■ 愛される資格 ■

 

【6】

 

このきれいなきれいな器を、自分自身で満たしたいと、強くそう思う。

自分だけで、満たしてやりたい。

満たせるのが、自分だけであればいいと、切に願う。

 

サンジの体を床に押し倒して、上からその蒼い瞳を覗き込むと、サンジがくすぐったそうに微笑んだ。

はにかんだようにも見えるその顔が可愛くて、ゾロは唇に軽くキスをする。

触れるだけの、キスを。

すぐに唇を離すと、もっと深いキスがくると思っていたのだろう、サンジの目がぱちくりした。

笑みを返して、もう一度、ゾロの唇がサンジの唇に軽く触れる。

離れる寸前、ぺろりと唇を舐めてやった。

催促するように。

 

これ以上のキスは、てめェの方からねだれ、と。

 

再度ぱちくりした目が、ふ、と蠱惑的な笑みに変わる。

 

─────ゾロ

 

サンジが唇だけで、呼ぶ。

誘われるようにゾロが唇を寄せると、今度はサンジの舌が、ゾロの唇をぺろりと舐めた。

「サンジ…。」

囁いて、ゾロがサンジにキスをする。

すぐにキスは深くなった。

唇を吸い、舌が絡まりあう。

その間にも互いの手は互いの体をせわしなくまさぐりあう。

サンジの手がもどかしくゾロのシャツを引っ張り、

「てめ、も、脱げよッ…!」

と、怒鳴られる。

言外に、俺ばっかり脱いでて、と感じ取り、ゾロは改めて状況に目をやった。

巻きつけたはずのテーブルクロスもとうにはだけて、ほぼ全裸のサンジに対して、腹巻までちゃんと着込んだ自分。

ズボンの前だけが開いて性器が露出しているのがやたらと滑稽だった。

己の余裕のなさを見て、ゾロは苦笑しながらシャツを脱ぎ捨てた。

 

袈裟掛けの傷のついた、鍛え上げられた鋼の肉体が現れ、一瞬、サンジが、呆けたような顔をする。

その目が、夢を見るように細められる。

そっと、唇が寄せられた。

先刻ゾロがサンジのてのひらにしたような、祈りを捧げるような、キス。

 

剣士の戦いの傷へ、心からの敬意と、いくばくかの憧憬を。

 

伏せた薄いグレーに彩られた瞼を見ながら、ゾロは、サンジのその仕種がまるで殉教者のようだと思った。

 

もしかしたら、サンジはゾロ以上に、この傷にこだわっているのかもしれない、と思った。

ゾロの、剣士としての矜持に。

 

ひどく愛しく、思った。

 

「…んな舐めまわしてんじゃねェ…。イッちまうぞ、くら。」

ふざけてそう言って、サンジの頬に触れた。

サンジがうっとりと上気したその瞳を上げた。

 

「イッちまえよ…クソ剣士。」

にやりと、アイスブルーの瞳が閃く。

肌が粟立つほどに扇情的な瞳。

蠱惑的な…、そのくせやたらと、挑発的な、好戦的な。

 

ああ、これがサンジだ、と思った。

 

小生意気で、プライドが高くて、狡猾で、恐ろしく純粋な。

 

これが、サンジだ。

 

ゾロをずっと優しく愛してくれたサンジも、ゾロを諦めるために虚ろな瞳で男に抱かれたサンジも、震えながらゾロに告白してきたサンジも、全てどれもサンジなのだと思うけれど、ゾロが一番よく目にしてきたサンジは、このサンジだ。

 

青く燃える焔のような矜持を持つ、ゾロと並び立つように背筋を伸ばす男。

その男の中に、あんなにもあやうく脆い一面が、内包されている。

 

サンジの肩を抱き寄せて、口付けをした。

 

 

愛しくて、心臓が止まりそうだと思った。

 

 

 

