【15】
「あッ…ダメだ…っ! ゾロっ…!」
ぐいぐいと中に押し入ってくるゾロの舌を感じながら、サンジは必死で抗っていた。
ゾロが自分の後孔を舐めている。
それを思うだけで、気がどうかしてしまいそうだ。
ゾロが…、あの白い刀を咥える口が。─────男の尻を。
何かとんでもない禁忌を犯している気がした。
背徳感に、身震いする。
ああ…そうか…。
不意にサンジは思った。
─────俺は体を使ってこの孤高の男を汚すのか。
内心を突き上げてきたのは───────暝い喜び。
犯しがたい静謐なものが、自分の汚いところに口付けているという、どうしようもない歓喜。
心に巣食った真っ黒な膿がじくじくと疼く。
欲しい欲しい欲しい欲しい。この男が欲しい。
この男を。
綺麗で神聖なところから引き摺り下ろして。
自分を満たす黒い水で汚してやりたい。
脳天に上がっていた血が、すうっと下がった。
体は熱くなっていくのに、心はどんどん冷たく重くなっていく。
─────俺がゾロを汚す…。
ゾロの舌が後孔から離れ、すぐにぐちゅり、という音とともにジェルにまみれた指が侵入してくる。
痛みはなかったが、その異物感にサンジの体は一瞬竦んだ。
すると、ゾロは、力を抜け、といわんばかりに、サンジの性器をぺろりと舐めた。
「…ん…ッ…!」
かくん、とサンジの体から力が抜ける。
途端に、ずるっと指が深くまで入ってくる。
「あ、アッ…!!」
無骨な指が、何度もサンジの内壁をなぞる。
「ん…ひ…ぁ…、あ…。」
「痛ェか?」
問われて、サンジはゾロのその声の優しさに、驚愕した。
慌てて首を横に振る。
するとゾロの指は、更に奥へと入ってきた。
「ぃあ…ッ」
ゾロの動きは慎重で、サンジに苦痛を与えまいとしているのが、はっきりとわかる。
少しでもサンジが苦鳴を漏らすと、指はすぐさま引き抜かれる。
そしてジェルをたっぷり補充して、再びサンジの中に侵入してくる。
ゾロの指は何かを探すようにサンジの腸内をまさぐっている。
「────ッああっ!?」
いきなり、サンジの下半身に甘い疼きが走った。
「な、なに…? 今…なにした…?」
「ここか。」
サンジの問いを無視して、ゾロは一人で何やら得心している。
「あひッ!!」
またいきなり、全身が跳ねるほどの快感がきた。
こりこりと、ゾロの指がそこを刺激しているのがわかった。
「や…や…やめ…、ゾロ…っ、そこ、やめ、ろ…ッ…!」
かくかくと膝が笑う。
膝から力が抜けて、体重が拘束されている手首にかかり、サンジは慌てて鎖を掴んだ。
ゾロは執拗にそこを弄り続けている。
「ひ…あ…ア、や、やめろ…ッ、いやだ…!」
くちゅ、くちゅ、とそこからはしたない音がしているのがわかる。
「もぉ…やめ…って、ゾロっ…!」
サンジが泣きそうな声で叫ぶ。
「気持ちよさそうに勃ってっけどな。」
ゾロは、指でサンジの後孔を穿ちながら、サンジの性器を舌で愛撫した。
「や、ああ…ッ!!」
びくん、びくん、とサンジの体が痙攣する。
「ぞ、ろっ…! くち…、くち、はなせ…っ…! 出ちま…出ちまう…から…ッ!」
「いいぜ。出せよ。」
熱く濡れた感触に根元までぬぷぬぷと咥え込まれ、サンジの腰が浮く。
前の刺激に意識がいくと、すかさず後孔の中の指がいいところを擦りあげる。
「んんッ…、あ…、ダメだ…ッ…!」
─────ゾロの、口にっ…出しちまう…ッ!!
