■ 愛される資格 ■

 

【5】

 

サンジは、ラウンジの床に横たわったまま、大きな目をまん丸に見開いて、ゾロを見上げている。

 

露な肢体を隠そうともしない。

真っ白い裸身に、裂かれたシャツを纏っただけの、しどけない姿。

大きく見開いた蒼い瞳は潤んでいて、性器は先刻の名残をいまだ残していて半ば勃ちあがっている。

なめらかな胸元にはゾロがつけた口づけの痕が二つ三つついていて、艶かしい事このうえなかった。

 

それをちらりと見下ろしたたった一瞬で、サンジの姿に完全に目を奪われて、ゾロは思わず天を仰いだ。

 

これが病なら、俺はもう死亡寸前の重病人だ。

 

さっきあれほどサンジが好きだと自覚したばかりなのに、これ以上好きにはなれない思い知ったのに、今はさっきよりももっと好きだ。

一秒ごとに、いちいち心の中の“好き”が上書きされる。

本当に触れずに想うだけで耐えられるのか、それすらもわからない。

ズボンの中の己の性器は、もう服の上からはっきりわかるほどに猛っている。

 

これ以上ここにいたら、自分を抑えきれるかどうかすら、自信がない。

 

ゆっくりと立ち上がった。

 

「ゾロッ…!!」

途端にサンジが弾かれたように叫んだ。

 

慌てて起き上がり、去ろうとするゾロの足に縋りつく。

その様子に、ゾロは驚いてサンジを見下ろした。

「サン…。」

「な、んで?」

呆然とサンジが問うてきて、ゾロは頭を抱えたくなった。

 

なんで、だと?

 

「俺…いらねェの?」

あどけないとも言えるような、幼い表情で見上げてくるサンジに、ゾロはため息を禁じえない。

 

いらないわけ、ねェだろうが。

何聞いてんだ、このバカは。

 

いっそ怒鳴りつけてやろうかと思った。

ゾロをいらないと思ってるのは、むしろサンジの方だろう、と。

 

けれど、サンジの様子はやけに必死だ。

ゾロのズボンを、握りこむようにしてしがみついている。

ゾロは、一瞬瞑目して、すぐに目を開け、サンジの前にしゃがみこんだ。

 

「あのな…、俺は、もう二度とてめェを傷つける気はねェんだ…。」

子供に言い聞かせるように一語一語丁寧に言って、ゾロはもう一度立ち上がろうとした。

その体が、がくん、と引き止められる。

「き、傷ついたり、しねェ、から…、ゾロの、したいように、…していい。」

 

今度こそ本当に、ゾロは大きくため息をついた。

「あのなぁ…。」

なんと言ったらいいものか、逡巡する。

 

つか、その体隠せ。目のやり場に困る。と思いかけ、サンジの服を裂いたのが他の誰でもない自分であることを思いだした。

目だけで、何かサンジの体を隠すものはないかと辺りを見回し、テーブルクロスに気づく。

それをばさっと外し、サンジの裸体に巻きつけた。

 

そして言う。

 

「俺は、俺のしたいようにしたいわけじゃない。てめェがされたいと思う事がしてェ。」

 

サンジが目を見開いて、何か言いたげな顔のまま、絶句する。

しばし待ったが、サンジが何も言葉を継ぐ様子がないのを見て、ゾロは小さく息をついて立ち上がった。

踵を返そうとする足を、サンジがまた強く引く。

「ど、どこ行…。」

見上げるその目は、置き去りにされた幼子とほとんど変わりない。

 

なんなんだ、いったい。

 

ゾロは無造作にサンジの手を引いて、自分の股間に触れさせた。

布越しに固い熱を感じて、サンジがびくりとした。

それを見て、またゾロは苦笑する。

「ここいっとやべェからな。…抜いてくる。」

だからお前もなんか服着ろ、と言いかけて、ゾロはギョッとした。

 