白い肌に、いくつもいくつもキスを落とす。

「ッあ…ッ…!」

首筋に顔を埋めると、サンジが小さく喘いだ。

すぐに声を殺すような気配がしたので、ゾロは顔を上げた。

サンジが両手で口元を覆っている。

両目を固く閉じ、一瞬、またしても拒まれているのかとすら思った。だがよく見れば、その顔は恥じるように耳元まで真っ赤に染まっている。

「サンジ。」

名を呼ぶと瞼の下から潤んだ瞳が現れた。

それがふいっとふてくされたように視線をそらす。

そんな仕草すら、ぞくぞくするほどに可愛いと思ってしまう。

「声殺すな。…聞かせろ。」

囁くと、サンジの顔が更にかあっと赤くなった。

 

どこまで赤くなれんだ、こいつ。

 

「…できるか…ッ! ぶっ殺すぞてめェ…ッ…!」

熟れたトマトよりも赤くなって、潤んだ瞳でそんなセリフを吐かれても、ただ可愛いだけだ。

 

「できねェんならムリヤリ出させんぞ…。」

意地悪い笑みを浮かべながら、ゾロはサンジの乳首に歯を立てた。

「んゥ…ッ…!!」

サンジの背が反り返る。

そこは小さいくせに固く尖って愛撫を待ちわびている。

それを軽く噛んで引っ張ってみる。

「ひアッ…!」

喉の奥から掠れるような声が聞こえた。

歯を立てたまま、強く吸ってみる。

「あ、あっ…!」

びくびくと、組み敷かれた体が痙攣した。

ゾロの体の下で、サンジの性器が熱を持ってくるのがわかる。

ほくそ笑んで、ゾロはそれに手を添えた。

「や、めろ…ゾ、ゾロ…、や… アッ…!」

「やめていいのか?」

くちゅり…と、ゾロの手の中のそれが音をたてた。

先端からもう、透明な雫が滲み出している。

ゾロはそれを躊躇いなく口に含んだ。

 

「んああッ!!」

 

ぬるりと温かな感触に自身を包まれ、サンジはのけぞった。

「やめ…や、あ、ああ…、ば、バカゾロ…ッ!」

ゾロに性器を舐められている。

もうそれが信じられなくて、サンジは涙目でゾロの背をげしげしと何度も蹴った。

全然チカラの入っていないじゃれるような蹴りを背に受けるたび、ゾロはサンジのそこを強く吸い上げる。

じゅる、と音がして、サンジの全身が熱くなった。

恥ずかしい。

恥ずかしくてたまらない。

ゾロにこんな…こんなことをされて、こんな声を上げてるなんて。

「ゃっあ、ア…、あぅ…んっ、あっ…。」

もう声が抑えられない。

自分の意識の外で、自分の声が聞こえる。

 

 

 

その時、不意に、何かが記憶を掠めた。

 

 

 

 

 

こんな風に快楽に押し流されながら、意識の外から自分の喘ぎ声を聞くのは、─────初めてじゃ、ない。

 

 

─────ああっ…あああ…ンぁっ…ん、ん…あああっ…!

 

 

そうだ。

あの時も。

俺はこんな風に、声を上げてた。

 

 

瞬間、戦慄が全身を貫いた。

 

 

男達の手が全身に絡みつく。

むせ返るような雄の匂い。

好きモノ、と耳元で囁かれた。

たいした淫乱だ、と嘲笑を浴びた。

前を扱かれながら、後ろに突っ込まれた。

精液でどろどろの体を、それなのに嬉しそうに舐めてくる男もいた。

首根っこを押さえつけられ、男のモノを喉の奥までつきたてられた。

口の中に広がった、青臭い独特の味。

 

 

自分のモノを舐めるゾロの姿が、不意にあの男達の姿とダブった。

 

違う。

違う。

やめろ!

