■ 融合までの距離 ■


 

- 2 -

 

「食われてみたいな…俺…。」

サンジがそう囁きながら身を預けてきた瞬間、ゾロは頭の後ろで、ぶつっと何かが千切れる音を聞いた。

 

多分にそれは、“理性のぶっ千切れる音”ってやつだったんだと思う。

 

 

*     *     *

 

 

サンジに酒を飲ませると“ヤバイ”と気が付いたのは、いつだったか。

ドラムでだったか、ウィスキーピークでだったか。

ココヤシ村で既にもう、その片鱗は窺えてたと思う。

 

酒を飲んだサンジがこんなだから“ヤバイ”と思うのか、それとも、ゾロがサンジに邪な感情を抱いてるから“ヤバく”見えてしまうのか、今となってはゾロにもよくわからない。

 

とにかくサンジに酒を飲ませると“ヤバイ”。

何がヤバイって、まず、サンジは酔うとやたらと人にべたべた触り始める。

日頃いがみ合っているゾロにだって、平気でしなだれかかってくる。

そんでお目々とろん。お口ぽかん。

あの、いつもは生ゴミでも見るようにゾロに向けられる冷たい蒼い瞳が、とろんと甘く潤んで、無防備になる。

何が楽しいのか、ずっとにへにへ笑っている。

酒のせいで、白い白い肌がほんのりピンク色に色づいて。

「ゾォロ…。」と、まるで恋人に呼びかけるように甘ったるく、ゾロの名を呼ぶ。

自分の話に自分で笑い転げて、そのたびにゾロの肩口に顔を摺り寄せてくる。

猫が甘えてくるみたいに。

そうして、そのひんやりした指先で、ゾロの胸の傷をそうっと何度もなぞってみたりする。

かと思うと、ゾロの手のひらを両手で抱えて、その感触を指で確かめたりする。

その触り方が、何かエロい。

まんま夜のお誘いをかける娼婦の媚態だ。

これで本人にはまるっきりそんな気はないときている。

 

ゾロにとっては試練どころの騒ぎじゃない。

はっきり言って拷問だった。

 

それなのに、ゾロはサンジと二人きりで酒を飲むのをやめられなかった。

理由は簡単。

ゾロがサンジに惚れてるからだ。

この目の前の痩身に手を出せない苦しさよりも、それが寛いで自分に甘えてくる快感の方が、何倍も何倍も大きいからだ。

 

ゾロがサンジと二人きりで酒を酌み交わすようになったきっかけは、なんとなく、だった。

ゾロがいつものようにキッチンに酒を取りに来て、サンジがいつものようにゾロにつまみを作ってくれて、そのままなんとなく二人で酒を飲むようになった。

昼間はケンカばかりしているのに、二人で酌み交わす酒は、嘘のように穏やかで、それがあんまり心地よかったから、手放せなくなってしまったのだ。

 

サンジの方もまんざらではなかったらしく、最近ではわざわざゾロの来るのをラウンジで待ってることすらあった。

 

うまい酒とうまい肴と愛想のいい金髪美人。

 

どうだよ、これ。

男のロマンじゃねぇか。

 

しかしその金髪美人に手を出せないというのはなかなか辛い。

うかつに手を出して、この時間が台無しになるのはもっと辛い。

 

大切で大切で手が出せねぇってどういうこったよ、おい。と、ゾロは思う。

 

海賊だろうが。俺は。

海賊は奪うもんだろうが。

 

獲物はへらへらとその身を投げ出している。

食ってくれと、甘い匂いを振りまきながら、腹をさらけ出している。

 

食っちまえばいいじゃねぇか。

奪っちまえばいいじゃねぇか。

 

けれどゾロにはそれができない。

 

酒を飲んでいる間だけだとしても、こいつがこんな風に俺の横で笑ってくれるなら、それだけでもう充分だとさえ。

 

だから。

 

サンジがゾロの耳元にそれを囁いた瞬間、ゾロの理性も自制心も何もかも、音を立てて千切れたのだ。

 

