第2話「別世界」

う〜ん、なんじゃここは。

意識が戻った死んだはずの信長。自分が切腹したことを思い出す。隣には妻の濃姫がいるが、若い。もう50くらいになるはずなのだが、どう見ても20歳くらいの若さだ。

しかしこれも死後の世界のことならば不思議はないと納得する信長。

「起きよ濃。起きろ!」

「ほえー・・・。これは殿。おはようございまする。」

かなり、乱暴にたたき起こす信長。すると濃姫がすぐに目覚める。目が開いた瞬間、濃姫は夫の若さに目を丸くした。信長もどう見ても20歳ぐらいの若さにしか見えなかったのだ。

ふと、周りを見渡すと、なにやら巨大なものが大量に沈んでいた。高層ビルである。しかし、戦国時代を生きた濃姫や信長がそんな単語など知るはずもない。ただ、その光景に圧倒されるばかりであった。

とたんに目をきらきら子供のように輝かせる信長。どうやら死んでも、新しもの好きはかわらないようだと苦笑した。

自分たちの衣装は、ぼろぼろに変わり果てた普段着であった。死ぬ前に身につけていた死装束ではない。

しばらくその辺を歩いてみる。この世界が、自分たちの生きてた世界とは比べ物にならないぐらい発展した都市だったという事はすぐわかった。しかし、すべてが過去形である。

今は、すべての建造物がぼろぼろの廃墟になっていたのだ。他には、非常に自然が少なかった。木や草花がほとんどない。その光景に、濃姫はどこか寂しさを感じていた。

歩いても、歩いても地獄の閻魔様になど会わない。やはりあの、本願寺のくそ坊主が言っていた事は嘘だったと思う信長。

もし、彼らの言うとおりの死後の世界であったなら、自分はすでにひどい、なんらかの苦痛を味わっているだろう。そんなことを考えながら歩いていると人を発見した。この世界の住民だろうか?

「よう、俺は信長と言うものだ。たった今この死後の世界に来たんで、色々わけがわからん。あんた詳しいこと教えてくれや。」

「はぁっ、死後の世界・・・。そうか、あんたもセカンドインパクトで精神がやられちまったんだな。ほれ、あんたもこのカウンセラーの人に診断受けろよ。」

またかぁ・・・、と呆れ顔したその男に、30分ほどまたされると、そのカウンセラーに、診断を受ける信長と濃姫。これは死後の世界の慣習なのだろうか。

この世界のことを尋ねると、カウンセラー・飯田と言う男の返答は驚くべきものだった。なんと、今は西暦2010年と言うのだ。信長は西暦と言うものの存在は宣教師から学んでいたので、よく知っていた。濃姫も同様である。

自分が1500年代後半に活躍した信長だと言うと、飯田は苦笑した。どうやら、ぜんぜん信じていない様子である。なにを言っても頭が狂ってると判断した信長。

自分と隣の女が記憶喪失だと言い、さっきの信長と言う名前も、わけがわからず口にだしてしまったと説明する。

こんな機転がとっさにきく、殿はやはり天才だと濃姫は心の中で得意げになる。

ところで、飯田は本物のカウンセラーだ。この世界、2000年に起きたセカンドインパクトというもので、秩序が大混乱し、やぶ医者や、偽カウンセラーも多いが、彼はセカンドインパクト前にちゃんと、カウンセラーの資格を取っていた。

飯田のおかげで、この世界のことはだいたいわかった。1950年代後半から人類は、技術を信じられないほど進歩させ、どんどん繁栄を極めていったが、2000年に南極でセカンドインパクトが起きると世界各地で、自然災害、内乱、民族紛争などが勃発。

いっきに、人類は没落してしまったのである。新小田原市という、この地域もかなりのダメージを受けたようだが、他の地域に比べれば、まだましだそうだ。

人間は死んだ後、別の時代に行くものなのだろうか?

信長が今後の生活を相談をすると、どこも貧しく、わけてもらえる食料など、ぜんぜんないから、兵隊になれという。兵隊になれば、優先して食料がもらえるそうだ。とはいっても、ごくわずかなものだそうであるが。

信長は兵士になることをすぐ決断した。さすが行動が早い。さっそく、兵の募集所を尋ねると、その日のうちに戦略自衛隊と言う組織の一般兵になった。

濃姫は売春をして、生計を立てることにした。そんなことをするのは、もちろん屈辱だが、生きて行く為にはやむを得ない。

信長は、軍隊に入ると、苗字を変え”佐藤信長”と名乗り、濃姫は”佐藤濃”と名乗ることに決めた。

軍隊・兵募集所に向かう途中で見た”車”には、濃姫はもちろん、さすがの織田信長も腰を抜かした。あんなスピードで走る乗り物など、想像したこともなかった。電車や飛行機も同様である。

後になって、信長が始めて車や電車に乗ったときは大騒ぎしていた。濃は、おびえて小さくなってしまった。やはり、夫の敵応能力は並ではないと感じる。濃もかなり高いのだが。

 

