* Pure Blooded *


 

−7−

 

「だからな、ゾロ。そこんとこわかってあげなくちゃだぞー?」

ゾロのリードを引きながら、ルフィがぼそぼそとゾロに話しかけていた。

「サンジはまだなーんにも知らない子供なんだぞ、子供。いくらガタイがお前と同じくらいでもなー?」

独り言のようにルフィは呟き続ける。

近くのドッグパークまでの道すがら、ゾロは一度もサンジを見ない。

歩く速度もサンジと違えていて、今、ゾロをつれたルフィとサンジを連れたナミの間は10mくらい離れている。

こりゃ相当根深そうだ、と思いながら、ルフィはゾロに語り続けた。

人間の言葉でも、きっとゾロに通じる、と思いながら。

「お前だって好きんなったのサンジが初めてだろー? 好きな相手には優しくしなくちゃなんねぇんだぞ。俺はナミにすげぇ優しくしてんぞ。絶対泣かせねェって決めてんだ。好きんなるってそういうことだぞー?」

ちょっとのろけなんかも入る。

「サンジはー、女の子大好きだけど、女の子にサカったことねェんだぞ。そんくらい子供だぞ。オスにマウンティングさせたのなんかお前だけだぞ。」

ゾロが、ハッとしたようにルフィを振り仰ぐ。

まるでルフィの言葉がを理解しているかのようなタイミングで。

「これからサンジはずーっとうちの子になるんだぞ。ケンカしたまんまでいいのかー? ケンカしたままだと、サンジも女の子のとこ行っちゃうかもしんないぞー。」

ゾロが明らかに後方のサンジを意識するようなしぐさを見せた。

ルフィも視線を後ろにやる。

ナミに連れられたサンジは、俯いてとぼとぼと歩いている。

「あんなに落ち込んじゃって可哀想になー。なァ、ゾロー、お前はサンジより2つお兄さんだ。1歳の頃はお前も今よりずっと子供で、今よりずっと何にも知らなかったろー?」

怒るでもない。諌めるでもない。

ただ静かに、ただ独り言であるかのように、ルフィは呟いた。

 

「ゾロもサンジも幸せなのがいいなー。俺。」

 

 

 

サンジはお散歩が大好きだ。

ナミさんちでは、毎日決まった時間にナミさんが近くの森林公園まで連れて行ってくれた。

だだっ広い森林公園でナミさんとかけっこするのはとても楽しい。

 

だけど。

 

今日のサンジは、はしゃいだような様子一つ見せず、とぼとぼとナミさんにリードを引かれながら、ルフィの家の近くにあると言うドッグパークへの道を歩いていた。

全然心が沸き立たない。

全然楽しくない。

ナミさんといるのに。

大好きなお散歩なのに。

ちらりとゾロを見る。

ゾロはサンジよりずーーーっと前方を、ルフィに連れられて歩いていた。

あれからゾロは、一度もサンジを見ない。

まるでサンジという犬などそこには存在しないかのように振舞っている。

それが心底辛い。

あの金色の目が自分を見ないことが、こんなに辛いなんて思いもしなかった。

このままナミさんと帰ることが出来るのだろうか、と思う。

ナミさんと帰って、サンジはいつもの生活に戻れるのだろうか。

戻れないような気がする。とサンジは思った。

 

だって心はこんなゾロに囚われている。

このまま帰って、本当にゾロに忘れられてしまったらと思うと、全身が恐怖に震えだすほどに。

 

どうしていいかわからない。

でも、帰りたくなかった。

帰りたくない、とはっきり思った。

このままゾロの傍にいたい。

たとえゾロがもう二度と許してくれなくても。

ゾロが二度とサンジを見てくれなくても。

 

ゾロと、離れたくない。

 

 

ドッグパークには、色々な犬とその飼い主が来ていた。

ルフィの顔なじみも多いらしく、ルフィはしきりにあちこちに挨拶している。

だが、ゾロはどの犬にも挨拶ひとつしようとしない。

他の犬達もゾロを怖がっているようで、近づきすらしない。

飼い主仲間たちは、

「おお、ゾロー。相変わらず愛想ねェなあー。」

と笑ってはいるが、その気質を知っているのだろう、無用心にゾロに近づく者もいない。

ゾロは大型犬で、緑の艶のある真っ黒な毛並みだから、見た目に威圧感がある。

その上、容姿は狼とほとんど変わりない。

更には、狼と同じ、ぎらつくような黄金の瞳。

犬でも人でも、うかつには寄せ付けないような雰囲気を、ゾロは纏っていた。

 

─────でもそれって寂しくねェのかな…

 