 

いつものように酒を飲んでいた。

いつものようにサンジがへらへらとバカ話をしていた。

いつものようにサンジは甘えるように身を寄せてきて、…ふと、ゾロの瞳を覗き込んだ。

 

「獣みたいな、目ェしてんな。」

囁くように、サンジが言った。

「どんな目だ、そりゃ。」

ゾロが答える。

「ん、獲物、食うときの獣みたいな目。」

そう言われて、ゾロの心臓が跳ねた。

自分の欲望が見透かされたような気がした。

 

そうしたらサンジがとんでもない事を言った。

 

「食われてみたいな…俺…。」

 

うっとりと。

まるで夢見るみたいに。

とろりと潤んだ甘い瞳で。

甘えたような吐息交じりの声で。

 

─────誘って、やがるのか。

 

思った瞬間、頭の芯が、ぶれた。

ぶつん、と今まで耐えに耐えてきたものが、切れた。

 

爆発的に突き上げてきた衝動は、もう怒りと見分けがつかなかった。

 

食われてみたい、と。

サンジが。

甘い瞳で。

甘い声で。

 

まるで手馴れた娼婦のように。

 

 

凶暴なほどの欲望に駆られた。

 

噛み付くように口付けると、一瞬、サンジの目が驚いたように見開いた。

まん丸に見開かれた目が、やたらと幼くあどけなく見えて、けれどゾロはそれにすら煽られた。

むしろその子供のような邪気のない目が許せなかった。

 

歯の間に舌を捻じ込むと、サンジがびくりと全身を震えさせた。

ひらひらした舌を吸うと、甘い味がした。

二人で酌み交わしていた酒はラム酒だったから、その甘さは当然なのだが、ゾロには、サンジの舌はラム酒なんかよりもっとずっと濃厚に甘く感じられた。

男を狂わせる、魔性の甘さに。

 

どうしようもなく身の内が猛って、ゾロは、「くそっ」と舌打ちをして、サンジのシャツをめくりあげた。

 

抜けるような肌の白さに、目を射抜かれた。

男の体なのに、男の肌なのに、どうしようもなく昂ぶった。

止まらなかった。

両腕を押さえつけて、乳首に噛み付くと、サンジの体が跳ねた。

「…ふ、…ゥッ…!」

 

乳首なんかで感じやがんのか、こいつは。

男のくせに。

 

淡いピンク色の乳首が、赤く色が変わるまで、歯を立てて強く吸った。

そのまま噛み千切ってしまいたいとさえ思った。

 

目も眩むような嫉妬が、ゾロを突き動かしていた。

完全に我を忘れていた。

 

今までどれだけの男がこの肌に触れた。

どれだけの男がお前のそんな顔を知っている。

 

そいつらもこんな風に誘ったのか。

無邪気な、透き通った曇りのない蒼い瞳で。

 

殺意が沸いた。

サンジに。

サンジに触れた過去の男たちに。

 

愛撫というより蹂躙と言ったほうがいいくらいの乳首責めだったのに、サンジのズボンを剥ぎ取ると、そこは僅かに兆していた。

それを乱暴に握りこむと、サンジは苦悶の表情を浮かべた。

 

「ゾ、ロ…?」

 

どうしてこんなに乱暴にされるのかわからない、という顔をしている。

 

なんでこいつは。

なんでこんな無防備な顔をする。

こんな、何の警戒もないような、ガキくさい顔をする。

 

ゾロの心臓が、音を立てて痛む。

どうして自分ひとりのものでいてくれなかったのだろうと。

こんな瞳でゾロを見るのなら。

 

サンジを傷つけたくないのに、サンジの過去はどうあれ今はゾロの腕の中にいるのに、ゾロは突き上げてくる嫉妬と独占欲に、翻弄されていた。

 

サンジの腰を荒々しく持ち上げて、思い切り股を広げさせてやった。

サンジにも、自分のそこが見えるように。

 

「なっ…! や、ゾロ…ッ!」

 

