「・・・・・・・・・特務機関NERV ねぇ・・・・・・・・・・・」

シンジが手に取ったファイルを見て呟く。

シンジ、ミサト、太公望の三人は傷つく事の無 かったアルピーヌ・ルノーに揺られ、

カートレインで長いトンネルを進んでいた。

「そうよ。国連直属の非公開組織。」

シンジの呟きにミサトが答える。

「この間僕達のところに来た怪しさ抜群のお兄 さん方はここのSSですか?」

「・・・・・・・・・・・多分そうよ。」

まさかSSのことがばれていたとは夢にも思わ ず、冷や汗を流しながらミサトは答えた。

「・・・・・・・ふーん・・・・・・・・」

シンジは興味をそがれたように背もたれに寄り かかった。

太公望は後ろで懐をごそごそ探っている。

 

「・・・・・・・・ん?・・・・・・・・・・ んん?」

ごそごそしながら唸る太公望。

「どうしました?師父。」

「・・・・・・いや、仙桃のストックが切れた ようだ。そんなに持って来なかったからのう。余っておらぬか?」

「いいですよ。いっぱい持ってきましたし。」

そういってシンジは懐から仙桃を二つ取り出 し、ひとつを太公望に渡してもう一つにかぶりついた。

「・・・・・・・・・何それ?」

表面に仙と大きくプリントされている桃に興味 を示すミサト。

「仙桃といってのう、酒の成分を含む桃だ。と は言っても毒性も依存性もないがのう。

 液体に溶けるとなんでも最高級の酒に変える 代物だよ。」

太公望が仙桃を食べながら答え る。・・・・・・・・どうでもいいがおまえら食べすぎ。

 

「酒?シンジ君未成年でしょ!」

「うるさいですねぇ・・・・・・いまどきそん なの守ってる人はいないですよ。

 それにこれは毒性も依存性もないんですか ら。般若湯ですよ般若湯。」

自分にも思うところがあったのか、ミサトは思 わず口をつぐんだ。

おまけに般若湯という言い訳もかつて自分も 使ったことのある言い訳だ。

 

「・・・・・・・・大体、本当にそんな桃存在 するの?怪しいわねえ。お姉さんにも一口頂けないかしらん?」

明らかに口実である。

本当だったら自分も仕事中に酒が飲めてラッ キー♪、嘘だったら腹ごしらえができてラッキー♪

どちらにしても一息つけるぅっ♪という寸法 だ。

もっとも、二人が自分のことを仙道といった時 点で、嘘と言う考えはほとんどなかった。

ミサトは一応現実を見ることができる目を持っ ている。

でなければ、外で怪物が暴れている現時点で大 パニックを起こしている筈だ。

車を守った力と言い、ミサトは二人が仙道とい うことを信じていた。

 

「・・・・・・・・まあいいですよ。あと3つ ほどありますから。」

そういってシンジは懐からもう一つ仙桃を取り 出してミサトに手渡した。

 


仙界伝封神演義異聞奇譚
来視命縛幻想記

第参回  太公望VSリツコ とんち大決戦


 

「・・・・・・・・見た目は変な桃よね え・・・・・・・」

そういいながら仙桃を口に運ぶミサト。結構い さぎよい。

「・・・・・・・凄い!ほんとにお酒だわ。」

驚いたように声をあげるミサト。味のほうも結 構気に入ったようだ。

その様子を見てシンジは少し微笑む。

「美味しいでしょう?僕が研究に研究を重ねて 人間界でも育てられるように品種改良した仙桃なんです。

 ・・・・・・・・今日はその仙桃の樹をほっ ぽってまで来たんですから。

 僕を呼び寄せた理由はそれと天秤にかけても お釣りが来るくらい面白いことですよねえ?もちろん。」

顔は笑っているが目は笑っていない。

にっこりした瞳ですさまじいプレッシャーをか けるシンジは

はっきり言って某金髪マッドより怖かったと後 に彼女は語る。

「え、え〜っとお・・・・・・・」

目を泳がせてどもるミサト。額には冷や汗がに じんでいた。

ミサト自身、今回シンジを読んだ理由をいいも のだとは思っていない。

 

