le BELLE et la BETE
【第三夜】
城での生活は、サンジにとって、思いもかけず穏やかで平穏な日々だった。
掃除や洗濯は城が自動的にしてくれる。
サンジが一日中キッチンに篭って料理に没頭していても、誰にも咎められない。
食材は、キッチンにお願いしておけば、翌朝にはちゃんと用意されている。
魔獣は食事の時は姿を現すが、その他の時間は何処で何をしているのかわからない。
話し相手がチョッパーしかいないのが寂しいといえば寂しかったが、チョッパーは一生懸命気を使ってサンジの傍にいてくれるので、サンジはそれに慰められた。
このだだっ広い城の中で、生きて、動いているのは、サンジとチョッパーと魔獣だけ。
後はどれだけ城内を歩き回っても、人一人、この城にはいなかった。
なのに、どうしたわけか、この城の中には他の者の気配を感じることがあった。
まず、キッチンがそうだ。
それまで勝手に料理を作っていたという、キッチンに入ると、妙に人の気配を感じる。
それも、レディの気配だ。
ためしにサンジが、いつもゴーイングメリー号でナミにしていたように、料理しながらいろいろと話し掛けると、時々、笑いのような波動が伝わってくることがある。
このレディと一緒にいるような柔らかで優しい雰囲気は、サンジにはとても心地よかった。
それから、城内の道案内をしてくれる光る花達。
花達は、毎朝サンジの足元に現れては、広い城内を案内してくれた。
サンジの部屋から、キッチンまで。
それから、サンジが本を見てみたいと言えば、図書室まで。
外を眺めたいと言えば、眺めのいい高い展望窓まで。
花達はどうも自分達の意志でサンジの足元に現れるらしく、たまに着替えるサンジの足元にからかうように咲く事もあったし、ある朝などは、目覚めたサンジのベッドの上が花盛りだったこともあった。
サンジが驚いて飛び起きると、花達はいっせいに笑い出したようにふるふると震えた。
それで、サンジが「光る花のレディ達」と呼んで話し掛けるようにしたら、花達は嬉しそうに呼応して歌うようにそよいで光を明滅させた。
だから、サンジの城での生活は、おおむね快適といえた。
あるひとつを除いては。
あるひとつ、というのはもちろん魔獣の事だった。
魔獣が何を考えてサンジに嫁になれなどというのか、日中何処で何をしているのか、サンジにはどうでも良かった。
ただ唯一どうしても譲れないことがあった。
時折、魔獣は食卓に現れないことがあるのだ。
それだけはどうしても、サンジは許せなかった。
だからサンジは、次に魔獣が現れたとき、迷わずアンチマナーキックコースでお仕置きしたその後で、
「食事にこなかった理由を言ってみろ。理由次第じゃ許してやらねェこともねェ。」
と、“優しく”言ってやった。
あくまで、魔獣を散々蹴り飛ばした後で、だ。
すると魔獣は、それはそれはバツの悪そうな顔になった。
そして小さな声で理由を言った。
「…は?」
我ながら素っ頓狂な声が出たな、とサンジは頭のどこかでそう思った。
「食堂の場所が…わからねェ…だと?」
魔獣はふてくされたような顔をしている。
この城は広すぎて、いつも食堂の場所がわからなくなる、と魔獣は確かにそう言った。
自分の城で迷子になる城主って。
────どこまでゾロだよ…。
サンジは眩暈を感じて思わず天を仰いだ。
◇ ◇ ◇
朝、目が覚めて、サンジはため息をついた。
目を開けて大きな天蓋を確認するまでもない。
まだ、夢の中だ。
夢の中で眠って目覚めるってなどうなんだろうと思うが、夢の中の眠りだけあって、寝ている間もなんだかふわふわと現実感がなく、いかにも眠ってる夢を見ています、という感じだった。
このところの眠りはずっとそうだ。
そのたびに、ああ、まだここは現実の世界じゃない、と思い知らされる。
目を開けて、真っ先に目に入るのが、あのゴーイングメリー号のラウンジや男部屋の見慣れた天井ではなく、大きな天蓋や壁の天使画だったりすると、やはり思わずため息が出る。