数日後、信長は訓練もろくにせぬまま、いきなり内乱鎮圧に借り出されることになった。四国地方で、いっこうに食料の援助をしてくれない、政府に対して反乱が起こったのだ。

信長の、そのときの活躍はすざまじかった。ライフル弾を百発百中、敵の指揮官がどんどん殺していく。

敵は元々、一部のテロ集団が率いる、民間人中心の軍隊なので、戦車すらない。ただ、戦略自衛隊も武器、それ以上に食料が不足していた。

そういうわけで、食料がそこについて、士気が下がることが一番心配されたのだが・・・、信長の働きにより、わずか3日で内乱が収まった。

この働きにより、信長は二等兵から、一気に飛び級し、小隊長の指揮官、少尉となった。時代のせいで戦略自衛隊の人材不足の影響も大きかった。

信長はその後も度々、戦場に狩り出された。その度に信長は目覚しい働きをし、周りの人間は皆、信長に目を見張った

しかし信長は元々、好奇心旺盛なため、すぐその環境に溶け込んでいった。時間の合間をねっては、この時代のことを必死に勉強した。

時は流れ、2013年頃になると、信長は戦場に出ることはなくなり、後方で指揮をとる作戦部に所属することとなった。そこでも彼は、斬新な作戦を次々と出し、どんどん出世していった。

この頃には、濃も夫の収入だけで生活が成り立つようになり売春婦をやらなくてすむようになった。2014年5月には、小将の位となった。わずか四年である。まさに信長は強力な実力と運を備え持っていた。

2014年8月、信長の才能を見こんだ、NERVの冬月副司令が、信長を引き抜きに来た。

NERVとは、半軍事組織で、14年前のセカンドインパクトの原因となった”使徒”という、未確認生物を殲滅する為に作られた秘密組織である。(セカンドインパクトの表向きの理由は、巨大隕石の衝突になっている。)

冬月の話しによると、14年前に現れた、その”使徒”が再び出現する危険性が出てきたのだという。

「どうかね信長君。契約金に3億、年俸に1億だすよ。」

信長が、この時、戦略自衛隊から1年でもらっていたお金は2000万円。なんとNERVに行けば、五倍の収入増だ。おまけに契約金までもらえるという。

「ひとつだけ条件があります。”使徒”が攻めてきたら、私に、使徒殲滅の作戦指揮を取らせてください。」

そう、信長は未知の生物、”使徒”にひかれたのだ。あのセカンドインパクトを起こし、人類を大混乱に陥らせる力を持った敵。ぜひ戦ってみたい相手である。金のことは二の次だった。

「もちろんそのつもりだよ。これからは、NERVの一員としてよろしく頼むよ。」

信長はその頃、奇妙なうわさを耳にしていた。NERVと言う組織が、強大な力を持った謎の組織と結びついて、世界制服をなそうとしていると・・・。

戦略自衛隊の本当にごく一部の関係者だけに広まっているうわさだった。このうわさは信長の心に妙に引っかかっていたのも、NERV行きを決めた原因の一つだった。

信長がNERVに転職すると、EVAと言うものを見せられた。EVAは”使徒”を倒すために作られた秘密兵器だと言う。その巨大さには目を見張るものがあり、性能も抜群らしい。

”らしい”と言うのは実際動かせる人間がドイツの弱冠14歳の天才少女惣流アスカラングレーしかEVAを動かせない為だ。A10神経という脳の神経の関係でEVAにはごく一部の子供しか乗れないそうなのだ。

2014年も終わりに近づいてきた頃、EVAの零号機に綾波レイという少女がEVAに乗ることになった。現在EVAは三台で、弐号機がドイツにあり、惣流アスカラングレーの専用機体。

初号機と零号機は、ここNERV本部にあり、初号機はパイロットがまだ選出されておらず、零号機は今日、始めて綾波レイが乗ることになったのだ。

EVAを動かすことは容易ではない。5歳の頃から訓練をしている惣流アスカラングレーも、一歩歩くのだけに一年の訓練がかかったという。綾波レイがEVAを動かせるようになったのは4ヶ月も後のことだった。これですら、予想よりも遥かに順調なペースである。

しかし、思わぬ落とし穴があった。起動実験中、零号機が突然、暴走したのである。このときのEVAの動きの機敏さに信長は目を疑った。これまでは、歩くのがやっとという感じだったのである。

エントリープラグと言う操縦室に入っているパイロット綾波レイの命が心配されたが、幸い二ヶ月程度入院すれば、完全に直るとのことだった。

このとき信長はもう一つ驚かされたことがある。今まで残酷、冷静極まりないと思っていた、NERV総司令碇ゲンドウが、綾波レイを助けるため、命をはって、エントリープラグのハッチを引きちぎったのである。

彼がそれをやらなければ、レイはもっとひどい怪我をしていたのは間違いない。幸いゲンドウも手に軽いやけどをするだけですんだ。

その頃、濃も夫と同じ職場で働きたいと、コンピュータを中心に猛勉強をしてついに、NERV本部直属のオペレータに就職することができた。

もちろん、信長と同じNERV本部の就職になったのは、NERV副司令の冬月の配慮があってのことだが。

しかし、彼女は、めきめきと実力もつけていき、ついには、NERVが誇るスーパーコンピューターMAGIの点検にも加えられるほどになった。

そして、2015年5月、ついに第三使徒が現れた。


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