第21話「ダッシュ」

二つの人類補完計画を止めるにはどうすればよいのか?…信長はここ1週間悩みに悩んでいた。…周りの連中に不信を抱かせないため、表にはまったく見せなかったが。

(…どちらにしても、あまりにも俺の立場は弱すぎる。…NERVの一作戦部長では権力などないも同然。…それに比べゼーレとNERVは裏の巨大組織のトップだ。)

結論など、さすがの信長にも出るはずは無い。信長は手に持っていたままだったコーヒーカップを置いた。思わず、ため息をついたその時であった。

「…対使徒戦闘員は至急、発令所に集まってください。繰り返します対使徒…」

信長はそのアナウンスですぐさまNERV本部・発令所に向かった。発令所の大モニターには第10使徒が起動衛星上を飛んでいる非常識な光景が映し出されていた。

その使徒がピカっと光る。…新しいA.Tフィールドの使い方だ。落下の際のエネルギーを利用し、上空から地上へと爆弾のように落としているのだ。

地上におとされたら、数千人規模の死人が出るのは間違いがなかったが幸い太平洋におおはずれ。だが、次ぎはわからない…。その不安を増幅させるように2度、3度と使徒はA.Tフィールドを撃っていた。

…このA.Tフィールドが落下した場所は、なんと撃つたびにNERV本部に近づいていた。…スーパーコンピュータMAGIによると次ぎは恐らくこの近くに落ちて来るだろうとの事だった。

「まったく、なんて非常識なの?」

もはや、あまりに非常識な使徒と言う敵に呆れかえってしまった濃の声だった。

「信長作戦部長、…対応はどうしますか?」

青葉の眼鏡が光る。…この非常識な状況で有効な作戦を立てられるのは信長しかいまい。

「パイロットを直ちに収集しろ。NERV権限における特別宣言D−17も出せ。無論、各関係省の通達、民間人の非難も大急ぎですませろ。いいな、完全戦闘体勢につけ!」

大急ぎでシンジ達、パイロットがNERV本部へと駆けつけてきた。さっそく、作戦会議を開く。…信長の作戦はスーパーコンピューターMAGIに言わせればあまりに成功率が低すぎるものであった。

「今回の作戦は走って、空から落ちて来る使徒をキャッチしてコアをナイフでぶっ刺す!それだけだ!」

「…もし、使徒が予想コースを大きく外れたらどうするんですか?」

アスカに言わせれ見れば、使徒をキャッチしろなどとはあまりに非常識な作戦だ。

「アウト!…NERV本部は壊滅だ。」

信長は即答で返す。…アスカは呆れかえってしまった。これほど、無策な状態で使徒に挑もうと言うのか?…正気ではない。

「もし、機体に衝撃が耐えられなかったら?」

シンジの問いにも信長はすぐ答えを返した。その返答はNERV本部全員を震えあがらせてしまった。

「その場合もアウト。…ちなみにMAGIによると今回の作戦成功率は0.0001%だそうだ。」

「違うわよ、信長作戦部長。0.00001%…0が1つ少ないわ。」

リツコがどうでも言い事を冷静に返す。…科学者として不正確な事は許せないのだ。

「それが作戦と言えるんですか!…私達に死ねと言うんですか!」

さすがにアスカがキレてしまった。…あまりにも信長は無策すぎる!

「まあまあアスカ。…他に方法はないんだから仕方ないじゃないか。…大丈夫、きっと勝てるよ!」

シンジが笑顔で力強くアスカに言った。

「はあ〜。まったくお先、真っ暗ねぇ。」

ふっ、濃はそんな二人のやりとりに微笑ましさを感じるのであった。…相変わらずの無口のため、まったく目立ってなかったがむろん、レイもこの作戦会議には出席していた。

(確かに普通ならアスカの言う通りだろう…。だが、この戦い負ける気が俺にはしねぇ!…使徒が撃退できなければ人類補完計画が成功しないことはわかっている。碇司令がここを留守にしたと言う事は使徒が撃退できることがわかっているからだ!)

