○ 幸せ剣豪 ○

 

【5】

 

「サンジくん。アレ、どうにかして。」

そうナミさんが言ったのは、それから三日くらいしてからだった。

アレ、と指す先には、甲板の隅っこで三角座りの剣豪がいる。

あまりの衝撃に白髪化して廃人になった剣豪は、ぬくい甲板でいい感じに太陽に炙られて、今や腐臭を放ち始めていた。

「だよねー、美観を損ねるもんねー。ごめんね、ナミさん、すーぐ撤去するからねぇ。」

にこやかにサンジは答えたものの、内心ちょっと困っていた。

あの時は頭に血が上っていたから感情に任せてわめきちらしてしまったが、思うに、サンジのセリフはかなり致命的だったはずだ。

もしかして剣豪は既に勃たなくなっちゃってるかもしれない。

なにしろ、今やゾロは、アイデンティティの崩壊の危機を迎えていて、甲板で腐乱している。

もちろん、あれから夜のお勤めもさっぱしだ。

おかげでサンジのおケツは回復したけれど、このままじゃあ二人の仲は壊滅だ。

さてどうしたもんかな。

俺もちっと言い過ぎちまったしなー…。

サンジだってずっとずっとゾロの事を好きだったのだ。

このままみすみす二人の仲が自然消滅するのを見てるわけにはいかない。

ゾロを抜けがらのままにしておくわけにはいかない。

決意を胸に秘めて、サンジは、ぷふーっと、タバコの煙を鼻から出した。

 

 

その日の夜。

夜になっても甲板の隅っこで、じくじくと腐敗を続けていた剣士さんは、人の気配に、白髪化通り越して白骨化しかかっていた頭っつうかしゃれこうべっつうかを上げた。

「HELLO DARLING♪」

リンリンリリン、と、歌い出したくなっちゃうようなフレーズと共に、ほろ酔い風なコックさんが、酒瓶片手に立っていた。

それを、ゾロは魂の抜けた目でぼんやりと見上げる。

その濁った瞳に、サンジが僅かに眉を顰めた。

だがすぐにそれはシニカルな笑みになり、

「ヤろうぜ、ゾロ。」

と、とんでもないセリフを吐いた。

可愛い恋人からのエロいお誘い。

けれどその瞬間、ゾロの目はびくっと怯えた色を宿した。

「お、…俺は、もう、お前とは…。」

掠れた声で小さく呟かれたセリフに、サンジは青くなった。

『もうお前とは』の後が、『やらない』にせよ『やれない』にせよ、もしかしたら『別れる』かもしれないけど、いずれにせよ、そんなセリフ、吐かれるわけにはいかないのだ。

咄嗟にサンジは、その口を塞ぐべく剣豪の体を真横に凪ぎ蹴った。

ずしゃあっ! とか音を立てて、剣豪の体が甲板を滑る。

それを素早く追って、サンジはゾロの胸倉を掴んだ。

「ふざけんなよ、大剣豪。」

大剣豪、と呼ばれ、ゾロがぴくりとする。

「“ヘタクソ”っつわれたくらいで敵前逃亡か? あァ?」

うわァサンジ君逆切れだ。ヘタクソって言ったのサンジ君なのに。

「今さら俺がてめェを手放すと思ったら大間違いなんだよ。」

実はサンジ君、内心汗ダラダラだった。

ここでしくじるわけにはいかない。

例え剣豪のちんこがぴくりともしなかったとしても。

サンジには別れる気なんかこれっぽっちもない。

そんな生半可な覚悟で処女捧げたわけではないのだ。

「よ、せ、サンジ…、お、俺…たぶん…勃たねぇ…。」

さァきた。ED宣言だ。

その弱気発言はとてもロロノア・ゾロとも思えない。

ちッ、と、盛大に舌打ちしたサンジは、しゅるり、と首からネクタイを抜いた。

そして、それはそれは妖艶な笑みを口元に浮かべる。

それはもうゾロが息を呑んじゃったくらいに。

「ゾロ…。」

まるでレディに囁くような甘い声で、サンジはゾロを抱きしめた。

そうっとゾロの両腕を、ゾロの背中に回し、サンジはその手首をネクタイで縛る。

「どヘタとかインポとか、そんなことで俺の愛は変わったりしねぇ。…愛してるぜ、ゾロ。」

よく聞くと結構ひどい言い様だ、サンジ君。

「サ、ンジ……。」

「それにてめェは大事なことをひとつ忘れてる。」

大事なこと? と小首をかしげたゾロの目の前で、サンジの笑みはますます深くなった。

 

 

「別に突っ込むのがてめェでなきゃいけない事はないんだぜ?」

 

 

…………はい?

