修学旅行に行けなくなったシンジ達は、アスカの強い希望もあり、NERVのプールで貸し切りで泳ぐことになった。ちなみに碇兄弟はあまり、泳ぐのが得意ではない。
「シンスケあんたホント遅いわよ。さっきから、私とクロールの競争、十数回やっても勝てないじゃない。」
「くそ〜っ」
ちなみに、平泳ぎでも、バタフライでも全敗のシンスケ。シンジ君はお勉強中である。
「何、シンジさっきから理科の勉強なんかやってないで泳ぎなさいよ。」
「だって、このごろ訓練、訓練で宿題がやばいんだよ。」
「仕方ないわねバカシンジ。私が手伝ってあげるわ。どれどれ、なんだこんな数式簡単じゃない。」
「アスカ、成績悪かったんじゃ?」
「私はドイツで大学卒業してるわよ。ただ漢字が読めないだけよ。」
「えっ、大学?」
「そうよ。」
「アスカ、この熱膨張しっかり覚えておけ。(シンスケ)」
「ちょっと、漢字以外の勉強は、あんたなんかより、少なくとも数倍理解してるわよ。」
「いいから、<熱膨張>キーワードとしてしっかり覚えとけ。」
「あんたの指図なんて、絶対に受けないわよ。」
「いいから、熱膨張だ。」
「ちょっとあんた、さっきから熱膨張、熱膨張って、バカにもほどがあるわ!」
<熱膨張>、歴史では、第8使徒を倒した、アスカの思い付いた戦法だ。あの時、アスカは自分の胸を熱膨張に例えていた。
しかし、今回はシンスケが放っておくと、そういった熱膨張の話しがないまま第8使徒戦を迎える可能性があり・・・、そうなってしまうと、アスカが<熱膨張>の戦法を思いつかず、使徒に敗れてしまう可能性がある。
それを防ぐためシンスケは、わかっている内容の勉強をわざとしたのだ。
へえー、マグマの中の使徒を倒しに行くんですか。(シンスケ)」
「それ、私がやるわ。(アスカ)」
「ええ、初号機と、零号機は特殊装備が無理だから、アスカに出撃してもらうわ。(リツコ)」
控え室に行き、プラグスーツを着てみるアスカ。事前に言われたとおり、装備後、右腕のボタンをおしてみると、ぷくう〜、プラグスーツがだるまさんのように膨らむ。
「ちょっと何これ、カッコ悪〜い、シンジ、やっぱりあんたが、やってよ。」
「え、だから初号機は無理だって・・・。」
「そうよ、我慢しなさい。(ミサト)」
「そんな、こんな姿加持さんに見られたくないわ。ああ最悪。」
その後も、なんだかんだ言いながら、結局、アスカは出撃することを決心した。
熱いマグマの中をどんどん沈んでいく弐号機。アスカは、汗だくだくである。弐号機のナイフが落ちる。
黙って、それを初号機の中で見つめるシンジ。オペレータの声もしばらくはなく、沈黙の中シンスケが声を発する。
「熱そうですね。」
その言葉の直後、シンジがプログナイフを落とす。
「シンジ君?(ミサト)」
「念のためですよ。アスカと使徒が戦うことになるかもしれないなって思って。」
「そう、今度からちゃんと許可を求めてね。」
もちろんこれは、シンスケの作戦である。あらかじめシンジと話しをして、シンスケが<熱そうですね>とキーワードを言ったら、プログナイフを投げろと指示してあったのである。
ナイフを落とした後の言い訳もあらかじめ話し合っていたのだ。
シンジは、なぜそんなことをする必要があるのか、不審に思っていたが、兄を信用していたので、黙って言われたとおりにしたのである。
「使徒捕獲成功したわよ、ミサト。(アスカ)」
発令所は、今までの重苦しい雰囲気がなくなり、歓喜の声に包まれた。加持もほっとしたが、なんとなく発令所を見渡してみると、シンスケの表情がおかしい。
(なんだ、シンスケ君の、この厳しい表情は。作戦は成功したのに・・・。)
加持の思考は、アスカの叫び声により、一旦止まった。そう、第8使徒が羽化を始めたのだ。その直後、シンジの投げたプログナイフが落ちてくる。あわててキャッチするアスカ。
「アスカ、キーワードは<熱膨張>だ。」
「熱膨張ですってちょっとあんた・・・、そういうことね、わかったわ。」
アスカは、弐号機のナイフの左腕の循環パイプを切断する。そのパイプを使徒の口いっぱいに突っ込む。
「なるほど、熱膨張ね。」
「冷却剤すべて三番に回して。急いで。」
その数秒後、使徒の口と腹が、限界まで膨らんで、ついに体が裂ける。青い血を大量に流す。使徒の殲滅は成功した。しかし弐号機の生命線であるケーブルも切れ、使徒もろともマグマの中に沈んでいく。
「もう、ここまでなの。」
しかし、アスカは特殊装備なしの、初号機に救出され、事無きを得た。
「無理しちゃって、ばかシンジ。」
(・・・碇シンスケ、俺の想像以上の人物だな。)
修学旅行中にも関わらず、仕事をさせられたお詫びとして、シンジ達は温泉に行くことになった。しかし、なぜマグマの仕事の後、温泉なのだろうか?その理由はミサトが、極楽のビール風呂を楽しみたいからだったりする。
「いい湯だね、兄さん。」
「そういや隣、女風呂なんだな。シンジ覗いてやろうか。」
「兄さん!」
「ははは、冗談だよ。」
「でも兄さんの作戦、うまくいったね。どうしてあんな作戦立てられたの?」
「俺がシンジに指示を出したことは誰にも言うなよ。作戦は勘だよ、勘。」
「そうなの、でも、すごい勘だね兄さん。」
「ははは、そうだな。俺ってすごいだろ。」
ガラガラ、腰にタオルを巻き、大事なものを隠した加持が風呂に入ってくる。
「おう、シンジ君とシンスケ君、もう入っていたのか。」
とぼける加持、実はさっきの碇兄弟の話しをちゃんと聞いていたのであった。
シンジ達、男組が温泉を出た後、まだ、ミサトとアスカは湯につかっていた。
「それにしても、今日のシンスケ、変だったわ。」
「えっ。」
「私に、プールで熱膨張、熱膨張って、バカみたいに、何度も言うのよ。でも使徒戦のとき・・・」
「それ、本当なのアスカ。」
「ええ。」
「まさか、使徒が羽化することを知ってて・・・いえ、そんなことありえるわけないわよね。」
シンスケに対する疑惑の目が広がっていた。
後書き
書き終わってみると、またレイがぜんぜん登場していない・・・。プールでも、第8使徒の作戦会議でも、シンジ達といっしょにいる設定なのですが、一言も書かれていない。レイファンの方に怒られそう。物静かなキャラクターだから、セリフが多いこのSSでは出番が消されてしまっているのである。(←俺が書いてないだけだろ!)
次回予告
「ヒカリに学校のたまったプリントを届けて欲しいと言われ、綾波の家に行った碇兄弟であったが、相変わらずの殺風景な部屋に呆れかえり、レイにおせっかいを焼くことにした。エヴァ2回目、第13話「レイの部屋」さ〜て、次回もサービスよん♪