 

今俺を抱いてるのはゾロだ。

あの男達じゃない。

 

「ゾロ…っ。」

縋るように名を呼んだ。

ゾロが、どうした?というように顔を上げる。

不安な顔をしていたのかもしれない。

ゾロの顔が近づいてきて、あやすようなキスをくれた。

 

ゾロの抱き方は優しい。

口では意地悪なことを言いながら、そのキスも指も、優しい。

けれどそれが…あの男達とダブる。

 

あの男達だって、愛撫は優しかった。

執拗にサンジの快楽を追いたてて、何度もサンジを射精に導いた。

後ろに挿れられた時は苦痛でおぞましさしか感じなかったけれど、体は反応していたようだし、後ろでイキもした。

 

これから先、俺はゾロに抱かれるたびにあれを思い出すのか?

あの男達にやられる幻を見続けながらゾロに抱かれるのか?

 

 

これが…俺に下された罰か…?

 

 

自分の気持ちから逃げ回って、諦めるために安易であさはかな方法をとって、ゾロの心を傷つけた、これが、俺への罰か。

 

たまらなくなってゾロにしがみついた。

「ゾロ…っ、ゾロ…!」

目の前にいるのはゾロなのに。

あれほど焦がれたゾロに抱かれているのに。

 

「ゾロ、も…い、からっ…、もぉ挿れ…っ…!」

 

消して。

この体から。

あの忌まわしい記憶と愚かな自分を。

 

 

 

もう挿れろ、と言われて、瞬間ゾロは戸惑った。

サンジのペニスを扱いていた手を止め、その手をサンジの後孔に滑らせる。

ひくん、とサンジの体が震えた。

快感に息を荒くしているのに、何かを耐えるように固く目をつぶっている。

ゾロの指が後孔に触れたとたん、その体が強張った。

 

「は、やく…ゾロ…!」

 

バカが。怖ェくせに強がりやがって。

 

「目、開けろ。サンジ。」

ゆるゆると泣きそうな目が開いた。

「てめェを抱いてんのは誰だ?」

「…ゾロ…。」

「そうだ。俺だ。そのまま目ェ開けてろ。俺だけ見てろ。」

 

サンジの顔が、泣き笑いの顔に歪んで、体から力が抜ける。

それを見て取って、ゾロは指先に力を込めた。

くりゅ、と熱い粘膜の中に指が沈んでいく。

「んうっ!」

異物感でか、サンジの体が竦む。

それを宥めるようにキスを繰り返しながら、ゾロは指でそこを探った。

 

サンジの中は思ったよりずっと柔らかかった。

柔らかくて、温かい。

ゾロの指に反応して、ひくひくと小刻みに震えているのがたまらなかった。

 

だが、驚くほど、狭い。

 

こんな狭い体で、あんな何人もの男達を受け入れたのか。

その事実に、ゾロは慄然とする。

どれだけ辛かったろう。

どれだけ苦痛だったろう。

男達に陵辱されていた時の、サンジの苦痛と屈辱に歪んだ顔を思い出す。

 

サンジにそんな真似をさせた自分に、腹が立って腹が立って仕方がない。

どれだけ悔やんでも悔やみ足りない。

 

二度とさせない。

あんな真似…二度と。

 

ともあれ、こんなに狭いのでは、挿れるどころの話ではない。サンジの中を傷つけてしまう。

ずるり、とゾロはサンジの中から指を引き抜いた。

サンジが小さく呻く。

ゾロには男とのセックスは経験がなかったが、娼婦相手にアナルセックスの経験はあった。

なにか潤滑剤が必要だ、とラウンジ内を見回したその目が、キッチンラックで留まる。

ラックの上に置かれた、手の平ほどの、丸い、大きめのグリースケース。

ウソップお手製と思しき、チョッパーの顔が貼ってあって、「サンジ君専用ハンドジェル」と書いてある。

水仕事の多いサンジのために、チョッパーがわざわざ調合したのだろう。

チョッパーが調合して、ウソップがそれにラベルを作ってやって。

 

ああ、このコックはこんな風にみんなに愛されてる、と思った。

 

自分だけだ。

自分だけが…このコックを愛してなかった。いや、愛してたのに、それに気づかなかった。

一度も感謝を示さなかった。大切にしなかった。

自分だけが。

 

