闇と福音を告げる者
インターミッション
北欧
フィヨルド・深海洞窟
セカンドインパクトでさらに水位が上がりこの水深には高性能の深海艇でなければ来る事ができない。
そんな中で砂漠遊牧民風の服を着た老人とシルクハットに黒のタキシードを着た男が黒服達を引き連れて巨大な門の前にいる。
「ご老人、ここがそうなのか」
「そうじゃ、世界殿が指定した場所に相違あるまい。見よ、この狼に飲み込まれる大神オーディンがその証拠じゃ。
ここにまちがいなくアレはある」
「それでは私がやりましょう。ご老人は下がってください」
北欧神話のラグナロクを描いた扉の前に立ち男が呪文の詠唱に入る。
「古き盟約に従い黒の法を執行する。フレイム・ロンド!」
男の前に魔方陣が描かれそこから炎が噴出す。
扉に凄まじい勢いでぶつかる。
しかし、描かれた狼の瞳が赤く光、炎を吸い込む。
「さすがですな。この程度ではどうしようもない、しかしこれ以上威力を上げると洞窟が崩れる。ご老人、方法は?」
「相も変わらずせっかちじゃな。このオーブをあの狼の口にある穴に入れい」
男が高く飛び穴にオーブをはめ込み扉が大きく動き出す。
「よし、お前達行け!」
男の号令のもとに黒服達が携帯用の照明を扉の奥に設置していく。
しだいに明かりが広がりここが巨大な空洞であることが分かる。
その空洞に30mはあろう槍を持った金属のフルアーマーとさらに一回り大きな金属の狼が鎮座している。
お互い争うように組み合っている。
「これがラグナロクにある大神オーディンと神殺しの妖狼フェンリルの「神衣(かむい)」か。
状態も良好ですな、では、ご老人早速」
「分かっておる。急かすでない」
面倒くさそうに黒服から杖を受け取り、呪文の詠唱を始める。
「我、力を行使せん。世界の根源たる霊子(エーテル)よ、我が意に添い一時その姿を変えよ!」
杖から光が放たれて鎧と狼の上で大きな環を描きカーテンのように覆い隠す。
そして光が消えた後には3m程のサイズになった鎧と狼があった。
「これでよかろう。はやく運び出せ」
『はっ!』
黒服達が荷造りを始め数分で別々の木箱に詰められ運び出される。
「案外楽でしたな。ゼーレの方の妨害もなかったです『ガッ、グアッー』何事だ!」
扉の外から苦しむ声が聴こえそちらを向くとYシャツにネクタイ、スーツにメガネとどこから見てもサラリーマン風の若い男が黒服の流した血の海に立っていた。
木箱を持った黒服達も動きを止めて相手の動きを探っている。
「御初におめにかかります。『THE HERMIT』サイデス・アッブース殿、『STRENGTH』サー・マイスン殿。
私はロナウド・エイフィスと申します」
「ほう、『空間使い』がわざわざのう。ご苦労なことだ。だが、ゼーレの飼い犬が何のようじゃな」
老人―サイデス―が好々爺然とした笑いを浮かべてロナウドを見つめる。
マイスンと黒服達は遠巻きに包囲していつでも攻撃できる態勢を整える。
「いえいえ、大したようではありません。ただその箱を渡していただきたいんですよ」
なんでもないようにサイデスに笑いかけ近づく。
「それはできん相談じゃな。世界殿がこれの到着を待っておるんでな。マイスン!」
「フリーズ・ランス!」
老人の叫びと共に氷の槍が次々にロナウドに向かって飛んでく。
さらに黒服達もどこからか取り出した重火器や符で攻撃する。
ロナウドは平然と右手を掲げる。
すると黒い影か前に現れ全て呑みこんだ。
「ならばこれじゃ!」
空中に符から10体の雷精を呼び出し飛ばす。
雷精達はイカヅチを吐きだし鋭い爪で引き裂こうとする。
しかし、この攻撃も影に呑まれ影から作った剣で逆に雷精が切り刻まれていく。
「空間には狭間があり、私はそれを見て自由に扱える。だから影の剣も楽に作れる。」
自慢げに言い放つと黒服達に切りかかろうとするが黒い壁が現れた。
「貴公が来る事は予想されていた。我らが主がな」
洞窟を照らし出す光に影が滲み出し中から男が姿を表す。
その姿は法夜に瓜二つだ。ただし、その瞳が左右の瞳の色が違う金銀妖瞳であることを除けば。
「我はダークネス。我は主の影、主の邪魔をする者は涅槃へと還るがいい」
「あなたが世界に仕える『闇』ですか。私と同じ空間使い、どちらが上か一度お手合わせ願いたかったがこんな所でね」
嬉しそうに笑い出して剣を握る。
「・・・・・・・・」
ダークネスがゆっくりと右手をマントから出す。
「ハッ!」
ロナウドが気合と共に空間を切り裂き亀裂を襲い掛からせる。
ダークネスが黒い壁で遮る。
それが戦闘の合図になった。
10分後
