第十四話「加持帰国」

あのJA事件から3日後、信長は司令の命令によって、セカンドチルドレンを迎えるため国連軍の誇る大型戦艦「オーバー・ザ・レインボー」にいた。葛城とシンジも同行している。

さて、到着か・・・。しかし凄い戦艦だな。俺の時代じゃ、考えられなかったぜ。まあ、この時代じゃ、ただの舟だがな。さて、セカンドチルドレンが迎えに来ましたか。

「ハロウ、みさと元気してた?・・・あっ、信長さん、こんにちわ。」

「あれ、お知り合いですか、信長さん。・・・アスカが敬語使うなんて、やっぱり信長さんの顔の恐さは天下一品だわね。・・・さてと、アスカ紹介するわ。この子がサードチルドレンの碇シンジ君よ。」

ミサトがシンジの紹介を終えると、信長達の前にひょいっと顔を出した男がいた・・・加持リョウジである。相変わらず不精髭を生やしている。

「げっ、加持。あんたどうして、ここにいるのよ。」

「久しぶりだな葛城。おっ、シンジ君じゃないか。君のチルドレンとしての噂は聞いてるよ。あっ、俺の名前は加持リョウジ。セカンドチルドレンであるアスカの護衛の者だ。よろしくな。」

「・・・そういうわけか。アスカの護衛って事はこのまま日本に来るわけね。あ〜最悪。」

葛城ミサトが艦長に挨拶を終えると、NERVのメンバーで食事を取る事になった。まあ、挨拶と言うよりは、海軍とNERVの縄張り争いのようなものだったが。

「ほう〜、私が信長さんの直属の部下になるんですか。それは、一つお手柔らかにお願いします。」

本当にとぼけた男だと信長は思う。とっくの昔に知っていたのは間違いないだろう。・・・ミサトはビールを飲んでいる。一応業務中なのだが・・・、さすがに皆、呆れて途方にくれる。

ステーキ定食を食べている信長一同。やはり肉ってのはうまいもんだと実感させられる。信長が肉を普通に食べられるようになったのは1年くらい前からだったのだ。

こっちの時代に来るまではまったく肉など手に入らなかった。唯一の例外は鷹狩に成功したときで、この肉が食べたいがために、信長は若い頃必死に鷹狩をやっていたのだ。

鷹狩は実用と言うよりも、権力者の愛好するスポーツのようなもので、世界各地で人気が高かった。ただ、何かと格式にうるさいところがあった。

肉目当ての信長の事・・・もちろんそんなことは知った事ではない。農夫に変装して鳥をだまし、どんどん獲物をゲットしたのであった。周りからは批判ばかりであった。

「鷹狩とは朝廷も行なう優雅な遊び・・・。信長はやはり、おおうつけ者よ。」

だが、この鷹狩のアイディアに納得した人物もいた。それが、濃姫の父、斎藤道三である。彼はこの事を機に信長に関心を示し、ついに今まで敵対していた織田家とも同盟したのだ。

それから、天下人に近づいていっても肉はおろか魚もなかなか食べられず、この世界に来てからは、飢え死にするのではないかと思ったことすら何度もある。

やっと満足に食えるようになったのは、戦略自衛隊で地位が上がり指揮の役目に回ってからだ。しかし、最近は食べ過ぎは体に悪いとの事で、濃から控え気味にされている。反抗できないのは・・・離婚が恐いからだ。

恐い顔の信長、昔なら、それが女・・・いや、それ以上に男に持てて、男色に走れたのだが・・・、この時代ではそれはできない。実は小姓(世話役)の蘭丸とも、そう言う仲だったのだ。

・・・濃のいない、今日は絶好のチャンスなのである。肉を追加注文して食いまくる信長。・・・結局、信長は普通の人の倍以上の肉を食うのだった。

「ははは、やっぱり肉は御馳走ですよね、信長さん。セカンドインパクトの時は超高級品でしたからね。今でも、こんな贅沢な物、食べられない人間は山のようにいますからね。」

そう、セカンドインパクトの混乱により、加持やミサト・・・セカンドインパクト世代も飢え死にするかわからない状態だったのだ。実際、加持の妹は飢え死にしている。彼女は病気のために配給のわずかな食料さえ貰えなかった。

