給食のおばちゃんサンジと幼稚園のロロノア先生


 

□ ロロノア先生のお誕生日 その2 □

 

だしぬけに耳元で怒鳴られ、ロロノア先生はびっくりして耳を塞いだ。

構わずにケーキを一つ選ぼうとすると、

「ちょっと待てぇ!!!」

いきなり横っ腹を蹴られた。

おばちゃんの柳腰から繰り出されたとは思えないほどの鋭く重い蹴りで、ロロノア先生の体は給食室の端っこまで吹っ飛んだ。

「何しやがる!」

ロロノア先生は当然怒った。

怒ったが同時にビックリもしていた。

ロロノア先生はマッチョなので当然体重も重い。

子供の頃からずっと剣道をやっていたので、足腰も強い。

だからこそ暴れる子供たちを何人もぶら下げたままでもよろけすらしないのだ。

今まで蹴られて倒れこむ、なんて経験した事はなかった。

それが、こんな、給食のおばちゃん如き…つまり、細っこい野郎如きの蹴り一発で、部屋の隅まで吹っ飛ぶなんて、信じられなかった。

しかもおばちゃんは片足立ちのミドルキックだ。

片足一本で吹っ飛ばされたのか。

軸足がぴくりともぶれない、綺麗な蹴りだった。

こいつ戦ったら相当強いぞ、と、ロロノア先生は瞬時に悟った。

咄嗟に闘う姿勢になって立ち上がったロロノア先生は、けれど、おばちゃんを見て呆気にとられた。

給食のおばちゃんは、蹴っ飛ばしたロロノア先生の方など見もせずに、なんだかあわあわしている。

両手をバタバタさせて、まるでアホな鳥が求愛ダンスを踊りそこなっているようだ。

「そういう事はもっと早く言えよ!」

と、しかもなんだか軽く怒っているっぽい。

そして、あわあわしたまま、調理台の上のプチケーキを全部片付けてしまった。

おい、とロロノア先生が声をかける隙さえ与えず、給食のおばちゃんは、くるっとこっちを向いた。

「てめェ、30分くらい待てっか?」

何がなんだかわからないまま、ロロノア先生は頷く。

「この後家帰って寝るだけだからな。」

そう答えると、給食のおばちゃんは、また、「はあ???」と言った。

「てめ、誕生日なんだろ? 今日!」

噛み付きそうな勢いの給食のおばちゃんに、ロロノア先生は、うん、と頷く。

「なのに、子供のケーキ食って、酒かっくらって、寝る、だけ?」

うん。

「もしかして祝ってくれる彼女もいねぇのか?」

うん。

「お祝いもなし?」

うん。

常日頃、お返事は「はい」ですよ、と教えてる立場にあるロロノア先生だったが、給食のおばちゃんの勢いにおされて、うん、を繰り返す。

「まじで家帰ってこんな一口で食いきっちまうようなケーキ食って寝るだけ?」

「や、飯くらいは食う。」

「………まさか…コンビニ飯じゃないだろうな。」

そのまさかだ。

給食のおばちゃんの目が、これでもかというほどに見開いた。

もう顔半分が目、というほどに。

 

「っっっっかああああああああ!!!!!」

 

突然給食のおばちゃんが奇声を発した。

ちなみにもちろん、常日頃からロロノア先生は「お教室では大きな声を出してはいけません」と教えている。

ここはお教室でなくて給食室だったが。

 