「こらこらシンジ、あまりいじめるではない よ。」

冷や汗をたらすミサトに、太公望の助け舟が 入った。

ほっと胸をなでおろすミサト。

「・・・・・・・・お父さんの仕事、知って る?」

とりあえず話を変えて先ほどのシンジの質問を ごまかした。

「さあ?そういえば人類を守る立派な仕事だと か叔父さんがのたまっていましたが。」

すでにシンジは叔父の事を先生とは呼んでいな かった。それだけ成長したことが伺える。

言われたことをそのまま言ったシンジだが、ミ サトはそれを父に対する皮肉ととった。

「・・・・・・・・・・お父さんのこと、苦手 なの?それとも嫌い?」

「って言うか・・・・・・・・顔さえ覚えてな いです。」

10年会ってませんからねぇ〜と、いやに間延 びした口調で

のんびりおき楽にしゃべるシンジに、ミサトは どっと脱力する。

・・・・・・・・まじめに聞いた私が馬鹿みた いじゃないの・・・・・・・・こめかみを抑えてうつむいた。

それを見てシンジが口を開く。

「まあだからこそ来たんですよ。10年息子を ほおって置いた男がいったいどんな顔をしていて、

 いったいどんな理由で息子を呼んだの か・・・・・・・非常に興味深いと思いませんか?」

ま、どうせミサトさんは両方とも知っているん でしょうけどね。と続けるシンジに、

ミサトの顔は思いっきり引きつった。

 

やがてカートレインは長いトンネルを抜け、光 あふれるジオフロントへと運んでゆく。

青きルノーの窓は、つい先ほどまでの無骨なト ンネルの壁から、

天井からビルがぶら下がり、人口光に照らされ た未来的な美を作り出す景色を映している。

カートレインの線路は途中で何本かに別れ、そ の一つは大きなピラミッドのような建物に伸びていた。

 

「・・・・・・・・・・トンネルを抜けると、 そこは不思議の町でした。」

「なんだ?それは?」

「気にしないのが吉です。」

ちょっと版権がやばいんでないの?と言うよう なシンジの台詞に突っ込みつつ、軽く返される太公望。

「しかし・・・・・・・ジオフロントか。わし も長いこと生きておるが本物は初めて見るのう・・・・・・」

太公望が感心したように周りを見回す。

「きっと今にしゃべるカエルや透けるストー カーや鼻が異様にでかい魔女が出てきますよ。」

「ほう?それは楽しみだ。」

んなもん出るかああああああああ!!!!!

シンジの台詞にミサトがついに叫びだした。

ゼエゼエと肩で息をするミサトを見てくすくす 笑いをこらえる太公望&シンジ。

どうやらミサトは二人のからかいのおもちゃに 任命されたようだ。合掌。

 

「・・・・・・・ったく、少しくらいはしゃい で驚いてみなさいよ・・・・・・・・・・

 ここは対使徒迎撃組織、人類再建の要、NE RV本部よ。

 直径6キロ、高さ900メートルの世界最大 の地下施設。凄いでしょ?」

なんかもう投げやりな感じになってるミサト。

さっきもらった仙桃にかぶりついてヤケ 酒・・・・・もとい、ヤケ桃をかっ食らってる。

「・・・・・・・・・使徒?」

一方シンジはミサトの聞きなれない言葉に眉を しかめた。

「ああ、さっきの怪物よ。使徒って呼称されて るわ。」

「ふ〜ん・・・・・・・いい趣味してます ね。」

そういってシンジは窓の外に目をやる。

「・・・・・・・まあ確かに綺麗ですよね。」

そう答えるシンジの瞳は、差し込む光に照らさ れた木々や小川を映していた。

「人口の物と言えど命が宿ってい る・・・・・・・好きですよ、こういうの。」

「・・・・・・・・うむ。」

二人は微笑んで窓の外を眺めていた。

「(・・・・・・・・なんだ。ちゃんと子供っぽ い顔も出来るじゃない・・・・・・・・)」

ミサトはシートに身を沈め、自分も窓の外の景 色を眺めながら仙桃にかぶりついた。

つかの間の休息を楽しむため に・・・・・・・・・

 

「・・・・・・・・・・・ところ で・・・・・・・・もう一つ仙桃くれないかしらん?」

「駄目です。」

「・・・・・・・・・・ケチ。」

 

・・・・・・・・・・ミサトも結構味を占めた ようだ。

えびちゅから仙桃に乗り換える日も近いだろ う。

 

 

 

「あっるっこ〜、あっるっこ〜、わたっしは〜 げんき〜〜♪」

「・・・・・・・・何だ?それは?」

「例によって気にしないのが吉です。」

さっきからずっとNERV本部の通路を歩いて いる三人。

「しかし、どこまで行ったら着くのかのう?も う同じ番号のついた扉を5回ほど見たのだが・・・・・」

「きっと今に元気なお姉さんの乗った猫のバス が出てきますよ。」

「ほう?それは楽しみだ。」

んなもん出るかああああああああ!!!