このまま二度とゴーイングメリー号には戻れないのではないかという、不安。
だからこの日、サンジはいつもより少し、機嫌が悪かったのだ。
サンジがこの城にきてから、魔獣は毎日、サンジにありとあらゆる贈り物をした。
ドレスに始まって、ネックレス、指輪、髪飾りなどの装飾品、靴、化粧品、きらびやかな宝石の数々。
望むだけの贅沢をさせる、といった魔獣の言葉は、なるほど嘘ではなかった。
そうしてサンジを贈り物で埋め尽くした後、魔獣は必ずこう言うのだ。
「俺の嫁になる決心はついたか。」と。
サンジはそれがイヤだった。
なまじ魔獣のそこかしこにゾロが透けて見えるだけに、ゾロが、自分に贈り物をして、あまつさえプロポーズをするなどということが、耐えられなかった。
ゾロはこんなこと言わない。ゾロはこんなことしない。
こいつはゾロじゃない。
魔獣だ。
ゾロじゃない。
そう思うのに。
サンジの作った料理をうまいと一言も言わないくせに残さず食うから。
城の中で迷子になったりするから。
サンジを、まっすぐに射抜くような強い鳶色の目で見るから。
言葉のいちいちに何の迷いもないから。
出会ってから一度もサンジの名を呼ばないから。
だから、心が、揺らぐ。
ゾロは、サンジを好きなわけではない。
よくはわからないが、何か理由があって嫁になれ、などと言っている。
城にきた娘になら誰でもそう言ったのだろう。
サンジでなくても。
だから、あの言葉は、サンジに言われた言葉だけれど、サンジに言われた言葉じゃない。
サンジに贈られたドレスじゃない。
サンジに贈られた宝石じゃない。
サンジが欲しいわけじゃない。
サンジを愛しているわけじゃない。
わかっているのに。
わかっていても。
サンジは自分の中にある想いを認めたくなくて、歯を食いしばる。
「つくかっての。クソバカ」と、レディにあるまじき下品な言葉と共に贈り物を突っ返す。
いつもなら。
いつもならそれだけで終わるやり取りだった。
もう決まりごとのように繰り返された日常だった。
だがその日のサンジは、ほんの少し機嫌が悪かった。
「俺の嫁になれ。これは珊瑚の櫛だ。お前の金の髪によく似合うだろう。」
そう言って櫛を差し出した魔獣の手を、サンジは一瞥して、パン、と蹴り上げた。
「お断りだっつってんだろう。」
大理石の床に、珊瑚の櫛が転がる。
「だいたい何だ、てめェは。まいんちまいんち馬鹿の一つ覚えみたいに嫁になれ嫁になれって。他のこと言えねぇのか、このクソ緑は。嫁になって欲しきゃあ、好かれる努力ぐらいしたらどうだ、マリモ魔獣。飯食って迷子になるだけが特技か、てめェは。」
一気にまくし立てた。
「もう一度言う。俺の嫁になれ。」
魔獣はサンジの言葉をまるで無視したように低い声で言った。
「お・こ・と・わ・り・だ。」
すると魔獣が、不意に苛立った様子を見せた。
「力づくで意に添わせることもできるのだぞ。」
「あァ?」
魔獣のその言葉は、サンジを知っていれば出るはずのない言葉だった。
少なくとも、ゴーイングメリー号のゾロならば。
「力づくで、だと?」
サンジの額に、びきっと音を立てて、みるみる青筋が浮いた。
太い青筋を浮かべたまま、サンジはせせら笑った。
「やってみろ、クソトンマ。やれるもんならな。」
その瞬間、魔獣が動いた。
すっと身を屈めた、と見えた時には、あっという間に間合いを詰められ、魔獣の爪がサンジの胸元を襲っていた。
サンジが慌てて飛び退る。
大きな体躯にそぐわないほど、重さを感じさせない敏捷な動き。
この動きは────…
紛れもなく、ゾロの動きだ。
重心を低く取った姿勢のまま、滑るように踏み込んでくる。
サンジのよく知っている、ゾロの踏み込みだ。
こんなところまで…
サンジは、唇を噛んだ。
こんなところまで、ゾロだ。
目の前の魔獣はやっぱりゾロなのか?
それとも俺の記憶の中からゾロの部分だけが再現されているだけなのか?
