの!!!!」」」」」」」」」」

「「「「「「「「「「だいたい“俺のコック”っつうのはなんだよ!!!!!」」」」」」」」」」

「「「「「「「「「「いつ俺がてめェのもんになったァ!!!!!!!」」」」」」」」」」

 

「…俺のもんだろうが。」

 

10人のコックさんが一斉に突っ込むので、やかましい事このうえない。

一人だってかなりうるさいのだ。

 

未来の大剣豪はちょっとだけ、たじっとなった。

 

でもちゃんとサンジの所有権だけは主張する。

それにどうやらこの10人のコックさんは10人とも自分へのプレゼントらしい。

 

と、そこまで考えて、ゾロは不意にハッとなった。

 

脳裏に、10人のコックに囲まれた自分の姿が浮かんだのだ。

想像の中のゾロは、何故か革張りのソファにふんぞり返っている。

その周りを美麗なコックさんが、ある者はゾロの膝に乗り、ある者はゾロの肩に手をかけ、ある者はゾロに頬を寄せ、ある者はゾロの足元にかしづき、ある者はゾロにしなだれかかり、ある者はゾロの目を楽しませるべくあられもない姿をご披露し…

 

それって。

 

それってもしかして。

 

ハ ー レ ム 。

 

 

それに気づいた瞬間、剣士は盛大に鼻から大出血した。

 

 

 

 

 

□ □ □

 

鹿「それにしてもナミが意外といい奴で俺ビックリしたぞ。」

並「何よ、意外といい奴って。」

鼻「ああ、俺も思った思った。真っ先に人魚売り飛ばしそうに見えるんだけどなあ。」

並「……ウソップ(怒)」

鼻「ごめんちゃい…」

花「ふふ。航海士さんは意外と子供好きなのよね。ほら、空島でも。」

鼻「ああ、そういやゲリラの子供が懐いてたっけな。」

鹿「それに、“願い事”、ゾロのプレゼントにしてくれた!」

並「だぁって、この海域限定なら宝石出してもらったって仕方ないし。」

花「剣士さんに恩を売っておくと後々便利だし。」

鼻「俺らだけ人魚の国にきちまえば、サンジのあんあん言う声聞かなくてもすむしな。」

鹿「…みんな容赦ないな。」

肉「ナミ!ナミ!見ろこれ!」

並「ちょっとやだ、珊瑚! それに真珠!? どこにあったの!」

肉「人魚のガキがくれた。いっぱいあるって。お宝だ!」

並「いや〜〜ん♪ 人魚の国最高!!!!」

 

 

 

 

□ □ □

 

「…大丈夫か、ゾロ。」

10人のサンジが心配そうにゾロを覗き込んでいる。

うっかりエロい事を想像してしまったせいで、ゾロは甲板を血まみれにしてぶっ倒れていた。

しかしその目は見開いている。

うっかり瞳孔すら開いているかもしれない。

だって目を閉じるわけにはいかない。

もったいなくて。

目の前にはサンジが心配そうにその美しい蒼い目を潤ませている。

10人も!

蒼い目も当然10個!

本来なら目は一人につき2個なので20個になるところだが、サンジ的諸事情でとりあえず10個だ。

周り中をきんきら頭に囲まれて、なんだかもう眩しい事このうえない。

黄色いお花畑の真ん中にいるような気さえする。

ゾロは鼻からあふれ出る鮮血を拭おうともせず、むくりと起き上がった。

10人のサンジが途端にわたわたとしだす。

「だいじょぶか?ゾロ」

「とりあえず、鼻おさえとけ。」

「ここんとこをな、こう抑えとくと止まるから。」

「何か飲むか?だいじょぶか?」

「俺、タオル取ってくる。」

慌ててキッチンに走る者、慌ててバスルームに走る者、床の鼻血を拭きだす者、ゾロの鼻を抑える者、ゾロのうなじを抑える者……。

10人のサンジが甲斐甲斐しく動き回る。

コックの一人がぽつりと言った。

「まったく…こんなんでこれからやれんのかよ。」

 

ゾロが目を見張る。

 

やる…やるって、何を。

まさか、10人のサンジ相手にめくるめく快楽の世界っ?