サンジの手が、ゾロのズボンの前にかかっている。

「…なら、俺が抜いてやる。」

「何言ってんだ、てめェは!」

驚いて腰を引こうとしたゾロのズボンの前を外し、サンジの指が、猛った性器に触れた。

「────ッ!」

ひんやりした指が、刺激を待ちわびて屹立していたモノに絡み、ゾロの息があがった。

やめろ、と言おうとした瞬間、それがぬるりとした感触に包まれる。

「う…!?」

サンジが、ゾロのペニスを口に含んでいる。

「て、めェっ…やめやがれ…ッ!」

ゾロがなけなしの理性をかき集めて、股間からサンジの頭を引き離そうとすると、サンジの蒼い目が、キッと上を向いた。

「俺がされたい事がしてェって言った!」

わめくさまはまるでだだっこだ。

そして再びぱくんとゾロのそれを咥えこむ。

「そ、りゃ、言ったけどよ…! こんな事、してェわけじゃねェだろう! てめェは!」

 

なんでサンジがされたいと思ってる事を俺はしてェ、のリアクションがフェラなんだ。

俺にフェラされてェって事か?

 

もうゾロの頭の中は大混乱している。

サンジの指はひんやりとしていて、体もまるでビスクドールのように硬質のイメージがあるのに、その口の中は温かく、柔らかい。

サンジは、膝立ちになって、立ったゾロのズボンからゾロのペニスを引きずり出して、それに舌を絡めている。

ひらひらとした赤い舌が、赤黒く血管の浮いた己のペニスを舐めるのが、はっきりと見えて、ゾロの頭の芯が、ぶれる。

薄い神経質そうな唇を、太い幹がこじ開けて、入り込んでいく。

ゆっくりとサンジが頭を前後させるたび、ぴちゃ、ちゅぷ、という淫猥な音がする。

そこから引き出された己の性器は、サンジの唾液が絡んでぬらぬらと光っている。

サンジの口の端から零れた唾液が、つうっと顎を伝って滴り落ちた。

脳みそを鷲掴みにされてシェイクされているような、淫靡な光景。

 

─────サンジが、俺のちんこ…舐めてやがる…

 

恐ろしく視覚に訴える。

ごくり、とゾロは生唾を飲み込んだ。

自分で見ても、赤黒くごつごつとした醜怪とも言える巨大なペニスが、つるりと整った小作りな顔に、咥えられている。

亀頭を強く吸われる。

かと思うと、柔らかな舌が裏筋をなぞり、尿道を抉る。

「サ、ンジ…! 本気でやめろ…。出ちまう、だろうがッ…!」

ゾロが半ば必死で言葉を繰ると、ちらりとサンジの目がゾロを見た。

咥えたまま。

「…ッ…。」

エロいなんてもんじゃねェ。

「…出せよ。」

ぺろりと先端を舐めながらサンジが言った。

ひらりと赤い舌が、大きく張り出したカリの先を撫でる。

「出せよ。…呑んで、やるから。─────…呑、みたい…ゾロの…。」

 

がつん、と脳を一撃されたような衝撃に襲われた。

急激に快感が体内をせりあがってくる。

咄嗟にサンジの頭を押さえつけ、腰を突き出した。

ぐ、とサンジの喉が鳴り、サンジの手がゾロの足を爪を立てんばかりに握りしめた。

同時にゾロのペニスから、熱い奔流が迸る。

「く、うゥ…ッ…! サン、ジ…ッ!」

「んん…………ッ!」

サンジの苦しそうに寄せられた眉根に、ゾロの粉々の理性のかけらが、だめだ、と告げるが、自身を包む温かなぬめりの心地良さに、体が言う事を聞かない。

どく、どく、とゾロは腰を震わせながら、サンジの口腔に余さず射精した。

 

脳天まで上がった熱が、射精とともに急速に冷えていく。

「…てめ、馬鹿野郎、早く吐け。」

ゾロはそう言いながら、自身をサンジの口から引き抜こうとした。

だがサンジはゾロの腰を強く掴んで引き寄せて、ゾロのペニスを咥えたまま、こくん、と口の中のものを嚥下した。

 

「バッ………!!」

 

かあっとゾロの全身が熱くなった。

 

─────マジで…呑…呑みやがっ…

 

それだけではなかった。

サンジはゾロのペニスを手で二、三度扱いてから、ちゅ、と尿道に残った精液も全て残さず吸い出し、あまつさえ尿道に舌を差し込んでそこも綺麗に舐めとった。

それからようやく、ゾロのペニスから口を離す。

つ、とゾロの放ったモノが、サンジの唇とゾロのペニスの間に銀の糸を引いた。

 

