碇シンジは悩んでいた。
この一通の不幸の手紙をどうしようか悩んでい た。
『来い ゲンドウ』
ここまで簡潔に書かれるともやは呆れる事しか 出来なくなる。
何時、何処で、何を、どうすれば良いのか。
日本語とはこのように状況語、主語、述語など と言った構成をしているにもかかわらず、
述語と名詞だけで書かれた手紙は今の今までシ ンジは見たことが無かった。
シンジは頭を必死にひねってやがて閃いたよう に両手を打った。
「そうか・・・・・・・あぶり出しなんだな。 なかなか粋な事をしてくれるじゃないか!!」
後にこの手紙は散々火であぶられて灰となっ た。その後のシンジの反応は、
「アチャ〜、あぶり出しと見せかけて実は暗号 だったのか。」
と右手を額にぴしゃりと打っていた。
「・・・・・・・・・・と言う訳なんですが ね、師父の言っていた手紙ってもしかしてそれだったのですか?」
「え〜っと・・・・・・・・おそら く・・・・・・そう・・・・・・・だと思う・・・・・・・のではないか・・・・・ な?
わしも実の息子にそんな簡潔な手紙を出す親 なぞ見たことがないからのう。
まあ差出人が碇ゲンドウならば多分それであ ろう。」
あの手紙を簡潔といったら他の簡潔な手紙に失 礼だ。
「こんな手紙でせっかく作った仙桃の樹を手放 す事になると?
冗談じゃないですよ、ここにいますよ僕 は。」
まあシンジにとってはメモのような手紙で
丹精こめて作った仙桃の樹を天秤にかけるなぞ もっての他なのだろう。
「ふ〜む・・・・・・・いっぺんこいつの面を 拝んでみたいぞ。」
「そういえば、どう言う面してたかすっかり忘 れましたよ、僕も。」
最後に顔見たのは10年前だから なぁ・・・・・・・と、遠くを見つめるシンジ。
「ところで・・・・・・・・師父は碇ゲンドウ の事何か知ってるんですか?」
出なければ手紙が来る事は予想できませんよ ね?とたずねるシンジに太公望はゆっくりうなずく。
「うろ覚えだが・・・・・・・NERVと言う 非公開組織があってな。
おぬしの父親、碇ゲンドウはそこの総司令な のだ。
5年前におぬしの姓に聞き覚えがあったのを 思い出してな。
すこし調べてみたらその名がでて来た。
この間の黒服黒メガネがNERVのSSなら ば
もしやそいつがおぬしを必要になったのでは ないか・・・・・・っと思ってのう。
まあ流石にこんな手紙が来るとは思っておら んかったが。」
「う〜ん・・・・・・・・悪の組織って感じで すね。
10年息子をほおって置いた人物が総司令な んて世も末ですよ。
そんな父親の所に行く位ならここで修行しつ つ仙桃を作ってる事を望みますがねぇ・・・・・・・」
そう言ってシンジはおもむろに懐の仙桃を取り 出してそれにかぶりついた。
「しかしそんな風に10年息子をほおっておい た人物が呼び出しているのだ。
どんな理由か興味が湧かぬか?それにわしは おぬしの父親もいっぺん見てみたい。
それに俗世の様子を知るいい機会だ。この際 行くだけ損は無いと思うぞ?
気に食わんかったら帰ればいいだけのことで あろう?」
「うーん・・・・・・そうですね、行くだけ 行って見ましょう。」
仙界伝封神演義異聞奇譚
来視命縛幻想記 第弐回 事の始まり |
第三新東京市よりの二、三ほど手前の駅で、シ ンジと太公望が立ち往生していた。
ちなみにシンジは学校に行っていないので制服 ではない。
白と水色の服を組み合わせて茶色の帯で縛った 道服のような物を着ている。
「青い空・・・・・・・白い雲・・・・・・輝 く太陽・・・・・・そして人っ子一人いない駅。
素敵過ぎると思いません?師父。」
かなり頭にきてるシンジは同じアナウンスを繰 返す電話を必要以上に力を込めて切った。
ベキッと言う音と共に受話器を置く為の金具が わずかにひん曲がる。
「・・・・・・・市民集団ボイコットか?非常 事態宣言発令とはまた物騒なものが流れておるが・・・・・・・・
戦争でもはじまるのかのう?」
「とりあえず非常識な事態に陥ってる事には変 わりありませんよ。」
そう言ってシンジは駅の近くの階段に座り込 み、仙桃にかぶりついた。気持ちを落ち着けるためである。
酒豪と化したシンジは仙桃の一、二個じゃあ簡 単に酔いつぶれなかった。
それに習って太公望もシンジの隣に座り込み、 懐から仙桃を取り出す。
「さて、どうする?第三まで歩くかそれとも帰 るか?」
「自分としては帰りたいです ねぇ・・・・・・・」
そう言ってため息をつくシンジ。
ドオオオオオオオンンン!!!!!!
