シンジは進路相談でも相変わらずだった。ただ、黙って話しを聞いているだけ。まだ二年生、この混乱した御時世と言う事もあり進路先については一応おおまかな目安になる高校を老教師が2,3挙げただけだった。
学習面もごく普通の成績・・・なにかシンジらしい気がする信長。
シンクロテストが始まった。最近のシンジのシンクロ率は・・・それほど初搭乗時と変化はない。しかし第4使徒戦・・・、あの使徒への無謀な突撃をした際のシンクロ率は60%ものシンクロ率があった。
もしあのまま40%程度だったら使徒には勝てなかったかもしれない。
射撃などは日頃の訓練の成果が少しづつ出て来たのか多少マシになってきている。もちろんまだまだ普通の中学生レベルになったと言う程度だが。
「A10神経接続、その他異常なし。初号機シンクロ率44.2%です。」
少しずつ上がってきているシンジのシンクロ率、これはチルドレンとしては驚異的な数字なのである。
加持の調査でわかったことなのだが、どうもゲンドウはこの他の二人のパイロット綾波レイ・惣流アスカラングレーを幼年期からEVAパイロットにするための訓練を極秘にしてきたようだ。
その立場が公になり、直接EVAに乗るようになったのは2人とも半年〜1年ぐらい前なのだが、それ以前はEVAに乗る土台となる基礎の部分をやっていたらしい。
それでも二人はEVAをほんのわずかに動かせるようになるだけでも半年かかった。しかし、シンジは1日でEVAを動かしている。
これはEVAに乗るのは運動神経などではなく、あくまで別個のEVA独特な適性能力がいることを証明している。その適正能力が何であるかを信長は知らない。しかしNERV総司令ゲンドウは知っているはずだ。
そうでなければあの第3使徒戦での勝利への自信はありえない。
チルドレンを選出しているのはマルドゥッグ機関と言う組織だ。しかし実はこの組織実在しないのではないか?という情報が信長はスパイの加持からもたらされていた。
どうも名前だけの架空の組織で裏ではゲンドウか謎の組織ゼーレが自分たちの都合のよいように作り上げたなのではないかとの事だ。
信長はシンジがEVAの起動実験をするとき何か違和感を感じていた。それが何なのかは考えてもよくわからない。だが、何かおかしいのだ・・・これもゲンドウとゼーレに関係があるのだろうか?
「零号機ハーモニクスその他異常なし。シンクロ率42.3%」
レイにはシンジのような違和感は感じない・・・。その後の軽いエミュレータ−でのシンジとレイの対戦ではレイの圧勝だった。しかしこの対戦では安全上A.Tフィールドは使えない。
シンジがもっとも得意とする分野はそのA.Tフィールドを使う事だ。これでは本当にどちらの方が強いのかは判断がつかなかった。もちろんEVAの操縦技術向上などには有効な為それなりに効果のある実験だとは信長も思っていた。
A.Tフィールド・・・使徒とEVAしか使えない謎のバリアである。NERV一番の科学者の赤城リツコの腕を持ってしても発生のメカニズムなど詳しい事は分からないとの事。
・・・これではEVAのA.Tフィールドを強固にする訓練のしようがない。
シンジのEVAパイロットとしての凄さがここにもある。他のパイロットが最近になってやっと操れるようになったA.Tフィールドをいきなり最初のEVAの起動で使えたのだ・・・意識こそ失っていたようだが。
普段は平凡以下の少年なのに・・・。前の第5使徒戦以降は通常の状態でも操れるようになった。
明日はEVAに対抗する為に作られた戦略自衛隊の兵器”JA”の完成記念パーティーだ。信長が提案したエミュレーター戦のため技術部は初号機をパーティー会場に運ぶ準備をしていた。
信長は今日は早朝出勤だったため、6時ごろ、家に帰ったらシンジがレイを連れて来ていた。・・・女を家に連れてくるなんてまったくシンジらしくない・・・。ちなみに濃はまだ家にいない。
「シンジお前がそうも手が早いとは思わなかったぞ!いかにも女に手が鈍くて、遅くてもじもじしてるようなタイプに見えるんだがな。」
「綾波に話しかけてって言ったのは信長さんじゃないですか。僕は信長さんの命令に従ってるだけですよ。・・・その命令の上で思うんですが、この任務今の綾波の住宅状況じゃ不可能じゃないですか。綾波をここに引っ越させませんか。」
「・・・そこまでレイと一緒になるために策を練ってるのか。呆れたやつだ。」
だが確かにシンジの言う事は正しいかも知れなかった。信長はレイに対してわずかな情報でも逃すまいと徹底的にしらべていたからレイの住居の事も知っていた。
実は先日、赤木リツコがレイに渡し忘れたNERVのセキュリティーカードを渡して欲しいと頼まれレイの家に行って渡したので、実際にレイの部屋の中にも入った事があるのだ。