そして今もまた…、みんなはコックがみんなのものだと思っているのに、自分だけは、コックを自分だけのものにしてしまいたいと思っている。

 

みんなのコック、ではなく、自分だけのサンジ、にしてしまいたいと思っている。

 

自分だけが、いつでもコックとの距離感を、みんなと違えている。

 

よく、嫌いだ、などと思い込めたものだ。

この、自分でもうすら寒くなるほどの強い執着と激しい独占欲を。

 

キッチンラックに手をのばし、グリースケースを取った。

開けると、透明で、うっすらとオレンジというかピンクというかな色のついたジェルが入っていた。

手にとると、水っぽくてねとねとしている。

指に絡んで、にちゃ…と音をたてた。

おいおい、こんなエロい感触のもん手に塗ってんのか、と思いながら、いや、ただのハンドジェルをエロいとか思う俺もどうなんだ、と思い直す。

たっぷりのジェルでぬるぬるにした指を、サンジのサンジの後孔に差し入れた。

ぬるりとしたその感触に、サンジが身じろぐ。

「んや…ッ!? な、何…!?」

「すげえな、これ。ずるずる指入ってくぞ。」

「て、て、てめ、それ、チョッパー印のハンドジェル…っ、────うあッ!」

ぐちゅり、とサンジの後孔が淫らな音を立てる。

ぐちゅ、ぐちゅ、とゾロの指が、深くサンジを犯していく。

「あっ、あっ…、や、ああっ。」

喘ぐサンジの声に苦痛の響きがないことをゾロは正確に聞き取って、ほくそ笑みつつ指を増やした。

「や…、ゾロ、太…っ、無理、も…っ…。」

「まだ指三本だぜ? こんなんで無理なんつってたら俺のが入るかよ。」

しれっとして言われ、サンジはさっき自分の口腔に受け入れたゾロのサイズを思い出す。

さっきは無我夢中でそれを咥えたが、確かに尋常ではない大きさだった。

勢いで頬張ったが、先端を含むのが精一杯だったし、固さといい、反り返りといい、とても人間の体の一部分とは思えなかった。

まさに凶器と言った方がしっくり来るほどのシロモノ。

「そ、そんなもん入るわけねェっ…! 裂けるッ…! 無理ッ…!」

「だから裂けたりしねェよう、こうやって馴らしてんじゃねえか。」

ん?と悪戯っ子のような目でそう言うと、ゾロはサンジの中に差し込んだ無骨な指で、ぐるりと中を掻き交ぜた。

「あああッ!」

びくんびくんとサンジの体が陸に揚げられた魚のように跳ねる。

「おっと…」

あぶねえ、イカセちまうとこだった、と、ゾロが指を引き抜いた。

「一緒にイこうな…?」

囁きながら、我ながらなんつう甘ったるいセリフだ、とゾロは思った。

だが、そう耳打ちしたとたん、サンジがふわんと微笑んだ。

とろけるような笑顔で。

「一緒…に…?」

 

─────うわ…。

 

なんつう顔しやがる…。

 

二人を取り巻く空気までが、一気にピンク色になったような気がした。

 

ぶわっとゾロの体の芯が熱くなった。

そのまま自分が発火するかとさえ思った。

 

挿れる前に暴発したらシャレにならん、と、ゾロは慌ててジェルに手を突っ込んだ。

鷲掴みにするように掬いとると、凶悪な大きさに育った自身に、ねとねとになるほど塗り付ける。

それをサンジの中にも糸を引くほどに塗り込めると、ゾロは、サンジのそこにペニスをあてがった。

「挿れるぞ。」

 

ぐじゅ、とあられもない音を立てて、圧倒的な質量が侵入を始める。

 

「ひっ…!!!」

サンジの体が弓なりに弧を描いて反り返る。

そのラインを、ひどく美しいと思った。

ぐぷ…ぐぷぷ…と、卑猥この上ない音を立ててゾロの性器がサンジの中に沈んでいく。

「あ…うあ…ッ…! ああああッ…! ゾ…、あー…ッ!」

見開いたサンジの瞳から、涙が散った。

 