ゾロ達から少し遅れてドッグパークについたサンジは、ゾロの様子を眺めてそんな風に思った。

だってサンジは知ってる。

サンジといたゾロが、どんなに優しく、温かかったか。

どれだけ細やかにサンジの相手をしてくれていたか。

ほんとのゾロは、あんなふうに孤高を好んでいるわけではない。

ゾロだって寂しがり屋で、甘えたがりだった。

今は冷たく光るあの金色の目が、サンジといる時柔らかく優しい光を放っていた。

 

全部、サンジが自分で壊してしまったけれど。

 

じわ、と涙がこみ上げてきて、サンジは慌てて首を振った。

 

やばい。泣きそうだ。

でも泣いちゃダメだ。

ナミさんが心配するから。

 

ナミさんとサンジがルフィに追いつくと、振り向いたルフィが、にかっと笑って、飼い主仲間に、「これ、俺の嫁さんのナミとナミの犬のサンジ。」と紹介した。

その場が、「えええ、結婚したのー?」とか「こんな綺麗な人がー?」とかざわめきだす。

サンジにしてみたら不穏としか言いようのないルフィの発言だったのに、サンジは心ここにあらずでルフィの言葉なんか全然聞いていなかった。

 

ゾロ。

ゾロに、謝らないと。

 

─────ごめんなさい、って、言わないと。

 

ゾロはサンジ達とは少し距離を置いたところに立っている。

その目はやはりサンジを見ていない。

それがこんなにも辛い。悲しい。

この距離が、もどかしい。

 

─────謝らないと。

本気であんなこと言ったんじゃないって。

ゾロの事をあんなふうに思ってないって、ちゃんと。

 

 

それから…、それから、…ゾロが、好きだって、ちゃんと。

 

 

「ゾ────…」

言いかけたとき、

「この子も狼犬? すごく綺麗ねェ。」

と、頭上から声をかけられて、サンジはハッとした。

瞬く間にサンジは何人もの人間たちに囲まれる。

その隙に、ゾロはルフィと、とっとと遊びに行ってしまった。

「ホワイト? じゃないわね、プラチナブロンド? 美人だわ。」

「ほんとに不思議な毛の色ねぇ。きらきらして綺麗。」

「瞳はブルーか。すごいな、ハリウッド女優だな、まるで。」

それはサンジにとっては聞き慣れた賞賛だった。

サンジはそれほどに人目を引く、美しい犬だ。

狼特有のしなやかで優美なシルエット。

透明感のある、輝くプラチナブロンドの毛並み。

アクアマリンをはめ込んだようなブルーアイ。

そして、人懐こくて優しい気質。(レディ限定)

「こんにちは。初めまして、サンジ君。」

にっこりと美しいレディに話しかけられて、サンジは慌てて居住まいを正した。

サンジはジェントルマンだから、いついかなる時もレディには最敬礼なのだ。

即座に褒めてくれたレディの足元に跪き、

「ああ、マドモアゼル、とんでもない! そう仰る貴女の方が何千倍も美しい!」

と、その手に恭しくキスをした。

例え人間には、犬がおすわりして手を舐めたとしか見えなくても、サンジはレディを褒め称える事に手は抜かない。

返す刀でそのレディが連れていたトイプードルのお嬢さんにもにっこり笑いかける。

ほんとは恋のハリケーン32回転くらいしたいのだが、トイプードルのお嬢さんはサンジよりもずっと小さくて華奢なので、傍でサンジみたいな大きな犬がぐるぐる回りだしたら怯えさせてしまう。

だから、

「なんて愛らしい姫君なんだ。」

と、メーロリンメーロリンと腰をくねらせるだけにする。

それでも充分、トイプードルのお嬢さんは怯えていた。

変な人を見る目で。

「やぁん、この子可愛いー♪」

でも、トイプードルの飼い主のレディは、サンジに感激してくれたらしい。

いいこいいこしてくれた。

「狼犬なのにすごい人懐っこいのね。」

それを聞いてナミさんが、

「女の人に対してだけね。」

と、笑いながら言った。

社交的なナミさんは、もう、ずっと前からその人達と仲間であったかのように打ち解けている。

「ええー、そうなのー?」

「そうよぉー、うちのサンジ君は綺麗な女の人にしか反応しないのよー。」

「やだー♪」

「どれどれ、んじゃ俺がちょっくら。」

目の前に犬好きしそうな男が寄ってきて、サンジに向かって笑いかけた。

当然サンジは、つーんとそっぽを向く。

「こら、本物だ。」

男が参ったーという顔をして、場が沸いた。

 

その時だった。

 


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