「30分そこで待ちやがれ!」

怒鳴るなり、給食のおばちゃんは、冷蔵庫をばたんばたん開けだした。

呆気にとられるロロノア先生の前に、ホットケーキミックス、卵、牛乳、なんかが次々に並べられていく。

最後にタッパをとりだすと、ぱこん、と開ける。

中にはアルミケースで固められた、手作りのチョコレートっぽいもの。

子供たちの為に作られたものだろう、それを、給食のおばちゃんは5個くらい無造作に取り出して、アルミケースから外し、包丁で荒く砕き始めた。

適当に砕いてから、それをフードプロセッサーの中に入れる。

がーっと粉末状にする。

そこに牛乳をちょっと入れて、またがーっとする。

一旦おばちゃんは手を止めて、ちょっと考えるような素振りを見せた。

「酒のつまみにする、っつったな…。」

や、別に普通に食ってもいいけど、とロロノア先生に口を挟むヒマはない。

「あんま甘くない方が好みか?」

給食のおばちゃんの顔がやたらと真剣で、ロロノア先生は釣り込まれるように頷いた。

するとおばちゃんは棚からインスタントコーヒーと酒っぽいボトルを2本取り出した。

「酒か?」

酒好きのロロノア先生、つい口を出してしまう。

「カルーアとアマレット。コーヒーと杏のリキュールだ。」

答えながらおばちゃんは、さっきがーっとしてたものの中にインスタントコーヒーを入れて、更にがーっとする。

ボウルに卵を割って泡立て器で軽く混ぜ、がーして出来上がったコーヒーっぽいものを入れ、牛乳を足して、ものすごい速さでしゃかしゃか混ぜ合わせたあと、ものすごく大胆にホットケーキミックスをぶち込む。

「言っとくが! こいつぁ、業者がお試しで勝手に置いていった奴で、俺ァ普段の給食にホットケーキミックスなんか使わねぇからな! 子供たちの食事は全部、粉から厳選してるんだからな。」

そう言われたけれど、ロロノア先生にはホットケーキミックスと普通の小麦粉がどう違うのかよくわからない。

ただ、給食のおばちゃんの手品でもしているかのように見事な手の動きに心奪われていた。

今度こういうのを子供たちに見せてやってもいいなあ、とか考えながら。

おばちゃんは、野菜ストッカーからどう見ても山芋を取り出して、皮をむいて、混ぜ合わせたものの上で、おろし金で山芋をすりおろし始めた。

とろろだよな、あれ。どう見ても。

いったい何が出来上がるんだろう、とロロノア先生はちょっと不安になった。

お好み焼きか?

お好み焼きってホットケーキミックスで作れるのか?

いや、お好み焼きにインスタントコーヒーは入れない。多分。

おばちゃんの手の中のものは、ミルクコーヒー色をしていて、既にお好み焼きの色彩ではない。

そこに、おばちゃんは、だばだばとカルーアを入れた。

生地が更にコーヒー色になる。

更に牛乳を足して、ゆるめの生地にすると、おばちゃんはフライパンに火を入れて、バターを放り込む。

フライパンの底を指先で、つん、とつついて温度を確かめたのを見て、ロロノア先生はびっくりした。

火傷しねぇのか?

じゅ、と音を立てて、フライパンの中に生地が流し込まれた。

ふわん、と甘い香りがして、やっぱりお好み焼きじゃねぇな、とロロノア先生は思う。

ホットケーキミックスっつうくらいだから、ホットケーキ作ってくれてるんだろう、きっと。

さすがのロロノア先生も、給食のおばちゃんが自分の為にケーキを焼いてくれてるらしいことを悟った。

そこで、蹴られた怒りはひとまずおいといて、おとなしく待ってみる。

帰り時でペコペコのおなかに、甘い香りはなかなか魅惑的だ。

でもお好み焼きでも俺は全然かまわねぇ。むしろありがてぇ。等とちょっと思ったりもする。

 

給食のおばちゃんは、焼きあがったものを調理台の上に次々に並べていく。

ホットケーキ?

ロロノア先生は、並べられたものを見て首をかしげた。

ホットケーキにしては薄い。

コーヒー色した、薄焼き卵のようなものが何枚も何枚も焼き上げられていく。

クレープ?