いやいやいやいやいやいや

期待すんな、俺。

コック相手にこの手の期待して、なんべん裏切られたよ、俺。

こいつときたら、最後は俺に縋り付いて、あんあんひんひん腰を振ってくるくせに、そうなるまでがやたらとしちめんどくせェんだ。

何でだか知んねェが、いつでも、嫌々ヤラせてやってますーみたいな顔をしたがる。

まぁ、プライド高ェ奴だからと思っちゃいるが。

どうせどれだけ拒んだって最後は結局俺の言いなりだからよ。

で、何だ。

何やるってんだ。

俺の誕生日とか言ってやがったなそういえば。

ああ、そうか。宴会か。

…サンジに囲まれてのパーティーなら悪くもねェな。

 

僅か0.1秒ほどの間にそれだけのことを一気に考えたゾロは、それでもとりあえず、

「やるって、何を。」

と聞いてみた。

 

すると、10人のコックが一斉にこっちを向いた。

 

うわ。

 

そして10人が、実に艶然と微笑んで、こう言った。

 

「「「「「「「「「「王様ゲームに決まってんじゃねェか。」」」」」」」」」」

 

 

はあ?

 

 

 

 

□ □ □

 

目の前できゃいきゃいと、楽しげな10人のコックを呆然と眺めながら、ゾロの魂は、やばいところを彷徨っていた。

お花畑が見える。

そんでその向こうから手を振ってるのは、くいなだ。

それってすっごくやばい。

しかし、ゾロの意識はなかなか現世に戻れないでいた。

 

何故なら。

 

目の前で、コックさん二人が全裸で絡み合っているからである。

 

 

話はちょっと戻って、「わーい王様ゲームぅー♪」と、はしゃぎだしたコック達は、あれよあれよと言う間に、甲板に酒やら料理やらを並べだした。

手際よく宴会の準備を整えると、主役席にゾロを座らせ、その前にぐるりと座り込んだ。

そして、いつの間にやら作ったのか割り箸のくじを取り出してめいめいで引き、ゾロにも引かせ、「王様だーれだっ♪」の後、それはいきなり起こった。

 

「じゃあ、5番と10番がべろちゅー。」

 

王様役のサンジがそう言った。

 

はい?とゾロは思った。

 

王様ゲームって、最初はソフトなところから始めるのがルールじゃなかったの。

誰某のモノマネをしろ、とか、初恋の人の名前を言え、とか、腕立て100回、とか。

そこから徐々に行くんじゃないの。

なんでいきなりべろちゅーなの。

 

とりあえず、自分の手の中の割り箸を見た。

ゾロは4番だった。

やーん残念、とか思う余裕はなかった。

顔を上げたゾロの前で、5番と10番のサンジ達が、いきなり、ちゅううううっとやりだしたからだ。

ゾロの目がこれでもかと言うほどに見開く。

 

俺のサンジに何をする!と一瞬思ったが、やってる方もサンジである。

サンジとサンジが唇を寄せ合い、うっとりした目で抱き合っている。

嫉妬するべきなんだかするとこじゃないんだか萌えるとこなんだか、もうわからない。

この時点で、ゾロの魂、略してゾロたまはだいぶ抜けかかっていた。

ところが。

その後も王様ゲームの内容はエスカレートするばかり。

まだろくに酒も飲んでないと言うのに、目の前の10人のサンジのありさまといったら、軽く一升瓶の2〜3本も空けましたよ、なノリなのだ。

「2番が3番の乳首を舐める。」

「6番と9番が4番の尻を揉む。」

「7番がストリップ。」

「1番が王様のちんこを10秒シコる。」

もうゾロの頭は大パニックだ。

目の前でサンジ達が夢の饗宴を繰り広げている。

それを素直に喜ぶより、ゾロの頭の中は、「え、いいの?」「まじ、いいの?」でいっぱいなのだ。

何しろ今までのコックさんときたら、ゾロに告ってきたのは向こうからのくせして、ゾロが誘ってもあまり嬉しそうな顔もしないし、相変わらずナミにはメロリンだし、キッチンでやるのは嫌だの、風呂場でやるのは嫌だの、見張り台でやるのは嫌だの、甲板でやるのは嫌だの、中で出すな、痕はつけるな、べたべたするな、灯りつけるな、毎日サカるな、一晩に1回以上するな、etc、etc…。

 

だからもう、こんな状況は考えられない。ありえない。

どうなの、これ。

 

目の前のコック達が本物かどうか疑う気すら起こってくる。

いや、たぶん、本物だとは思うけど。

だって出てくる料理の味は、もう舌に馴染んだそれだし、10人のコックさん達はみんな背中の同じとこにおなじみの傷があるし、まあ、全員確認したわけじゃなくて、半裸になってくれたり全裸になってくれたりした何人かのコックさんの背中しか見てないけど、何人かについてるって事は、全員についてるんだろうし、更にコックさん達の胸元には、お揃いのキスマークがついている。

昨日の晩にゾロがつけたやつだ。

つけんなって言われててもうっかりつけちゃったやつだ。

もちろん、つけた後、みぞおちにきっついイイのを一発喰らったけど。

 

