第三話「EVA初陣」

使徒、その姿は人間とは異なる異型の身であったが、二足歩行という、人類と共通の特徴も持ち合わせていた。

未知の生物、使徒に対して国連から攻撃許可をもらえたのはNERVではなく、信長がかつて所属していた、戦略自衛隊であった。

NERVは秘密組織という事でイメージが悪い上、総司令碇ゲンドウの態度の悪さが、それに拍車をかけていた。

ただ、その辺の事情をもっともよく知っていたのは碇ゲンドウ本人であった。彼は確信していたのだ。戦略自衛隊では使徒には勝てない。

・・・いや、それどころか、わずかなダメージすら与えられない。使徒に打ち勝つことができるのは、わがNERVのエヴァだけだと。

戦略自衛隊は、国連に使徒攻撃の許可をもらうと、すかさず、重戦闘機と戦闘機で発砲して、攻撃をする。しかし、碇ゲンドウの予言通り、使徒にはまったくダメージを与えられない。それどころか、使徒はまったく気にもしていないようだ。

「パイロット、ミサイルを発射せよ。」

戦闘機のパイロットはミサイル発射のスイッチを押した。そのミサイルは間違いなく使徒に命中した。しかし、使徒には、何も変化はない。ミサイル攻撃すら、使徒には、象が蚊に刺されるほどの痛みすら感じていなかったのだ。

愕然とする戦略自衛隊幹部。しかし、なお戦略自衛隊は死ぬものぐるいの攻撃を仕掛けた。遠距離攻撃がダメなら、近距離戦に持っていこうと戦闘機が突撃する。しかし・・・

バァカーン、なんと戦闘機が使徒の体に振れる前に、爆発してしまった。実は使徒は体の周りにATフィールドという巨大なバリアを張っていて、このATフィールドを中和しなければ、使徒にはまったくダメージが与えられないのである。

そして、このATフィールドが中和できるのはNERVが誇る秘密兵器、EVAだけなのだ。

戦車で突っ込んでも結果は同様だった。もはやこれまでと、司令官は撤退命令を下す。巨人を円状に取り囲んでいた、重戦闘機軍が一斉に使徒から離れていく。撤退が終了すると、すがさず、司令官が最後の策を実行するよう、部下に命令する。

「N2地雷を投下せよ。」

N2地雷とは、戦略自衛隊最強の兵器で、放射汚染がほとんどない核兵器のようなものである。その最強兵器を持ってすれば、使徒など簡単に倒せるはずである。

N2地雷の投下すると、すざまじい炎の大爆発が起こり、大量の煙が巻き、電波障害によって、モニターもまったく確認できなくなった。戦略自衛隊に所属しているものは、誰一人勝利を疑わなかった。しかし・・・

「爆心地にエネルギー反応、映像回復します。」

そんなバカな、目を疑う戦略自衛隊の全軍人。それはNERV、国連の職員も同様だった。NERV総司令の碇ゲンドウと、副司令の冬月を除いては。

使徒は多少ダメージは受けて倒れていたものの、すぐに起き上がり、また先ほどのように、平然と歩き始めたのだ。

「われわれの切り札が・・・なんてことだ。」

その男の言葉は、戦略自衛隊の全軍人の絶望を代表していった言葉であった。使徒は、攻撃を加えた戦略自衛隊使徒殲滅本部に攻撃を仕掛けようと歩いて来る。

そのゆっくりした歩き方が、戦略自衛隊の恐怖を倍増させた。もう、NERVに使徒殲滅の作戦権をゆずるほかなかった。それを国連に伝える。もう、国連も選ぶ手段はこれしかなかった。

「今から、使徒殲滅の作戦権はNERVに移る。碇ゲンドウ、しっかり任務を遂行せよ。」

碇ゲンドウは、すぐに零号機を出撃させようとする。そのときパイロットの綾波レイは、まだ怪我が治りきっておらず、全身を包帯でぐるぐる巻きにしていた。そのうえ、まだEVAをうまく操れない。

NERVのスーパーコンピューターMAGIでも、勝てる可能性は3%と予測された。

綾波レイ。事務的な会話以外はまったく話さない、あまりにも無愛想な子だというのが、彼女に関わってきた人間が持つ共通の感想だった。そんなレイを見て濃は思う。

始めてレイを見た日、私はとてもきれいな子だと思ったけど、なんだかきれいに整いすぎちゃって、お人形さんみたいな子だと思ったわ。

事前に夫から聞いてた以上に、彼女はあまりにも寡黙で、いっさい笑わない。任務だけを忠実にこなす子だった。まだ、この世界では、14歳の遊び盛りの少女だというのに・・・。

私がレイの性格を少しは改善させなくてはと思い、試しに世間話をしてみると、レイはたった一言の返事もしないかったわ。私の話しなんて全然興味がないみたいだった。でも、いくら興味がなくても、普通少しぐらいなにかしゃべるわよね。

でも、碇司令と話している時だけは、飛びっきりの笑顔を見せるのよね。そのときの彼女は人形みたいなんて言葉はまるで思い浮かばないわ。まるで、普段のレイとは別人のよう。碇司令もレイだけにはなぜか優しいのよね。