ロロノア先生はあまり食べたことはないが、さすがにクレープというものくらいは知っていた。

全部で10枚か、それ以上ありそうなクレープを全部焼き上げてしまうと、給食のおばちゃんは今度は冷蔵庫から生クリームを取り出して、しゃかしゃか泡立て始めた。

そこにアマレットが加えられる。

甘い匂いがしているが、リキュールだと言っていたから、酒だろう。

子供の給食にこんなに酒を入れることはあるまい。

だからこれは、本当にロロノア先生向きのケーキを、給食のおばちゃんが作ってくれているという事だ。

誰かが自分の為に特別に料理をしてくれるってのはなかなかいいもんだなあ、等と思いながら、ロロノア先生は給食のおばちゃんの横顔を眺めた。

手元は急いたようにものすごいスピードで動いているのに、おばちゃんの横顔は鼻歌でも歌いそうに呑気だ。

楽しそうに口元に少し笑みが浮かんでいる。

別のボウルに、また白っぽいバターかマーガリンっぽいものを出して、それも泡立て器で柔らかくする。

「それは?」

とロロノア先生が聞くと、

「マスカルポーネ。」

と一言返ってきた。

マスカルポーネ、マスカルポーネ。

どっかで聞いたな。

なんだっけな、それ。

ロロノア先生が呑気に考えてる間に、給食のおばちゃんは生クリームとマスカルポーネを混ぜ合わせてなめらかなクリームを作る。

マスカルポーネがまだなんだったか思い出せないロロノア先生が首をひねっていると、給食のおばちゃんは、おもむろにボウルに指を突っ込んでクリームを一掬いすると、「ほら」とロロノア先生の前に差し出した。

反射的に差し出された指をぱくん、とやってしまい、その瞬間にロロノア先生は、あ、なんかこの構図って「あなた、味見て見て♪あーん」とかいう新婚夫婦っぽい、と思ってしまった。

ぶわっと体の芯が熱くなったが、根性で顔には出さない。

給食のおばちゃんは、事もなげにロロノア先生の口から指を引き抜いた。

ちゅぽん、と音がした。

「ど?」

と首を傾げられ、ロロノア先生はまた内心うろたえる。

落ち着け。こいつは男だ!!

口の中のほんのり甘い味に、やっと意識がいく。

軽いチーズケーキのような。

「あ。」

そうだ、マスカルポーネって、チーズだ。確か。

でもチーズケーキほど濃厚な感じはしない。

軽くて、口の中でふわっと溶けて、ふんわり甘くて、ほのかに杏の香り。

「うまいな。」

素直にそう言うと、給食のおばちゃんがにぱっと笑った。

 

もうすっかり熱の取れたコーヒー色のクレープを敷いて、クリームを塗って、またクレープを重ねて、クリームを重ねる。

そうやって何回も何回も繰り返すと、段は積み重なって、普通のケーキくらいの厚さになった。

上と横にも丁寧にクリームを塗ってから、おばちゃんは、上にココアを振りかけた。

「ミルクレープのティラミス風〜♪」

それから冷蔵庫からなにやら取り出して、屈み込んでごそごそやると、それを出来上がったケーキの上に置いた。

 

『おたんじょうびおめでとう ゾロくん』と書かれた、チョコレートプレート。

 

ゾロくんて。

「お前…これ、園児用だろ。」

「園児の為の食材しかねぇよ、ここには。」

にやっと笑いながら給食のおばちゃんが答える。

「園児の為の食材をてめェに使ってやったんだ、ありがたいと思え。」

そう言って、おばちゃんがくすくす笑うので、ロロノア先生も相好を崩した。

「横領だな。」

「横領だ。ま、明日、ナミさんに自首するさ。」

二人でにんまりと笑いあった。

給食のおばちゃんは、それを綺麗なレースのナプキンの上に乗せ替えて、どこからか深めのお菓子の缶を持ってきて、それに入れた。

そして、再び後片付けを始める。

「あー、なんかすまねぇな。」

ロロノア先生が頭をかきながらそう言うと、給食のおばちゃんはこっちを見もせずに、

「すまないついでに、おれをてめェんちまで連れて行け。」

と言った。

「あ?」

「誕生日にコンビニ飯なんて哀れすぎて泣けてくる。俺が飯作ってやる。」

 

2004/11/18


長いな…。
もうちょっと短めに終わるはずだったのに。


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