闇と福音を伝える者
第五話「月光」前編
ネルフ・ブリーフィングルーム
「一体どういうつもり!アナタには私の命令を聞く義務があるのよ」
「葛城さん。貴女はなにか勘違いをしていませんか。作戦課での意見調整で決まった事をお忘れですか」
溜息を一つ吐いて契約書を取り出す。
「何よ!」
ひったくるように取って読み出す。
この契約書の内容は以下の通りである。
1、 ゲンドウの碇姓の放棄。
2、 シンジの親権を連城法夜に渡す。
3、
指揮が不適切な場合は自己の判断で行動を行う。
4、 それに伴い罰することはできない
5、
護衛は連城財団が担当する。それ以外は敵対者として強制的に排除する。
などである。
ミサトは読み進めていく内に怒り出した。
「一体何なのよ!こんな条件いつ出したのよ。」
「最初の戦闘が終わった翌日にお義父さんが“六分儀”司令と交渉したんです。
それより葛城さん。マユミさんのところにそろそろ行きたいので失礼しますよ」
「待ちなさい!」
法夜とリツコが入ってくる。
「葛城君。これ以上私と事を構えるならそれ相応の覚悟がいるがどうなんだ」
「ミサト」
法夜が先ほどよりも冷たい視線と声でミサトを迎え。
リツコも無駄だとアイコンタクトを送る。
「クッ、もう行っていいわよ」
「そうですか。お義父さん、マユミさんはどこですか」
「さっきここのバカが拘束しようとしたのでな。身の程を教えてやった。マユミ君は先に椿館に送らせた」
「それじゃあ、僕の行きます。お義父さんはどうします」
「私も行こう。それではな、リツコ、葛城君」
二人が出て行った後にはミサトが歯噛みしながら悔しがっていたのは言うまでもない。
椿館・ロビー
「それにしても君の父上、ゲンマさんは知っているのか」
「はい、お父様から許可をもらって来ました。それと小父さまにこれをと言付かってきました」
そういってリュックサックから日本酒のビン5本を取り出す。
「あっあ、すまんな。(どうやって入ってるんだ?)」
とてもリュックに入りそうもない本数がどうやって入れてきたのか頭を悩ます。
「それと皆さんで召し上がってください。宇治茶と水羊羹です」
「すまないね。私もシンジもこれに目がないんだ。すまないがシンジを私の部屋に呼んで来てくれ。三人でお茶にしよう」
「はい!」
嬉しそうに階段を急いで登っていくマユミ。
「マユミ君、シンジの部屋、一階なんだが(汗)」
結局、全館をまわってマユミが来た時には法夜、シンジ、パティがそろってお茶の準備を整えて待っていた。
椿館・「サクラ亭」
椿館内に作られた食堂。基本的に何でも用意できるがイタリア料理がお勧めとは支配人兼シェフのパティ・ソールの発言。
今夜はにぎやかな雰囲気で食事したいとここに法夜達がきている。
ご飯、味噌汁、刺身の飾り盛り、きんぴらゴボウ、スズキの焼き物、と純和風のメニューとなっている。
「うまいな。この酒、ゲンマさんの選んだだけのことはある」
刺身を肴にさっき貰った酒を冷でうまそうに飲んでいる。
「それで、マユミは何時までこっちに居るの」
「はい、心残りですが明日には・・・」
「・・・マユミ君。こっちの方に転校してくる気はないかい」
「お義父さん、この町は・・・」
「危険は無い。万が一の時はお前が守れ。んっ許婚よ」
茶化しながらコップに残った酒を一気に乾す。
「でもこっちに住むとなると色々と手続きが・・・」
「何の為に親がいるんだ。子供はやりたい事をやる。間違っていたら怒ってやる。だから自分のやりたい事をやってみなさい」
「はい、ではお願いできますか」
「ということだ。シンジ、しっかり守れ」
「はい!」
椿館内・バー「EVE(イヴ)」
サクラ亭と同じくグループ飲料業統括のイヴ・ギャラガ―がこの店を行っている。
店内はシックにまとめられていてここだけ時間の流れが遅く感じる。
法夜が入ってきたとき、ちょうどシェイカーを振っているイヴがいた。
「何を作っているんだい」
絹のような長い黒髪に、バーテンダーの制服の黒のチョッキと赤い蝶ネクタイを着たイヴを優しい眼で見つめる。
「今度新しく考えたカクテルを作っているよ。名前は『時間流』味見をお願いできるかしら」
「よろこんで」
イヴが無表情でカクテル用グラスにシェイカーの中身を注ぐ。
青い液体の中に赤、紫、緑の粒が入っている。
「こいつは不思議なカクテルだね。それじゃあいただくよ」
一口飲んで味わう。