ゾロの口から自身を抜こうと、サンジは必死で腰を引くのに、ゾロの手は後孔をいじりながら尻をがっしりと掴んでそれを許さない。
「ゾロ、放せっ…! ほん、ほんとにっ…、イクから…っ!」
「イッちまえ。」
卑猥な声で囁かれた。
「やだっ…、く、ぅ、んんんッ…!!」
ぎり、と唇を噛み締める。
ゾロの口を自分の精液で汚すのはどうしても嫌だった。
さっきあれほど、ゾロを汚す事に暝い喜びを感じていたはずなのに。
なのに、今はどうしても、嫌だった。
必死で唇を噛み締める。
嫌だ。
どうしても嫌だ。
ぎりぎりと唇を噛んだ歯に力を込めて耐えていると、いきなりゾロが立ち上がった。
「馬鹿野郎、何やってやがる!!」
本気で焦った顔をしていた。
「唇が切れちまうだろうが!」
ゾロの剣幕に驚いて、サンジが顔をあげると、すぐさま噛み締めていた唇に、ゾロの唇が重ねられた。
サンジが目を丸くする。
貪るように、包み込むように、ゾロはサンジの唇を吸う。
まるで…。
まるで、いとおしくてたまらない、とでもいうような、深いキス。
そのままゆっくりと抱き締められた。
─────なんで…こんな…?
そのキス一つで、サンジの全身が溶けていく。
膝から力が抜けて、立っていられない。
両手が拘束されていてゾロを抱き締め返せない事を、サンジは歯がゆく思った。
─────ゾロ…? なんで…?
息をつく暇すら与えられないほどに舌を絡められ、サンジのその問いは口の端まで昇ってこない。
サンジは必死で、ともすれば、もしかしたらゾロも自分を、と思ってしまいそうになる思考を、抑え続けていた。
だってそうしないと自分は舞い上がってしまうから。
勘違いでも何でも、嬉しくて嬉しくてのぼせ上がってしまうから。
そうして有頂天になったあとの失墜に、きっと自分は耐えられない。
だから必死で、このキスに意味などないと自分に言い聞かせ続けた。
それしか、自分を守る術はなかった。
ゾロが、ふとサンジから体を離した。
濃厚なキスから解放されて、サンジが、熱を含んだ息をつく。
それにちらりと目をやって、ゾロは勢いよくシャツを脱ぎ捨てた。
細波のように起こったざわめきは、ゾロの鍛え上げられた肉体に対してか、それとも、その美しい肉体を両断するようについた袈裟懸けの太刀傷に対してか。
サンジは、目の前に現れた逞しい筋肉の造形美に目を奪われていた。
最強をめざす男が鍛練と実戦で作り上げた、鋼の躰。
それをサンジは、眩しく、誇らしい気持ちで見つめていた。
だってこの躰を作り上げたのは、この男だけじゃない。
ゾロ自身もわかっているはずだ。
サンジの作る食事を取るようになってから、自分の体が飛躍的に完成されつつある事に。
やみくもに筋力だけを付けようとするような鍛練をするこの男に、サンジは、緻密なまでに計算されつくしたバランス食を与えた。
その体に蓄えられる、パワー、スタミナ、スピード、全てを計算して与えられる、糖質、蛋白質、脂質、鉄分、カルシウム。
そうして鍛え上げられていく理想的な躰。
この躰のための食事を作れる事が、サンジにとってどれだけ誇らしいか。
こうして満座の視線にその身を晒して、この男が称賛と感嘆を受ける事が、どれだけ誇らしいか。
ゾロが腰に差した刀を脇において、ズボンも脱ぎ捨てる。
ゾロの股間は既に屹立していて、それが現れた瞬間、その場が大きくどよめいた。
「ゾロのちんこ、でけぇ〜。」
遠くの方で間の抜けた船長の声がした。
思わずサンジもその部分に目をやり、勃ち上がったモノの大きさに愕然とする。
「マジ…かよ…。」
その大きさに怖気づく気持ちと、それでもゾロのそれが自分を前にして反応していると言う奇妙な喜びとが、サンジの中でせめぎあっている。
全てを脱ぎ捨てたゾロが、ゆっくりとサンジに近づいてくる。
繋がれたままのサンジを、ゾロが力いっぱい抱き締めた。
その抱擁にどんな意味があるのか、サンジにはわからない。
けれど、ゾロの素肌に抱き締められるのは、途轍もない幸福感をサンジに与えていた。
お互いの肌が密着しているだけで、サンジは射精してしまいそうだった。
きっと一生知る事はないだろうと思っていたゾロの肌の感触に、サンジは陶酔していた。
─────きっともう…俺は、これから先の人生…こんなにも人を好きになる事なんか、多分ない…
本気でそう思った。
ゾロが、サンジの顔や髪に何度もキスを落としながら、背後に回りこむ。
腰から尻を柔らかく撫でられて、びくん、とサンジの体が強張った。
─────ダメだ……!