ぐらりと眩暈を感じるほど、扇情的な。

 

「バカか、てめェ! なんのつもりでこんなッ…!」

 

動転して、みっともなく声がひっくり返った。

それでも怒鳴ると、サンジがくわっと目をむいた。

 

「てめェが好きだからだろうが!!!」

 

ケンカでも売るような剣幕でそう言われ、ゾロは完全に面食らった。

サンジは、涙目でゾロを睨みあげている。

「ちょっとくれェ酒呑んだっていいじゃねェかっ! いっ…勢いつけねェとできねェ事だってあんだぞ、ちくしょうっ…! おれ、俺はこんなん初めて…ッ……、………は、初、めてじゃ、ねーけどっ…、」

初めて、と言いかけて、すぐにハッとしたように「初めてじゃねェけど」と言い直し、そうしたら言葉が続かなくなったのか、後の言葉は口の中にごもごもと消えていき、最後にサンジは舌打ちをして、小さく、「ちくしょう…」と、呟いた。

それを、ゾロは棒立ちになったまま呆然と見ていた。

ぎこちない動作で、サンジの前に膝をつく。

顔を覗き込むと、サンジは頬を赤らめて、ふいっと顔をそらした。

それを強引にこちらに向かせて、ゾロは、

「お前…、もしかして怖ェのか?」

と聞いた。

途端に、サンジの顔が、ぼっと火でもついたように赤くなった。

「こっ…! こ、こっ…こ、ここ、ここここ…ッ…!」

「にわとりか?」

「誰がだッ! 怖くなんかねェっ! ねェ、っけどっ…!」

悔しそうに唇を噛んだその顔に、ゾロは自分の考えが正しい事を得心した。

「…って、お前…あの男達には平気でやらせてたろうが。」

それは本当に純粋にただ思ったことを口に出しただけの素朴な疑問だったが、その瞬間、サンジははっきりと傷ついた顔をした。

「…悪い。そういう意味じゃねェ。」

だからゾロは即座に謝った。

「酒で、ぶっ飛んでたって…言ったじゃねェか…。」

「悪かった。」

「別に、あんな事、怖かねェ…。あんな奴らにいくら、何されたって…。」

「でも今はビビってんだろうが。」

「ビっ…! ビ、ビっ…ビビ、ビビ…ッ…!」

「ビビがどうした。」

「何でビビちゃんが出てくんだよっ! ビビってなんかいねェっっ!!!」

喚き散らすサンジの腕を、ゾロは強く握った。

「何が怖い?」

「怖くなんかっ…!」

言いかけたサンジは、間近にあるゾロの真剣な瞳に、言葉を呑んだ。

「何が怖い。」

もう一度、ゾロが聞いてくる。

サンジは唇を噛んだ。

 

「男にやられんのが怖ェか?」

 

サンジは唇を噛んだまま首を横に振る。

 

「俺にやられんのが怖ェのか?」

 

これにも首は横に振られ、サンジは否定する。

 

「俺が嫌いか?」

 

サンジはもう首がもげそうな勢いで頭を振って否定する。

 

「俺に触られんの、いやか?」

 

無言のまま首を振って否定。

 

ゾロは小さくため息をついた。

「なら何が怖い?」

 

サンジは唇を噛んで俯いている。

それをゾロは辛抱強く待った。

 

「てめ、を………のが…。」

俯いたまま、消え入りそうな声が。

 

「あ?」

 

 

 

 

 

 

 

