第23話「手紙」

第14使徒殲滅の1週間後、負傷中のシンジを除いたパイロットの三人がシンクロテストを行なっていた。前回の戦いで突如109.2%という、信じられない数字を見せたシンスケに注目が集まったが・・・

「初号機 シンクロ率64% 零号機 シンクロ率68% 弐号機 シンクロ率36%」 

(ダメだわ・・・。あの時のシンクロ率はなんだったの?)

シンスケは期待はずれの、ほとんどいつも通りのシンクロ率しか出さなかった。落胆するリツコ一同。だが、それ以上に気がかりなのはアスカのシンクロ率低下である。

(アスカ・・・。俺が未来を教えてしまったのと、2回続けて使徒に完全にやられて、他人に手柄を奪われたのが原因か。何とかしなくちゃな。)

ミサトはアスカの数字に頭を痛めているからこそ、明るく言った。

「三人ともご苦労様。上がっていいわよ。」


「シンちゃん、けがの具合はどう?」

「だいぶ動けるようになってきました。」

シンジの入院している病院。もうあと、2週間ほどで退院できるそうだ。

「シンジより、重症なのはむしろアスカですかね、ミサトさん。」

「そうなのよね・・・。あのシンクロ率の落ち・・・。精神不安定を示しているわ。見事なまでに、使徒とシンジ君達に負けちゃったから、プライドがズタズタなのよね。」

「ホント、あの時とそっくりだよな・・・。」

シンスケのこの言葉の意味は、シンジとミサトにはすぐわかった。もちろん、シンスケの前の世界のアスカと同じということだ。

「兄さん、その・・・トウジはどうなの?」

「ああ、もうすっかり怪我は治ったよ。・・・ただ、今はエヴァのパイロット続けるかどうかで、かなり悩んでるよ。」

「いきなり、あんなことになったからね・・・。無理もないね。」

先日の第13使徒戦を思い出す。しみじみとした、雰囲気になるシンジ一同。その雰囲気を断ち切る、ミサトの言葉。

「ところでシンスケ君、今日のシンクロ率、わざとでしょ。」

「なんの事ですか?俺は常に全力ですよ。」

苦笑しながら言うシンスケの姿が、それが嘘だという事を示していた。しょうがないなぁと思うミサト。

(もったいないわ。間違いなく最強のパイロットなのに、また控えに回さないといけないなんて。)


隣のアスカの部屋を訪ねるシンスケ。アスカは、フンなによと言わんばかりの不機嫌な顔をしている。アスカは白い封筒を差し出された。

「俺からの手紙だ。次の使徒に関わることもある、見ておけ。」

「ふん、なによ。いらないわ、こんなもん。」

「見ろ。」

強引にアスカに渡して、シンスケは去っていった。

(なによ、嫌でもいつも顔合わせるんだから、ちゃんと口で言えばいいでしょ。まったく。)

と、シンスケに不信感を感じながらも封筒を切り、手紙を見るアスカ。その手紙には以前シンスケが話したよりも詳しく未来のことが書かれてあった。アスカがシンクロ率が下がった原因も遠慮なく、事実そのまま書かれている。

(うそでしょ、こんなの・・・。)

自分が精神障害に陥ったのは知っていたが、こう詳しくその進行状態まで書かれているとさらなるショックを受けるアスカ。手紙の2枚目にはこう書かれていた。

「弐号機の中に、アスカの母親である惣流キョウコさんが眠っていることはもう話したな。EVAに乗るとき、そのキョウコさんに思いっきり甘えてみろ。それだけでシンクロ率は格段に良くなるぞ。」

「それから加持さんにも相談してみろ。最近お前、いつも一人っきりだぞ。あの人は人生経験豊富だから、絶対いいアドバイスくれるはずだぞ。」

(・・・・・・・。)

そして、最後の三枚目の手紙には、

「次の使徒戦で精神攻撃をあえて受けるかどうかは、アスカ自身が、来月の5日までに決めてくれ。もし嫌ならシンジが俺が攻撃を受ける。」

(フン。こいつの指図に従うのは癪だけど、加持さんに相談でもするか。)


次の日、NERVで加持を見つけたアスカは、シンスケの手紙を見せ、悩みを打ち明ける。いくら尊敬する加持でもプライドの高い彼女がそんなことをするのは、始めてではないだろうか?