お約束なやり取りにまたもやミサトが叫びだ す。

「・・・・・ぜえ、ぜえ、と、とにかくあなた 達は黙って着いてくればいいのよ。」

「・・・・・・・とは言ってもね え・・・・・・・5回目ですよ?この通路。」

「いや、あそこのドアで6回目だ。」

「自分の職場で迷うなん て・・・・・・・・・・」

「「はあ・・・・・・・」」

両手を横に、腰の高さまで上げて「駄目だこ りゃ」というようなしぐさでため息をつく二人。

いか○や長助を彷彿とさせるため息であった。 これで頭の上から金ダライが落ちてくれば言うことはない。

「・・・・・・そ、そんなことないわよ。同じ ような通路と扉が極端に多いだけよ。

 きっとあなたたちの気のせいだわ。」

「「ソ〜デスネ?」」

ノリはタ○リに対する観客の皆さんと言った所 か。

「は、ははは、あはははは は・・・・・・・・」

愛想笑いをしながらがちがちに歩くミサト。

「・・・・・・・これ以上無駄な時間を取らせ ると定界珠でおばあさんみたいにしちゃいますよ?」

シンジの瞳がきらりと光り、その懐から定界珠 が顔を出す。

「ハ、ハイッ!葛城ミサト、自分の職場で迷っ てしまったので直ちに迎えを呼びますです、ハイ!」

「よろしい。」

おばあさんが余程嫌なのか、

ミサトは直立不動のまま懐にある携帯電話で大 学時代からの親友を呼び出した。

 

「リツコぉ〜〜、ヘルプミイイぃぃ〜〜〜〜 〜!!」

電話に向かって泣きながら大声で叫ぶミサトほ ど、笑える物は無かったと後にシンジは語る。

 

 

「・・・・・・・・・まったく、また迷った の?ミサト・・・・・・・・・・」

通路の横にあったエレベーターから金髪の女性 が出てきた。

「ゴッミ〜ン、まだ不慣れでさ」

てへっと顔の前に片手を上げて謝るポーズをす るミサト。

「・・・・・・・まったく・・・・・・・それ で、その子がサードチルドレン?」

そういって金髪女性は物を扱うような目でシン ジを流し見た。これにはシンジもカチンとくる。

「・・・・・・・・・失敬ですね。人を道具で も見るような目で見ないで下さい。

 僕は道具ではなく人間なんですから。」

シンジのもっともな物言いに、金髪女性は考え を改めたのか、シンジに向き直って口を開いた。

「ごめんなさい、碇シンジ君。確かに礼に反す るわね。悪かったわ。

 私はNERV本部技術一課E計画担当博士、 赤木リツコよ。

 博士って言うのは堅苦しいから、普段はリツ コでいいわ。よろしくね。」

すぐに自分の非を認めたリツコにシンジは少し 気を良くする。

「科学者の方ですか。そう言う系統の方々は頭 が固くて頑固な連中ばかりだと思ってましたが、

 すぐに謝ってもらえた所を見ると、そうでも ないみたいですね。

 僕も少し言い過ぎました。申し訳ありませ ん。

 僕は・・・・・・もう知っているようですが 自己紹介しておきます。

 始めまして、碇シンジです。どうぞ、シンジ と。」

礼を貰ったら礼で返すのがシンジのやり方であ る。

5年前に太公望に対して礼を無視したのを反省 したためであった。

「理解していただいて光栄だわ・・・・・・・ ところでそちらは?」

リツコは太公望に向き直る。

「シンジの保護者をしている、呂望と言う者 だ。よろしく。」

そう言って頭を下げる太公望。

「それはどうも。所で・・・・・申し訳ないん だけどここから先は関係者以外立ち入り禁止なのよ。

 シェルターのほうへ行ってもらえないかし ら?」

リツコはどうしても太公望を入れたくないし、 太公望はシンジにどうしてもついて行きたい。

とんち合戦の始まりである。

「そうか、それではシンジいっしょにシェル ターへ行くとしよう。

 わしらはこのNERVという組織とは関係な いからのう?」

即座にシンジとともに踵を返す太公望。しかし リツコも負けてはいない。

「そうはいかないの。シンジ君にはこちらの方 が用があるから特例で認められるのよ。

 だからシンジ君はこっちに来てくれる?」

リツコはそう言ってシンジに手を差し伸べる。

太公望がどうやってリツコを言い負かすか興味 が湧いてきたシンジは、

黙ってリツコにしたがって太公望に目で合図し た。

言い負かしてみろ、ということだ。太公望に笑 みが生まれる。

「しかしわしはシンジの保護者だからのう。

 今までシンジを10年間ほおって置いたその 父親に会う義務と権利はある筈だぞ?」

そう言って歩み寄る太公望。

「だけれど今は緊急時。イレギュラーはなるべ く減らしたい時なのよ。会うのはいつでも出来るでしょう?