その瞬間、雷に打たれたかのように強く、そう思った。
─────やっぱりダメだ。
俺はこの男を汚せない。
この男を汚す自分は許せない。
ロロノア・ゾロの人生に、一点の染みも作ってはならない。
「ゾロ…ッ…!」
やめさせなければ。こんなこと。
「…ゾロ、も、やめろ、こんな事…っ…!」
お前がこんな事をやる必要はない。
こんな汚い体に触ってはいけない。
けれど、やめろと言った途端、サンジの背後の気配が、ざわり、と変わった。
─────何……?
慌てて背後のゾロを振り向こうとした瞬間、ぐり、とゾロの指が、サンジの後孔に潜り込んだ。
「ひァッ………………………!!」
ぐちゅ、ぐちゅ、と濡れた音が自分の後ろから聞こえて、サンジは、ゾロがその部分にさっきのジェルを塗りこめていると悟った。
「ゾ…ロ、ちょっ…待て…ッ!」
焦って身を捩ろうとするが、ゾロの熱い手がサンジの腰をしっかり掴んでいて放さない。
そしてゾロから放たれる気配は、治まったと思っていた先刻のあの凄まじい負の瘴気。
やめろと言ったのに、ゾロにやめる気配はない。
それどころか、後孔を穿つ指は、乱暴なほどの勢いで、サンジのそこを広げようとしている。
「ゾロ…ッ…!!」
さっきまで優しくそこを探っていた指は、容赦なく本数を増やし、ぐりぐりとサンジを苛む。
いったい自分の言葉の何が、ゾロの逆鱗に触れたのかサンジにはわからなかった。
ただ、ゾロをこんな事で汚したくなかっただけなのに。
船長への忠儀の為に、好きでもない仲間を犯すなんてバカな真似をさせたくなかっただけなのに。
「あぅあッッ!!」
ゾロの指が、正確にさっきの快楽のツボを捉える。
力任せにそこをぐりぐりと刺激してくる。
もう辛いのか気持ちいいのかわからない。
けれどサンジの性器は張り詰めたように勃ち上がり、はしたないほどにだらだらと透明の雫を溢れさせている。
唐突にその指が引き抜かれた。
引き抜かれる衝撃で、サンジが小さな悲鳴を上げる。
次の瞬間、解放されたと思ったそこに、熱い塊が、ぐり、と押し付けられた。
─────月神──────………!!!!
咄嗟にサンジが心の中で叫んだのは、自分に降りているはずの神の名だった。
─────月神月神月神月神月神月神……!!!
どうか、今だけでいい。俺を綺麗にしてくれ。
俺に触れたこいつが汚れてしまわないよう、俺を綺麗にしてくれ。
今だけでいい。
今だけでいいから。
頼むからこいつを汚さないでくれ───────!!!
ぎゅっと強くサンジが目を瞑った刹那、焼けるような熱さが、サンジの体を貫いた。