サンジの顔が、見る見る赤くなる。

晒されたピンクの孔に、ゾロは迷わず舌を這わせた。

 

「んあ、や、やあっ、あ、あっ…、ア、んん…ッ、ゾロ、や…!」

途端にサンジが身をよじりながら、甘い声を上げ始めた。

羞恥と快楽と戸惑いと、そんなものが綯い交ぜになった顔で。

 

後孔を舐めながら、サンジのペニスを擦ると、声はいっそう甘くなった。

 

何だ、この声は。

なんつう声出しやがる。

どっからこんな声出てんだ。

 

ゾロの劣情を、煽るだけ煽る、甘い甘い声。

 

この声を、他の誰かにも聞かせたかと思うと、全身に震えが来るほどの嫉妬に襲われる。

 

サンジの吐精を待たずに、ゾロは、既に猛り狂っていた己のペニスをそこに押し当てた。

サンジが、びくりと身を硬くする。

逃れられないように、両足をしっかり押さえつけて、ゾロは上からのしかかるようにして、挿入した。

 

「うあああああッ!」

 

サンジが悲鳴を上げた。

その声の大きさにゾロは、慌てて手でサンジの口を押さえた。

他のクルーに聞かせるわけにはいかない。

ゾロの所業がクルーにバレる事を懸念したわけではない。

サンジの肌を他の誰かに見せる事が耐え難いほどに嫌だった。

サンジの口を塞ぎながら、ゾロは腰を進めた。

めりめりと軋むほどの、その硬さに、ゾロは息を詰める。

「コック…、入らねぇよ、力抜け。」

そう囁けば、何か言いたげに、サンジの喉仏が、ひくんと上下する。

きついというより、まさに、硬い、というしかない入り口を、ゾロの性器がこじあける。

頑なな入り口を、太い亀頭が通り抜けると、いきなり、ぐぷん、と勢いよくそれが中までめり込んだ。

 

「─────────ッッッッッ!!!」

 

サンジが、白い喉を反り返らせて、声もなく絶叫した。

惜しげもなく晒された白い喉笛に、ゾロは本能のままにかぶりつく。

 

サンジの中は、とんでもなく熱くて、とんでもなく狭かった。

ゾロの根元は硬く強く締め付けられて、血が止まりそうだ。

一瞬で持っていかれそうになり、けれどゾロは、そのあまりの体の狭さに、不意に違和感を覚えた。

 

まるで…。

まるで、男など迎え入れた事などないような、狭さ。

 

違和感が、ゾロの中でひやりとした焦燥に変わる。

 

まさか。

 

 

「……てめェ、まさか…、男、初めてか?」

 

 

言った途端、サンジの目から、ぶわっと涙が溢れた。

ゾロがぎょっとして、サンジの口を塞いでいた手を離す。

 

「てめ、ひで…っ…、ひでぇ、おれ、俺はっ…男なん、男なんかっ…なんで…!」

 

そうしてサンジはいきなり───────泣き出した。

 

うえぇぇ〜んと、子供のように。

 

ガキくさい顔が一層ガキくさくなり、蒼い瞳からぼろぼろと涙が零れる。

その手放しの号泣は、ガキくさいというより、まるっきり3歳児だ。

唖然としてそれを見下ろすゾロ。

 

つまり。

つまり、そういうこと、だ。

 

サンジは、男と寝たことなんか、ない。

 

ゾロが勘違いしてただけ。

 

「あー…すまん。悪い。」

 

さすがにバツが悪くて、ゾロはあらぬ方へ視線を彷徨わせながら、侘びともいえぬような侘びを口にした。

謝罪に今ひとつ真摯でないのは、ゾロの心の中に、どっちかっつうとコックの方が悪いよな。という気持ちがあるせいである。

 

初めてならそれらしくすればいいのに。

娼婦顔負けの色っぽい目で見やがるから。

つか、もしかして、「食われてみてぇ」ってのももしかしたら誘ってたわけじゃねぇのか?