その涙を美しいと思いながら、ゾロは、サンジの中のあまりの心地良さに内心驚愕していた。

娼婦など足元にも及ばない、その狭く吸い付くような感触に。

ひどく窮屈な粘膜の中を、ゾロの太く固い凶器が、掻き分けていく。

しかも侵入する異物を体が押し出そうとしているのか、そこはひっきりなしにひくひくと蠕動している。

先端をろくに含ませないうちから射精してしまいそうになり、ゾロは下腹に力を込めた。

 

…なるほど。確かにすげェイイな…。

 

ゾロの脳裏に、サンジを犯していた男達の声が蘇る。

 

─────すげェな、こいつ。…すげェ、イイ。

─────だろ? こんだけ犯ってんのに、きゅうきゅう締め付けてきやがって…。

 

この極上の体を、自分の他に既に知っている者がいる。

自分でも御しがたいほどに膨れ上がる、嫉妬。

それでもその憤りを、目の前の痩身に理不尽に叩きつけるような真似だけは、もう二度としてはならない。

 

これは俺に科せられた、俺が噛み締めるべき、咎だ。

 

そう思いながらサンジを見下ろしたゾロは、その瞬間、目を見張った。

 

とろりと蕩けるような…快感に酔いしれているサンジの顔。

蒼い瞳は幾分色を濃くして、とろんと潤んで、口元にはうっすらと柔らかな笑み。

はあ…と漏れる吐息までもが、甘く潤んでいる。

 

あの男達に犯られていた時のような、あの虚ろに濁った、強い餓えを通り越して、逆に何も受け付けなくなった、絶望と諦めと自嘲の果てにあるような、何も映していない瞳は、そこにはない。

 

目の前のサンジの瞳は、潤みながらもしっかりとゾロの姿を映し出している。

 

「痛くねェ…のか…?」

ゆっくりと腰を進めながら聞くと、サンジが首を横に振った。

「…たく、な…、だ、だいじょ…、あ、あああ…、アッ…、く、ぅ…っん…!」

ジェルの力を借りてるとはいえ、こんなにもきつく狭い中にゾロを受け入れて、それでもサンジは、痛くない、と言う。

むしろ、ゾロを受け入れたのが嬉しくてたまらない、という風に。

「うゥ…あ、ん…。ああ…、は…、あ…っ…。」

 

─────やべェ。すげェ…可愛い…。

 

こんなこと男のサンジにしかも仲間のコックのケンカ相手の海賊の19のアゴヒゲのすね毛の男に思うのもどうかしてるとしか思えないが。

サンジが可愛い。

可愛くて可愛くてたまらない。

おまけにどうなんだ、この色香は。

マジでか。

可愛いし色っぽいし綺麗だしエロいって、男を形容する単語じゃねェだろう。

だけど恐ろしく可愛い。

色っぽい。

ナミやロビンよりも遥かに美しく扇情的に見える。

ああヤバい。俺は終わった。終わっちまった。

ロロノア・ゾロともあろう者がなんてザマだ。

そう思うのに、この腹の底から膨れ上がってくる幸福感はどういう事だ。

 

「サンジ…。」

 

名を口にするだけで気分はどこまでも高揚する。

 

「てめェが好きだ。すげェ好きだ。」

 

囁いた途端、きゅん、とゾロを受け入れたそこが締まった。

 

「う、う、うるせ…ッ! お、おれッ…俺の方がずっとずーっと、あ、あ、愛しちゃったりしてるんだからな…ッ!」

どーだ参ったか、アーホ、バーカ、と可愛くなく言い返してくるサンジの顔は、けれどもう…すっかり泣きじゃくっている。

子供のように。

 

「ああ…参った。」

こんなにもひたむきな一途な想いに。

 

