∞ シャケノベイビー 3 ∞
【 SANJI 】
サンジがゴーイングメリー号に戻ってきたとき、ゾロは相変わらず甲板で惰眠を貪っていた。
船番がしょうがねェな、と思いつつも、なんだか浮かれながら鮭を焼く自分に気づかれたくなくて、そっとラウンジに入った。
ラウンジの窓から、まっすぐ先に、船首の甲板で手すりにもたれながら眠るゾロが見える。
ゾロの寝顔を窓越しに見ながら料理を作る自分、ってのが、なんだか面映い。
ゾロは、喜んでくれるだろうか。
焼いただけの鮭を。
焼いただけ、とはいうが、その焼くだけ、にどれだけの技術を要するか、サンジは本職だからよく知っている。
でもサンジの性格上、どうしても料理には細かく細かく手を加えてしまうので、こんな焼くだけ、という素材勝負の料理は、なんとなく心もとなくなってしまう。
反射的に、というか、本能が、というか、ワインに漬けたりニンニクチップを乗せたりしたくなってしまう。
そんな気持ちを何とか抑えて、サンジは七輪に炭を熾した。
この七輪は、さっきまで市場で鮭を焼いていた七輪だ。
ラウンジのキッチンの火では、たぶん絶対にあのふっくら感は出ない、そう思ったサンジは、無理を言って七輪も譲ってもらったのだ。
代価を支払う、と言ったサンジに、市場のおばちゃんは、「そんな古い七輪、ただで持っておいき。鮭のおまけだよ」と言ってくれた。
それでサンジは、何十匹分というような鮭の切り身と七輪を持って意気揚揚と船に戻ってきたのだ。
サンジは、七輪の上に網を乗せ、その上に鮭の切り身を乗せた。
ゆっくりゆっくり、凍った切り身が鮮やかな色を取り戻す。
意外と煙が出るのに気づいて、窓とドアを少し開けた。
ラウンジに、おいしいにおいが立ち込める。
鮭に合わせて他のメニューも作ろうと、サンジがキッチンに向かったその時だった。
ものすごい勢いでドアが開かれた。
2004/05/27