 

 

今、何か、とんでもない事を、耳が、聞いた。

愕然とするゾロに、サンジが、ちゅ、とキスをした。

やんわりと体が押し倒される。

縛られた後ろ手が、自分の体に押され、全く動かせなくなる。

「ちょ…ちょっと待…ッ!」

「ああ、固くならなくていいよ、ハニー。優しくしてあげるから。」

いや、ハニーとか呼ぶな。

「サン…!」

 

するり、とサンジの手がゾロのシャツの中に滑り込んだ。

ぞわわわわわわ、とゾロの背筋がぞぞけ立つ。

待て、思い直せ、と言おうとした口を、サンジの唇で塞がれた。

「乳首立ってる…。」

うっとりねっとり耳元で囁かれた。

きゅ、と乳首を摘ままれた。

うひゃあああああああ!

「感じてるのかい?ハニー。」

感じてませんからああああああああ!!!!

ぺろりと乳首を舐められた。

くすぐったくてゾロは身を捩る。

やーめーてーぇぇぇぇぇぇ!!!!!!

心の中は絶叫していたが、それは声にならず、ゾロは顔面蒼白で、ぱくぱくと、まるで酸欠の金魚みたいに口を開閉させる。

抵抗したくてもゾロは後ろ手に縛られている。

かり、とサンジがゾロの乳首を噛んだ。

ひいいいいいいいいい!!!

まるで女にするような丁寧な丁寧な愛撫に、ゾロは自分が無防備な処女になったかのような気すらする。

いや、確かにゾロは処女ですけども! 処女なんですけどもー!!!!!!

「サンジ、待て、おおおお落ち着け…ッ!」

どう見ても落ち着いてないのはゾロの方だ。

サンジが頭を上げて、ん? と小首をかしげる。

その仕草が可愛い。

ああ、やっぱ可愛いなあ〜…って、今そんな場合じゃないから! 貞操の危機だから!

さわさわさわさわ、とサンジがゾロの膝から内股を撫ぜた。

「大丈夫、ハニー。全て僕に委ねて…。君はただ僕を受け入れてくれるだけでいいんだよ。」

受け入れたくありませんからあああああああ。

呆然としてる間に、ズボンとパンツを剥ぎ取られた。

きゃあああああああ。

 

「…んだ。勃ってんじゃん。」

ほんとだ。勃ってた。

EDじゃなかった。

嘘ぉ、とゾロは半ば呆然と、屹立したMyちんを見つめる。

「乳首だけで勃っちゃったんだね。可愛いよ、ゾロ。」

え、違うと思うけど。

あれ、でもそうだったの?

いや、待って。ちょっと考える時間をちょうだい。待ってー。

混乱している間に、ぬるん、とそれを口に含まれた。

「サン……ッ!」

サンジにちんこ舐められるなんて、もちろん初めての経験だ。

ゾロだってサンジのちんこを舐めたことなんてない。

サンジはすごくおいしいものを舐めてるかのように、ぺろぺろとゾロちんを舐めまわしている。

更に結構大胆なディープスロート。

そいでもって尿道口に舌を捻じ込まれちゃったりなんかして。

「…う、あ…ッ…!」

さすがの剣豪もちょっと喘いじゃったりなんかした。

サンジが咥えたままにんまりするのがわかる。

ゾロちんの先端を舐め回しながら、片方の手が後孔に滑り込んだ。

「うわあああッ!」

さすがのゾロも叫んだ。

だってそこはシークレットゾーンなんだもの。

シークレットゾーンなんですものおおおお。

「力抜いて、ゾロ。痛い事はなにもしないよ。僕に任せて。大丈夫。君は今夜僕だけのレディになるんだ。」

なりたくないしぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!

つか、サンジのその声の甘さはどうだ。

しっとりと落ち着いて、低く甘く響く、男の声。

たらしだたらしだ。たらしのテクニックだ。

おまわりさーん、ここにたらしがいますぅ。

僕、とか言っちゃってるんですぅ。

この声はやばい。

うっかり聞き惚れてると、つい、か弱い小娘気分にさせられる。

やばい。このままじゃ、まじで犯られる。

サンジが怖い。本気で怖い。

もがもがもがいていると、サンジがふと顔をあげた。

傍らの酒瓶を、くいーっとあおる。

「ゾロ…、乱れた君を見せて…。」

完全に目が据わっている。

やばい。

「ケツに酒飲ませてもシラフでいられるかな。」

恐ろしい事をさらりとのたまいやがった。

「やめ…、サン…!」

くいーっと、また酒瓶をあおり、サンジは嚥下せずにゾロの足の間に顔を埋めた。

「うわっ!」

肛門に冷たい液体が注がれた瞬間、ぶわっとそこが熱くなった。

ひりひりするほどに、熱い。

「サ、ンジ…ッ…! てめェ…ッ!」

怒鳴りつけようとしたゾロは、次の瞬間目を剥いた。

 