「王様だーっれだっ♪」

いきなり叫ばれて、ゾロはハッとした。

なんのかんの言って、次はいったいどんな事をしてくれるのか期待しちゃっているのだ。

 

ところが、なかなか王様が名乗り出ない。

ちくしょう、誰だよ、次の王様は。と思ってゾロが手の中の割り箸を見ると、そこにははっきり、

 

『王様』

 

と書いてあった。

 

手の中の「王様」の文字をじっと見詰める。

顔を上げる。

目の前では10人のコックさん達がニヤニヤしながらこっちを見ている。

 

その瞬間、ゾロはピンときた。

 

また手の中の「王様」に視線を戻す。

 

そういう事か。

 

さんざん痴態を見せ付けて、俺を煽るだけ煽って、俺がすっかり乗せられて、王様になった時に調子に乗ってエロい命令なんかしようものなら、こいつら10人で思いっきり罵倒しようとか、そういう事か。そういう事なのか。

 

そう考えると、今までのコックらしからぬコックの態度も説明がつく。

何しろこのコックときたら、ゾロを騙したりゾロを笑いものにしたりするのに、呆れるほど手間ヒマをかけるのだ。

いつだったか、餃子パーティーをやったときもそうだった。

ゾロの餃子だけ、皮にワサビが練りこんであった。

何の疑いもなくそれを口にしたゾロは、ぎょっとしたが根性でそれを咀嚼し、飲み込んだ。

納豆餃子、なんてものもゾロの前に並んでいた。

どこで納豆なんか仕入れたんだか知らないが、餃子に入れることはないだろう。

だがまぁ、それは味は悪くなかったので知らん振りして完食した。

ゾロ頭の抹茶パフェ、とかいうのも作られたことがあった。

いい抹茶だったのに、コックはそれをアイスクリームになんぞした。

まぁ、味は悪くなかったが、抹茶はそのまま飲みてェよなあと思ったのを覚えている。

しかも、パフェのてっぺんには抹茶ポッキーをいが栗のように刺しまくった「マリモアイス」が乗っていた。

 

そんな事を考えつつ、ゾロはゆっくりと口元に笑みを浮かべた。

 

「3番と2番、全裸でちんこ擦りあえ。」

 

てめェに笑いものにされるのが怖くて、てめェのケツが犯れるかってんだ。

 

「お互いのちんこ擦りあうんだぜ。」

と揶揄するように言った瞬間、ゾロは、ギョッと目をむいた。

 

2番と3番のサンジが、文句も言わずにするりと服を脱ぎだしたからだ。

 

 

 

 

□ □ □

 

そんなわけで、ゾロの魂はやばいところを彷徨っていた。

 

目の前で、二人のサンジがその白い肢体を絡ませあっている。

二人とも、その身に何も纏っていない。

惜しげもなくそのしなやかな体を晒して、二人は抱き合っている。

2番のサンジが3番のサンジの首に両腕を回して抱き寄せ、キスをした。

片目でちらりとゾロを見て、わざと見えるように舌を絡ませあう。

3番のサンジは、自分のペニスと2番のサンジのペニスをまとめて握りこんでくちゅくちゅと扱いている。

まったく同じ色、同じ固さで、同じように反り返ったサンジ達のペニスは、濃いピンクに色づいて、お互いを摩擦しあって先端からトロトロと蜜を溢れさせている。

「ア、」

どちらのサンジからとも知れず、声が漏れる。

それをもう片方のサンジがキスで絡めとる。

ぬち…、とサンジの手の中の2本のペニスが音を立てる。

ひくん、とサンジ達の背が震える。

それを、熱っぽい目で見つめる、周りのサンジ達。

 

幻だ。とゾロは思った。

こんな夢のような光景が、現実であるはずがない。

きっと俺は幻覚を見ている。

もしかしたら死にかけてるんじゃないだろうか。

死ぬ間際に見る、都合のいい夢なんじゃないだろうか。

きっとそうだ。

そうに違いない。

 

俺は死ぬのか。

最強になれもせず。

鷹の目にも勝てず。

クルーの誰一人の夢も叶うところを見ず。

ルフィが海賊王になるのも見ず。

コックがオールブルーに辿り着くのも見ず。

 

俺は死ぬ。

 

死ぬんだ。

 

 

 

どうせ死ぬなら…。

 

 

 

 

 

 

こいつら全員と犯りまくって成仏してやらあああああああああああ!!!!

 

2004/11/13


サンジ君はもちろん、嫌がらせでワサビ餃子や納豆餃子やマリモパフェを作ったわけではありません。
けなげな愛情表現なのです。


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