…NERV本部の職員ほぼ全員が自分の死を覚悟していたが、信長と加持・濃の3人は勝利する事を確信していた。

「信長さん…油断はしないでくださいよ。」

だが、万が一と言う事もある。出撃前の休憩時間、加持は一応信長に注意を促しておく。

「無論だ…。俺はその油断のせいで痛い目にあったことが何度があるんでな。」

そうは言ったものの、どこか気持ちがしまらず、自分自身で油断しているのを感じている信長であった。

…EVAは三角形状に配置された。この配置場所は予言書では”ミサト”の勘だったが、実際には”信長”の勘であった。そう、予言書ではミサトが司令代行を務めていたのだ。

予言書でミサトがEVA3機を配置した位置はNERV本部のすぐ側…。だが信長がEVA3機を配置した位置はそれよりも北西に500Mほど離れたところであった。 

この影響でリツコがスーパーコンピューターのMAGIに入力したデータも予言書のものとは多少事なるものになった。結果、使徒の予測落下地点も変わってきたのだ。…この事実を信長と加持は知らなかった。

「目標を最大望遠で確認。…使徒、落下してきます!」

青葉の最後の方の声は緊張と興奮で、思わず早口になっていた。

NERV発令所のモニター画面には使徒が地上へと落下する様子が移される。他に仕事がある職員を除き、NERVにいた人間の全員がそのモニターを睨めつけていた。

「よし、EVA各パイロット。MAGIの誘導通りに走れ!」

(…この戦い、やる前からEVAの勝ちは見えている。)

…アスカとレイは信長の指示通り、全力でMAGIの使徒予測落下地点に走った。…だが、シンジはなんとその予測地点の逆方向に走って行ったのである。

「…シンジどうした?なぜスタートしない!」

これには信長も焦った。…さすがにこれは誰も予想していなかったに違いない!シンジを抜いたアスカとレイ二人のパイロットでは使徒を受けとめる事は不可能だ。

「おいシンジ!…走れ、走れと言ってるんだ!」

信長の声の音量は隣にいたマヤの耳の鼓膜が破れそうになってしまったほどだった。

(一体どういうだ?早く走れ、走るんだシンジ!…このままじゃNERV本部は壊滅。人類補完計画も何もあったもんじぇねぇ!)

「そうよ、シンジ君走りなさい!」

「シンジ!バカシンジ動きなさい!」

ミサトもアスカも大声でシンジに呼びかける。…だが、シンジは一向に動く気配は無い。…シンジが再三の命令を無視続けたため、信長も焦りに焦っている。

「作戦成功率0.0000001%にまで低下しました。」

マヤの悲鳴に近い報告がNERV発令所に響き渡った。…作戦成功率の0桁がさらに2つ増えている。……もうおしまいだ。NERV職員全員がそう思ったその時だった。

「MAGIの予測落下地点が変わりました。使徒は04エリア……初号機のすぐ近くに落ちてきます!」

「な、なに!」

「どういう事よ!」

信長とアスカが驚きの声を上げる。ようやく動き出したシンジ。…落ちてきた使徒。それに追いついたのは初号機のみ。シンジがA.Tフィールドで空から落ちてきた使徒を受け止めようとする。

「…初号機92%にシンクロ率上昇!…使徒を完全に受け止めています。…信じられません。」

「9…92%だと!」

「す、凄い。一機じゃ絶対動きとめられないってMAGIの予測だったのに。」

マヤの報告に信長とミサトが驚きの言葉を声を発した。感情の変化の関係でシンクロ率が上がりやすい戦闘中とは言え92%など今までのシンジの最高シンクロ率よりも30%以上高い数値だ。

(な、なにがどうなってやがんだ。もしかしてこれもあんたの計画の内なのか碇司令。…しかし、いくらなんでもこれを予想するのは。)

「アスカ速く来て!」

「分かってるわよ。あんたこそ離すんじゃないわよ。」

内心は不可思議な状況にわけがわからないアスカだったがとにかく急いでシンジの援護に行く。右手に持つはプログナイフ。これで使徒のコアを突き刺す。

「消えろ!この目玉お化け!」

プログナイフをコアに刺した事により,使徒のコアに電気カッターのごとく、キーンという機械音が鳴り響いた。使徒は初号機のA.Tフィールドにも抑えつけられ逃げる事ができない。

(…勝ったな。しかし、今後の使徒戦の事を考えると頭が痛い。)

「パターン青消滅。…使徒殲滅しました。」

喜びの歓声に震えるNERV本部。…信長も今回の所はまず、一安心だ。…だが加持の情報によると使徒はまだ7、8体も残っている。

…作戦終了後、信長がシンジにスタートが遅れた理由を聞くと『ボ〜ッとしてました、すみません』と誤るばかり。使徒を受け止めたとき、急激にシンクロ率が上がった原因も自分にもわからないと言うばかり。

EVAの操縦に関して信長はシンジには…シンジ自身にも知らない隠された力があると思い…信長は訓戒処分以外はシンジに何も罰を与えなかった…。


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