たまらなくなって、ずん、と腰を突き入れた。

「ひあッ!」

反射的にサンジの体が逃げを打つのを押さえ込んで、ゾロが一気に砲身を根元まで沈める。

「や────あああ…ッ!」

ぱしゃん、とゾロの下腹部に生暖かい飛沫がかかった。

ああ、先にイかれちまったなァと思ったが、見下ろすと、サンジは自分が射精してしまった事も気がつかない様子で、真っ赤な顔でぶるぶる震えながら、ゾロにしがみついている。

ゾロが抽迭を開始すると、途端に甘い喘ぎ声が上がった。

「あァッ! ふ───あ…っ、ああ…、ア、んん…!」

その甘いせつない声に、僅かばかり残っていたゾロの理性がぶつりと音を立てて切れる。

きつく狭いくせに、どこまでも柔らかく淫らに受け入れるサンジの感触を貪るように、激しく腰を動かす。

「あ、あ、あッ…! ぞ、ろ、ゾロ、ああっ…、ぞろ、ゾ…ッ…!」

サンジが男達に姦られていたあの時、声になる事なく紡がれていたゾロの名は、今や惜しげもなくサンジの口から零れ続けている。

その声に煽られるように、ゾロがサンジの中を穿つ。

 

とんでもなく太く固いものにぐちゅぐちゅと内部をかき混ぜられ、サンジは身も世もなく喘いだ。

もはやサンジの中からあの男達の幻影は消し飛んでいた。

 

だって全然違う。

比べ物にならない。

比べる対象にすらならない。

 

絶望するほど焦がれてやまなかった好きな相手との行為は、こんなにも快楽を伴うものだと、サンジは思い知っていた。

サンジの知っているセックスは心を置き去りにして体だけが機械的に快楽を示す、そんなものだった。

体はどれだけ気持ちよくなっても、心は暗く淀んでどんどん冷たくなっていく。

あの男達との行為でサンジが心に刻み付けたセックスはそういうものだった。

淫らに腰を振って男達を迎え入れながら、頭のどこかで冷静な自分がそんな姿を嘲笑っていた。

 

けれど、ゾロとのこれは。

どこまでも、熱い。

快楽というよりも、灼熱のマグマの中に浚われているのではないかと思うような、圧倒的な熱。

熱い。

そうだ、この男は…熱い風だったのだと、思い出す。

熱い熱い炎のような嵐に、身も心もめちゃくちゃにかき混ぜられる。

溶かされる。

溶けてしまう。

サンジはただ喘ぐ事しかできない。

そんな自分を抑える余裕などどこにもない。

熱に浮された頭で、「ゾロ」、と呼ぶと、信じられないほど甘ったるい掠れた声が、「サンジ」、と囁いてくる。

すげえ可愛い、とか、すげえ好きだ、とか、人格が入れ代わったんじゃないかとしか思えないクサイ台詞を吐いてくる。

ストイックだとばかり思っていた剣士の、意外な一面。

サンジの心を掻き乱すだけ掻き乱す、熱い熱い甘い風。

「ゾ、ロ、ゾロッ…、俺、俺、だめだ、だめ…ッ」

「何がダメだ? どうした? 痛ェか?」

「違っ…、そうじゃな…、キ、────キモチ、イイ…! ゾロ、すげ、イイ…。俺、イキそぉ…ッ、だか、らッ…、だ、だめだッ…!」

 

ぐらりと。

気絶するかと思うほどの、眩暈。

 

何つった、こいつ、今。

イキそうって、だって、前を触ってやってもいないのに?

後ろだけで?