サンジがゾロの後孔に舌を這わせている。

 

その信じられない光景に、ゾロは硬直した。

舐、めるか…? ふつー。ケツの、孔を。

ぬめぬめと柔らかいものが何度も何度もゾロの後孔に潜り込む。

そのたびに、熱を持つ粘膜に、掻痒感というか、妙な快感というか、不快感というか、そんなものが走る。

「………ッ…!」

うっかり喘ぐように息をついてしまう自分ももう信じられない。

サンジが、ごそごそと何か取り出した。

「ゾロ、これ見て。」

チューブの塗り薬っぽいもの。

「ドクターチョッパー処方の潤滑剤。直腸検査にも使われる医療用のもの。」

くるくるとキャップを外して、ぷちゅぷちゅと中身を絞り出す。

サンジの顔が、それはそれは嬉しそうに笑った。

ちょっと邪悪に。

ゾロの背筋がぞくりとする。

思わず尻でずって逃げようとするのを、サンジが押さえつける。

足を抱え上げられ、潤滑剤でぬるぬるの指が差し込まれた。

「うぎゃあああああああ!」

ずるり、とサンジの指が後孔に潜り込み、ゾロは絶叫した。

「抜け抜け抜け抜け抜けえええええ!!!」

入ってるッッ入ってますって!!!

潤滑剤のせいで、深くまでずるっと入っちゃった感じがした。

「てめェはよぉー。」

拗ねたようなサンジの声。

「人のケツには平気でちんこ突っ込んどいて、自分は指入っただけで泣きが入んのかよ。」

それはそうだけど、それ言われちゃうと何も言えないんだけど、でもなんかそこは最後の砦のような気がするの、男として。

「優しくしてやってんじゃん、俺。」

サンジの声がさっきまでのたらしモードでない事に、ゾロはちょっとほっとした。

「ちゃんと慣らしたし、舐めたし、潤滑剤も用意したし、爪も綺麗にやすりで丸くしたんだぜ?」

言いながら、サンジの指はしつこくゾロの後孔を出たり入ったりしている。

何かを探すような動き。

「痛くないだろ?」

痛くはない。確かに。

特に良くもないけれど。

その時、不意にサンジの指がゾロの中のある一点をついた。

「うあッ!」

びんっと、やや萎えかけていた自身に、一気に芯が入るのが、自分でもわかった。

「見つけた。」

にやっとサンジが笑う。

そして今度は確信をもってそこをコリコリと押してくる。

「あ、うあ…ッ、やめ…!」

ぐぐっとゾロのペニスが反り返る。

「うっわ、すげぇデカくなったぜ。」

そう言ってサンジがゾロのペニスをぱくんと咥えた。

「くっ…!」

ゾロが呻いて、咄嗟に腰を引いた。

 

やばいやばいやばいやばい。

出ちゃいそうだ。

でもここでイクわけにはいかねぇ。

イッちまったら、その後は絶対、犯られる。

イッたらおしまいだ。

ゾロはギリギリと奥歯を噛み締めた。

何で俺こんな目にあってんだ。

俺がヘタクソのインポだからか。

そうか、俺、ヘタクソのインポだから犯られちゃうんだ。

ヘタクソのインポだから。

ヘタクソのイン………ん???

や、ちょっと待て。

 

インポじゃねぇよな、俺。

勃ってんもんな。

イキそうだもんな。

 

じゃなんで犯られそうになってんだ、俺。

ヘタクソだからか。

 

でも男と犯る手順は、────サンジが、今、全部教えてくれた。

実地で。ご丁寧に本人、酒と潤滑剤持って。

 

………あれ?

 

ゾロの目が、二、三度、ぱちくりした。

えーと、とちょっと考える。

 

つまりこの状況は…、御丁寧に鴨がネギしょって、鴨鍋の作り方教えてくれたような、もん?

 

ゾロの目が、もう一回ぱちくりする。

 

 

やがてその口元に、笑みが浮かんだ。

 

 

 

 

魔獣の笑みが。

2005/02/19

 

 


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