城の外観のように。
食堂の内装のように。
ルフィのようにナミさんのようにロビンちゃんのようにジジィのようにチョッパーのように。
魔獣の鋭い爪が、再度サンジの体を掠める。
サンジはそれをトンボを切って逃げた。
この一撃を食らったら、多分立てない。
だがスピードと空中戦ならサンジの方に分がある。
「ムートンショット!」
渾身の蹴りに魔獣の体が吹っ飛ぶ。
だが、魔獣はさほどダメージを受けた風でもなく立ち上がった。
────こいつ… 蹴りと同時に自分から後ろに飛びやがった。
ちっと舌打ちして、サンジの体が空中に舞う。
スカートの裾がばさばさして戦いにくいが脱いでる暇はない。
横の蹴りが避けられるのなら、真上から。
しかし、サンジが飛んだのと同時に、魔獣がサンジの着地点からすばやくずれた。
動きが、読まれてる。
地に降りたサンジに、魔獣の爪が襲う。
しかしその爪はサンジに届く前に、サンジの蹴りで跳ね上げられた。
動きが読めるのは、魔獣だけではない。
魔獣の動きがよく知ったゾロのそれならば、サンジにだって魔獣の次の動作は手に取るようによくわかる。
一瞬の虚をついて、サンジの蹴りが魔獣の顔面を狙う。
魔獣が拳骨でガードする。
逆足で魔獣の肩を軽く蹴ってくるりと宙返りして着地する。
すぐさま魔獣の鋭い突きが追いかけてきた。
サンジはぎりぎりで避けるが、胸元が爪に触れ、服が裂けた。
やべ。
飛び込んできた魔獣の体を、身を翻して回し蹴る。
それも躱わされる。
サンジの心の中を、懐かしさがこみ上げる。
これは、慣れ親しんだ、ゾロとのケンカだ。
あの羊の船の上で。
毎日毎日ゾロとケンカした。
ウソップを泣かせながら、ナミに怒られながら、ゾロと本気のケンカをした。
たわいもないことで、本気でやりあった。
楽しかった。
俺は…
そうか、俺は…
ゾロが…。
ゾロの事が…。
そう思った瞬間、飛び掛ってきた魔獣に首根を鷲掴みにされ、サンジの体は床に叩きつけられた。
◇ ◇ ◇
がつがつとした、まさに食らうとしか言いようのないやり方で、サンジは魔獣に犯された。
人間のものとは明らかに違う、分厚くて長い舌がべろりとサンジの肌を舐め上げる。
味を確かめるように何度も。
「お前の肌は、美味いな。」
ぼそりと囁かれ、サンジは激しい羞恥を感じた。
身を捩ると、サンジの体を押さえつけた魔獣の鋭い爪が、サンジの白い肌に食い込んだ。
うなじに食いつかれた。
肌に歯を立てながら、魔獣の舌がそこを舐める。
首筋を、背中を、わき腹を、臍を、胸元を。
魔獣の舌がサンジの乳首を舐めた時、サンジの口から「んッ…!」と声が漏れた。
すると魔獣は、そこだけを執拗に舐め始めた。
乳首が擦り剥けるんじゃないかと思うほど、強く。
乳首への刺激に、サンジの性器がゆるく勃ちあがってくると、性器も舐められた。
「ひッ! …あ、あッ…!」
魔獣の舌は、だんだんとサンジの体を下がってくる。
わき腹を通り、ペニスを舐められ、陰嚢を転がされ、尻を滑り、サンジが、来る…!と思った瞬間、魔獣の舌はずるりと後孔に入り込んだ。
「う… く…っ…!」
途端にサンジの全身に鳥肌が立った。
入り込んでくるのは舌なので、苦痛はそれほどないが、ありえないところで濡れた柔らかな肉がうねうねと動いている感触に、気持ち悪さが先に立つ。
人のものではない舌は、信じられないほど奥まで入り込んでくる。
無意識に逃れようとサンジの体が浮く。
そうすると、魔獣の舌はますます奥に潜り込んだ。
「あ、あ、…うぁ… やめ…!」
サンジが必死で首を振ると、腸を舌で犯されたまま、尻に噛みつかれた。
びくん! とサンジの体が痛みに跳ねる。
サンジはうつぶせに押さえつけられたまま、尻を魔獣の舌に犯されている。