 この場はご理解して頂けないかしら?」

リツコのさすがなものだ。太公望の物言いを何 とか受け流す。

「ではその緊急時にNERVとは関係の無いシ ンジがいるとなおさら迷惑がかかるのではないか?

 普通はこんな時だからこそシンジをシェル ターに連れて行って

 事が収まったあとに父親に合わせるものだが のう。」

さすがにこれにはリツコも詰まる。

「・・・・・・・・・シンジ君にもやってもら う事があるのです。一般人はシェルターの中へ非難していて下さい。」

ついに奥の手を繰り出す。ある程度の情報の漏 れを覚悟した上であった。

しかし、この時点で太公望は勝ち誇ったように ほくそえむ。

「シンジはただ父親の面を見にここまで来ただ けだぞ?手紙には「来い」としか書いてなかったからのう。

 こんな時こそシンジが必要になるような状況 ならばその用件を手紙に書いているはずだ。

 よっぽどやましいことか、知ったら逃げ出す ようなことに相違ない。これでは詐欺も同然だ。

 ならばそんな信用のならない所などには関わ らず、このまま帰ったほうが利巧と言う物だのう。

 そんなわけだからわしらはおとなしくシェル ターに非難して事が収まったら帰るとしよう。」

もともと頭が狡い(こすい)上に人生長く生きて いる分、太公望のほうが数枚も上手であった。

そしてリツコはついに銃を太公望に突きつけ る。

「おとなしく言うことを聞いて下さい。これ以 上時間を浪費する訳には行きません。

 これ以上我々の行為を妨害すると連行させて いただきます。」

実力行使に出た時点で、シンジはお見事と手を たたいた。

「流石ですね、師父。伊達に長く生きていな い。」

「カカカ、口でわしに勝てるやつなどそうはお らぬよ。」

どうだ参ったかと胸を張る太公望。

「あなたたち!」

そう言って銃を向けるリツコだが、突然その銃 がグニャリと変形し、ただの鉄の塊となった。

「あなたの負けですよ、リツコさん。師父も僕 と一緒に連れて行ってくれる事を要求します。」

シンジの右手には、定界珠がしっかりと握られ ていた。

 

しばらくリツコは何が起こったかを認識できず 呆然としていたが、シンジの

「どうしたんです?時間が無いなら早く連れて 行ってください。」

という言葉に思わずうなずき、上の空でエレ ベーターに取り込んだ。

 

「所でシンジ君、リツコを言い負かしたお祝い にもう一つ仙桃を・・・・・・・・」

「駄目ったら駄目です。もう2個くらいしかな いんですから。これは大事にとっておくの!」

「ちぇ・・・・・・・・・ケチンボ。」

 

ミサトは既にえびちゅから仙桃に乗り換えてい た。

 


 

太公望VSリツコ。勝敗はリツコの何百倍も生 きている太公望にあがりました。

すいません、へぼいとんち合戦で。僕はそんな に成績がいい方ではないのです。

使徒が自分たちの頭の上で暴れまくってるのに この緊張感の無い話。・・・・あ、一応活動停止中か。

とりあえずまた僕がへっぽこということをア ピールするような話になってしまいました。

こんなの投稿して申し訳ないですね、トマトス パイスさん。

いよいよ次回はシンジVS使徒です。なんとと んでもない事が起こります。

今のシンジがそのまんまエントリープラグに入 るとどうなるか・・・・・・・・もう想像つきました?

分からない方は次回を待ってください。

それでは、感想お待ちしております。

以上、アンギルでした。

 


 

トマトの後書き

ミサトの酒好きは凄いですね・・・。そして、シンジ達のからかいが酒の肴ですか。

タイトルのとんち合戦よりも、ミサトの方がよっぽど目立ってる気がするぞ。

ギャグなのか本格的なのが、わからないのがアンギルさんの作品の特徴ですね。

いや、悪い意味で言ってるんじゃないですよ。

太公望・・・リツコにはとんち合戦勝利しましたが、ミサトには惨敗だったような。

アンギルさんの作品はご自身のホームページであるWing of Seraphimで読めます。

 


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