くそ、どこまで天然だよ、こいつ。

 

こんな天然に、こんなに振り回されて。

可哀想なのは俺の方だ。

 

少しばかり意地悪な気持ちになって、ゾロは、サンジの中に挿れたモノを、軽く突き上げた。

 

「ひあぁっ!」

 

サンジの全身がびくびくと痙攣する。

 

きゅううぅぅぅっと、サンジのそこが、ゾロのモノをちぎらんばかりに締まる。

「…くっ…。」

さすがのゾロも、その締め付けの強さに苦悶の声を漏らした。

 

ゾロの体の下では、サンジがえぐえぐと泣きじゃくりながら、駄々っ子のように、ゾロの体を両手で突っぱねている。

どうやらゾロのモノを抜こうとしているらしいが、ムリヤリ捻じ込んだゾロのモノは、ちょっとやそっとじゃ抜けないほどに大きくなってる上に、サンジがしゃくりあげるたび、きゅっきゅっとサンジの下腹に力が入り、それがゾロに微妙な刺激を与えていて、おかげで一向に萎える様子を見せない。

故に、抜けない。

ゾロの体の下でじたばたともがいていたサンジは、どうあっても逃れられないと悟ると、再び、うええぇ〜、と泣き声をあげ始めた。

 

「おい…、おいコック。」

 

サンジのそのあまりに幼い泣き方に、ゾロはもう呆気にとられるやら焦るやらで、まったく頭がついてこない。

 

こいつは、こんな泣き方をする奴だったのか?

酔っ払ってるからか?

 

サンジはしゃくりあげながら、何事か訴えてくる。

 

「ちくしょう、離せ、よ…! おれ、やっぱ、無理…っ。や…やっぱ、やっぱだめだ、俺…っ。俺、できねえ。…す、好きな奴と体だけの関係とか、俺、できねえ。無理。ごめん。離せ。」

「あァ? 何だと?」

 

好きな奴、つったか?

好きな奴、って…、俺の、事か?

 

ゾロの全身が俄かに熱くなる。

 

なんだ、やっぱり誘ってたのか?

俺が…好きだから?

 

うっかり喜びそうになったゾロは、けれど、続くサンジのセリフに血相を変えた。

 

「も、いい…。…も、俺、ゾロのこと好きでいるの、やめる、から、離してくれ、よ…!」

 

「ちょっと待てェ!!!」

 

思わず叫んだ。

 

「待て、やめんな。俺も好きだから! てめぇが好きだから!」

 

ゾロとしては決死の告白のつもりだったのだが、それを聞いた途端、サンジは、うう〜っと呻いた。

蒼い瞳から、じわ〜っと涙が滲み出す。

「いーかげんなことばっか言いやがっ…!」

「いい加減なことじゃねぇ。ほんとだ。」

けれどサンジは、えぐえぐ泣きじゃくりながら、首を横に振る。

「お、おれ、俺が好きだったら、なんで、こんな、痛いんだよ…っ!」

「あー…、それは俺が悪い。すまん。」

サンジが行為に苦痛を感じていたのは、まさにゾロのせいだ。

サンジが過去に男と経験があると思い込んで、サンジに優しくする余裕すら失せるほどに嫉妬したせいだ。

だからゾロは素直に謝ったのだが、サンジは納得しようとしない。

 

何故かかたくなに、

「こんなに痛くて辛いのは、ゾロが俺のこと好きじゃないからだ。」

と言い張る。

 

嗚咽混じりに紡がれるサンジの言葉を総合するに、どうやらサンジは、「愛し合ってするセックスはとんでもなく気持ちがいい」と思い込んでることがわかって、ゾロは唖然とした。

 

なんだ、そのセックスに対する夢見る乙女みたいな多大な思い込みは。

 

「てめぇ…まさか…女ともやった事ねぇのか…。」

ゾロの言葉に、サンジは答えずそっぽを向いたが、その噛み締める唇と紅潮した頬を見れば、答えなど聞かなくてもわかる気がした。

 