逃れようと無意識に体を浮かせているうちに、尻だけを高く突き出してしまっていることに、サンジは気がつかない。
まるで、誘っているように、尻を振っていることに。
ぐるるる…と魔獣が喉の奥で低く唸った。
魔獣の舌が、サンジの中のある一点をかすめた時、
「ひっ!!」
突然サンジの体がびくっとした。
「あ…?」
サンジの目が信じられないように見開く。
再度、魔獣が、そこをぞろり、と舐めた。
「ああッ!」
明らかな嬌声があがった。
魔獣の舌は何度も何度もその部分を刺激してくる。
自分のそこが不規則にひくつき始めたのがわかったが、サンジはもうどうすることもできない。
「ああ… う、んっ… あ、 んあ… ア」
与えられる、目の前がちかちかするような強い快感に、ただひたすら喘ぐ。
萎えかけていたペニスが、ぴくん、ぴくん、と上下しながら頭をもたげてくる。
「ひぁ、あ…、ああっ… アッ あァっ あ…」
ダメだ、出ちまう、と奥歯を噛んだ瞬間、唐突にそれは引き抜かれた。
「ぅあ…?」
突然体を襲う快感が去って、サンジが、ふ、と息を抜いたとたん、
「うあああああああッッッッ!!!!」
とんでもない質量が、サンジの体を貫いた。
犯される尻を支える膝が、がくがくと痙攣する。
「あーっ! うあっ… ふ、うっ…あ… うううッ…!」
犯されている。
魔獣のペニスが、サンジの体を貫いている。
舌とは比べ物にならないほど、奥まで、固い肉が侵入してくる。
内蔵を突き破るのではないかと思うほどの、衝撃。
魔獣がサンジの尻を抱えあげて、容赦なく突き込んでくる。
尻には魔獣の爪が食い込んで、赤く鬱血している。
魔獣がもう少し力をこめたら、爪はサンジの肌を傷つけるに違いない。
「んんっ… く、ゥッ… ア ぁ …」
痛みに耐えようと、背を丸めようとするサンジの腰を強く引き寄せて、魔獣はサンジの奥に楔を打ち込む。
そのたびにサンジの体が、跳ねた。
「ひィッ!」
サンジが喉の奥で引きつったような悲鳴を上げる。
かたかたと震える背中を、魔獣が舐めた。
「う、ンっ…!」
丸まろうとしていた背が、反対にのけぞる。
魔獣が貫くと、また逃げを打つ。
ぐるるる…と、また魔獣が低く唸った。
ぐわっとサンジの中の魔獣が、質量を増す。
「ヒ!」
更に太さと硬さを増したペニスで、ごりごりと腸壁を擦られた。
「んああっ! アアッ!!」
耐え切れず、サンジの目から涙があふれた。
がくがくと全身が痙攣する。
その時、ごりっ、と、魔獣のペニスが、サンジの中の、あの一点を擦った。
「ひあァッッッッ!!!!」
ぷしゅ…と、サンジのペニスから精液があふれた。
イッた反動で、サンジの中はきゅぅっと魔獣のペニスを噛み締めたまま、ひくひくと細かい収縮を繰り返す。
気を失いそうなほどの快楽に翻弄されるサンジの耳に、魔獣の咆哮が聞こえた。
次いで、サンジの中に熱湯かと思うような奔流が注がれた。
「う、ァ……ッッッ…!!」
その熱さに、もう声も出ない。
それでもサンジは、今にも飛びそうな意識を堪えて振り返り、魔獣の目を見据えて、その口元に、にやりと笑みを浮かべて見せた。
「こ、れ、くらい、で、俺を好きに出来たと思ったら、大間違いだぜ、…ゾロ。」
その瞬間、本能のままにサンジを喰らっていた捕食者の目が、動揺したように揺らいだ。
2004/08/30
細かく描写するとかなり滑稽なので、さらっと流していますが、魔獣の体毛は緑です(笑)
魔獣の見てくれを描写する時は、でずにーの「美女と魔獣」を参考にしていますが、体毛の色だけは緑です(笑)
なので、私の頭の中では、でずにー繋がりで魔獣の見てくれはモンスターズインクのサリーでもいいかと思っています(笑)
ほーら滑稽だ(笑)