後ろだけでサンジは上り詰めようとしている。

ゾロがたまらなく気持ちがイイと思っているこれが、サンジにも快楽を与えている。

 

いとおしいと、何回思い知らせれば気が済む。

「だめってこたねえだろ? イキそうならイイ事じゃねえか。」

「だっ…て、い、一緒に…一緒にッ…!」

「ああ、そうだな、一緒にイクっつったな。イこうな、一緒に。」

まるで子供をあやすような優しい声で言って、サンジの唇に軽くキスをして、ゾロは猛然と腰を動かし始めた。

肌と肌がぶつかる音がするほど、激しく。

 

「ああああっ! やっ…そんな…奥っ…奥に…ッ…! ふっ…深、深ェよぉ…ゾロ…ッ! 奥がっ…ああッ…奥…すげ…ああッ!」

今まで、ひくん、ひくん、というリズムで蠕動していたサンジの内部が、突然、ひくひくひく、という小刻みな淫らな痙攣になって、ゾロは息を呑んだ。

かと思った途端、きゅうぅっと強い締め付けが来た。

「う、あ、─────ッ!!!」

サンジが声もなくわなないて、全身でしがみついてきた。

凄まじい締め付けに耐えられずゾロもサンジの奥で弾ける。

 

しがみついてくる愛しい体を、力いっぱい抱きしめた。

 

 

このまま溶けて一つになってしまいたいなあと、どちらともなく思いながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さっきからずうっとサンジの体はゾロに抱きしめられている。

お互い全裸でべたべたの体で、床も、結果として体の下に敷くはめになったテーブルクロスも目も当てられないほど汚れてしまっているのに、それでもサンジは、この腕の中が心地良くて、抜け出す事ができない。

 

ゾロはサンジを抱き込んだまま目を閉じている。

眠ってしまっているのかもしれない。

 

もう少し、あともう少しだけ、と思いながら、サンジはゾロの頬に、そっと自分の頬を擦り付けた。

 

「…サンジ。」

 

目を閉じたままゾロが呼んだ。

寝言かと思い、顔を上げると、ゾロが顔を寄せてくる。

 

 

「お前を抱いて…わかった事が一つだけある。」

 

 

ゾロは目を閉じたままでそう続けた。

その手は、お前も寝ろ、というように、サンジの肩をぽんぽんと叩いている。

子供を寝かしつけるように。

 

 

「愛する資格とか、愛される資格とか、人にはそんなもん、最初からいらねェんだ。きっと。」

 

 

ゾロの言葉をサンジは不思議そうな目で聞いている。

 

 

 

 

 

 

「あるのは、好きだ、っつー気持ちだけで、きっと、それだけでいいんだ…。」

 

 

 

 

 

 

そう言うと、ゾロはサンジを抱き込んだままで、本格的に寝息を立て始めた。

その顔をじっと見ていたサンジの瞳が、ゆっくりと潤んでくる。

 

潤んだ瞳を閉じて、サンジはゾロの肩口に顔を埋めた。

 

 

 

ぽろりと、ゾロの肩に小さな涙が一粒だけ転がり落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌朝。

まんまと起きられずにあられもない姿をクルーにお見せする事になったサンジが、ショックのあまりその後3日ほど倉庫に引きこもって彼岸を彷徨ったり、

サンジがそんな状態になってしまったのでラウンジの惨状は全部ゾロが片付ける事になったのに、ゾロときたら、何を見ても昨晩のサンジを思い出すらしくて一人でニヤニヤするばかりで全く片付かないので結局ウソップが泣きながら片付ける羽目になったり、

そういえば見張りだったゾロが、結果としてすっかり見張りを放棄したためにゴーイングメリー号はあやうくグランドラインで迷子になりそうになって、麗しの航海士から渾身のサンダーボルトテンポを喰らったり、

俺は独占欲強い、の宣言どおり、それから遺憾なく独占欲の強さをアピールし始めた剣士に、コックにおやつの催促すらうっかり出来なくなってしまったクルーが辟易させられたり、

その事でまた剣士とコックの間で一悶着あったり、

仲直りしたり、

その仲直りが毎晩にも及ぶために、ついに航海士からの厳命により、クルー全員に「ウソップ耳栓」が支給される事になったり、

でもその航海士が、実は一番二人の事を心配していてこっそりほっとしていたりした、なんてことは、ひとまず余談であろう。

 

 

 

END.

 

2005/02/05


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