そうか。と、ゾロは納得するのと同時に激しく脱力した。

 

処女で童貞だったから、あんなにも無防備で、あんなにも天然だったのだ。

きっとサンジはキスはレモンの味だの、恋って瑠璃色だの、本気で信じてる。絶対。

そうと知っていれば、むりやり挿入などしないで、じっくりと慣らしてやったのに。

 

愛し合ってするセックスはとんでもなく気持ちいい、と思い込んでいるサンジにとって、痛いだけのセックスは、まさしく、「愛されていない証拠」、に他ならない。

 

冗談じゃねぇ。

 

「今のなし。な? 優しくすっから。すげぇ優しくしてやる。な? な?」

 

ゾロは、ナミ辺りが見たら指差して笑い転げそうなほどおろおろと宥めにかかる。

ゾロらしくないことこの上ないが、そんなこと言ってられない。

こんなことでサンジを失うわけになどいかないのだから。

 

サンジはえぐえぐ泣きながら首を横に振っている。

もうやだ、を、何度も繰り返す。

 

仕方なくゾロは、サンジの意思など無視したまま、“優しく”してやることに決めた。

といっても、抜いたら二度と挿れさせてもらえないような気がしたので、挿れたまま、とりあえず、やだやだと泣き続ける口を塞ぐことにする。

先刻のように噛み付くようにではなく、優しく、味わうように、ゆっくりと。

「っん、…ふ…、ゥ… んっ…。」

サンジの鼻から抜ける声が、なんともいえず色っぽい。

こんな声を出すから、煽られるのに。

ゾロを咥え込んだサンジの中が、きゅうっと締まる。

締まりすぎて、気持ちいいと言うより痛い。

本当にちぎれそうだ。

 

楽勝で血ィ止まってんじゃねぇか? もしかして。とすら思う。

 

だがそれも、処女孔に慣らしもせず挿入したからだ、と思えば、抑えようもない愉悦が、心の中から湧き上がってくる。

この体に触れるのは、自分が初めてなのだ、という、強烈な独占欲で。

その一方で、挿れた自分がこれほど苦痛なのだから、受け入れたサンジの方の苦痛は、どれだけのものだろう、と思う。

 

けれどたぶん、痛みを訴えているのは、サンジの肉体ばかりではないはずだ。

サンジは、ゾロに愛されていないと思い込んでいる。

好きな相手に愛されていないのに、その相手に体を開いている、というのは、どんなにかこの男の心を傷つけていることだろう。

 

「好きだ…。」

 

囁きながら、その唇を、ちゅ、と啄ばむと、サンジの瞳が、涙を湛えたままとろりと甘く蕩けた。

 

「う、そだ…っ…。」

 

嘘だ、と言い返しながら、サンジはその両手をゾロの背中に回してくる。

必死にしがみついてくる。

ぽろぽろと涙を流しながら、キスをねだってくる。

幼な子のような、いとけない瞳をして。

そのくせ、薄く色づいた肌も漏れる吐息も、恐ろしく淫らで。

 

ゾロは苦々しい思いで舌打ちした。

 

…なんだってこいつはこう…。

 

人がせっかく優しくしてやろうとしてるのに、煽るだけ煽りやがって。

犯り殺されてェのか。

 