誰に対しても、あんなふうに接してくれればね・・・。でも彼女よくやってるわ。無茶な任務も文句一つ言わず、黙々とこなしてくれるし。今日だって・・・、まだ怪我もひどいのに愚痴をまったくこぼさず出撃するだなんて。

「エヴァ零号機発進。」

それは、織田信長、いや佐藤信長の声だった。さすがの信長もこの使徒に勝てる作戦はまったく思いつかない。いや、それどころかレイは怪我の影響もあって、EVA零号機で歩くことすら容易ではない。

信長はとりあえず、レイに、わずかに使えるようになったEVAのATフィールドで、使徒のATフィールドを中和し、バレットガンで敵を攻撃するように命じる。その命令通りに動くレイ。

バンバンバン、大量の弾が使徒に命中する。NERVの迎撃システムも零号機の援護射撃をする。だが、やはり使徒には何らダメージを与えられていない。信長は最悪のシナリオが頭によぎる。

「使徒のATフィールドは中和できているのか?」

「いえ、使徒のATフィールドの強度はまったく変わっておりません。」

・・・やはりATフィールドは中和できていなかったか。これでは接近戦に持ちこんでも同じ事だ。しかし、こんな状況なのに、あの冬月殿と司令の冷静さはいったいどういうことじゃ。俺も組織のトップだったことがあるからわかるが、冷静を装っても目のある人間が見れば、どこか変化があるものだ。

こんな時にも周りの状況がよく見えている信長。ゲンドウは零号機に見切りをつけたのか、初号機を発進準備させるように言う。

実は、つい3日前、初号機パイロット候補が決定したのだ。その人物の名前は碇シンジ。なんと、あの碇ゲンドウのひとり息子だ。現在中学二年である。しかしEVAには一度も乗ったことがなく、その存在すら知らないと思われる。

今その碇シンジは、作戦部副部長、葛城ミサトによって、大急ぎでNERVに向かっているところだ。

今までゆっくりと、移動してきた使徒が突然素早い動きを見せる。零号機を接近戦で倒そうとしてきたのだ。不意をつかれた、レイは何も反応することができない。

使徒の体当たり攻撃をモロにくらう。零号機はその衝撃で20メートル近く吹っ飛ばされた。その吹っ飛ばされた零号機によって、使徒迎撃用ビルが数台壊された。ものすごい使徒の攻撃である。

零号機の機体、パイロットともひどい重傷になった。レイが意識を失わなかったのが不幸中の幸いだ。もはや、撤退命令を下すしかない。信長は無念だった。

「零号機、第6脱出ポットから戦線離脱せよ。」

そう、第三新東京市には、使徒の襲来に備えて、EVAがいつでも逃げれるよう、あっちこっちに脱出ポットが用意されているのだ。その数は50である。

レイの脱出が完了されると、救急隊によって、すかさず病院に運ばれる。救急隊の報告によるとファーストチルドレン綾波レイは命に別状はないが、とても再度EVAを動かせる状況にはないとの事だった。ちなみにチルドレンと言うのは、EVAパイロットの通称である。

信長が指揮をとっている、NERV司令室に、初号機のパイロット、通称サードチルドレンと呼ばれる、碇シンジが入ってくる。もっとも正確には先ほども言った通り、まだその候補であるが・・・。

しかし、今この場でEVAに乗れるのは、彼、碇シンジしかいないのだ。

「シンジ君、あの怪物・・・使徒を倒すため、あなたがEVAに乗るのよ。」

NERV技術部長、赤木リツコの言葉に、呆然とする碇シンジ。なぜ自分なのか?他に乗れる人は?と慌てて質問すると、あなたにしか乗れないからよと即答されてしまう。

「そんな・・・、見たことも聞いたこともないのに、乗れるわけないですよ。」

必死に拒否しようとするシンジの言葉。無理もない。例え、今ここにいるのが、かなり情けないところのある彼でなかったにしろ、まともな人間なら、こんなこと拒否するに決まっているだろう。

なおも抗議を続ける、NERV職員の大半がシンジを冷たい目で見つめる。始めはシンジにEVAに乗るよう頼みこんでいる口調だった。

しかし、だんだん命令口調になっていき、最後には、シンジが信頼していた様子のミサトにもEVAに乗りなさいと完全に命令されてしまう。泣きそうになるのを必死にこらえるシンジ。

NERV屈指のプログラミングの腕を持つ、オペレーター伊吹マヤは、こんな少年にEVAに乗せなければならない、自分たちのふがいさに罪悪感を感じていた。

ゲンドウは、重傷のレイをEVAに乗せるよう命令する。シンジの目の前に、体全体に包帯をぐるぐる巻きにして、点滴を受けているレイが運ばれてきた。その姿にあぜんとするシンジ。

「シンジ君、あなたが乗らなければ、あの子が出撃することになるのよ。」

そのミサトの言葉に、シンジはEVAに乗ることを決心せざるを得なかった。そう、碇ゲンドウはこうなることを狙って、レイを本部に運んだのだ。

言わば、シンジは強制的にEVAに乗せられることになったのである。シンジ本人はそこまで気づいていないであろうが・・・。

「やります。僕が乗ります。」

それは果たして、本当にシンジの決心だったのだろうか?


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