「てめェを汚すのが怖い。」

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ?」

思わず聞き返した。

この期に及んでサンジの口から出たのは、また汚すとか汚さないとか、そんな話。

ここに至って、ゾロはようやく、サンジにとっての「ゾロを汚す」というのが、複数の男達に身を任せたサンジとの性行為のみを指すわけではない事に気がついた。

「…どうも、お前…、やたらとそれにこだわるな…。」

よっこいしょ、とゾロは、サンジの前に座りなおして、サンジの腰を引き寄せた。

サンジが慌てたように抗うが、ゾロはそれを意にも介さずに、サンジの体を膝の間に引き込む。

「お前の言う、俺を汚す、ってなどういう意味だ?」

抱きしめるようにその体に手を回し、聞く。

サンジはまるで叱られてる子供のように俯いている。

「俺は人斬りだぞ? 俺の手はもうとっくに血に汚れてる。きれいなとこなんかありゃしない。」

サンジが弾かれたように顔を上げた。

その目に必死な色を湛えている。

この瞳の色の意味するところが、ゾロにはわからない。

「今さらきれいな手に戻ろうとは思わねェし、戻りたくもねェ。てめェが自分をどんだけ汚れてるとか思ってるか知らねェが、てめェの“汚れ”なんてな、俺の浴びた返り血の量に比べたら微々たるもんだ。」

「違っ…!」

サンジがゾロの肩を握り締めた。

「てめ、はっ…、剣士として、最強を目指すんだろうがっ…!」

「おう。そうだな。」

「ならっ…、どんだけ、返り血を浴びたって、それは…剣士としての、勲章だろうがっ…! てめェをっ…汚す事には、ならないだろうが!」

サンジの指が、ゾロの肩口に食い込む。

「だ、けど、こんな…っ…! こんな、クソくだらねェ、こんなっ…ほ、惚れただの…こんなっ…、し、しかも、ホモだぞ、ホモ! こんなんの、な、なにがっ…剣士としての勲章になるよっ!!!」

 

なるほど。

そういう事か。

 

だからあんなにもかたくなに、ゾロを受け入れなかったのか。

だからあんなにもなりふり構わず、自分の中の想いを殺そうとしたのか。

 

 

 

 

 

全てゾロの矜持を、守るために。

 

 

 

 

 

─────こいつは本物の大馬鹿だ。

その為に自分のプライドは粉々に砕いて。

その為に屈辱をあえて受け入れて。

 

大馬鹿野郎、と怒鳴りつけてやろうかと思った。

力任せにぶん殴ってやろうかと思った。

 

 

けれど勝手に動いたゾロの体は、目の前のサンジを、力いっぱいに抱きしめていた。

 

 

腕の中のサンジが硬直してるのがわかる。

ゾロは構わず腕に力を込めた。

 

怒りと情けなさとせつなさと、どうしようもない愛しさとが突き上げてきて、ゾロの中を駆け巡っている。

サンジの背中を抱き寄せ、丸い頭を抱え込んで、そのさらさらとした明るい髪に顔を擦り付けた。

髪から甘い匂いがして、ゾロの体の芯が、じんと熱くなる。

「空島、でな…。」

サンジの髪に口をつけたまま、ぼそりと呟いた。

「空島で、バカでけェウナギがいたんだ。」

「あ?」

唐突なゾロの言葉に、サンジがまぬけに聞き返した。

「蒲焼きにしたら食いでがありそうだなーと思ってたら、…撃たれた。」

「は?」

「…戦いの最中だったんだ。」

「………………」

サンジが絶句しているのがわかる。

てめェってバカ?とか考えてるらしいのが、気配から読み取れる。

「てめェに持ってったら蒲焼きにしてくれっかなぁと思ったんだ。あのウナギ。」

腕の中のサンジが息を呑む。

「戦いの最中とか、よくてめェのこと考える。」

「………………」

「てめェを嫌いだと思い込んでたときも、よく考えてた。」

「………………」

「あー、この敵倒してメリー号戻れば飯だなあ、とか。」

「………………」

「今日の晩飯なにかなあ、とか。」

「…それ、俺の事考えてんじゃなくて、…飯の事考えてんじゃねェのか?」

「俺にとっちゃ同じことだ。腹減ったな、と思うと、てめェの顔が頭に浮かぶ。」

「………………」

 

 

 

「それが俺だ、サンジ。」

 

 

 

サンジが顔を上げてゾロを見る。

 

「ウナギに見とれたり、晩飯待ちわびたり、鳥にカラの弁当箱取られそうになったり、誰かに惚れたりしながら、人を斬る。大剣豪になる。そういう男だ、俺は。」

「………」

「野望以外のものには何一つ目もくれず、黙々と大剣豪を目指す、清廉潔白な男じゃねェ。」

「…………っ!」

 

