第5話「歴史通り」

「エヴァ初号機発進。(ミサト)」

・・・第5使徒が攻めてきた。シンスケはこの後の歴史は知っている。シンジが敵の攻撃で一時危険な状態に陥るのも知っている。

・・・しかし、彼にこの出撃を止める権限はなかったし、仮にあったとしても下手に歴史を変えず、かつシンジを成長させたい彼にとって、ここでシンジが危険な状態に陥ることも必要なので、この出撃を止めることはしなかっただろう。

「敵内部に高エネルギー反応。現在N32方向へ向けて、収束中。(シゲル)」

「何ですって。シンジ君よけて。」

「うわああああああ。」

初号機は、大きなダメージを受け、シンジも集中治療室へと運ばれていった。


「お、やっと目がさめたかシンジ、お前もうちょっとで、あの世行きだったな。(シンスケ)」

「兄さん、綾波。」

「シンジ、疲れてるところだろうが、もうひと踏ん張りしてくれ。今から、綾波がこれからの日程を言う。綾波頼む。」

「明日午前0時より発動されるヤシマ作戦のスケジュールを伝えるわ。・・・(中略)・・・明日0時00分ヤシマ作戦開始。」

「これ、食べて」

「何も食べる気しないよ。」

「シンジ食っとけ。腹が減っては戦はできぬ。」

「また・・・アレに乗らなきゃ行けないの?」

「ああ、俺が乗っても意味がないからな。」

「それってどう言うこと?」

「今は秘密。そのうち話す時が来るさ。頑張れよシンジ!お前は勝つさ。」

(俺もそうだったからな。とはまだ言えないよな。)

「碇君、60分後に出発よ。」

「わかった。もう1回乗るよ。乗って、あいつを倒すよ。」

そう言ったシンジの顔には、シンスケの、”この頃”と違い、決意がみなぎっていた。


(ヤシマ作戦か・・・。確か成功率は10%以下だったとか後で聞いたな。まあ、未来で俺が殲滅しているってことは、成功確率はもっと高いだろうがな。・・・綾波は怪我するだろうけど、あれぐらいは防ぎようがないだろう。ここは、黙って見ているとするか。頑張れよシンジ。)

缶ジュースを飲みながら、シンジは未来の思い出を蘇らせていた。その周りではNERV職員の技術部が、陽電子砲の準備にあわただしく動いている。あと2時間ほどで完成するようだ。


「ヤシマ作戦スタートします。(日向)」

ヤシマ作戦が発動した。歴史通り、1発目は外れた。

「シンジ君、第2射、急いで。(ミサト)」

これまた、歴史通り2発目があたる。そして、零号機が倒れた。急いでレイに駆け寄るシンジ。零号機のプラグを引きちぎりレイを助け、口を開く。

「自分には他に何もないって・・・そんなこと言うなよ。・・・別れ際にさよならなんて・・・悲しいこと言うなよ!」

「・・・・・・(レイ)」

「碇君、どうして泣いてるの?」

「・・・・・・(シンジ)」

「ごめんなさい・・・・・・、こういう時、どんな顔すればいいかわからないの?」

「笑えばいいと思うよ。」

レイを背負って歩くシンジ。そんなシンジをシンスケは温かく見守っていたかった。

・・・しかし心のどこかでこの微笑ましい光景を見たくない、と思っている自分がいた。彼はそんな自分の心に戸惑っていた。


ヤシマ作戦終了後、家に帰る前に、シンジとシンスケはNERVの銭湯に入っていた。

「よくやったな、シンジ。」

自分自身の言葉にシンスケは、ハッとなる。それは、父の最初で最後の父親らしい言葉と同じであった。そして、とてもうれしかった言葉。・・・なんだかんだ、言っても親子なのかなと、シンジは思った。

「兄さん、綾波が仕事に必要な言葉以外で話してくれたのは始めてだったよ。」

「そうか。どうやら、昔の俺と違って綾波はコミュニケーションを取ることが嫌いなのではなく、取り方を知らないようだな。」

「・・・・・・。」

「この前、学校の昼休みにあいつ弁当じゃなくて、栄養カプセル飲んでたよ。いったい、NERVも何考えてんだかな。EVAに無理やり乗ってもらってるんだから、弁当ぐらいちゃんと用意してやれよ。」

「シンジ、明日から俺達で綾波に弁当作ってやろうぜ。コミュニケーションの仕方を学ぶ良いチャンスになるかも知れないしな。」

「うん、そうだね。兄さん。あと、綾波のあの家もなんとかならないのかな。」

「確かに、あそこは、ひどすぎだよな。あの殺風景な風景ならまだ、ミサトさんの超ちらかった部屋の方が、数倍ましだよ。上が許可してくれるかはわからんが、とりあえず、俺達のマンションの隣の部屋にでも来れるよう申請するか?」

「え、僕達の隣の部屋?」

「ああ、他の場所だと警備上の問題があるとかで、許可下りないかもしれないだろ。でも、俺達と同じマンションならちゃんと警備してあるから大丈夫だろう。隣の部屋にしたのは、少しでも綾波が俺達とコミュニケーションを取れる機会を増やすためさ。」

「なるほどね、さすが兄さん。明日ミサトさんに相談してみるよ。」

だが、このシンスケのアイディアはゲンドウの「ダメだ」の一言によって許可されなかった。レイをダミープラグの実験に参加しなくなることを恐れた結果であった。なかなか思うとおりにはいかず、苦悩の多いシンスケであった。


翌朝、シンジとシンスケが共同に作った弁当を綾波に渡した。

「綾波、弁当作ってきたぞ。いつもそんなもんばかり飲んでないで、普通のもん食えよ。」

「命令なら、そうするわ。」

「相変わらずだな。いまはNERVじゃなくて、学校なんだ。NERVのことは忘れろよ。お前は見た目はかわいいんだから、もうちょっと人とのコミュニケーションが取れれば、もてるようになるぞ。」

「コミュニケーション?」

「そうだ、まあすぐに理解しろたって無理だろう。とにかく、まず今日はその弁当は食うことから始めてくれ。」

「わかったわ。命令には従うわ。」

はーっ、と大きなため息をつくシンスケとシンジであった。


後書き

第5話にしてやっと、レイがしゃべてくれました。<汗>(←書いてるのは、自分だろ。)今回はなぜか風呂のシーンが長い。しかも風呂のシーンなんて、最初の予定ではやるつもりなかったんだけど、これで2回目。本編のセリフにしても、1話以外はほとんど使わないはずだったのに。なんかSSが作者の意図をはずれて勝手に一人歩きしている気がします。

次回予告

「アスカがセカンドチルドレンとして日本で来日することがNERVで決定した。シンジはエントリープラグの中で未来の楽しい思いで・つらい思いでを無意識のうちに振り返っていた。次回エヴァ2回、第6話「バカシンジ」 さーて、次回のエビチュ−も美味しいわよ、ごっくん。」


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