孤児院の仲間も大量に飢え死にで死んだ。その光景を加持は間近で見ている。ミサトも悲劇と言う意味では同様・・・父を亡くしている。

「ところで、そいつ(アスカ)の腕はどうなんだ?一応こっちでも調べちゃいるが、やはり加持、お前に聞きたい。」

「そうですね。やはり平均シンクロ率58%は並じゃありませんよ。シンジ君は最高でも44.8%ですからね。身体能力も間違いなく三パイロット中一番ですね。」

シンジは戦闘中、一時的になら約53%の数値を出した事もあるのだが、加持のアスカに対する配慮だと気付き、信長はそれには触れなかった。

「ほう〜、そいつは頼もしい。アスカ、日本に着たら、さっそく俺の訓練を受けてもらうぞ。言っとくが、びしばし格闘戦やるからな。覚悟しとけよ。」

「へへっ、任せてください、信長さん。」

アスカは得意になる。その姿には、幼さとともに、エヴァパイロットとしての誇りが感じられる。しかし、何故か今だに信長だけには敬語である。

「ところで、サードチルドレン。あんた2ヶ月前にパイロットになったばかりだそうだけど、私が使徒を全部倒すから、余計な邪魔は許さないわよ。いい、文句ないわね、あんた。」

「そうだね、・・・・・・・・・。」

・・・・・・・・・・の部分はアスカにしか聞こえなかった。シンジに怒って猛烈に言い返すアスカ。・・・シンジはその後は無言。結局アスカの手に引っ張られて、強制的にエヴァ弐号機を見せられる事となった。

残ったコーヒーを飲むと、ミサトは2人の姿に呆れかえって、どこかに行ってしまった。この食堂の席に残っているのは加持と信長だけだ。

「おやおや、いきなり喧嘩か。しょうがないなアスカもシンジ君も。さて、俺もそろそろ部屋に戻るとしますか。」

「待てよ加持。セカンドチルドレンの事、ある程度は俺も調べてみたが・・・。どうだ、お前の目から見てシンジとうまくやってけそうか?」

「プライドの高い子ですからねぇ。・・・それにEVAにすべてを賭けている。今は一番の腕ですから問題ありませんが、もし誰かに抜かれると・・・。」

「なるほど、ポキッと行ってしまうわけか。まぁ、そこら辺を何とか解決するのが、俺の仕事だな。」

「そうですね。ところでアスカの生い立ちの悲惨さはもう知っていると思いますが・・、信長さんはどうなんです?調べてもまったくわからないのでねぇ。」

「どうせ、あんたの事だ。それも、相当粘っこく調べたんだろ。・・・まあ、身内を殺しまくった、とだけ言っておくか。」

「それじゃ、俺と一緒ですね。・・・俺も結局、自分が生き残るために兄も妹も見殺しにしました。」

加持は信長の言葉を少し誤って解釈していた。そう、信長の場合はまさに自らの手で殺したのである。加持の場合は、ただ自分が生き残るために食料を分け与えなかったくらいの事だ。

加持が自分の部屋に戻ろうとしたその時、艦船にもの凄い音が鳴り響いた。慌てて信長が外を見ると奇妙な生物が船に対あたりをしていた。間違いなく使徒だ。

艦長も慌てて魚雷を放つよう部下に命中する。・・・だが、まったくの無駄だった。使徒には足止めにすらなっていない。信長は指揮を取るため、艦長室に向かう。加持にも強引に同行してもらう。

使徒はあちらこちら、ふらふらと移動をしている。・・・まるで何かを探しているようだな、と言う信長の感想だ。その頃、シンジとアスカは独断で出撃準備を整えていた。携帯電話のコール音が鳴る。

「もしもし。ああ、司令ですか。こんなところで使徒が来るとは、かなり話しが違いませんか。」

こんな時でも笑顔の加持。この状況を逆に楽しんでいるのかもしれない。

「そのための弐号機だ。予備のパイロットも追加してある。最悪の場合、君だけでも脱出したまえ。」

「わ〜かりました。まあ、どうせ勝つんでしょうけどね。」

・・・やはり俺の思っていたとおりだ。理由はまったく不明だが、司令には使徒に勝つ絶対的な自信があるのだ。俺の仕事は使徒を倒す事ではなく、むしろその理由を探る事なのかもしれんな。

「オセローより入電。エヴァ弐号機起動しました。」

艦長はエヴァ弐号機の起動を中止するよう命令するが、アスカはまったくの無視。信長もアスカの行動を容認する。そのまま戦闘指揮にあたりたいのだが・・・、あいにく施設がないため作戦の出し様がない。

いざぎよく、アスカにすべて任せた信長。4分30秒後、使徒は無事に殲滅されていた。・・・シンジも一緒に乗っていたが、信長が見たときには、もう弐号機のプラグスーツから、普段着に着替えていた。


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