「なっ、なに!!?」
突然、大きな音が聞こえて二人はそちらの方向 に目を向ける。
高い風切り音を出して飛んで行くミサイルが目 に付いた。
「・・・・・・・巡航ミサイル!!」
「やはり戦争か?」
冷静に現在の状況を見つめる二人。
そしてミサイルが飛んでいった方向を見定め る。
「・・・・・・・怪獣だ・・・・・・・」
呆けて呟くシンジ。その目にはこの世の物とは 思えない異形で巨大な怪物が、
突進している様が映っていた。
「・・・・妖怪ですか?」
「いや・・・・・・・解らぬ。しかしあの魂の 波動・・・・・・・・どこかで感じた事があるような・・・・・・・」
ミサイルを受け止め、戦闘機を払うその怪物を
太公望はじっと見据えて自分の記憶を探るが今 ひとつ思い出せない。
そうこうやっている内、使徒に払われて撃墜さ れた戦闘機がこっちに向かって墜落してきた。
「・・・・・・・宝貝、『定界珠』を使いま す。」
そう言ってシンジは戦闘機のほうに一歩踏み出 し、懐に忍ばせてあった丸い球を取り出した。
太公望は被害を受けないように無言で後ろへ下 がる。
「疾ッ!!」
鋭い掛け声と共にシンジの持っている球が光 り、シンジの立つ後方の地面が盛り上がった。
盛り上がった地面が変色し、鉄に姿を変えて戦 闘機へ突っ込む。
ズガアアアアアアン!!!
凄まじい音が響いて戦闘機は粉々に なった。
シンジは無言でその球・・・・・・宝貝『定界 珠(ていかいじゅ)』を懐にしまった。
定界珠・・・・・・これは太公望が各地を放浪 していたときに練り上げた宝貝である。
この宝貝は全ての物質に干渉し、性質を変えた り自由自在に動かしたりして操る事が出来る。
シンジはこれを使い、地面の性質を鉄に変えて 戦闘機にぶつけたのだ。
・・・・・・・・ちなみに仙桃の品種改良を行 なった宝貝も定界珠だったりする。
「ふむ・・・・・・・すっかり馴染んだようだ のう。宝貝の使い方にはもう慣れたか?」
「ええ、おかげさまで。」
そう言ってシンジは荷物を持って振り返った。
「・・・・・・・やはり帰りましょう。ここに いても危険があるだけのようですし。」
「そうだのう、碇ゲンドウの面を拝めなかった のはいささか残念だが
これ以上ここにいると余計な事に巻き込まれ そうだ。」
そんなわけで帰ろうと歩を進めたシンジがぴ たっと足を止めた。
「・・・・・・・・電車、止まっちゃったんで すよね・・・・・・・・」
「・・・・・・・・あ゛。」
ヒュ〜〜・・・・・・・・
怪物が騒がしく暴れているのに、シンジたちの 側には乾いた寂しげな風が吹き抜けた。
「やれやれ、結局流されるしかないの か・・・・・・・・・定界珠で自動車とか作れぬか?」
「誰が運転するんですか・・・・・・・・それ にそんな複雑なもの、イメージ出来ませんよ。
せいぜい不恰好な自転車が限度です。」
「むう・・・・・・・どうしたものかの う・・・・・・・・・」
考え込んでいると物凄いスピードで走っている 一台の青い車が突っ込んできた。
ギャギャギャギャギャ!!!
「ぬおおおおおおぉぉ!!!?」
「うわあああああぁぁ!!!?」
悲鳴を上げる二人を尻目に、
その車は凄まじいスピードでスピンして道路に タイヤの後をつけてドリフトし、
太公望とシンジの目の前にピタッ!と止まっ た。凄まじい腕の持ち主だ。
そしてその車のドアが勢いよく開かれた。
「碇シンジ君ね!!?・・・・・・そっちは 誰?まあ良いわ、とにかく乗って!!もう時間がないわ!!」
中から出てきたグラサンの爆乳お姉さんの迫力 に圧倒され、
二人はこわごわと車に乗り込んだ。
「飛ばすわよ!!舌噛まないように気をつけ て!!」
その台詞と同時にアクセルを目いっぱい踏み込 むお姉さん。
その途端に速度を表すメーターが一瞬にして振 り切った。
凄まじい音を響かせて爆走する青い車。
「「ぎょえええええええええええええええ え!!!!!!!!」」
後に残ったものは二人の発した断末 魔・・・・・・失敬、絶叫の声であった。
「え〜っと・・・・・・・葛城ミサトさん、で いいんですよね?」
手紙についてきた写真と爆乳お姉さんを見比べ て自信なさげに言うシンジ。
「そうよ、ミサトでいいわ。よろしくね、碇シ ンジ君。
ところでそっちはどなた?」
そう言って太公望の顔を見るミサト。
「僕の師父です。」
シンジは簡潔に答えた。
「・・・・・・・・師父?」
「はい。」
ミサトは首をひねっていた。なるほど、シンジ の服装を見れば何かしらやっているような感じはする。
それを教えた先生か何かなのだろうか?