その部屋の様子がひどい・・・。そのレイのマンションに住民は一人もいない上、部屋は女の子らしいものがないのはおろか、部屋はまさに殺風景で日常生活最低限のものしかない。
何気なく開けた冷蔵庫にはミネラルウォーターしか入ってなく、その上に栄養剤が大量にあった。少なくとも晩飯は栄養剤で過ごしているようだった。
玄関の扉が開け閉めされた音が聞こえてきた。濃が帰ってきたようだ。
「お帰りなさい。あらレイちゃん、こんにちわ。・・・・・・レイちゃんが家に引越し。あなたレイちゃんが人に接するいい機械じゃない。さっそく碇司令に引越しの許可貰って来なさい!」
「いや、しかしこいつらはまだ14歳で・・・」
「私達が結婚したのも14歳だったでしょ。(*数え年のため、当時だと15歳。)何も問題ないわ。」
「えっ、14歳で結婚されたんですか。」
「そうなのよ、だから私はあなた達に文句を言える資格なし!レイちゃんと何しても万事O.K問題なしよ。そのかわりシンジ君、レイちゃんのこと大事にしてあげるのよ。」
濃はそう言うなりどこかに出かけていった。この時代で濃に逆らって離婚されようならその恐ろしい顔のため、他に嫁の貰い手がない信長。仕方ないので副司令を通してさっさと綾波レイ引越しの許可をもらう。
・・・わずか三秒で許可された。・・・超スピードで濃が帰ってきた。
「シンジ君、今日からレイちゃんと一緒の部屋で寝なさい。それからコレ使ってね。」
コレが何かはあえて言うまい・・・。薬局で買えるものらしいが・・・。シンジはもちろん、信長も固まっていた。コレの事をよくしらないレイは何も変化がなかったが。濃はなぜか満点の笑みであった。息が荒くひどく興奮している。
・・・その夜、シンジの部屋で何が起こっていたのかは誰も知らない。
「昨夜はどうだったシンジ君?レイちゃん少しは女らしくなった?」
「・・・濃、お前がそこまでやるとは思ってなかったぞ。しかもレイの目の前にいるのに・・・。ますます昔とはイメージが・・・。まあ、そんな話しはそこまでにして。シンジ、今日は前から言ってた通り出かけるからな。」
「JAって兵器と僕が戦うって言ってましたね。・・・不安だな。」
信長達はNERVの特別飛行場に行き軍用ヘリに乗る。JA完成記念パーティーが開かれる、かつて大都会であった東京に浮かぶ人口島が目的地だ。
旧東京は、あの2000年に起きたセカンドインパクトの大洪水で水面が高くなった影響で、今では海となっているのだ。
軍用ヘリにはミサトとリツコとマヤも乗っていた。かつてこの大都会を実際見たことがある彼女らとしては、何ともいえずもの寂しい気持ちがする。水の上にはところどころ、傷だらけの高層マンションの先の部分が見えたいた。
ヘリが目的地に到着する。どうやら周りに信長の知り合いも見える。初号機とJAのシュミレーション戦の準備はもう万全であった。周りには色々お偉い方々が集まっていた。
時田と言う責任者がJAの紹介文を読み上げる。
「えー、以上が戦略自衛隊の新兵器”JA”の大まかな説明となります。細かいデータなどはお手もとにある資料を参考にして下さい。まあ、これからは危険性の高いEVAを使わずともJAで使徒を倒せますので御安心下さい。」
「意義ありです。危険性ならば、EVAよりJAの方が遥かに上です。JAは原子力を使用しております・・・もし敵のダメージで放射能汚染を起こせば周りの被害は想像もつかない酷いものになります。」
「ははは、その点はちゃんと放射線漏れのないように考慮されてますよ。まぁ、詳しい事はその資料を見れば分かるかと。五分しか動けずパイロットに極度の負担をかけ・・・おまけに暴走までするEVAなどとはJAは比べ物になりませんよ。」
「何をおっしゃられようと、NERVの兵器であるEVA以外では使徒は倒せません。」
「A.Tフィールドですか。JAがそれを使用できるようになる日も、もう時間の問題ですよ。いつまでもNERVの時代ではありません。」
「しかしJAは遠隔操縦、いざという時作戦に・・・「もう止めろ、リツコ。時田さん、論より証拠です。速くシュミレーション戦やりましょう。」
「了解しました。ではさっそく五分後に行いましょう。NERVはみじめな姿を見せることになるでしょうね。」
JAの事は、使徒対抗兵器の候補と言う事もあり、信長は以前からそれなりに調べていたが、データを調べれば調べるど苦笑いするしかない。どこをどう見ても問題だらけなのだ。
EVAのように機敏な行動もできないし、放射能漏れの危険も大である。時田は対策万全などといってるが戦闘では何が起こっても不思議はないのだ。まして相手はあの使徒なのだから。
その五分の間に、シンジがプラグスーツを着てEVAに乗り込んだ。いよいよエミュレータ戦開始である。