「なるほど、既製のカクテルを凍らせて氷にして粒状にする。それをいれたわけかい」
「それだけではないわ。少し待て呑んでみてくれるかしら」
「ああ」
しばらくすると赤い粒が全て溶けきる。
「飲んでみてくれるかしら。」
また一口飲む。
「ほう、味が複雑になったね。これは氷の分量が難しいね」
「ええ、さっきから何度もやっているのだけど最後に溶ける紫の氷の分量が決まらないのよ」
「そうかい。それよりこれから私に付き合わないかい。うまいブランデーとチョコがある。
気だるい夜を過ごそうと思うんだが相手がいなくてね」
「パティさんを誘えばいいのではなくて、彼女、今夜まだ残っているわよ」
「パティは活発すぎる。今夜のような静かな夜は静かな君と過ごしたいんだ。どうだいイヴ?」
「・・・後30分待ってくれたら終わるわ。それからなら問題ないわ」
「待たせてもらおう」
そう微笑みかけると無表情なイヴの顔にもいくらか照れの表情が浮かぶ。
第三新東京駅
「それではまた参ります」
「うん。待ってるよ」
言葉少なげにシンジとマユミが別れを惜しむ。
「それでは時間ですので行きますね」
「気をつけて、それとゲンマさんによろしく」
「はい、お父様にお伝えします」
マユミがリニアに乗り込むのを確認してシンジもホームを出て行く。
使徒解体現場
山に倒された使徒が解体準備をされていく。
周りの木を伐採してプレハブを覆いかぶせようと工事が進む。
「まだできませんね。先輩、どうしましょうか」
「先に零号機の実験準備を始めましょう。三日後まで迫っているから最終安全点検を行いましょう。
二度と暴走事故を起すわけにはいかないわ」
そういって乗ってきた車に乗り込む。
「待てください!先輩」
マヤも乗り込みネルフまでとばす。
三日後
ネルフ
「待ってくれないかな、綾波さん」
「・・・何」
「今日、起動実験なんだって」
「・・・ええ」
「これ、お義父さんから」
「碇司令から?」
きれいな赤い水晶がついたネックレスを手に持っている。
「もうあの男は碇じゃないよ。六分儀だよ。これは僕の義父、連城法夜から」
「あなたは自分から絆を絶つの」
「あの男と絆なんてないよ。僕を10年前に捨てたのだ。絆を絶ったのはあの男のほう。それよりこれを着けておけってさ」
「・・・着け方がわからない。」
「そう、じゃあ僕が着けて上がるよ。」
そういって後ろの回ってネックレスを首につける。
「よく似合っているよ。鏡が無いのが残念だね」
「なっなにをいうの・・・」
照れながらさっさと歩いていく。
「お義父さんの言うとおりだな。綾波でも照れるんだ」
妙な感慨を抱きながらシンジも歩きだした。
第二新東京空港・ロビー
先ほどヨーロッパからの便が着きロビーは迎えや乗客でにぎわっている。
法夜もいつもの黒服にマントを外してサングラスを着けて人を待っていた。
「この便のはずだがどこだ。もしかしてまたか?」
「誰がまたなんだい?ホウヤ」
「君がピザを食いにどこかに行ったと思った。だが、ギリギリ時間道理か。待っていたよ、リサ」
銀髪で褐色の肌の長身の美女が白いシャツに黒いジャケットを着て歩いてきた。
「ここはイタリアじゃないんだよ。そうそううまいピザがあるわけないだろ」
「パティのピザでもごちそうしよう。車できているからもう行こう」
「そうだね。パティのピザを早く食べたいからね」
二人とも笑いながらロビーから駐車場に向かう。
「へー、相変わらずのガソリン車かい。それにしてもこの車種がまだ残っているんだね」
「世界に残ったのは後こいつも合わせて10台だ。フルチューンしている。防弾対爆しようだ。ミサイルをくらってもびくともしない」
フェラーリF40
全盛期にフェラーリ40年を記念して限定生産された物もセカンドインパクトが起こった事によりさらに減少。
さらに電気自動車などが実用化されガソリンの生産減少もありまともに走れる物は道楽者か資産家が所有している10台のみである。
この車も法夜の言う通りすべてチューニングし直しフレーム強度を上げ、
ツインターボを新式にかえてエアロも考慮し直すなどして最高速度324km/hを450km/hまで上げる事に成功している。
さらに対テロように防弾対爆対放射能まで付加している。
チューニングした者いわく、
「ほとんど趣味で作ってしまった。こいつに核ミサイルをぶつけてもびくともしないよ」
笑いながらそんなことをのたまった。
いったいどんな素材でボディ作りやがった!