「惚れた奴は抱きてェし、惚れた奴の事考えてマスもかくし、惚れた奴が他の男に犯られりゃ腹も立つし、惚れた奴が他に目を向けてりゃ妬ける。」

 

いつしか、サンジは大きく目を見開いて、ゾロを見ていた。

ただ呆然と、あっけにとられたように。

 

「て、めェ、が、嫉妬、するって…?」

その唇から零れ出たセリフに、ゾロは苦笑した。

「嫉妬どころか、俺ァ独占欲強ェぞ。」

サンジが益々大きく目を見開く。

その目がいきなり、ハッとした。

「あ、ま…さか…、もしかして…てめ…俺の…あの、あれ…、もしかして…。」

サンジの言う“あれ”を正しく理解したゾロは、ため息とともに破顔する。

「おう。…嫉妬で気ィ狂うかと思ったな。」

言われて、見る見るサンジの顔色が変わる。

「だっ…て、俺、そんな、だって、そんなつもり…、てめェに、そんな…。」

赤くなったり青くなったりしながら、サンジはしどろもどろに言う。

明らかに動揺している。

 

それを見て、ゾロは、ほっと息をついた。

 

伝わった。やっと。

 

それを確信する。

 

誰かが傷ついたりする事に、人一倍敏感で心を配るサンジ。

それが、自分が絡むと途端に鈍くなる。

誰かが自分を愛するなんてこと、ありはしないとでもいうように。

 

だから自分以外の何かの為に、たやすく自分の体を投げ出す。

短絡的に自分を傷つける。

サンジが傷つくと、サンジを好きな誰かも傷つくのだ、という事に、気がつきもしない。

 

「ゾロ…、おれ…俺、もしかして…俺のやった事は…お前を、傷つけた、のか?」

サンジが神妙な顔で問うてきた。

「…てめェの方が傷ついただろ…?」

ゾロが返す。

するとサンジは、奇妙な泣き笑いの顔になった。

「俺…俺、ごめん…。ゾロ、ごめん…。」

「謝んな。」

ゾロは再びサンジの頭を腕の中へ抱え込んだ。

その髪に顔を埋めながら、

「謝んなくていいから、今度蒲焼き作ってくれ。」

と言った。

腕の中でサンジが小さく息を吐く。

「作れねェのか?」

「…誰に、向って言ってんだよ…。」

「んなら今度作ってくれ。」

「…おう…。」

 

「あと、てめェも食わせろ。」

「…あ?」

 

思わずサンジが顔を上げる。

真剣なゾロの瞳とぶつかった。

 

「俺はてめェに惚れてる。」

「てめェが欲しい。」

「抱きたい。」

「てめェは?」

「俺が好きだっつったな。」

「好きなだけか。」

「俺を欲しがっちゃくれねェか?」

「俺のもんになるのはイヤか?」

 

ゾロが一気に言った。

もうゾロの中に手札はない。

これがゾロの中の、全部だ。

全部、サンジに見せた。

 

じっとゾロを見つめていたサンジの蒼い瞳が、不意に潤んだ。

「勝手なことばっかり言いやがっ…!」

ぽろり、と瞳から涙が転がり落ちた。

「てっ…てめ、なんかよりっ…俺の方がっ…俺の方がずっとっ…!」

嗚咽交じりに、サンジが叫ぶ。

「欲し…欲しいに、決まっ…き、決まって、んだろ、…がっ…!」

そうして自分から、ゾロの首に腕を回して抱き寄せた。

 

「ゾロ、好き…好きだ…っ、すげ、好き…っ! 好きなんだ…、ずっと、ずっ…、ほ、欲し…ッ。く、れよっ…、てめ、を、くれよッ…! 俺に…ッ!」

 

ぱたぱたときれいな瞳から涙が滴り落ちて、もう言葉は言葉にならない。

 

「は、…たまんねェ…。」

ゾロの顔も、泣き出す寸前のように歪む。

 

しゃくりあげながら、何度も何度も「好き」と訴えるサンジの唇を、ゾロの唇が強引に塞いだ。

そのまま床に押し倒す。

 

「くれてやる、サンジ…。全部、くれてやる…!」

 

 

その両手いっぱいに、あふれるほどの、愛を。

 

2005/01/26


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