ちゅ、ちゅ、と甘いキスを繰り返しているうちに、痛いほどにゾロのペニスをくわえ込んできたそこが、次第に柔らかくなってくるのがわかった。

締め付けてくる狭さは変わらないが、硬いだけだったそこが、柔らかく、しっとりとぬめりを帯びてくる。

女陰ほどではないにせよ、後孔だってよく慣らせば濡れてくるのだ。

そっとサンジのペニスに手をやった。

さっきは乱暴に握ったそこを、自分のモノを擦るときよりも優しく、包み込む。

「ん…ッ…。」

サンジが思わず腰を引いた。

弾みで、さっきまではあまりの硬さに動くことすらできなかったゾロのペニスが、そこが程よくほぐれてきたおかげで、ずるりとサンジの中で、動く。

「ぐ…ッ!」

瞬間、強烈に背筋を駆け上がった快感に、ゾロは息を止めた。

「て、め、…この、バカがっ…!」

くちゅ、と微かにした淫らな音が、ゾロの欲情に追い討ちをかける。

歯を食いしばり、ゾロはサンジの腰を両手で抱えた。

「我慢、できるか! クソッ!!!」

半分ほど抜けかけたそれを、力任せにサンジの奥に押し込んだ。

「んああああっ!!!」

のけぞり、逃げを打つサンジの体を押さえつけて、ゾロは抽迭を開始した。

もう止まらなかった。

「ヒ! ひアッ! アアッ!」

狭くてきつくて熱い、柔らかな粘膜の中を、凶暴なほどに猛って張り詰めたもので、貫く。かき混ぜる。

蹂躙して、犯す。

「や、や…、ゾ、やめ、や…! あああッッ!!」

サンジがもう顔中びしょ濡れにして泣いているのが見えるのに、あられもない悲鳴をあげてのたうっているのがわかるのに、ゾロは止まらなかった。止められなかった。

 

俺ンだ。ちくしょう。

こいつの、全部。

俺のものだ。

 

「サンジ。」

 

名を呼ぶと、サンジが全身で反応するのがわかった。

 

「サンジ。好きだ。」

 

何度も何度もその耳に囁いた。

 

「いや…、いや、だ、…や…! やあああッ!」

 

いやだいやだと泣き叫びながら抗う体を、組み伏せて、押さえ込んで、犯す。

好きだと囁きながら。

そのセリフだけが、この行為の免罪符だとでも言うように。

 

「や…やだ…、こんな…やだ…! ゾロ…いやだ…。痛ェ…。」

 

子供のように泣きじゃくっていた声が、次第にすすり泣きに変わっていく。

悲痛な、せつない響きを帯びて。

 

「好きだ、サンジ…。」

「は、離せ…、いやだ…っ…。」

 

「好きだ。」

 

 

泣いている痩身を力いっぱい抱きしめながら、ゾロは射精した。

 

 

*     *     *

 

 

欲望に任せて中出しまでしてしまったゾロは、その後、そりゃもう平身低頭に謝り倒しながら、ぐったりと身動き一つできないほどに消耗したサンジの体の後始末をした。

「すまん」と「好きだ」を交互に連発しながら。

けれど、強姦も同然だったサンジは、完全にヘソを曲げていて、すっかり、好きな相手に体だけ弄ばれたヒロイン、になりきっていた。

どれだけゾロが「好きだ」を繰り返しても、それを認めようとはしない。

べそべそと泣きながら、

「し、死ぬほど、いた、痛かった、んだ、ぞ…っ!」

「ゾロが俺のこと好き、ってんなら、なんで、こんな痛い、んだよっ…。」

「やだ、おれ…、俺のこと好きでもない奴に、こんな、いやだ…。」

と、言い募る。

 

そしてゾロは、「約束」をひとつ、させられた。

その約束は、それからしばしの間、ゾロをそりゃあもう苦しめる事になるのだが、その時のゾロは、それを了承するしかなかった。

だって、ゾロはもう、サンジを手放す気なんか全くなかったから。

その約束さえ完遂すれば、サンジを手に入れる事ができるのだから。

 

厄介なのに惚れちまった。

 

そう思いながらゾロは、燃え立つ闘志に拳を固めていた。

 

 

*     *     *

 

 

「俺のこと好きなら、挿れんのなし。」

「ゾロが俺のこと好きになるまで挿れるのやだ。」

「俺が好きだっていうなら、俺のこと気持ちよくさせてみろよ。」

「俺が挿れてくれって頼むくらい、よくしてみせろよ。」

「死ぬほど気持ちよくさせなきゃ、てめぇが俺を好きだなんて信じない。」

 

─────信じないからな!

2005/04/18

 


ゾロサイド。そんなわけでゾロは一生懸命サンジにご奉仕していたのでした。


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