「それじゃあ行こうか。走りながら話す。先んずはこいつに眼を通してくれ」
「あいよ」
極秘と書かれたファイルをリサが受け取り車に乗り込む。
高速道路
制限速度一杯でフェラーリを飛ばしながら話を始める。
「どう見る、葛城ミサト」
「この報告書書いたのは法夜だろ。見た限り問題外だね。戦略、戦術、両方ともなっちゃいないね」
「それでお前に、いやお前達『ノルン』に頼みたいこと分かってもらえたか?」
「私達にねえ。まあいいさ、ただオーレリィとヴァネッサがまだアフリカだよ」
「いつごろ三人が揃うんだ」
「オーレリィが『ネルフの届け物』と一緒にこっちに来る。ヴァネッサは事後処理が終わるまでだからもうしばらくだね」
「まあいいさ。シンジは戦術は俺仕込みだ。後は舞台を整えてやってくれ」
「ああ、戦略を軽んじると痛い目にあうからね」
ひとしきり話が終わると車内電話が鳴る。
「私だ。・・・そうか、・・・そうか。なんだって!」
「一体どうしたんだい?」
「シンジが負傷した。無能なあの女のせいでな」
車内電話を乱暴に切る。
「ボウヤが!」
「しっかりつかまっていろよ。一気に300まで出す」
高速を一気に第三まで駆け抜ける。
少し前
ネルフ・実験場
「これより、零号機再起動実験を行う」
数分後、全ての準備が整った制御室に、ゲンドウの声が響いた。
「・・・レイ、準備は良いか?」
プラグ内のコックピットにいるレイは、ゲンドウの言葉に冷静な声で答えた。
『・・・・・・はい』
リツコは視線をゲンドウに移した。
ゲンドウがゆっくりと頷く。
それを見たリツコは、オペレーター達に指示を出した。
「第一次接続開始」
オペレーター達が的確にコンソールを操作しながら、リツコに答えた。
「主電源コンタクト」
「稼動電圧臨界点突破!」
「フォーマットをフェイズUに移行」
「パイロット、零号機と接続開始」
「パルス及びハーモニクス正常」
「シンクロ問題無し」
「オールナ−ヴリンク終了」
「中枢神経素子に異常なし」
「1から2590までのリストアップ」
「絶対境界線まで、あと2・5」
「1・7」
「1・2」
「1・0」
「0・8・・・」
「0・5」
「0・3」
「0・2」
「0・1」
「ボーダーラインクリア。 零号機起動しました!」
マヤの報告に、制御室の緊迫が一気に解れていく。
あちこちからホッとした溜息が聞こえてきた。
僅かに和んだ制御室で、突如、非常警報が鳴り響いた。
その音に被さる様に、内線電話が鳴る。
受話器を取った冬月の口調が慌てたものになっていく。
「六分儀、現在未確認飛行物体がここに進行中だ」
受話器を置いた冬月が、ゲンドウに報告する。
「テスト中止。 総員、第一種戦闘配備」
ゲンドウは低い声で指示を出した。
慌ただしくなる制御室の中で、冬月はゲンドウに囁く様に呟いた。
「零号機は、どうする?」
「まだ戦闘には耐えん。 初号機の準備はどうだ、赤城博士」
「380秒で準備できます」
リツコが答えると同時に、ゲンドウはシンジを横目で見やる。
「出撃しろ」
「分かりましたよ。“六分儀”司令」
嫌味をいいながら管制室を出て行く。
発令所
「シンジ君、いいわね」
『待ってください。敵に対して威力偵察は行ったんですか』
「あなたは気にしなくていいの。エヴァ初号機発進!」
言い終えた直後に、初号機を載せるリフトがバシュ、という音と共に高速で打ち上げられた。
まさにその時、使徒の異変をシゲルが報告した。
「使徒内部に高エネルギー反応!」
「なんですって!?」
「周円部を加速!収束していきます!!」
「まさか! 加粒子砲!?」
一瞬、使徒の体の境目が、煌めいた。
同時に、初号機を載せたリフトが、地表に到達した。
「シンジくん! よけて!!」
ミサトが叫ぶ。
『えっ』
使徒の加粒子砲が前方のビルを突き抜けてエヴァに突き刺さる。
『がーーーーー』
「早く戻して!」
リツコがミサトに変わり号令してリフトを下げる。
「心音微弱、いえ、停止しました」
「心臓マッサージ開始して!」
プラグスーツの生命維持装置がその性能を発揮する。
「心音戻りました」
「私がケージに行くわ。ミサトは・・・いいわね」
「・・・ええ。日向君、バルーンと無人攻撃兵器の準備お願い」
そういってリツコがケージに向かう。
ミサトは手を強く握り締めて血を流している。
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トマトのコメント
とことんへボ役のミサトさん♪
>“六分儀”司令
シンジも、かなりきついですな。実の父親に。まぁ、あのゲンドウじゃ仕方ないか。
法夜はいったい何人恋人がいるのかな?
封建社会に逆戻りか、2015年の日本!?
…現実にはまずないな。むしろ逆男女差別が問題になってるような。
さて、面白かった方は、ぜひカオスさんに感想メールを送ってくださいね。
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