お互いに空間を圧縮してぶつけたり、影から分身を作り攻撃させたりしたがいっこうに決着がつかないまま膠着状態になった。
いつでも技を繰り出せるように構えながら距離をおく。
「・・・・・・そろそろか」
ダークネスがつぶやき天井を見上げる。
すかさずロナウドが影の剣を砕きそれを針に形を変えて放つ。
同時に空間を圧縮した物を叩き込むべく接近する。
ロナウドは勝利を確信していた。その瞬間は。
ザクッ
何かが刺さる音をロナウドは知覚した。
その時に体が突進しようとし態勢のまま動かないのも自覚し、最後に巨大なツララが楔のように背中から腹に貫通し地面につきささっているのを見た。
「遅かったな。黒天女」
ダークネスが針を片手で防ぎ相変わらず天井を見つめ言葉を発す。
すると天井から女がゆっくりと降りてくる。
その女も超美形といってもいい顔立ちだがそれよりも体全体から出される淫気が人を超えている。
伝説の楊貴妃や玉藻の前もかくやと思われる四肢に天界で作られるという無縫の黒の衣を纏い妖艶な笑いを浮かべて地に足をつける。
「舟の準備にいささか手間取ってのう。ヌシ様ご所望の品安全に届けねばなるまい。
それにしても汝はどうした。ヌシ様の闇たる感情無き汝がかように戦い楽しむとはのう。ホッホホホホ」
黒天女の高笑いにダークネスは素っ気無く。
「我にそんな感情はない」
「そうかえ、ならばトドメをささせてもらう」
そうロナウドの体が一瞬はねて全身に氷の針が現れる。
「アイス・サウザンズソーン(氷の千本針)、体中の水分を凍りつかせ霜のようにささくれ出させる。いつもながら容赦がないな」
そういって右手をあげ影の中にロナウドの体を沈める。
「世界と世界の間にある無の空間、虚数海へと沈めたか。汝も人のことは言えんな。
隠者殿、舟は海上に手配済みじゃ。後は良しなに、ダークネス送ってたもれ」
言い終るがすぐさま出てきたときと同じに黒天女を引きつれ影の中にダークネスが消えていった。
後には傍観していたサイデス、マイスン、黒服が残されていた。
深海艇内
「あれが『THE WORLD』が使役する四人の使い魔の内の二人ですか。
使い魔がこれほどならば本人の実力を一体どれほどか想像を絶しますな。ご老人はどう思われる」
VIPルームでくつろぎながら先ほどの戦いをマイスンが思い出していた。
「一度見たことがあるが言葉にできん。見たものにしか分からんよ、しかし世界殿がなぜ今になって神衣などを・・・」
しきりに首をかしげサイデスが思案にふける。
そんな中、海上に着き荷物が搬出される。
神と狼が日本に向け移動を開始した。
設定
人物
サイデス・アッブース
中東出身
ラビリンスの理事『THE HERMIT』を務める。
中東の王族の出でキャラバンと放浪を愛する好々爺。
精霊使いで精霊王クラスすら自由に使える。
『放浪者』な二つ名を持つ
ハンターランク・S
サー・マイスン
イギリス出身
ラビリンスの理事『STRENGTH』
イギリスの退魔組織『円卓の騎士団』の副団長。古くから続く騎士の家系でサーの称号を誇りにしている。
『紳士』の二つ名を持つ
ハンターランク・S
使い魔
ダークネス
法夜の使い魔で空間や闇を使う。
法夜を主(しゅ)と呼び隷属している。
眼意外は法夜に瓜二つ。金銀妖瞳。
黒天女
法夜の使い魔。数々の術を使う。法夜と同クラスの術も使える
法夜をヌシ様と呼ぶ。
非常に妖艶な美女。
技
「フレイム・ロンド」
ランク・中
精霊と契約を結び放つ魔法。
数千度の高温の炎を舞い上がらせぶつける。
「フリーズ・ランス」
ランク・中
精霊と契約を結び放つ魔法。
空気中の水分を凍りつかせ槍状にして放つ。
「雷精」
ランク・高
雷精を召喚し使役する精霊魔法。
術師により精霊の数が変化する。
「アイス・サウザンズソーン(氷の千本針)」
ランク・最高
氷の黒魔法。
相手に術の発動体となるツララを刺し時間差で全身の水分を針の様に逆立てハリネズミにする
あとがき
ようやく神衣が出ました。北欧神話の神さまを使ってみました。他にも色々出しますからお楽しみに。
次回は多分JAです。時田どうするかな。
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トマトのコメント
しまった、このインターミッションは4話の後の設定だったのか。
1話1話読んでたもんで、今日まで気付かず7話を公開してからの掲載に…。
ひぇ〜〜〜、プロローグの時に同じことやってたし、本当にごめんなさい、カオスさん。
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