「・・・・・・ということなんですけど。このままじゃ私、精神汚染で・・・。」

加持はシンスケの手紙の一部分に手を指し、

「俺は、この一文だけは肝に命じた方がいいと思うぞ。いくら俺が、人生経験豊富で、立派な人物だったとしても、これだけはEVAに乗って、未来を知っているシンスケ君にしか語れない言葉だからな。」

「わかったわ、加持先輩。」

うなずきながら、元気に答えるアスカ。

加持の指差した文の言葉は、

「自分が操縦するのではなく、EVAに操縦してもらえ!」

と書かれてあった。アスカがこの言葉の意味を理解するのは、もう少し後のことになる。

(電子メールの時代に手紙とはな・・・。ずいぶん古風なんだな彼は。)


それから、1週間後、EVAのシンクロテスト。オペレータのマヤが、思わず笑顔でシンクロ結果を報告する。

「初号機 シンクロ率63% 零号機 シンクロ率 69% 弐号機 シンクロ率40%」

歴史では、下がる一方だったアスカのシンクロ率が再び上昇の気配を見せ始めた。

「アスカ、なんとかシンクロ率の低下、止まったわね。(リツコ)」

リツコの声は、エントリープラグの中のアスカにも聞こえている。いつも、愚痴ばかり、聞かされていたので、御機嫌である。

「ええ、アスカは、なんとかなりそうね。それにシンちゃんも今日退院だし、もう戦力ばっちりね。(ミサト)」

「ああ、そうそう。参号機も修復が完了したわ。あんなことがあったけど、トウジ君また、EVAに乗ってくれるって言ってくれたわよ。(リツコ)」

「・・・また、暴走したりしないでしょうね。」

「大丈夫。あんなヘマ、私がニ度もさせないわよ。」

「それもそうね。よし、これで、エヴァが4隊。まさに無敵ね。」

歴史にない、四号機の出陣はありえるのだろうか?シンスケの胸には期待と不安が渦巻いていた。


シンスケとレイの同居生活。かなり日は経ってきたが、シンスケの本能と理性の葛藤は休まるときがない。

なにせ、シンスケに対してレイは女として、まったく警戒をしていない。先週など・・・

「シンスケ君、一緒にお風呂入らない。」

と、冗談でなく、本気で誘ってくるのである。もしも、シンスケが本能のまま行動したとしても・・・レイはまったく抵抗せず、むしろ喜んで受け入れてしまうのではないだろうか。

あの時はなんとか断れたが、もう後一歩で理性が壊れそうだった。

今日はNERVから帰り、疲れたので、制服脱いだらすぐに眠ってしまったようだ。なにも着ずに、下着姿のままである。

(ああ、綾波を・・・・・・・・・<シンスケ妄想中>・・・・・・・・・ダメだ、そんなこと。でも・・・。)

自分の部屋に戻った後も、綾波の下着姿が目を焼き付いて離れない。

(とほほ・・・。とてもじゃないけど眠れないよ。)

そう思いながら、またレイの部屋に行くシンスケだった。もちろん彼女の魅力的な姿を見るためである。


後書き

ってなわけで、トウジがチルドレンに登録されました。アスカがシンジの手紙を読むシーンが短い・・・。もっと長くする予定だったのに・・・。予定通り行った事なんてあるのか?(爆)

次回予告

「ついに第15使徒戦が始まった。アスカはあえて精神汚染を受ける事を希望する。果たしてアスカは歴史に逆らい、自分の心に打ち勝てるのか?次回エヴァ二回目<アスカ試練>見てくれなきゃ、二日酔いさせてあげるわよ。


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