「シンジ・・・・・・そんな説明じゃ誰も解ら ぬと思うがのう・・・・・・・」
「・・・・・・・・じゃあどう言えば良いんで しょうか?」
元々人付き合いが少ないシンジは、説明や話術 と言ったものが苦手である。
それに仙道と言った人間を超越しているものが いたらなおさらだ。
まさか道術を教えてくれた道士様ですなんて 言っても信じられるはずが無い。
「わしは・・・・・・・呂望と言う。呂が姓で 望が名だ。5年前からシンジと一緒に暮らしておる。
今回はシンジの父親の面を見てみたくてつい てきた。」
ややこしい所は見事にハショった説明。しかし 相手に認識させるには十分だった。
ちなみに呂望と名乗ったのは太公望では有名の ようだし、
王奕と言う名は何処となく苦手だったからである。 伏羲はもっての他だった。
「ところで・・・・・・・・戦闘機が怪物から離れて行っておるようだ が?」
その言葉に反応して、ミサトはバックミラーを見た。
「・・・・・・・なっ!!?N2を使うつもり!!?まだ十分離れてな いのに!!」
ミサトの到着が遅れた為に怪物から離れる時間が無かったのだ。
このままN2の直撃を受ければ大怪我は免れない。
「・・・・・・・・・僕がやりますか?」
つまり、定界珠を使ってこの車を覆う防護壁を作ろうと言う事を示して いた。
「いや、超スピードで走っているこの場合は定界珠は不向きだ。わしが やろう。」
そう言って太公望は懐から先に丸い球体のついた大きな教鞭のような物 を取り出しす。
大気を操る宝貝『打神鞭(だしんべん)』に
とてつもない力を持ったスーパー宝貝『太極図(たいきょくず)』がつ いたものだ。
そして凄まじい爆発音がしたと同時に
「疾ッ!!」
太公望の掛け声が木霊して、風のヴェールが車を覆った。
「何々!!?何が起こったって言うのよ!!?」
N2の白い閃光が収まって自分の車の状態を確認したミサトが回りを見 渡して叫んだ。
愛車、アルピーヌルノーを中心とした半径二Mを残して、
回りの建物が全て吹っ飛び残骸が転がっていたのである。これで驚かな い奴はいないだろう。
ちなみに先ほどの怪物は、表皮が焼きただれて活動を停止していた。
「うわ・・・・・・・あれほどの爆発にも火傷だけ。あれって一体何な んですかね?」
「う〜む・・・・・・・・・見当がつかんのう。」
「・・・・・あれ?さっき魂の波動に見覚えがあるみたいな事言ってま せんでしたっけ?」
「忘れた。」
「・・・・・・・・・・・そうですか。」
こんな状況でも平然と話をしているシンジ達に、ミサトは少し戦慄を覚 えた。
「・・・・・・・・・貴方たち・・・・・・・一体何者なの?」
この状況はこの二人が起こしたものだと言う事を理解して口を開くミサ ト。
「太公望とその弟子です。」
シンジが仙桃を取り出しながら答えた。
第2回目にして出て来ました、シンジクンの宝 貝。
これ、原文では字が違って『定海珠』と言うん ですが、
それだと考えていた効果と合わないので字を変 えて掲載しました。
今回は挿絵付きです。シンジ君の右手の所に浮 いてる球が定界珠です。
かなり躍動感が無い絵になってスイマセン。
僕の絵はいつもへっぽこですね。
いよいよ次回は碇ゲンドウとのご対面です。使 徒戦はさらに後になりそうですけど。
この話、展開が遅いんですよね。
もっと『エヴァ2回目』みたいにてきぱき進め たいものです。
それでは、感想お待ちしております。
以上、アンギルでした。
トマトの後書き
あいかわらず、読みやすい文章です・・・。
私の文書って読みずらいですから。
しかし、シンジ君は酒のことで頭がいっぱいですな。
未成年でしょ、シンジ君!
いや〜、絵が書ける人はうらやましい。私まったくダメなの。
このサイトに絵が無いのは容量よりも、それが原因です。
アンギルさんの作品はご自身のホームページであるWing of Seraphimで読めます。